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現場改善
ケイヒン配送
誤出荷防止に音声認識システム導入
バーコードのない商品の検品を効率化
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。 現場で分別を行い、集荷拠点を経由して
自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること
で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。 さらに部
材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に
ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を
めざしている。
バーコードが使えない
総合物流のケイヒングループで、通販物流
をメーンにするケイヒン配送は昨年三月、横
浜商品センターに音声認識システムを導入し
た。 出版社の主婦の友社の子会社で通販事業
を展開する主婦の友ダイレクトの物流業務に
同システムを利用している。
主婦の友ダイレクトは、子育て中の主婦層
をターゲットにベビー用品や知育グッズ、ア
パレル製品、雑貨類などのカタログ販売を手
がけている。 オリジナルカタログのほか主婦
の友社が発行する各種の雑誌にも商品を掲載
し、合わせて一〇〇を超える媒体を使って商
品を販売している。
そのうち家具などのメーカー直送品やギフ
ト品を除く約一万三〇〇〇アイテムの物流業
務を、二〇〇七年十二月にケイヒン配送が受
託した。
当初から誤出荷への対応が課題となってい
た。 ピッキングや検品作業をすべて目視によ
り伝票と照合する方法で行っていたため、一
万個に一個の比率でミスが発生していた。
出荷ミスが起こると在庫に差異が生じる。
主婦の友ダイレクトは他の通販会社と比べ一
アイテムあたりの在庫設定数が少ないため、
わずかな在庫の差異がそのまま欠品につなが
る恐れがあった。
またケイヒン配送が物流業務を受託した当
時、主婦の友ダイレクトは大手EC業者の運
営する通販サイトに出店する方針を固めてい
た。 ネット通販ではサイト上で購入者から商
品やサービスについての書き込みが頻繁に行
われる。 出荷ミスが口コミで伝わり、顧客に
迷惑をかけるような事態は何としても避けな
ければならなかった。
そこで〇八年四月、ケイヒン配送で新規顧
客の開拓と業務改善を担当する営業推進部お
よび営業本部商品管理二部のリーダーを中心
にプロジェクトを組織し、出荷ミス防止につ
いての具体策の検討を開始した。
当初はバーコードシステムの導入を想定し
ていた。 横浜商品センターでは、それ以前か
ら別の荷主のオペレーションにバーコード検品
を導入して誤出荷の防止や生産性の向上に成
果を上げていた。 主婦の友ダイレクトの業務
でも同じ手法による改善を検討した。
ところが、すぐに壁に突き当たった。 一般
にバーコード検品の商品の識別にはJANコ
ードが使用される。 しかし主婦の友ダイレク
トの商品にはJANコードの表示がされてい
ないものが相当数含まれていた。
横浜商品センターの別の荷主でバーコード
システムの導入が可能だったのは、商品の大
半がプライベートブランドで仕入れ時にメーカ
ーから全量を買い取る取引形態だったためだ。
仕入れ先に対し商品にバーコードシールを貼付
するよう要請することができた。
だが、一般の通販では買い取りよりも、売
れ残れば仕入れ先に返品できる委託販売の取
通販向け商品にはJANコード表示のないものが多
く、バーコードシステムの導入が難しい。 その代替
ツールとして音声認識システムを導入した。 これに
よって検品作業の生産性は2割以上向上し、誤出荷
は4分の1に減った。 そのノウハウを成長著しいイン
ターネット通販などの顧客開拓に活用する。
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引が多い。 主婦の友ダイレクトの場合も、商
品の大半は委託販売によるものだった。 その
ため検品に使うためのバーコードの貼付を仕
入先に要請することが困難だった。
代替案としては、商品の入荷時にケイヒン
配送側で商品にバーコードシールを貼付する
という選択肢があった。 主婦の友ダイレクト
では従来から七ケタの商品コードを使って単
品管理を実施していた。 仕入れ先のメーカー
は主婦の友ダイレクトに納品する商品にそれ
をマーキングしている。 そのコードをバーコー
ドに変換したラベルを作成し商品に貼付する
ことで検品の機械化が可能になる。
だが、この方法もオペレーションの点で問
題があった。 商品の入荷は通常、新カタログ
を展開する直前に集中する。 この時期には旧
カタログで展開していた商品の返品作業も重
なるため、現場には大きな負荷がかかる。
ただでさえ忙しいところへ新たにバーコード
を貼付する作業が加われば、出荷の遅れなど
を招きかねない。 返品処理も煩雑になる。 売
れ残った商品をメーカーへ戻す際に、バーコ
ードシールをはがして納品したときと同じ状
態に戻さなければならない。
バーコードシステムの導入は断念せざるを得
なかった。 代わりに着目したのが音声認識シ
ステムだった。
音声認識システムとは、コンピューターに
よる庫内作業の指示や作業者の結果報告をヘ
ッドセット(インカム)を使って音声でやり
取りするシステムだ。 コンピューターの出力す
るテキスト・データを音声に変換して作業者
に伝え、作業者が発した音声をテキスト・デ
ータに置き換えてコンピューターに認識させる。
従来の携帯端末と違って、作業者の両手が自
由になるというメリットがある。
そのデモンストレーションを、プロジェク
トのメンバーがたまたま見学する機会を得た。
ソリューション・プロバイダーの施設内での
デモであり、それが通販物流のスピードに対
応できるかは半信半疑だった。 それでも商品
の識別にバーコードが不要な点に魅力を感じ、
研究を始めることにした。
新規顧客開拓のツールに
物流現場のほか医療や建設現場などの導入
事例をいくつか見聞きした。 その一つに患者
を救急車で病院に搬送する間に音声認識によ
って簡単なカルテを作成するという事例があ
った。 それを知った営業推進部の田邊哲夫リ
ーダーは「音声だけでドキュメントをつくれる
仕組みなら物流の業務にも活かせるはず」と
直感した。
しかし物流分野への導入実績はほとんどな
かった。 複数のソリューション・プロバイダ
ーからオペレーションの改善にどんな活用方
法があるか提案を受けながら、手探りで検討
を進めた。 そして最終的にトーヨーカネツソ
リューションズの「ボイスシステム」の導入を
決めた。
トーヨーカネツソリューションズは物流シス
テムの構築には実績のあるベンダーだが、音
声認識システムはそれまで手がけたことがな
かった。 それでも同社を選んだ理由を、ケイ
ヒン配送の吉村裕取締役営業推進部長は「バ
ーコードの導入が困難な荷主企業に業務改善
のツールとしてボイスシステムを提案し、新
規の顧客開拓につなげたいという期待があっ
た」と説明する。
トーヨーカネツソリューションズは以前に横
浜商品センターで特定荷主専用のWMS(倉
庫管理システム)の開発に携わっている。 そ
の実績からケイヒン配送が将来、主婦の友ダ
イレクト以外の荷主にも音声認識システムの
導入を提案する際にはパートナーとして活躍
してくれると判断した。
営業推進部の
田邊哲夫リーダー
吉村裕取締役営業推進部長
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生産性が二割以上アップ
横浜商品センターには複数の荷主企業が入
居しているが、各荷主との入荷情報や出荷指
示、在庫情報などのやり取りはすべてセンタ
ーの基幹業務システムを介している。 専用の
WMSを導入している荷主以外は庫内作業も
基幹業務システムで処理している。 ボイスシ
ステムはこの基幹業務システムのサブシステム
として導入した。
運用に必要な装備は、基幹業務システムと
の間で指示データや実績データの送受信を行
うサーバーのほか、作業者に対して音声によ
る指示や返答をやり取りするボイスコントロー
ラー、作業者用のヘッドセット、スキャナー
を指に装着するリングスキャナーなど。 (写真
参照)
横浜商品センターのオペレーションは、荷
主による仕様の違いはあるものの、ロケーシ
ョンの取り方やピッキング方法などの大枠は
共通している。 入荷時には保管棚の一間口が
一アイテムとなるように入庫を行う。 出荷作
業は商品別にトータルピッキングしてから購入
者別に種まき式に仕分ける。
商品の在庫ロケーションは商品の出荷頻度
によってゾーンを分けている。 さらに受注デ
ータ(出荷指示)をピッキングデータに加工
する際には、トータルピッキングの作業動線
が最も短くなるように、各作業者に振り分け
ている。
されて入荷が確定する。
一アイテムの検品が完了するたびに作業者
の携帯するプリンターが入荷ラベルを自動発
行する。 作業者はその都度、ラベルを通い箱
に貼付する。 従来のように固定端末との往復
や?カルタ取り?作業をしなくて済む。
商品管理二部の佐藤元リーダーは「シンプ
ルな業務フローに変えたことで作業の生産性
が二、三割アップした。 十分な導入効果があ
った」と強調する。
一方、出荷工程では従来の業務フローには
手を加えず、検品の方法だけを伝票との照合
から音声認識に変えた。
横浜商品センターでは以前から、バーコー
ド表示のない商品の出荷作業用に、商品番号
と仕分け用のロケーション番号を印字した「ピ
ッキングシール」を使用している。
商品別トータルピッキングの際に、ピッキ
ングした商品とシールの商品番号を照合して
商品にシールを貼付する。 シールのロケーシ
ョン番号は次工程の種まきピッキングで使用
する。 ロケーション番号にもとづいて商品を
購入者別に仕分けている。
主婦の友ダイレクトの商品は大半が段ボー
ルに複数アイテムを混載した状態で入荷され
る。 一間口=一アイテムで入庫するために、
入荷時に段ボールの中の商品をアイテム別の
通い箱に仕分ける。 仕分けの済んだ通い箱に
は入荷ラベルを貼付して棚に入庫する。
従来は入荷処理用の固定端末で入荷ラベル
を発行していた。 作業者はまず納品伝票に記
載された各アイテムについて、それぞれ一枚
ずつラベルを発行する。
次に段ボールから商品を取り出し、アイテ
ムごとに検品を行う。 商品にはすべて七ケタ
の商品コードの入ったシールが貼付されてい
る。 このコードをキーに目視で伝票の明細と
照合する。 検品が済むと該当する商品のラベ
ルをとり、通い箱に貼付して棚へ入庫する。
この業務フローでは、作業者はラベル発行
のために納品伝票の枚数分だけ固定端末との
間を往復しなければならない。 商品とラベル
を一致させるための?カルタ取り?も必要だ。
ボイスシステムの導入にあたりこのフローを
変更した。 作業者はラベルを発行せずにいき
なり段ボールから商品を取り出し検品を開始
する。 この時にヘッドセットのマイクに向かっ
て商品番号の下四桁の数字を読み上げる。 そ
れをサーバーが識別し作業者へ入荷予定数量
を音声で伝える。
商品を数え、指示された数量と合っていれ
ば、作業者は「ハイ」と答える。 それで検品
は完了。 入荷実績が基幹業務システムに計上
商品管理二部の
佐藤元リーダー
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取り出し、ピッキングシールではなく商品に
メーカーが貼付した商品番号の下四桁の数字
を読みあげる。
数字が明細データと異なる場合はコンピュ
ーターが音声で作業者に異常を知らせる。 こ
の方法だと商品番号をリストと照合する作業
がなくなり、作業者が検品に集中できるため
ミスが起こりにくい。
システムの導入は〇八年三月に出荷検品か
ら試験的に開始した。 ボイス検品の精度を検
証するため、音声認識による検品を実施した
後に従来通り目視で検品を行い二重にチェッ
クする方法をとった。
二〇日間の実験期間中、ピッキングミスは
すべてボイス検品の段階で発見できた。 精度
の高さが実証された。 また作業者全員にボイ
ス検品を経験させてみたところ、どの作業者
も短い期間で作業に適応できることが確認で
きた。 この結果を見て四月から入荷検品にも
運用を拡大した。
出荷ミスが大幅に減少
横浜商品センターでは現在、ボイスシステ
ムを出荷に四セット、入荷に三セットの構成
で運用している。 基幹業務システムとの連携
で入出荷検品作業の進捗状況を管理すること
ができるため、センターでは大型のディスプ
レーを新たに設置して一時間ごとに情報を表
示している。
作業者は進捗状況を確認しながら、目標の
作業量を時間内に達成するために人員配置を
変えるなどの工夫を行っている。 これもまた
生産性向上に一役買っている。
懸案だった誤出荷は四万個に一個に近い水
準まで減った。 しかもミスの多くは運用面が
原因で、システムの信頼性は高い。 田邊リー
ダーは「バーコード検品のように一〇〇%の
認識率には届かないが、バーコードに代わる
手段としてボイス検品の利点を活かせる商材
はいろいろある」と見る。
通販物流は市場規模の拡大に伴い、競争が
年々激しくなっている。 最近では物流事業者
間の競争だけにとどまらず、サイト運営者が
自ら出店者に対し入出庫や在庫管理、出荷な
どのフルフィルメントサービスを手がける動き
も出てきている。
それでもケイヒン配送は新規に通販専用の
拠点を計画するなど、今後も積極的な事業展
開を図る方針だ。
近年の通販市場の成長は、ネット通販の拡
大が原動力となっている。 ネット通販はカタ
ログ通販に比べて投資負担が小さく、中小メ
ーカーの商品を扱うことも容易であることか
ら、バーコード表示のないものが多い。
吉村取締役は「通販市場の成長は当社にと
って追い風だ。 (バーコード表示がなく)オペ
レーションに工夫の要る商品に音声認識シス
テムなどのノウハウを活用して、当社の強み
を顧客にアピールしていきたい」と語ってい
る。 (フリージャーナリスト・内田三知代)
出荷工程ではこの方法を踏襲し、種まきピ
ッキングを終了した後の最終検品にボイスシ
ステムを導入した。 ピッキングの済んだ箱に
は商品と納品伝票が投入されている。 伝票に
は明細データを紐付けたバーコードが印字し
てある。 そのバーコードを指に取り付けたリ
ングスキャナーで読み取る作業から出荷検品
がスタートする。
バーコード情報がアクセスポイントを経由
して基幹業務システムに伝えられると、シス
テム側から「開始」の音声指示が返ってくる。
これを受けて作業者は箱から商品を一点ずつ
指に装着したリングスキャナー
でバーコードを読み取る
腰に着けたプリンターが入
荷ラベルを自動発行する
ヘッドセットを使って音声でコ
ンピューターとやり取りする
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