ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年3号
道場
第95回 「その?事前受注生産〞っていうのは何ですか?言葉自体が矛盾しているように思うんですが」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 MARCH 2010  68 れなんだけど」  みんなが怪訝そうな顔で資料を見る。
代表 する形で主任が質問する。
 「FKK在庫って何ですか? 在庫管理の 専門用語? それとも、当社独自の用語で すか?」  その質問に業務課長が楽しそうに「さーて、 何でしょうか? ただし、専門用語ではあり ません。
彼の造語です」とおどけた口調でみ んなに聞く。
間髪置かずに、部長が「不可解 な在庫!」と答える。
 業務課長がびっくりした顔で、「なんでわ かるんですか?」と聞く。
 「はっはー、昨日、彼から資料を見せても らったときに聞いた」  部長の言葉に業務課長がつまらなそうな顔 をする。
経営企画室の主任が呆れたような顔 で言う。
67「その?事前受注生産〞っていうのは何ですか? 言葉自体が矛盾しているように思うんですが」 95 物流一筋三〇有余年の大先生のコン サルティングを受け、ロジスティクスの 導入に乗り出した某メーカー。
物流部 を中心とするプロジェクトメンバーたち が会議室に集まって関連資料に目を通 している。
そこから垣間見える物流の ?病状〞は予想以上に深刻なようで… について部下の課員とひそひそと話していた 業務課長が突然大きな声を発したのだ。
 「あー、びっくりした。
目が覚めた。
一体 どうしたの? そんな大きな声出して」  大して驚いていない部長が、わざとらしく 業務課長に聞く。
 「あ、驚かして済んません。
いやね、彼が 作った資料を見てて、まさかと思うデータが あったので、間違いじゃないかと確認したら、 間違いじゃないというもんで‥‥」  「へー、それはおもしろそうだ。
それはどの データ? 先生がお見えになるまで、その検 討でもしてようか?」  部長が楽しそうに言う。
経営企画室の主任 が興味深そうに大きく頷く。
業務課長が、お もしろくなさそうな顔で、みんなに該当ペー ジを告げる。
全員がざわざわとページを繰る。
 「そこに『FKK在庫』ってあるだろ。
そ   FKK在庫って何だ?  「なんなんだ、こりゃ。
まだこんなことやっ てるのか。
懲りない連中だ」  メーカーの会議室に、業務課長の怒鳴り声 が響き渡った。
物流部長以下ロジスティクス 導入プロジェクトのメンバー全員が揃ってい る。
大先生たちの到着を前に、配られた資料 メーカー物流編 ♦ 第6回 69  MARCH 2010  「えっ、不可解の頭文字ですか‥‥でも、 不可解な在庫というのは興味を呼びますね。
何なんですか、それは?」  「うん、まあ、第三者から見れば不可解極 まりない存在かもしれないけど、当事者から すれば、置かれた状況の中で至極当たり前な ことをやってるつもりなんだろうな?」  部長の言葉に業務課長が頷きながら自分の 考えを述べる。
 「たしかに、彼らにすれば、当たり前のこ とをやってるつもりかもしれないけど、で も、彼らもこれでいいとは思ってないはずで す。
前に、自分がセンター長をやってるとき に、営業の連中にこの問題でいちゃもんつけ たことがあるんです。
結構反省して、今後注 意しますなんて言うから許してやったんだけ ど、結局何も変わってなかったんだな」  「業務課長の勢いに押されて、つい反省の 態度を見せたんだろうけど、営業にしても生 産にしても仕事のやり方が変わったわけでは ないんだから、そう簡単にはなくならない」  その中身は受注生産品だった  業務課長と部長のやりとりに経営企画室の 主任が割って入った。
 「済みません。
私だけかもしれませんが、よ く話が見えないんです。
私もプロジェクトの 一員ですので、私にもわかるように説明して いただけますか?」  部長が「ごめん、ごめん」と言って、若 手課員に説明するように促す。
椅子の背にも たれて、みんなのやりとりを他人事のように 聞いていた若手課員が慌ててからだを起こし、 説明を始める。
 「えーとですね、ごく簡単に言うと、なん でこんな在庫があるのか、いくら説明を受け ても理解できないって性格の在庫です」  「うーん、さっきのお二人の話からすると、 先生のご本に書いてある営業の都合、生産の 都合に起因する在庫ってことですか?」  主任の確認に若手課員が頷く。
それを見て、 主任が続けて質問する。
 「この表全部がその在庫ですか? 業務用、 市販用問わず、ずいぶんありますね? こ の表のパターン1とか2とかいうのは何です か?」  「それは、それらの在庫が発生する原因を、 私なりに勝手に区分して分けたものです。
お かしいところがあるかもしれませんが、ご指 摘いただければ、あとで直します‥‥」  「おかしいも何も、原因自体がおかしいん だから、そんな区分に気を使うことはないさ」  業務課長が腹立たしそうに大きな声を出す。
そのとき、会議室の扉が開き、大先生一行が 顔を出した。
全員が慌てて立ち上がり、大先 生たちが席に着くのを待っている。
大先生が みんなに座るように促し、部長に聞く。
 「この部屋に入ろうとしたとき、誰かさんの 大きな声が聞こえたんだけど、何かあったん ですか?」  部長が苦笑しながら、「はい、業務課長が 怒り心頭で、暴れまわってるんです」と言って、 業務課長を見る。
業務課長が「またそんなこ と言って。
いやー、あれです、いまだに、こ んな在庫が横行してるのかと思ったら、なん か腹が立ってきて‥‥済んません」  業務課長の言葉に大先生がにこっと笑い、 おもむろに「それは、どんな在庫ですか」と 聞く。
業務課長が「この話に入っていいか」 と確認するように部長の顔を見る。
部長が頷 くのを見て、大先生に資料のページを言う。
 「そこにFKK在庫という表がありますで しょ。
問題になったのはその在庫です。
そう そう、先生はFKK在庫って何だかわかりま すか? あっ、元は日本語です」  突然、茶目っ気たっぷりに業務課長が大先 生に聞く。
大先生が「うーん」と言って、す ぐに「複雑怪奇な原因による在庫」と答える。
 一瞬間を置いて、どっと笑い声が起こる。
部長が「まさに、言い得て妙ですね。
不可 解な在庫なんかよりずっとインパクトがある」 と苦笑交じりに言う。
業務課長が「たしかに」 と大きく頷く。
 「それでは、今日は、初めてのプロジェク ト会議だから、あまり形式ばらずに、そのあ たりの在庫をテーマに話をしましょうか?  気楽に御社の在庫事情について語り合うって いう趣向はリーダーとしていかがですか?」  大先生の提案に部長が「もちろん、異存 ありません。
むしろ望むところです。
ロジス MARCH 2010  70 ティクスは、これまでの当社の常識から言え ば型破りな発想ですから、この会議も何か殻 を破るような展開にしたいなと思っておりま した」と答える。
大先生が「それなら、自由 に議論してください」と言う。
部長が頷いて、 若手課員に声を掛ける。
 「それでは、その不可解で、複雑怪奇な在 庫について説明してくれるかな。
緊張しない で気楽にやればいいよ」  妙なやりとりが始った  部長の言葉に若手課員が頷いて、「それで は説明します」と資料に目を落とす。
 「この表は、長期滞留していると思われる 在庫について原因別に一月末時点の在庫量を 見たものです。
東京センター長の絶大なご支 援を得て作りました」  若手課員がそう言って東京センター長を見 る。
センター長が小さく頷く。
若手課員が続 ける。
 「それで、ここで区分した原因ですが、まず、 それについてご説明します。
えーと、第一に あげてあるのがパターン1です。
これは『特 定ユーザー向け事前受注生産の未出荷品』で す。
えー、次にあるのが‥‥」  「ちょっと待ってください」  経営企画室の主任が若手課員の説明にス トップを掛けた。
 「型破りな会議ということに甘えて、いち いち口を挟ませてもらいます」 ざわざそんなことをするのか? 彼にしてみ れば、立派な理由がある‥‥それは何?」  部長が思わせぶりに質問する。
突然問われ て、経営企画室の主任が首を捻っている。
み んなが彼の答を待っている風情なので、思い 切って当てずっぽうに言う。
 「えー、まさかと思いますけど、注文を受 けてから作ってもらったのでは間に合わな い?」  「当りです!」  「えっ?」  若手課員の言葉に主任が絶句する。
部長 が解説を始める。
営業出身なので、そのあた りの事情には詳しいようだ。
 「うちの場合、工場や製品にもよるけど、 生産のリードタイムが一カ月や二カ月は掛か るというのが実情だ」  工場経験者の東京センター長が頷く。
部長 が続ける。
 「だから、受注生産の依頼はそれ以前にも らわないといけない。
まあ、多くのお客はそ れで了解してくれているけど、そうじゃない お客もいる」  ここで業務課長が割って入る。
 「お客にリードタイム前に注文を出してくれ って言うと『そんな長いのは困る。
注文した ら、こちらの要求に合わせて随時納入してく れ』って言われて、それを受け入れ、事前に 生産依頼をせざるを得ない営業がいるってこ とだ」  部長が「どうぞ、ご自由に」と頷く。
主 任が質問する。
 「まず、その事前受注生産っていうのは何 ですか? 受注生産に事前というのは、そ の言葉自体が矛盾しているように思うんです が。
それに未出荷品っていうのも納得できま せん。
特定ユーザーからの受注生産品なんで すから出荷がないなんてありえないと思いま すが、違うんですか‥‥」  「そのとおりなんだよ。
だから不可解な在 庫であり、その原因は複雑怪奇なんだよ。
理 由を説明してあげて」  部長が若手課員に優しく声を掛ける。
若手 課員が頷いて、答える。
 「はい、本来は受注生産品なんですが、え ーと、何て言ったらいいのか、つまり、お客 さまからこれだけ作ってくれって依頼が入る 前に事前に作ってしまったものなんです。
そ れが事前受注生産っていう意味で、その製品 は結局お客様から注文がなかったものですか ら、未出荷品になってるという意味です」  「うん、わかりやすい説明だ。
わかった?」  部長の問い掛けに、経営企画室の主任が「言 葉の意味はわかりましたけど、なぜ、そのよ うなことが起こるのかという不可解さは消え ません」と正直に答える。
 「そう、受注生産なんだから、注文が来て から作って出荷すればそれでおしまいなんだ よな、本当は。
ところが、注文が来る前に生 産依頼を掛けてしまう営業がいる。
なぜ、わ 湯浅和夫の 71  MARCH 2010 頷き、さらに続ける。
 生産調整という美名の下に  「もっと悪いことに、生産の方で、営業か ら依頼されてもいないのに、勝手に作ってし まうこともある」  「えっ、何ですか、それは? あまりにも 勝手じゃないですか‥‥」  主任が素直な反応を続ける。
 「そう、生産調整という美名の下でそれが 行われる。
ラインが遊んでしまいそうになる と、たしか昨年どこどこのユーザーから注文 が来たな。
どうせ今年も来るだろうからそれ を作っておこうという勝手な論理。
そんな自 己都合が堂々と横行している‥‥」  話していて嫌になったのか、センター長の 声が小さくなる。
業務課長が受けて、続ける。
 「そんな注文は結局は来ない。
そうなると、 その製品は在庫として置かれつづける。
うち の会社は在庫責任という概念が希薄だから、 誰もそれを問題にしない」  業務課長がさらに何か言おうとするのを部 長が止める。
 「もう、そんなとこでいいだろう。
そんなこ んなで、受注生産なんだけど、事前に生産を 依頼したり、注文が来る前に作ってしまうと いうことがめずらしくなく起こるってわけだ。
わかった?」  「えっ、わかったって言われても、事情は わかりましたが、何か納得できないですね」  「そう、納得してはいけない。
そういうふう に作られた在庫は、ほとんどが結局出荷され ずに残ってしまう。
問題は、それに誰も責任 を負っていないってことだ。
責任のないとこ ろに管理はない」  「その管理がロジスティクスなんですね」  主任の言葉に全員が大きく頷く。
 (続く)  経営企画室の主任が頷く。
興味津々といっ た顔をしている。
今度は、東京センター長が 説明役を担う。
 「それに、きちんとリードタイムを取って、 工場に生産依頼したら、『そんな急に言われ ても困る。
ラインの都合があるからもっと早 めに言ってくれ』とけんもほろろに突っぱね られた営業もいる。
そうなると、リードタイ ム前に生産依頼せざるを得ない」  「へー、それじゃリードタイムの意味がない ですね」  主任が素直な感想を述べる。
センター長が ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課 程修了。
同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経 て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを 設立し社長に就任。
著書に『現代物流システム論(共 著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物 流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる 本』(以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コンサルテ ィング http://yuasa-c.co.jp PROFILE Illustration©ELPH-Kanda Kadan

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