2010年4月号
ケース
ケース
エーザイ RFID
APRIL 2010 46
RFID
エーザイ
外箱にICタグ添付し検品・追跡を効率化
医療ミス防止に向け個品単位の実装目指す
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
バーコードの利便性に限界 エーザイは昨年から「医療過誤防止プロジ ェクト」に取り組んでいる。
医療現場では投 薬ミスがあとを絶たず、一歩間違えば重大な 事故につながる?ヒヤリ・ハット?事例は年 間二〇万件以上発生しているという調査報告 も出ている。
こうしたミスを防ぐことは、医 療機関だけではなくメーカーにとっても重要 な責務の一つという判断だ。
このプロジェクトを推進しているのは同社 の「CJ(Customer Joy)部」という部門 だ。
CS(カスタマーサティスファクション= 顧客満足)よりもさらに踏み込んで、まだ顕 在化していない顧客の要求を満たすことによ って歓喜を得る?CJ(カスタマージョイ= 顧客歓喜)?の追求を使命としている。
ここでいう顧客とは同社の場合、製品のエ ンドユーザーである「患者」を指す。
エーザ イは「患者への貢献」を企業理念の第一に掲 げ、それを定款にも明記している。
これを実 践するために日常の活動でも、治療を受ける 側の患者の思いを理解し、患者の視点を何よ りも重視して医療を考えるという企業姿勢を 貫いてきた。
例えば同社では、研修などを通じて多くの 社員に、医療現場で医療の実態を学んだり、 患者との対話や介護などを体験して患者の身 になって考える機会を与えている。
医薬品メ ーカーのなかで最も早く患者向けの「お客様 ホットライン」を設置したのも同社だ。
二〇 年前から電話による製品の問い合わせや要望 に社員が三六五日いつでも応じている。
患者 の潜在的なニーズをいち早く汲み取り、製品 の改良やサービス改善につなげようという狙 いもある。
こうした活動をさらに飛躍させるため、二 〇〇九年四月にCJ部を新設した。
同部の小 林広一部長は、「製品の開発だけでなく、患 者が安全な医療を受けられるよう医療機関な どと連携してサービスや情報を提供する活動 を全社的に推進するのがわれわれの役割だ」 と説明する。
その活動の中心テーマとして取 り組んでいるのが医療過誤の防止だ。
医療過誤を防ぐためにメーカーにまず求め られるのは、医療現場で医薬品の取り間違い が起こらないよう製品を識別しやすくするこ とだ。
エーザイは識別の手段としてはICタ グがもっとも有効だと判断し、同社が医薬品 の安全管理に必要な情報をICタグに格納し て製品に貼付することで、医療機関などの投 薬ミス防止に役立ててもらうことをプロジェ クトの目標に掲げた。
医療用医薬品には大半のメーカーが受発注 の基本単位である販売包装(中箱)単位で商 品識別用のJANコードを付けている。
だが 医療機関が薬を取り揃えたり処方する際の調 剤包装単位まではコードが付いていない。
こ のため医療機関では目視による識別を余儀な くされている。
エーザイがICタグの導入を進めている。
08年春か ら一部の製品で外箱へのタグの貼付を開始し、検品 やトラッキングの精度向上を実現した。
今年12月ま でには製品の99%に適用する計画だ。
その上でアン プル1本単位の個品レベルの実装を目指す。
病院で 処方や投薬を行う際の識別にICタグを利用して、医 療過誤を防止することが目的だ。
47 APRIL 2010 またそもそも十三桁のJANコードでは、 医薬品の安全管理に必要な製造ロット番号や 有効期限などの詳細な情報を盛り込むことが できないという問題もある。
そこで厚生労働省の指導により、〇五年秋 に日本製薬団体連合会は、二次元バーコード を使って製造ロット・有効期限などの変動情 報を表示する医薬品の新コード体系のガイド ラインを定めた。
さらに〇六年九月には同連 合会に対する厚生労働省通知によって、〇八 年九月以降に出荷される医療用医薬品に新体 系のバーコード表示を義務付けた。
ただしこの通知ですべての医薬品に製造ロ ット番号・有効期限がバーコード表示される ようになったわけではない。
これらの項目が 必須項目とされたのは、流通量が全体の一 〇%にも満たない生物由来製品だけだ。
その ほかの医薬品については任意表示にとどまっ た。
その影響もあってか厚生労働省が昨年三月 に公表した医療用医薬品の「情報化進捗状況 調査」では、生物由来以外の医療用医薬品の 製造ロット番号・有効期限の表示率は、最も 高い注射薬でも一〇%台と低迷している。
表示率が低いのは、バーコードの利便性に ついて医療機関から充分な評価を得られてい ないことが一因だという指摘もある。
バーコ ードの識別は一点ずつリーダーを近づけて読 まなければならないため時間がかかる。
緊急 時に薬剤部で医薬品を払い出しする際には対 応が遅れる恐れもあり、医療機関は必ずしも バーコードの利用に前向きではない。
またロット番号や有効期限などの変動情報 を表わす二次元バーコードは、リーダーで読 むときに光源の赤色LEDから強い光が発せ られる。
夜間に病室で患者に投薬する際など の識別に用いるのはあまり適切でないという 見方もある。
医療過誤防止プロジェクトのメンバーは実 際に医療現場で医師らからこうした声を耳に した。
その上で医薬品の識別にはバーコード よりもICタグが適していると判断した。
I Cタグは瞬時に読み取れるため緊急時にも負 担にならない。
病室内でも患者に気づかれず に識別できるという利点もある。
物流子会社が取り組みを先導 このプロジェクトでは子会社のエーザイ物 流が中心的な役割を果たしている。
もともと ICタグの導入は同社が〇六年から検討を進 めていたもので、当初は物流現場の業務改善 が導入の目的だった。
エーザイは研究開発から生産・販売・物流 までを基本的に自社で手がける方針をとり、 エーザイ物流が同社の物流管理部門を担って いる。
工場の製品を厚木など三カ所にある物 流センターに保管し卸へ届けるまでを同社が 管理している。
医薬品の物流には高水準の品質・安全管理 が求められる。
製品の誤出荷や輸送中の紛失 事故などは許されない。
同社の物流センター では誤出荷を防ぐためピッキングの後に目視 で二重検品を実施してきた。
商品コードのほ かに製造ロットや有効期限まで細かく伝票と 照合する負荷の大きい作業で、ヒューマンエ ラーの起こる危険が常にあるため作業者への 心理的な負担は重かった。
ITを活用して業 務改善を図るべきだという声は現場からも上 がっていた。
同社の物流センターでは一五年前からピッ キング作業にバーコードを利用している。
バ ーコードは未経験者を即戦力として活用でき るというメリットがある。
その半面、全品を スキャンしなければならないため熟練作業者 にはかえってストレスになっていることも痛 感していた。
そのためバーコードとは別の識 別方法で製造ロット・期限管理をIT化でき ないか検討していた。
また同社はかねがね、製品を出荷した後の トラッキング管理をより迅速に正確にしたい というニーズも持っていた。
運送会社の送り 状による管理だけではリアルタイムに追跡す CJ部の小林広一部長 APRIL 2010 48 ることができない。
輸送形態によっては?口 割れ?が起こる恐れもある。
輸送中の紛失事 故を防ぐことのできるトラッキングの仕組み を研究していた。
〇五年には製品にPHSの端末を同梱して、 端末の発する電波で追跡を行う方法を試みた。
だが電波の状態に左右され正確な位置を絞り 込めないという弱点があり、導入や運用にコ ストもかかることから断念した。
これらの課題に取り組むなかで選択肢の一 つとしてICタグにも着目した。
ICタグな ら製造ロットや有効期限まで含めた詳細な情 報を容易に識別することが可能で、ストレス を感じることなく作業ができる。
PHSより も精度の高いトラッキングも行える。
物流効率化の問題だけではない。
ICタグ 導入プロジェクトの中心メンバーであるエーザ イ物流厚木センターの村井博行副センター長 は「最終的には医療機関のスタッフの負担軽 減への道筋まで視野に入れてICタグを選択 した」と話す。
製造工程でタグを実装 同社はICタグの導入をエーザイの工場の 生産管理部門と連携して進めた。
技術面や運 用面の一年間に渡る実験を経て、〇八年四月 にICタグシステムを本格稼働させた。
第一 弾として、医薬品のなかで最も厳重な管理を 必要とし、トラッキング強化の優先度の高い 向精神薬を対象に選んだ。
ーへインターネットでデータが自動配信され る。
運送会社はこのデータをもとにICタグ で貨物をチェックし、トラッキングを行う。
トラッキングのポイントとしてはまず集荷の 際にドライバーがICタグを読み、積み込み 検品を行う。
次に集荷した貨物を自社のター ミナルで配送ルート別に仕分けた後の検品に ICタグを使う。
さらに翌朝、配送車のドライバーがICタ グで積み込み検品を行う。
このときの荷姿は パレット上で製品をストレッチ包装した状態の ため従来は数量検品しかできなかった。
IC タグを活用することにより、数量だけでなく 商品コードや製造ロット・有効期限まで細か く内容を確認することができるようになった。
このあとさらに各配送先で納品する際にも ICタグで最終チェックを行う。
各ポイントでICタグを読み、その履歴を サーバーに蓄積することにより、迅速で正確 なトラッキングができるようになった。
検品作業も大幅に効率化できた。
二人一 組だった作業を一人で処理できるようになり、 商品コードや製造ロット・有効期限情報の 入ったUHF帯のICタグを製品の元梱包(外 箱段ボール)に付け、協力運送会社と共同で 検品作業や卸の拠点までのトラッキングに利 用する。
ICタグはワンウェーで運用する。
当初は物流センターでICタグの実装を行 った。
卸からの受注情報をもとに出荷指示が 出たあとで、物流センターでICタグの付い たあて先ラベルをまとめて発行し、ピッキン グの際に目視で外箱の商品名と照合しながら 一枚ずつ貼付するやり方だ。
だがこの方法では貼り間違いが起こる危険 があった。
それを改善するため昨年から製造 段階でICタグを実装してしまうかたちに変 更した。
これに伴い、物流センターでのあて 先ラベルの発行の仕方も見直した。
物流セン ターに入荷した商品にはすでにICタグが付 いている。
ピッキング時に、それを作業者が 固定型リーダーで読んであて先ラベルを自動 発行し、外箱に貼付する仕組みを導入し、必 ず一対になるようにした。
卸への配送は方面別に複数の運送会社が担 当している。
方面別(運送会社別)仕分けの 後に、それまでの目視による二重検品の代わ りにICタグで検品を行う。
ハンディターミ ナルに出荷指示情報をダウンロードし、製品 を積んだパレットの周囲を回りながらICタ グを読む。
検品が済むと作業者が実績をサーバーに蓄 積し、サーバーから運送会社のコンピュータ エーザイ物流厚木センターの 村井博行副センター長 49 APRIL 2010 ようにしておく。
村井副センター長は「医薬品の場合、IC タグの一番の利点はロット単位よりも細かく シリアル単位で管理ができることだ」と指摘 する。
製造時ではなく流通過程での温度管理 などが原因で異常が起こった場合などに、I Cタグでシリアル管理を実施していれば流通 ルートをたどって原因を究明できる。
さらに医療過誤防止という究極の目的実現 のため、次のステップではアンプルなど調剤レ ベルでの実装をめざす。
そのためにエーザイ 物流や工場のメンバーによる物流部会と生産 部会のほかに、医療機関の医師らといっしょ にICタグの研究を行う医療現場部会を新た に設けた。
ICタグを医薬品の取り揃えや投 薬に利用するイメージ動画を作成して医療機 関に紹介する活動などを行っている。
小林部長は「(調剤レベルの実装は)我々 だけでは解決できない大きなテーマ。
ICタ グの活用に前向きな病院の先生方の意見を聞 きながら、どんな形で導入を進めたらいいの か、いっしょに考えていきたい」という。
医療機関にとっては、エーザイだけが単 独でICタグを実装してもメリットは少ない。
調剤レベルの実装は業界の標準化の動きと歩 調を合わせて慎重に進める必要がある。
昨年五月にはICタグなどの標準化を目的 に医薬品や医療機器のメーカー、卸、医療機 関などの関係団体・企業によるGS1ヘルス ケアジャパン協議会が発足した。
同協議会の 設立発起人会にエーザイ物流は物流会社代表 として参加している。
当面、業界の標準化活 動に積極的に取り組む考えだ。
製品単価の低いジェネリック医薬品(後発 品)メーカーなどは実装コストの負担が重く ICタグ導入へのハードルは高い。
だが小林 部長は「重要度の高いものからでもまず導入 事例を作っていくことが重要。
これまで蓄積 した経験と技術を活かして医療現場へのIC タグの普及に先導役を果たしていきたい」と 意欲を燃やしている。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 作業時間も短縮された。
検品時に仕分けミス を発見した時にもすばやく対応できるように なった。
個体への実装に向け標準化推進 同社は今後、向精神薬以外の医薬品にも ICタグの導入を拡大する。
今年の十二月ま でに九九%の製品への実装を完了する計画だ。
外箱にはICタグのほか、新バーコード表示 ガイドラインの定めるGS1─128バーコー ドでもロット・期限を表示する。
現状では医 薬品卸の多くが商品の識別にバーコードを用 いているため、どちらの手段でも識別できる 図1 使用している RFID ラベル( UHF 帯) 製造工程でタグを付けていない製品に は、物流センターでRFID 宛先ラベル を貼付している 工場からのRFID。
RFID ラベル下段に はGS1-128 を印字 図2 物流センター検品⇒運送会社検品⇒代理店納品 物流センター 代理店 荷渡し検品積込み検品 運送会社 仕分け検品 納品検品 積込み検品
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
バーコードの利便性に限界 エーザイは昨年から「医療過誤防止プロジ ェクト」に取り組んでいる。
医療現場では投 薬ミスがあとを絶たず、一歩間違えば重大な 事故につながる?ヒヤリ・ハット?事例は年 間二〇万件以上発生しているという調査報告 も出ている。
こうしたミスを防ぐことは、医 療機関だけではなくメーカーにとっても重要 な責務の一つという判断だ。
このプロジェクトを推進しているのは同社 の「CJ(Customer Joy)部」という部門 だ。
CS(カスタマーサティスファクション= 顧客満足)よりもさらに踏み込んで、まだ顕 在化していない顧客の要求を満たすことによ って歓喜を得る?CJ(カスタマージョイ= 顧客歓喜)?の追求を使命としている。
ここでいう顧客とは同社の場合、製品のエ ンドユーザーである「患者」を指す。
エーザ イは「患者への貢献」を企業理念の第一に掲 げ、それを定款にも明記している。
これを実 践するために日常の活動でも、治療を受ける 側の患者の思いを理解し、患者の視点を何よ りも重視して医療を考えるという企業姿勢を 貫いてきた。
例えば同社では、研修などを通じて多くの 社員に、医療現場で医療の実態を学んだり、 患者との対話や介護などを体験して患者の身 になって考える機会を与えている。
医薬品メ ーカーのなかで最も早く患者向けの「お客様 ホットライン」を設置したのも同社だ。
二〇 年前から電話による製品の問い合わせや要望 に社員が三六五日いつでも応じている。
患者 の潜在的なニーズをいち早く汲み取り、製品 の改良やサービス改善につなげようという狙 いもある。
こうした活動をさらに飛躍させるため、二 〇〇九年四月にCJ部を新設した。
同部の小 林広一部長は、「製品の開発だけでなく、患 者が安全な医療を受けられるよう医療機関な どと連携してサービスや情報を提供する活動 を全社的に推進するのがわれわれの役割だ」 と説明する。
その活動の中心テーマとして取 り組んでいるのが医療過誤の防止だ。
医療過誤を防ぐためにメーカーにまず求め られるのは、医療現場で医薬品の取り間違い が起こらないよう製品を識別しやすくするこ とだ。
エーザイは識別の手段としてはICタ グがもっとも有効だと判断し、同社が医薬品 の安全管理に必要な情報をICタグに格納し て製品に貼付することで、医療機関などの投 薬ミス防止に役立ててもらうことをプロジェ クトの目標に掲げた。
医療用医薬品には大半のメーカーが受発注 の基本単位である販売包装(中箱)単位で商 品識別用のJANコードを付けている。
だが 医療機関が薬を取り揃えたり処方する際の調 剤包装単位まではコードが付いていない。
こ のため医療機関では目視による識別を余儀な くされている。
エーザイがICタグの導入を進めている。
08年春か ら一部の製品で外箱へのタグの貼付を開始し、検品 やトラッキングの精度向上を実現した。
今年12月ま でには製品の99%に適用する計画だ。
その上でアン プル1本単位の個品レベルの実装を目指す。
病院で 処方や投薬を行う際の識別にICタグを利用して、医 療過誤を防止することが目的だ。
47 APRIL 2010 またそもそも十三桁のJANコードでは、 医薬品の安全管理に必要な製造ロット番号や 有効期限などの詳細な情報を盛り込むことが できないという問題もある。
そこで厚生労働省の指導により、〇五年秋 に日本製薬団体連合会は、二次元バーコード を使って製造ロット・有効期限などの変動情 報を表示する医薬品の新コード体系のガイド ラインを定めた。
さらに〇六年九月には同連 合会に対する厚生労働省通知によって、〇八 年九月以降に出荷される医療用医薬品に新体 系のバーコード表示を義務付けた。
ただしこの通知ですべての医薬品に製造ロ ット番号・有効期限がバーコード表示される ようになったわけではない。
これらの項目が 必須項目とされたのは、流通量が全体の一 〇%にも満たない生物由来製品だけだ。
その ほかの医薬品については任意表示にとどまっ た。
その影響もあってか厚生労働省が昨年三月 に公表した医療用医薬品の「情報化進捗状況 調査」では、生物由来以外の医療用医薬品の 製造ロット番号・有効期限の表示率は、最も 高い注射薬でも一〇%台と低迷している。
表示率が低いのは、バーコードの利便性に ついて医療機関から充分な評価を得られてい ないことが一因だという指摘もある。
バーコ ードの識別は一点ずつリーダーを近づけて読 まなければならないため時間がかかる。
緊急 時に薬剤部で医薬品を払い出しする際には対 応が遅れる恐れもあり、医療機関は必ずしも バーコードの利用に前向きではない。
またロット番号や有効期限などの変動情報 を表わす二次元バーコードは、リーダーで読 むときに光源の赤色LEDから強い光が発せ られる。
夜間に病室で患者に投薬する際など の識別に用いるのはあまり適切でないという 見方もある。
医療過誤防止プロジェクトのメンバーは実 際に医療現場で医師らからこうした声を耳に した。
その上で医薬品の識別にはバーコード よりもICタグが適していると判断した。
I Cタグは瞬時に読み取れるため緊急時にも負 担にならない。
病室内でも患者に気づかれず に識別できるという利点もある。
物流子会社が取り組みを先導 このプロジェクトでは子会社のエーザイ物 流が中心的な役割を果たしている。
もともと ICタグの導入は同社が〇六年から検討を進 めていたもので、当初は物流現場の業務改善 が導入の目的だった。
エーザイは研究開発から生産・販売・物流 までを基本的に自社で手がける方針をとり、 エーザイ物流が同社の物流管理部門を担って いる。
工場の製品を厚木など三カ所にある物 流センターに保管し卸へ届けるまでを同社が 管理している。
医薬品の物流には高水準の品質・安全管理 が求められる。
製品の誤出荷や輸送中の紛失 事故などは許されない。
同社の物流センター では誤出荷を防ぐためピッキングの後に目視 で二重検品を実施してきた。
商品コードのほ かに製造ロットや有効期限まで細かく伝票と 照合する負荷の大きい作業で、ヒューマンエ ラーの起こる危険が常にあるため作業者への 心理的な負担は重かった。
ITを活用して業 務改善を図るべきだという声は現場からも上 がっていた。
同社の物流センターでは一五年前からピッ キング作業にバーコードを利用している。
バ ーコードは未経験者を即戦力として活用でき るというメリットがある。
その半面、全品を スキャンしなければならないため熟練作業者 にはかえってストレスになっていることも痛 感していた。
そのためバーコードとは別の識 別方法で製造ロット・期限管理をIT化でき ないか検討していた。
また同社はかねがね、製品を出荷した後の トラッキング管理をより迅速に正確にしたい というニーズも持っていた。
運送会社の送り 状による管理だけではリアルタイムに追跡す CJ部の小林広一部長 APRIL 2010 48 ることができない。
輸送形態によっては?口 割れ?が起こる恐れもある。
輸送中の紛失事 故を防ぐことのできるトラッキングの仕組み を研究していた。
〇五年には製品にPHSの端末を同梱して、 端末の発する電波で追跡を行う方法を試みた。
だが電波の状態に左右され正確な位置を絞り 込めないという弱点があり、導入や運用にコ ストもかかることから断念した。
これらの課題に取り組むなかで選択肢の一 つとしてICタグにも着目した。
ICタグな ら製造ロットや有効期限まで含めた詳細な情 報を容易に識別することが可能で、ストレス を感じることなく作業ができる。
PHSより も精度の高いトラッキングも行える。
物流効率化の問題だけではない。
ICタグ 導入プロジェクトの中心メンバーであるエーザ イ物流厚木センターの村井博行副センター長 は「最終的には医療機関のスタッフの負担軽 減への道筋まで視野に入れてICタグを選択 した」と話す。
製造工程でタグを実装 同社はICタグの導入をエーザイの工場の 生産管理部門と連携して進めた。
技術面や運 用面の一年間に渡る実験を経て、〇八年四月 にICタグシステムを本格稼働させた。
第一 弾として、医薬品のなかで最も厳重な管理を 必要とし、トラッキング強化の優先度の高い 向精神薬を対象に選んだ。
ーへインターネットでデータが自動配信され る。
運送会社はこのデータをもとにICタグ で貨物をチェックし、トラッキングを行う。
トラッキングのポイントとしてはまず集荷の 際にドライバーがICタグを読み、積み込み 検品を行う。
次に集荷した貨物を自社のター ミナルで配送ルート別に仕分けた後の検品に ICタグを使う。
さらに翌朝、配送車のドライバーがICタ グで積み込み検品を行う。
このときの荷姿は パレット上で製品をストレッチ包装した状態の ため従来は数量検品しかできなかった。
IC タグを活用することにより、数量だけでなく 商品コードや製造ロット・有効期限まで細か く内容を確認することができるようになった。
このあとさらに各配送先で納品する際にも ICタグで最終チェックを行う。
各ポイントでICタグを読み、その履歴を サーバーに蓄積することにより、迅速で正確 なトラッキングができるようになった。
検品作業も大幅に効率化できた。
二人一 組だった作業を一人で処理できるようになり、 商品コードや製造ロット・有効期限情報の 入ったUHF帯のICタグを製品の元梱包(外 箱段ボール)に付け、協力運送会社と共同で 検品作業や卸の拠点までのトラッキングに利 用する。
ICタグはワンウェーで運用する。
当初は物流センターでICタグの実装を行 った。
卸からの受注情報をもとに出荷指示が 出たあとで、物流センターでICタグの付い たあて先ラベルをまとめて発行し、ピッキン グの際に目視で外箱の商品名と照合しながら 一枚ずつ貼付するやり方だ。
だがこの方法では貼り間違いが起こる危険 があった。
それを改善するため昨年から製造 段階でICタグを実装してしまうかたちに変 更した。
これに伴い、物流センターでのあて 先ラベルの発行の仕方も見直した。
物流セン ターに入荷した商品にはすでにICタグが付 いている。
ピッキング時に、それを作業者が 固定型リーダーで読んであて先ラベルを自動 発行し、外箱に貼付する仕組みを導入し、必 ず一対になるようにした。
卸への配送は方面別に複数の運送会社が担 当している。
方面別(運送会社別)仕分けの 後に、それまでの目視による二重検品の代わ りにICタグで検品を行う。
ハンディターミ ナルに出荷指示情報をダウンロードし、製品 を積んだパレットの周囲を回りながらICタ グを読む。
検品が済むと作業者が実績をサーバーに蓄 積し、サーバーから運送会社のコンピュータ エーザイ物流厚木センターの 村井博行副センター長 49 APRIL 2010 ようにしておく。
村井副センター長は「医薬品の場合、IC タグの一番の利点はロット単位よりも細かく シリアル単位で管理ができることだ」と指摘 する。
製造時ではなく流通過程での温度管理 などが原因で異常が起こった場合などに、I Cタグでシリアル管理を実施していれば流通 ルートをたどって原因を究明できる。
さらに医療過誤防止という究極の目的実現 のため、次のステップではアンプルなど調剤レ ベルでの実装をめざす。
そのためにエーザイ 物流や工場のメンバーによる物流部会と生産 部会のほかに、医療機関の医師らといっしょ にICタグの研究を行う医療現場部会を新た に設けた。
ICタグを医薬品の取り揃えや投 薬に利用するイメージ動画を作成して医療機 関に紹介する活動などを行っている。
小林部長は「(調剤レベルの実装は)我々 だけでは解決できない大きなテーマ。
ICタ グの活用に前向きな病院の先生方の意見を聞 きながら、どんな形で導入を進めたらいいの か、いっしょに考えていきたい」という。
医療機関にとっては、エーザイだけが単 独でICタグを実装してもメリットは少ない。
調剤レベルの実装は業界の標準化の動きと歩 調を合わせて慎重に進める必要がある。
昨年五月にはICタグなどの標準化を目的 に医薬品や医療機器のメーカー、卸、医療機 関などの関係団体・企業によるGS1ヘルス ケアジャパン協議会が発足した。
同協議会の 設立発起人会にエーザイ物流は物流会社代表 として参加している。
当面、業界の標準化活 動に積極的に取り組む考えだ。
製品単価の低いジェネリック医薬品(後発 品)メーカーなどは実装コストの負担が重く ICタグ導入へのハードルは高い。
だが小林 部長は「重要度の高いものからでもまず導入 事例を作っていくことが重要。
これまで蓄積 した経験と技術を活かして医療現場へのIC タグの普及に先導役を果たしていきたい」と 意欲を燃やしている。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 作業時間も短縮された。
検品時に仕分けミス を発見した時にもすばやく対応できるように なった。
個体への実装に向け標準化推進 同社は今後、向精神薬以外の医薬品にも ICタグの導入を拡大する。
今年の十二月ま でに九九%の製品への実装を完了する計画だ。
外箱にはICタグのほか、新バーコード表示 ガイドラインの定めるGS1─128バーコー ドでもロット・期限を表示する。
現状では医 薬品卸の多くが商品の識別にバーコードを用 いているため、どちらの手段でも識別できる 図1 使用している RFID ラベル( UHF 帯) 製造工程でタグを付けていない製品に は、物流センターでRFID 宛先ラベル を貼付している 工場からのRFID。
RFID ラベル下段に はGS1-128 を印字 図2 物流センター検品⇒運送会社検品⇒代理店納品 物流センター 代理店 荷渡し検品積込み検品 運送会社 仕分け検品 納品検品 積込み検品
