ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年3号
特集
第1部 ハマキョウに学ぶリストラの原則

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

正社員物流マンはこう活かす  流通センターの運営をメーンとするハマキョウレッ クスの本体には現在、約七〇〇人の正社員がいる。
そ のうち三〇〇人近くはドライバーで、3PL事業に従 事しているのは本社の管理職まで含めても四〇〇人 程度だ。
それに対して直接雇用のパート社員が一〇倍 の四〇〇〇人近くいる。
 同社はパート社員の活用を最大の強みとしてきた。
現場のパート社員全員が交代で現場リーダーを務める ?日替わり班長制度?や、その日の物量に応じてパー ト社員の出勤人数を調整する?アコーディオン方式? など、独自の現場運営テクニックは業界では有名だ。
 一つのセンターに配属される正社員は数人から多く ても一〇人程度。
正社員が不在の場合でも最低一週 間はパートだけで現場が回せることを「正しいセンタ ー」の条件としている。
そのためにパート社員が正社 員と席を並べ、あらゆる会議に出席し、各センターの 収支まですべてオープンにしている。
 センター内の仕事に関する限り、正社員とパート社 員に区別はない。
荷主との交渉や営業活動だけが、セ ンター長を始めとする正社員特有の仕事となっている。
その正社員をどう管理しているのか。
大須賀正孝会 長は次のように説明する。
 「正社員には任せるんだよ。
ただし、責任を負わせ ることはしない。
失敗したときに自分の責任になって しまうと思えば人は動かない。
だから責任を押しつけ ないかわりに、ルールを守らせる。
新しいことをやる 場合には、必ず稟議書を出させる。
それを会社で了 承した以上は、失敗してもペナルティは一切ない。
そ うすれば、社員たちはやりたいことを自分でどんど んやるようになる」  現場の物流マンだけでなく本社のスタッフ部門も同 様だ。
現在、同社の経理部には若手の女性社員六人 しかいない。
その六人で連結売上高八〇〇億円の経 理処理からグループ会社の資金繰りまですべて回して いる。
通常の半分から三分の一の人数だ。
 銀行との融資の交渉にも入社数年の若手社員があ たる。
上司の稟議は受けるが、融資スキームの設計か ら契約まで一人の担当者がすべてを処理する。
一般 の会社のように、銀行との交渉は部長クラス以上、出 納は平社員といったかたちに仕事が分断されていない ため、ムダな仕事が発生しない。
任せることで担当 者のスキルも向上する。
 一方、ドライバーにはスタッフ部門の正社員とはま た違った対応をとっている。
ドライバーに対して大須 賀会長は「あなたたちは物流の最終アンカーだ。
リレ ー競技を見れば分かる通り、アンカーには一番優秀な 人たちがなる。
つまり、あなたがたは我が社で一番 優秀な人たちだ」と繰り返し説くようにしている。
 ドライバーは専門職だ。
実際、車両に荷物を積み込 む作業は段取りが大事で、素人では時間ばかりかかっ てしまう。
しかも、いったん車両が出発してしまえば、 その働きぶりは上司にも把握できない。
サービス品質 の向上や安全の維持には、ドライバーにプライドを持 って仕事をさせる必要がある。
 そのため会社はドライバーに専門職としての最大限 の敬意を払う。
訓戒が必要な場合でも頭ごなしに叱 りつけることはしない。
交通事故やミスを犯したドラ イバーに対しても、運転技術や日頃の仕事ぶりを認め た後で原因を尋ねるといった配慮が必要だ。
再発を防 ぐには本人の自覚を促すしかない。
面倒なようだが、 それが運送業のマネジメントだ。
 そんなハマキョウも特別積み合わせ運送会社(路線 ハマキョウに学ぶリストラの原則  物流業は人材がすべてだと言われる。
物量の大幅な 減少に直面した今、その言葉の真価が問われている。
万年赤字の中堅特積運送会社を買収し再建に取り組ん だハマキョウレックスの5年間の軌跡から、物流業経営 の原則と生き残りの方策を探る。
     (大矢昌浩) MARCH 2010  12 第部 負けない物流経営特 集 会社︶の再建には手を焼いている。
同社が老舗路線 会社の近鉄物流を買収したのは二〇〇四年一〇月の こと。
それから今日まで五年余り。
近鉄物流から名 称を変更した近物レックスは、3PL事業が好調なハ マキョウの連結業績の足を引っ張る?お荷物?となっ てきた。
 とりわけリーマンショックに襲われた〇八年度、近 物レックスの売上高は前年比十二・五%減の三八〇 億円となり、買収当時の約五〇〇億円から一〇〇億 円以上減少した。
同年度の経常利益は約三億円の赤 字だ。
今期〇九年度も売上高の減少は続いている。
上 期は前年比十三・六%減だった。
 それでも大須賀会長は「〇九年度の通期では若干 の黒字が出る。
物量が減っているために売上高は減る けれど、収益体質は改善した。
来年度からは立派な 黒字会社になる。
買収から五年かかったが、ようや く再建にこぎ着けた」と胸を張る。
運送業の再建は急がば回れ  今期、近物レックスはかねてから計画していたコス ト削減策を実行に移した。
四国の三支店と広島の計四 支店を閉鎖して従業員を八〇人減らした。
管理職も 二割削減した。
さらに幹線ドライバーの評価制度を導 入し、積載量に連動した給料変動制を強化した。
こ れらの施策によって〇九年下期の人件費は上期に比べ て三億円強削減される。
下期の物量回復も手伝って、 通期の経常利益は黒字転換する見通しだ。
 近物レックスにリストラが必要なことは買収時点か ら既に明らかだった。
実際、ハマキョウは買収後すぐ に役員数名を送り込んで、抜本的な経営改革に乗り 出している。
ところがその結果、組織は大混乱に陥 ってしまった。
 「風呂に例えればハマキョウは四八度くらいのチンチ ンの熱い風呂に入って汗を流している。
ところが近物 レックスは、ぬるま湯も、ぬるま湯だ。
それをハマキ ョウと同じ四八度にしようと思って、大量に役員を送 り込んだら組織がグチャグチャになってしまった。
社 員たちに四八度の風呂に入れと言ったら、みんないっ たんは入るものの、お湯の熱さに飛び上がって二度と 入ろうとしない」(大須賀会長︶  元は鉄道系の運送会社ということもあって、近物 レックスの社内ルールはしっかりしていた。
ところが、 実際には誰もルールを守っていない。
自分の都合の 悪い時だけルールを持ち出して、できない理由にする。
組織の硬直化は予想以上だった。
買収後も留任した 当時の社長は、自力再建するから二年の猶予が欲し いという。
要請を呑むほかなかった。
 買収初年度、近物レックスは経常黒字を達成した。
しかし、その中身は土地の売却によるものだった。
資 産売却を禁じた〇六年度の決算では一転して、十二 億五八〇〇万円もの赤字が発生した。
二年で再建す るという公約を達成できなかった社長を退け、ハマキ ョウから改めて経営陣を送り込んだ。
 新経営陣には、運送業経験のない人物を五人選ん だ。
大須賀会長自ら経営者として乗り込むことも考 えた。
しかし、「近物レックスという会社は上司の言 うことが絶対で、役員会でも誰も意見を言わない。
私 がいってもその体質は変わらないだろう。
会社の体質 を変えるために、あえて運送業の経験のない人材を 選んで送り込んだ」という。
 送り込まれる本人たちは当然、驚いて辞退する。
そ れを説得し、路線業については近鉄物流時代からの 役員や幹部たちにゼロから教えてもらえと命じた。
さ すがに経営陣から説明を求められれば社員たちも重い 13  MARCH 2010 50 40 30 20 10 0 -10 -20 (単位:億円) (単位:億円) 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 05 年度06 年度07 年度08 年度09 年度 見込み ハマキョウレックス 連結売上高(左軸) ハマキョウレックス 連結経常利益(右軸) 近物レックス 売上高(左軸) 売上高(左軸) 当期利益(右軸) 近物レックス 経常利益(右軸) 買収前の旧・近鉄物流の業績推移ハマキョウレックスの業績推移 600 500 400 300 200 100 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2 -3 -4 -5 -6 555 0.54 -5.71 -3.14 2.03 2.73 550 545 500 496 776 462 450 437 380 0.81 -12.58 -5.59 -3.06 823 834 792 810 売上高 (決算期) 当期利益 99年度00年度01年度02年度03年度  東海運の日高眞成常務は「入社してから既に 四〇年近く経つが、これまでオイルショックやバ ブル崩壊など何度も不景気は経験したが、短期 間でこれだけ急激に物量が減少したことはなかっ た。
現状を見る限り、二〇一〇年度も大きな期 待はできそうにない。
売り上げが伸びないなかで、 どこまでコストを絞れるかがポイントになる」と いう。
 同社は太平洋セメントが五一%の株式を握る 物流子会社だが、グループ会社以外の外販売り 上げが六四%を占めるほどの競争力を誇っている。
ロシア向けやモンゴル向けに強みを持ち、リーマ ンショック前までは新興国ブームにも乗って順調 に業績を伸ばしてきた。
〇六年三月には東証二 部に上場。
翌〇七年三月には同一部にスピード 昇格を果たしている。
 しかし〇九年三月期決算では、売上高こそ 微増を確保したものの、経常利益が半減。
今期 一〇年三月期に入ってからは、欧米向けやロシ ア、モンゴル向けの物量がさらに大きく落ち込 んでいる。
中国の荷動きは比較的堅調だが、も ともと単価が低く収益の下支えにはなっていない。
 昨年一〇月には業績予想の大幅な下方修正 を余儀なくされた。
期初見込みで四〇〇億 円としていた連結売上高を三五〇億円に。
二億四七〇〇万円を見込んでいた当期利益は 一億三五〇〇万円の赤字に転落する見通しだ。
昨年七月からは緊急コスト削減に着手。
販売管 理費の削減や傭車の見直しなどを進めているが、 売り上げの減少ペースに追いついていない。
 〇八年九月のリーマンショックより一足早く、 〇七年からサブプライムローン問題に端を発する 景気低迷に直面した米国では、物流リストラの 嵐も日本より一年前倒しで訪れている。
米オハ イオ州立大学の調査によると、米国の荷主企業 および物流会社は、物量の大幅な減少を受けて 次頁図1のような緊急対応策をとっている。
 実施の時間軸は図2の通りだ。
在庫や倉庫施 設の圧縮の前に、ロジスティクスの仕事に従事す る非管理職の削減に真っ先に手を付けていると ころが注目される。
その一方で管理職層の削減 に踏み切っているのは少数派だ。
米国は日本と 比較して解雇が容易であり、労働市場の流動性 が高い。
管理職層さえ確保しておけば、競争力 は維持できるという判断だろう。
 しかし、日本はどうか。
日本の物流オペレー ションは、パート・アルバイトも含めた現場ス タッフのスキルとモラールに負うところが大きい。
現場労働力の削減や給与カットに安易に手を付 けてしまえば、物流サービスの競争力自体が大 きく損なわれる恐れがある。
いったん失われた 現場力は回復するのに時間がかかる。
そのため 日本では労働法規の影響を除いたとしても現場 スタッフのリストラが難しい。
 冒頭の東海運でも役員に対してはボーナスの 二〇〜三〇%カットを実施しているが、社員の 待遇にはまったく手を付けていない。
人員削減 や希望退職者等の募集も行っていないという。
同社のように一般株主からの評価にさらされて いる上場企業であっても、足元の収益悪化に目 を瞑って長期的な対策をメーンに置く傾向がある。
間違いとは言えないだろう。
口を開く。
それをすべてメモに残す。
その後、実態を 調べる。
現場は説明の通りに動いていない。
 なぜ説明を受けた通りになっていないのか、改めて 社員たちに話を聞く。
すると前の説明を修正する。
そ れを受けて、今度こそ間違いなく説明の通りオペレー ションするように念を押す。
しかし説明の通りにでき ない。
さすがに責任者を役職から外す。
他の社員た ちも経緯を知っているので、人事に異論は出せない。
 古い体質の残っていた幹部たちが徐々に外れていき、 それに代えて社内に埋もれていた中堅社員たちを登用 していった。
新たな幹部スタッフの元で、ハマキョウ 流の管理会計を導入した。
穴はいくつも見つかった。
請求書を出しても入金のチェックをしていない。
その 結果、未収金が数千万円も積み上がっていた。
すぐ に回収にかかった。
 赤字の仕事もたくさんあった。
重量当たりの最低 運賃を決めて、それ以下の荷主には値上げを要請す るか、もしくは仕事を断るように営業マンに指示を出 した。
当初現場は反発した。
採算は悪くても空きス ペースを埋めるためには必要な荷主だ、必要な荷物だ と主張する。
 しかし、安い荷物でスペースを埋めてしまえば、利 益の出る荷物を新たに獲得しても対応できなくなって しまう。
そのために増車すれば、また空きスペースが 生じる。
いたちごっこだ。
一方、他の営業所では同 じ方面に走る幹線輸送のトラックに空きが生じている。
配車情報の共有を進めることで、幹線輸送の便数を 段階的に減らしていった。
 赤字の仕事は徐々に減っていった。
それでも黒字化 できなかった支店が、四国の三支店と広島の計四支 店だった。
営業所別の日々決算の精度が上がってきた ことで、その採算性の悪さが誰の目にも露わになって MARCH 2010  14 緊急コスト削減の選択肢 負けない物流経営特 集 いた。
いずれも近物レックスが運行している幹線輸送 の最終地点となる営業所で、ネットワーク上の相乗効 果も薄い。
 しかし、一方的に閉鎖を命じることはしなかった。
赤字を解消する方法は本当にないのか。
解消できな いのなら、その赤字を会社としてどのように負担す べきか。
社員や労働組合に広く意見を求めた。
他に 選択肢がないというコンセンサスが組織内に醸成され て、はじめて営業所の閉鎖に踏み切った。
 ここまでに五年かかった。
それでも大須賀会長は 「よく五年でやれたと思う。
近物レックスのような長 い歴史のある会社の文化を変えるというのは、それ だけ大変なこと。
?急がば回れ?ではないけれど、一 気に改革しようとすれば今はなかった」という。
 実際、買収当初の改革は組織が混乱して失敗した。
そこで仕切り直し、階段を一歩一歩、それでも早過 ぎると半歩ずつ昇ってきた。
近物レックスは、もとも と各地域の運送会社が統合されてできた会社だ。
地 域によって労使状況も違う。
地域ごとに丁寧に対応し て少しずつ信頼関係を積み上げていった。
 人員削減の避けられない拠点の閉鎖など、大規模 なリストラは、社員はもちろん労働組合とも良好な関 係を結べなければ実施は難しかっただろう。
 物流業のリストラは製造業とは違う。
製造業であれ ば、良い製品さえあれば商売は成立する。
物流はか たちに残らないサービスが商品だ。
財務的な視点だけ で拙速にリストラを断行すれば現場が荒廃する。
物流 業の再建の成否は、ひとえに現場にかかっている。
 「近物レックスの風呂の温度も、ようやく四二度く らいになってきた。
これを四二・五度、四三度と上げ ていくことで、ものすごくいい会社に生まれ変わる」 と大須賀会長は自信を深めている。
15  MARCH 2010 在庫削減 人員削減 輸送モード構成、価格、質の見直し コスト削減 資本的支出(修繕費等)の延期、削減 顧客サービスレベルの引き下げ キャッシュフロー積み増し、流動性向上 生産性向上 無し ロジスティクス人員(管理職) ロジスティクス人員(非管理職) 在庫水準 在庫管理の外注 ロジスティクスIT への投資 配送センターの数 配送センターの平均サイズ 注文処理数 平均注文処理数 IT サポートの外注 SC コンサルタントの利用 顧客/サプライヤーとの面談の代わりに電子会議を利用 4.0% 0 5 10 15 20 世界同時不況に米国企業はどう対応しているか? 図1 対応策 図2 施策実施の時期 米オハイオ州立大学2009 年調査より 短期的対応 17.0% 16.0% 13.5% 13.0% 13.0% 9.0% 8.5% 6.0% 3.76% 3.00% 3.58% 2.51% 2.65% 0.67% 30.20% 13.51% 5.78% 7.24% 6.05% 5.76% 4.48% 10.15% 13.51% 9.93% 5.97% 6.09% 1.00% 1.41% 1.55% 0.64% 0.14% 0.14% 2.94% 4.32% 4.42% 6.46% 10.11% 3.94% 4.65% 7.42% 5.04% 4.30% 4.07% 2.07% 10.46% 10.64% 17.05% 18.23% 12.03% 15.31% 7.20% 8.21% 12.03% 6.70% 7.28% 8.80% 2.64% 7.30% 8.46% 5.26% 4.60% 4.04% 3.81% 5.15% 3.18% 5.30% 5.45% 4.67% 1.10% 1.48% 6.45% 3.83% 2.16% 0.66% 4.41% 7.75% 12.78% 11.20% 6.12% 4.06% 上半期 下半期 上半期 下半期 上半期 下半期 統計値 2008 年2009 年2010 年(見込み) システム、ビジネスプロセス、予測の改善 サプライチェーン戦略 物理的アセットベース 在庫のサイズ・ロケーション・戦略 ムダの排除 輸送網 コスト/トータルコスト削減 サプライヤー/サプライベース アウトソーシング化 テクノロジー/ ITシステム グローバル統合/調達の改善 その他 無し 0 5 10 15 20 長期的(戦略的)対応 1.4% 11.8% 10.8% 9.9% 8.5% 8.5% 7.1% 6.6% 6.1% 5.7% 4.7% 3.8% 15.1%

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