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APRIL 2010 54
営業利益は〇四年度から六割減
キユーソー流通システム(以下、キユーソー)
の〇九年十一月期決算は、売上高は前期比五・
三%減の一三五三億円と減収ながら、営業利
益は二四・八%増の一五億円と増益を達成し
た。 燃油費負担の減少も寄与したが、メーカー
の生産・在庫調整による収入低迷に対し、コ
スト削減施策を敢行し利益を捻出した格好で
ある。
ただし過去最高の営業利益となった〇四年
十一月期の三七億円に比べて利益水準は低く、
増益に転じたとはいえ業績面での苦境が窺え
る。 同社はB
to
Bの冷凍・チルド食品を対象
とした少量多品種アイテムの共同物流を主力
とし、食品メーカーやスーパー、コンビニなど
大口荷主の一括物流の受託(専用物流)へと
事業領域を拡大して食品物流の最大手に成長
した。 親会社のキユーピーおよびグループ向け
以外の外販比率は八五%。 自立の進んだ物流
子会社の一社といえる。
しかし食品物流業界は少子高齢化、消費に
対する価値観の多様化、自給率低下といった
構造的な変化に晒されている。 そこに景気低
迷に伴う取扱物量減少、受託料金の低下等が
追い打ちをかけ、厳しい競争環境が続いてい
る。
売上高の約六割を占める共同物流事業は、汎
用性の高い保管・輸送機能を擁しスケールメリ
ットの働くビジネスといえる一方、取扱物量の
減少に対して比較的抵抗力に乏しいという側
面を有する。 全国サービスを標榜し、連結子
会社や資本関係のない協力会社を組織化した
「キユーソー会」を通じて各地に配備された三
六五日・二四時間の物流拠点と配送網を活用
しているが、一定水準の供給体制を維持して
いることが結果として固定的な費用負担につ
ながっているとみられ、会社の利益水準を一
段と押し下げている可能性が指摘できる。
専用物流は、料金体系としてセンターの商
品通過額に一定料率を乗じて収受する変動的
な収入であることが多いのに対し、コスト面
では荷主企業のリクエストに応じなければなら
ず、ある意味オーダーメードの対応が求められ
る。 当初の制度設計が極めて重要なビジネス
ともいえるが、キユーソーは景気変動に対し
てディフェンシブな食品の取り扱い、かつ優良
荷主の選別受注に努めることで、比較的安定
したビジネスと位置付けてきた。
しかしながら、共同物流と同様、足元の事
業環境は厳しいといわざるを得ない。 原材料
価格の変動の影響を除けば、PB商品の台頭
や冷凍食品の特売等を背景に食品の価格水準
は低下傾向にある。 メーカーの生産・在庫調
整による取扱量の低迷もあり、センターの通
過金額の減少、案件ごとの採算悪化につなが
っているものと推察される。
キユーソー流通システム
苦戦の要因は共同物流網のインフラ費用
ネットワークを再構築し需要変動に対応を
全国をカバーする共同物流網の費用負担が
重荷となり、利益水準は低迷している。 当
面の最重要課題は保管・配送ネットワークの
再構築だ。 同社が再び成長軌道に乗るには輸
入食品の増加や物流アウトソーシングの拡大
等、食品物流業界の構造変化への対応が欠
かせない。
一柳 創
大和証券キャピタル・マーケッツ
金融証券研究所 企業調査第一部
シニアアナリスト
第57回
55 APRIL 2010
輸入貨物と専用物流に資源を集中
キユーソーはこうした状況を踏まえ、二〇
一二年十一月期を最終年度とする三カ年の中
期経営計画をスタートさせた。 卸売業者をも
含めた競争激化や輸入食品の拡大といった市
場構造の変化に対応すべく、物流品質の向上
を軸に収益体質の改善と成長分野へのシフト
を掲げたものである。
最終年度の数値目標は売上高一三八〇億
円、営業利益二三億円、純利益八億円(図1)。
拠点再編や配送ネットワークの見直し等を通じ
た運送・保管機能の再構築、または業務標準
化の推進等によって収益基盤の増強を図ると
の方針を示した。 併せて、専用物流や輸入貨
物分野を成長分野と定め、集中的に資源投下
することでビジネスの立て直しを図ろうとして
いる点が今計画の特徴といえる。
中でも運送・保管ネットワークの再構築は最
重要課題の一つと捉えている。 全国をカバー
するサービスレベルを維持した上で、都市部と
地方における貨物量のバランスの変化に伴う拠
点再編、在庫型と通過・仕分け型といった拠
点ごとの役割分担の見直しなどを実施し、需
要構造の変化に機動的に対応し
ていくことが肝要であろう。 組
織の軽量化も今後の検討課題の
一つと考えている。
加えて、中国産をはじめとし
た冷凍食品の輸入拡大により、
港湾エリアを起点とするモノの
流れも増大傾向にある。 キユー
ソーも〇八年に稼働した川崎低
温倉庫を輸入貨物取り扱いの中
核拠点として対応を進めている。
ただ、都市部の設備能力拡張や
既存拠点統廃合の進捗をみる限
り、体制構築の途上にあるとい
えよう。 場合によってはスペッ
ク調整を図りつつ、潜在的な需
要の期待される専用物流、輸入
貨物分野での新規顧客開拓を推
し進めていく必要があろう。
ここもとの株価動向は、同業他社と比較し
ても軟調な推移となっている。 株式市場全般
の地合いもあろうが、一〇年十一月期の減収
減益見通しも影響していると思われる。 結果
として、低PBR(株価純資産倍率)・高PE
R(株価収益率)での評価となっており、利
益水準の引き上げと資本、資産のより効率的
な活用が求められているといえよう。
定款変更により、自社株買いを実施可能と
したことは機動的な資本政策に資するものと
して評価したいが、中期計画でのROE(自
己資本利益率)目標値は三・三%に留まって
おり、他社状況や資本コストとの比較でも物
足りない印象が残る。
今中期計画は、食品物流の構造変化を取り
込むための基盤整備と位置付けられよう。 現
在のような厳しい競争環境下では、物流ノウ
ハウや食品管理への信頼性が業者間の格差と
してこれまで以上に顕在化する。 キユーソー
はデリケートな卵製品の物流で培ったノウハウ
を持っており、事業基盤の再構築に向けた諸
施策が軌道に乗れば利益水準の押し上げが期
待できそうだ。 その意味からも、ネットワー
クの再構築、効率化・軽量化に向けた動きに
引き続き注目したい。
ひとつやなぎ・はじめ
一九九七年三月早稲田大学理
工学部土木工学科卒。 同年四月
大和総研入社、企業調査部イン
フラチームに配属。 九九年から
物流担当に。
図1 09 年11月期業績と12 年11月期の目標数値
売上高
営業利益
経常利益
純利益
ROA(経利)
ROE(純利)
自己資本比率
1353 1380 102.0%
15.2 23.0 151.3%
15.5 23.0 148.4%
3.7 8.0 216.2%
2.7% 4.1% +1.4 ポイント
1.5% 3.3% +1.8 ポイント
43.5% 43.5% +-0.0 ポイント
09/11 12/11 09/11比増減
(単位:億円)
《出来高》
図2 過去10 年間の株価推移
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