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MARCH 2010 78
物流不動産市場レポート
契約条件に対して柔軟な姿勢をみせてテナン
トを誘致している。
■大型マルチテナント型物流施設市況
今期の平均空室率は対前期比で五・七ポイ
ント低下し一四・二%となった(図2)。 前期
は新規供給物件の三棟が空室を抱えたまま竣
工を迎えたことが大きく影響し、空室率一九・
九%と需給バランスが大幅に緩んだが、今期
は新たに竣工した一棟が高い稼働率であった
ことや、複数の新築物件でまとまった面積規
模の成約事例がみられたことが平均空室率低
下につながっている。
また、既存物件の空室率についても、大きな
テナント流出がなかったことや、比較的築浅の
特別編
三大都市圏
物流施設マーケット動向分析
シービー・リチャードエリス総合研究所 鈴木公二 シニアコンサルタント
二〇〇九年下半期
シービー・リチャードエリスは一月二九日、「インダストリアルマーケットレ
ポート(〇九年下半期調査分)」を発表した。 国内主要都市の倉庫施設の市
況動向を調査・分析したものだ。 調査対象は主用途が倉庫であり、かつ、一
般募集された施設三九八五棟。 ここでは、物流主要エリアである首都圏、近
畿圏、中部圏の需給動向を紹介する。
首都圏
空室率が五・七ポイント改善
■中大型物流施設市況
物流業界の動向をみると、アジア向け等の
国際貨物に改善傾向がみられるものの、景気
悪化の影響による個人消費の冷え込みを受け
て、全般的に荷動きは低迷を続けており、物
流施設を取り巻く環境は引き続き厳しいとい
える。
賃貸マーケットをみると、二〇〇九年上期
に比べると引き合いは徐々に回復傾向をみせ
ているが、依然としてテナントの動きは鈍い。
既存物件から高スペック物件に移転する動き
がみられるため、不動産投資家等が供給する
新築大型物件の空室消化は比較的進んでいる
ものの、競争力に劣る施設のオーナーはテナン
ト誘致に苦戦している。
今期の首都圏の中大型規模の募集賃料水準
については、埼玉県で対前期比マイナス五・
五%、千葉県で同プラス五・九%、東京都で
同マイナス二・五%、神奈川県で同マイナス
七・四%という結果となった(図1)。 前期に
大きく下落を示した千葉県ではプラスに転じ
たものの、他の都県は前期同様マイナスでの
推移となっており、全般的には募集・成約と
も弱含みでの推移となっている。 テナントサイ
ドが希望する賃料水準は引き続き厳しく、オ
ーナーサイドはフリーレントを設定する等して、
79 MARCH 2010
図1 首都圏の中大型物流施設の平均募集賃料
図2 首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率
【空室率算出基準(調査棟数:49 棟)】
既存物件:2008 年12月以前に竣工した物流施設
地域:千葉県・東京都・埼玉県・神奈川県、 延床面積:10,000 坪以上、 竣工:
既竣工物件、 空室確認方法:ヒアリングによる、 建物形態:原則として、
開発当時において複数テナント利用を前提として企画・設計された建物であ
ること
※今期首都圏で調査対象となった49 棟については、上記算出基準により抽
出したものであり、必ずしも物流施設ストック全体の需給バランスを示したも
のではない
図3 首都圏の稼動床面積(指数)( 2004/03=100)
04
年3月
04
年6月
04
年9月
04
年1
2月
05
年3月
05
年6月
05
年9月
05
年1
2月
06
年3月
06
年6月
06
年9月
06
年1
2月
07
年3月
07
年6月
08
年3月
08
年6月
08
年9月
08
年
12
月
09
年3月
09
年6月
09
年9月
09
年
12
月
07
年9月
07
年1
2月
350
300
250
200
150
100
出所:シービー・リチャードエリス総合研究所
※募集面積1000 坪以上を対象とする
賃料水準変動率
10
5
0
-5
-10
-15
(円/坪) (%)
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
4
2
0
-2
-4
-6
-8
(円/坪) (%)
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
10
5
0
-5
-10
-15
-20
-25
(円/坪) (%)
(%)
04
年3月
04
年6月
04
年9月
04
年1
2月
05
年3月
05
年6月
05
年9月
05
年12月
06
年3月
06
年6月
06
年9月
06
年12月
07
年3月
07 年
6
月
08
年3月
08
年6月
08
年9月
08
年
12
月
09
年3月
09
年6月
09
年9月
09
年
12
月
07
年9月
07
年12月
-13.8
10.1
9.4
9.8
5.5
4.9
5.6 5.8
10.4
5.0 4.6
3.1
11.7
9.5
9.1
8.2
7.5
8.6 9.6
3.3
3.1
4.3 4.2
5.1
4.0 4.5
6.8
6.8
4.9
5.6
10.3
12.0
8.8
6.8
8.1
5.1
8.4 8.9
7.7
0.2
-5.3
-2.8 -2.9
-6.3
-2.1 -0.8
-2.0
-5.5
5,070 4,380
4.150
4,260
4,140
3,880
3,800
3,770
4,000
4,190 3,990
4,070 3,770
6.1
4.8
2.7
埼玉県
2.1
-7.2
-1.0
-3.5
1.8
2.3
-0.4
1.6
-0.9
-2.5
6,280
6,410 5,890
5,770
5,570
5,700
5,680
5,770
5,630
5,480 5,530
5,580 5,390
-2.4
-2.7
-2.0
東京都
-0.2
-22.5
-4.2
1.3
3.9
-2.1
3.5
-6.4
-11.8
2.8 5.9
3.2
3.0
千葉県
4,950
4,940 3,670
3,780
3,830
3,750
3,880
3,630
3,730
3,850 3,530
4,000 3,740
25
20
15
10
5
0
5.3
16.4
18.0
14.5
15.0
13.6
16.3
19.9
14.2
平均空室率既存物件空室率
97年98年99年00年01年02年03年04年05年06年07年08年
97年98年99年00年01年02年03年04年05年06年07年08年97年98年99年00年01年02年03年04年05年06年07年08年
97年98年99年00年01年02年03年04年05年06年07年08年09年
上半期
09年
下半期
12
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
(円/坪) (%)
9.2
-1.2
-6.4
-7.9
0.2
-1.6
4.3
3.6
-4.1
-7.4
4,760
5,200
5,140 4,670 4,230
4,410
4,570
4,520
4,620 4,440
4,630
-1.1
2.2
-2.9
神奈川県
4,810 4,300 4,110
09年
上半期
09年
下半期
09年
上半期
09年
下半期
09年
上半期
09年
下半期
5,950
4,370
3,830
物流不動産市場レポート
MARCH 2009 80
物件で空室消化
が進んだことで
前期に引き続き
低下し、半年前
には十二・〇%
あった空室率は
対前期比二・〇
ポイント低下の
六・八%にまで
低下してきた。 設
備の整った大型
物流施設への移
転需要は底堅く
推移しているた
め、新規供給が
抑制されている
昨今の状況下で
需給バランスの
改善が進んでい
る。
今期は、食品
や飲料・製薬関
連といった内需
型企業において、
拠点集約等によ
るテナント需要
が多くみられ、従
来型の施設から
高スペックの大
型施設へ移転す
る企業の動きが
目立った。
マーケット規模を判断する材料として稼働床
面積(指数)の推移をみると、上記のような
動きの結果、今期は稼働床面積が増加し、物
流マーケットは大きく拡大をみせているといえ
る(図3)。
また、〇九年一〇月に実施した不動産投資
家に関する調査結果では、首都圏湾岸部にお
ける大型マルチテナント型物流施設のNOI利
回りは、六・一三%〜六・九〇%となり、前
回調査から下限値は上昇、上限値は横ばいと
いう結果になった(図4)。
近畿圏
募集賃料は下落傾向続く
■中大型物流施設市況
物流業界の動向としては、輸出入貨物の減
少やメーカーの在庫圧縮の動きを受けて、全般
的に物流施設の稼働率は低下傾向にある。 3
PL企業の荷主に対する提案営業は引き続き
みられるものの、3PL企業の先行投資的な
拠点の新設は少なく、荷主の意思決定の遅さ
もあり事業決定までに時間を要している。
大阪府の今期の賃料水準は、前期比マイナ
ス八・〇%となっており、前期に引き続き下
落を示している(図5)。 全般的に需要が停滞
していることで、テナント獲得競争が続いてい
るため、募集、成約賃料とも弱含みでの推移
となっており、フリーレントの設定等の契約条
件の緩和もみられている。
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
-12
(円/坪) (%)
97年98年99年00年01年02年03年04年05年06年07年08年09年
上半期
09年
下半期
4,970
4,820
4,400
3,970
4,200
3,990
4,060
3,790
3,870
3,910
4,050
3,730
3,430
3,990
-3.0
-8.7
-9.8
-5.0
-1.5
1.8
-6.7
2.1
-6.5
-8.0
1.0
3.6
5.8
図5 大阪府の中大型物流施設の平均募集賃料
図6 近畿圏の大型マルチテナント型物流施設の平均空室率図7 近畿圏の稼働床面積(指数)(2006/9=100)
06
年9月
06
年1
2月
07
年3月
07
年6月
08
年3月
08 年
6
月
08
年9月
08
年
12
月
09
年3月
09
年6月
09
年9月
09
年
12
月
07
年9月
07
年1
2月
350
300
250
200
150
100
大阪府
(%)
06
年9月
06
年1
2月
07
年3月
07
年6月
08
年3月
08
年6月
08
年9月
08
年
12
月
09
年3月
09
年6月
09
年9月
09
年
12
月
07
年9月
07
年1
2月
35
30
25
20
15
10
5
0
平均空室率
既存物件空室率
6.4
16.6 15.4
9.4
25.5
26.1
30.6
25.7
21.4
16.5
18.3
21.7
17.6 18.4
13.1 14.0
17.8
13.0 14.0
16.3
17.2
10.4
6.8
0.0 1.0 0.0 3.0
(%)
8.0
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2009年1 月2009 年4 月2009 年7 月2009 年10 月
図4 首都圏湾岸部における大型マルチテナント型物流施設の
NOI 利回り
6.00〜6.50
6.00〜6.80 6.00〜6.90 6.13〜6.90
賃料水準変動率
出所:シービー・リチャードエリス総合研究所
調査方法 不動産投資にかかわる実務家からE-mailによりアンケート調査を実施
調査期間 2009 年10月22日〜11月6日
回答者数 75 件
回答者の属性 エクイティ投資家、デット投資家(シニア、メザニン)、不動産ファンド、
投資法人、デベロッパー、アレンジャー、アセットマネージャー、その他
想定条件 首都圏港湾部に立地するマルチテナント型物流施設、契約期間は5〜
10 年の定期借家契約を想定※募集面積1000 坪以上を対象とする
81 MARCH 2009
■大型マルチテナント型物流施設市況
今期の大型マルチテナント型物流施設の平均
空室率は、前期から〇・八ポイント上昇し一
八・四%となった。 また、既存物件の空室率
についても、〇・九ポイント上昇し一四・〇%
となった(図6)。 今期も新規供給物件はなく、
テナントの動きは殆どみられなかったが、既存
物件からのテナント流出がみられたことで僅か
ではあるが上昇している。
今後しばらく新規供給予定はないため需給
の改善が期待されるが、全般的にテナントの動
きが停滞しているため空室消化スピードは遅い。
また、物件によって稼働率に格差がみられてお
り、空室が長期化する物件も見られている。
中部圏
賃料は低水準で推移
■中大型物流施設市況
景気低迷に底を打った感はあるが、引き続
き企業の事業環境は厳しく、コスト削減を背景
とした拠点の見直しによる縮小・撤退の動き
が目立っている。 一方で、食品、医薬、通販
会社等といった内需型企業の一部では、拡張
移転の動きがみられており、大型物件を物色
する企業が散見されている。
今期の中部圏の中大型施設の賃料動向をみ
ると、対前期比マイナス一・七%となった(図
8)。 前期から下落幅は縮小したものの、テナ
ントサイドが希望する水準は厳しく、当面は低
水準で推移する可能性が高い。 大型新築物件
の募集賃料には大きな変化はみられてはいない
が、中小型の老朽化した施設等の市場競争力
に劣る施設は、空室が長期化する傾向にあり、
募集、成約賃料水準とも下落傾向にある。
物流現場改善を専門とするコンサルティング会社、
日本ロジファクトリーが具体的な事例を披露。 手法の説
明だけでなく、クライアントとのやりとりやコンサルタント
の心の動きまで、改善プロジェクトの経過をリアルに描
写。
本誌2003年1月号から連載の「事例で学ぶ現場改
善」を加筆修正。
「経営のテコ入れは物流改善から」
青木正一 著 (明日香出版社)
¥1,890(税込)
2005年3月発行
白トラの一人親方からスタートして、一代で会社を
一部上場企業にまで成長させたオーナー創業者の
一代記。 笑えます!泣けます!
本誌2003年4月号〜2004年11月号に掲載した
「やらまいか──ハマキョウレックスの運送屋繁盛
記」を加筆修正。
「やらまいか!」
大須賀正孝 著(ダイヤモンド社)
¥1,575(税込)
2005年5月発行
「物流コストを半減せよ!̶Mission」
湯浅和夫 著 (かんき出版)
¥1,575(税込)
2005年2月発行
物流コンサルティング業界のカリスマが小説形式
のノウハウ本に挑戦。 「大先生」と「美人弟子」「体力
弟子」の3人組が、常識破りの物流理論で、クライア
ントの課題を次々に解決。
本誌2002年4月号から連載の「物流コンサル道
場」を単行本化。
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
15
10
5
0
-5
-10
-15
(円/坪) (%)
97年98年99年00年01年02年03年04年05年06年07年08年09年
上半期
09年
下半期
3,380
3,260
3,370 3,310
3,120
3,220
3,030
2,940
2,900
3,270 3,060 2,890
3,210 2,840
-3.6
3.4
-1.8
3.2
4.9
-5.9
-3.0 -1.4
-10.0
-1.7
12.8
-6.4
-5.7
図8 愛知県の中大型物流施設の平均募集賃料
愛知県
賃料水準変動率
※募集面積1000 坪以上を対象とする
|