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NOVEMBER 2005 78
要素技術は既に出尽くした
司会:東洋ビジネスエンジニアリン
グ・千田峰雄社長(以下文中、司
会・千田)
本日はSCMの本来あ
るべき姿と現実とのギャップについて
議論していきます。 最初に私から口
火を切らせていただきます。 現在、SCMが直面している課題の一つは
「可視化」、「見える化」だと思いま
す。 モノの流れを正確に情報として
補足する部分で問題が起こっている。
必要な情報が必要な人に行かない。 サ
プライチェーンのパートナー間で情報
が共有されていないという問題です。
荷主がものづくりの会社であれば、
社内で使用するコード体系や情報網
は工場の中に至るまで既に非常に精
緻に作っている。 しかしその情報を
物流会社に渡す段階で、情報の積み
替えが必要になる。 そこに壁が生ま
れてしまう。
そこで我々のようなIT企業とし
ては、最近のウェブ技術などを活用
して、パートナー間の繋ぎを上手く
透明化して「見える化」を実現する
必要があると考えているわけですが、
このあたりの課題について、まずフ
レームワークスの田中さん。 WMS
(Warehouse Management System:
物流センター・倉庫管理システム)ベ
ンダーという立場から、どのように
お考えですか。
フレームワークス・田中純夫社長(以
下文中、FWX・田中)
少なくと
もWMSに関して言えば、機能の洗
い出しは終わっている、既に出尽く
している感があります。 最近ではR
FID(無線ICタグ)なども入っ
てきましたが、それで何が実現でき
るのかという技術的な予測は既には
っきりしている。 むしろここ数年、
我々は技術的な問題より、どういう
アプローチをしたら改善を実現できる
かということにテーマを移してきてい
ます。
そのためには先ほど千田さんが指
摘されたように、中間の工程が見え
るということも非常に重要になりますが、我々の最近の取り組みではさら
に上の階層で、ロジスティクスやサ
プライチェーン改革が経営にとってど
ういう意味を持つのか、経営者にロ
ジスティクス改革が重要だということ
を理解してもらうためには、どんな
指標、KPI(Key Performance
Indicator:重要業績評価指標)を示
せばいいのか、そこから逆にブレー
クダウンしていった時に現場の中のど
んな指標と経営レベルのKPIを紐
79 NOVEMBER 2005
付けることができるのか、といった
ことを検討しています。
その完成度もかなり上がってきま
したので、今後は単にWMSのパッ
ケージを提供するだけでなく、経営
に役立つ数値化のところに着目して
周辺のソリューションまで組み合わせ
ていきたい。 そうすることで、SC
Mの言葉だけが先行して実際には企
業内の一部分だけでやっている、あ
るいはシステムを導入すること自体が
目的になってしまっているようなレベ
ルを超えていきたい。 実際、現場も
経営の関心も、企業間の組み合わせ
によってどんな効果が出るかというこ
とに徐々に移ってきている。 それに
応えていくことが我々の当面のテー
マだと考えています。
司会・千田
その取り組みを進める
上で、ギャップとして一番意識され
ているところを挙げるとすれば何にな
りますか。
FWX・田中
これはよく言われる
ことですが、日本企業の経営陣にロ
ジスティクスの専門家がいないという
ことですね。 欧米ではCLO(Chief
Logistics Officer:最高ロジスティ
クス責任者)層が既に定着していま
すが、日本の場合には我々や物流業
界のカウンターパートナーとなる経営
層の担当者がなかなか見当たらない。
司会・千田三井物産の橋本さん。
あるべき姿と現実とのギャップについ
て、どうお考えですか。
三井物産・橋本恵治物流本部ロジス
ティクス業務部企画業務室室長(以
下文中、物産・橋本)
SCMの目
指すものとして、よく全体最適やサ
プライチェーン当事者間のウィン
―ウ
ィンの関係ということが言われます
が、実際にはなかなか成功例がない。
成功例とされるものでも例えば物流
コストが減ったとか、あるいは在庫
問題が改善したという程度であって、
田中さんがおっしゃったような経営レ
ベルの話にはなっていない。
SCMというのは、究極的には企
業が競争力を付けるための経営手法
の一つだと思います。 しかし理念的
にうたわれている効果と、それに取
り組んでいる企業の現場での実態と
の間にあまりに大きなギャップがあっ
て、そこがまずフラストレーションに
なっている。 その結果、SCMって
本当に大事なのか、という見直し論
まで登場する始末です。
日本の場合、SCMは一九九〇年
代にアメリカから言葉として入ってき
たわけですが、明治以来の日本人の
悪しき習慣で「洋モノはいい」とい
う固定観念からなかなか抜け出せな
いところがある。 アメリカの企業が
SCMであれだけ再生したのだから、
日本もSCMを導入すれば同じよう
になるという期待感が、現実とのギ
ャップを感じるもう一つの要因になっ
ている。
もともとアメリカでは、企業が財
務戦略やビジネス戦略ばかりを重ん
じて、生産管理や物流などの地味な
領域は後手に回っており、それらの
管理が著しくずさんだった面がある。
しかもアメリカは経済規模や国土が
日本に比べて格段に大きく、いわば
絞ればいくらでも水が出てくる大きな
濡れ雑巾の状態だった。
一方、日本は国土が小さく人口も
稠密ですが、SCMという言葉さえ
使っていませんでしたけれども、そ
れらしいことは昔からやってきてい
た。 近いところでは自動車メーカー
の「かんばん」がそうでしょうし、さ
らに歴史を紐解けば富山の薬売り、あ
れもやはりSCMだと思います。
薬売りがニーズの発生するところ
に行って的確に需要予測をして、薬
を調合する人に伝達する。 それによ
って製造のムダがなくなる。 市場の
情報を製造にタイムリーにフィードバ
ックすることによって上流工程のコス
トが下がるので、結果的に良い商品
を安くタイムリーに供給できる。 も
ともと日本人はそうした手法を暗黙
のうちに実行してきた。
最近でもコンビニが、その日の天
気のことまで考えて生鮮品の品揃え
をする仕組みなどを導入しているし、
日本は部分部分のコンテンツとして
は非常に優れたものを持っている。 そ
のため外国の技術や手法をそのまま
持ってきてもなかなかブレークスルー
しないところがある。
ただし、アメリカは、そのような
手法を論理立ててサイエンスとして
体系化し、必要な要素技術をもの凄
い勢いで開発することにすることに長
けている。 しかも、アメリカの企業
は変化を積極的に採り入れて改革を
促す力を持っている。 日本が学ぶべ
きは、個々の手法や技術より、むし
ろそのような点だと思います。
サイエンスの必要性
司会・千田日本の優れた流通管理
も国内でビジネスをしているうちは良
かったけれど、グローバル化が進ん
でくると通用しなくなってくる。 そ
れこそ「可視化」などのサイエンス
をどんどん入れないと、どこで誰が、
どんな仕事をしてくれているのか分か
は、実際には極めて大きなリスクを
マネージしているにもかかわらず、そ
こまで認識されていない。 そのため
に担当者が苦労することになってい
るのでしょうね。
FWX・田中
千田さんのおっしゃ
る通り、もともとロジスティクスは
企業のライフラインだと思うんです
よ。 その意味で現在、欠けているも
のが二点ありまして、一つが安全、もう一つがコンプライアンスに対する
物流だと思います。 この部分が全く
コストとして見られていない。 場合
によっては企業の根幹を揺るがして、
会社が無くなってしまうなんてことに
もなり兼ねないのに、充分なお金が
かけられていない。 その一方で物流
部門や物流会社に対してコストダウ
ンだけを要求するという、非常にい
びつな構造になっている。
また物流会社側にも説明責任が必
らないという状態になりませんか。
FWX・田中
ただしサイエンスだ
けでも機能しない。 テクノロジーだ
けだと数字が見えても意思決定でき
ない、という経営者が出てくる。 現
場にしても今取り組んでいる改革が、
どのように自分の会社全体や社会に
つながっているのかが分からないと、
非常に無味乾燥な世界になってしま
います。
司会・千田
そのためにも確かに指
標が大事なのでしょうね。 きちんと
した指標がないと、それこそ目先の
コストだけの話になってしまう。 直
近の数字が良くなっても、後から負
の影響が他に出てきてしまえば全体
最適とは言えない。 そのあたりが今、
非常に問題になっているように思い
ます。
物産・橋本
企業というのは世の中
に必要な製品やサービスを提供して、
初めて存在価値があるわけですよね。
しかも、地球上の資源は有限だし、
人間は次から次へと色々な物品やサ
ービスをより早くと求める。 SCM
は需要と供給を無駄なく効率よくよ
り早く結びつける手法であり、その
意味で、企業の最終目的を実現する
ための非常に大事な経営手法だと言
えるはずですが、その割には社会に
おける認知度はまだまだ低く、その
ような重要な産業領域に優秀な人材
がなかなかシフトしない。 企業単位
で見てもロジスティクスを重要な機能
の一つと位置付けてCLOを置こう
などという企業は非常に稀です。
SCMを進めるためには、まずサ
プライチェーンを俯瞰する全体のビ
ジョンと構想が不可欠です。 その全
体像の中で、例えばサプライヤーは、
どういう機能と責任を果たすのか。
物流業者はどうか。 ディストリビュ
ーターはという風に、各当事者の機
能と責任をビジネスルールと業務プ
ロセスに落とし込み、それぞれが負
っているリスクと創出した付加価値
に応じて正当に対価を得るという合
意を形成し、それを全体管理する主
体が必要です。
そのような機能を企業で自前で持
つ場合もあるだろうし、その一部あ
るいは全部を外部に頼るというニー
ズもあるから、例えばリードロジス
ティクスプロバイダー(LLP)や
4PLなど、その役割を担いましょ
うという人たちが出てきているんだと
思います。
それともう一つ申し上げたいのは、
私は物流の現場にいるからとくに強
く感じるのかも知れませんが、現状
の3PLは、そこにかけているリソ
ースと負っているリスク、果たして
いる機能に比べて報酬が少なすぎる
ように思います。 実際には、物流管
理を改善することによって売り上げ
の伸長に貢献したり機会損失を防い
だり、在庫回転率を高めてキャッシ
ュフローを大きく改善したり、製造現場の生産性を高めたりなど、大き
な経済効果を果たしているはずなの
に、顧客との間では物流コスト削減
分の一部をゲインシェアさせてもらう
など、果たしている機能が矮小化さ
れている。
3PLも含めて各プレーヤーが客
観的にどれだけのリスクを負い、ど
のくらいの付加価値を創出している
のかを定量的に明確化するサイエン
スと、それに応じたゲインシェア、し
っかりとした公平感の得られる合意
形成がないと、なかなかウィン
―ウィ
ンの関係にはなっていかないと感じて
います。
司会・千田
例えばCFOに対して
は監査法人がいて、正当性が損なわ
れれば事件にさえなってしまう。 品
質に関しても、それこそ食品系の会
社なら、トラブルが起きてガバナン
スを間違えると潰れてしまうことさえ
ある。 しかしロジスティクスについて
NOVEMBER 2005 80
東洋ビジネスエンジニアリング
千田峰雄
社長(司会)
要でしょうね。 コストの妥当性を科
学的に説明するための手法などがあ
るべきです。 それがないと、いつまで
たってもワンサイドゲームで、常に
物流会社にしわ寄せがいってしまう。
問題が起きた時に何も言えないとい
うことになってしまう。
物流現場には方程式などない
司会・千田
確かに荷主にとっては
都合のいいブラックボックスになって
いるところがある。 その結果、不具
合が起きると、荷主側に原因があっ
たとしても、物流会社側で何とか対
処しなければならない。 国内ならま
だしもグローバルで緊急輸送ともなれ
ば大変なコストです。 コストをかけ
ても間に合わない場合もある。 「見え
る化」を始め、本当の意味で双方が
正しく物流を理解して情報が共有さ
れていたら、もっと違う管理ができ
フレームワークス
田中純夫
社長
81 NOVEMBER 2005
るはずです。
日本通運・西浜邦夫3PL部専任部
長(以下文中、日通・西浜)
可視
化は当初、在庫のステータス管理か
ら始まったと思いますが、この点に
ついては既に問題ないレベルになって
います。 今、問題視しているのは作
業の可視化だと思います。 しかし、
実際の作業は、P(製品)V(量)
特性や商流特性により、お客様ごと
に日々変化する。 方程式などなく、
類似作業を水平展開していくしかな
いのです。 したがって、業務がスタ
ートして初めて分かってくる部分も多
いのですが、お客様にご説明しても
「今までやってきたのだから、今まで
どおりでいい」という話になってし
まう。 もちろんお客様からコストの
明確化を求められ、業務の工程別生
産性を提示して、適正な対価をちょ
うだいするという方向へだんだんと変
わってきてはいます。
司会・千田
それも荷主側にCLO
がいれば、対応が変わってくるのか
も知れませんね。
日通・西浜
各企業がロジスティク
スをどう位置づけているか。 ロジス
ティクス担当者の権限がどこまで反
映されているかにより、最適化の方
向は変わってきます。 しかし、日本
企業のロジスティクス部門で、製造
部門の調達物流から販売物流までを
すべてコントロールしているケースは、
それほどありません。 物流担当から
ロジスティクス担当、SCM担当と
いう名前になったにもかかわらず、権
限が伴っていないと思います。
実際、我々はお客様のご担当者の
ポジション、販売系、営業系に寄っ
ていらっしゃるのか、製造系に寄っ
ていらっしゃるのかというポジション
によって、いろいろな形で引きずら
れてしまう。 どの部署にロジスティ
クスを持ってくるのかという問題は非
常に大きい。 とりわけSCMともな
れば、目的は全体最適化ですから、
必要な権限を持たないと実際には部
分最適で終わってしまう。
司会・千田
我々のようなIT会社
でも、その案件が成功するかどうか
は、お客様のプロジェクトマネージ
ャー、リーダー次第というところが
あります。 でも、それではアウトソー
スを受ける側の主体性がない。 どう
やって改善していけばいいのでしょう
か。
物産・橋本
一つは先ほども述べま
したように、サプライチェーンの経済
的効果を、KPIを適切に定義して、
もっと定量的に分かるようにしないと
いけないと思います。 例えば我々が
V
M
I
(
Vendor Managed
Inventory:ベンダー主導型在庫管
理)モデルを作って運用する。 それ
によって改善するのは単に物流コス
トだけではなくて、在庫回転率が良
くなったり、販売機会の損失が防げ
たりするわけです。 在庫を例にとる
と、日本企業の中には数千億円単位
で補修サービス用の部品を在庫とし
て持ち、一年くらいの間、寝かせて
いるところもある。 その回転を仮に
一カ月速めれば、数億円というレベ
ルの効果が出る。 それをお客様にも
主体的に認識していただく。
もう一つやはり重要なのは人、す
なわちヒューマンキャピタルの問題だ
と思います。 SCMには、経営分析
や財務分析、プロセスエンジニアリ
ング、情報システムなど、いろんな
技能が要求されます。 しかも各々の
ピースの専門性が非常に高い。 その
ために各プレーヤーと話をしていて
も、なかなか意思の疎通が難しい。
お互いが何を目的にやっているのかと
いうのを確認できなかったりする。
こうした専門領域の細分化をどう
やって解消し専門性の垣根を低くで
きるのかと、いつも考えているので
すが、おそらくそれには個々人が自
分は物流だけということではなくて、
システムも分かる、あるいは財務分
析も分かるという形で多機能化して
いくことが必要なのではないかなと思
います。 それを支えるような企業内
における人材育成、社会基盤として
の教育研修体制を用意して、一人一
人を多機能化していくことで専門性
の垣根を低くする。 さらに、そうい
う人たちが処遇やステータスでも評価
されるような仕組みが必要だと思い
ます。
司会・千田
当社の場合はIT系の
業務改革を企業内でやる案件が多い
のですが、どういう人がCIOとし
てプロジェクトリーダーがやるかと言
えば、概ね財務部長だったりします。
しかしサプライチェーンの最適化が目
的であるのに、財務の人がリーダー
をやると、往々にして決算書のP/
LやBSに上手く適合するデータさ
え把握できればいいという話になって
しまう。 本来はシステム構築でも生
産や物流の現場で本当に苦労した経
験のある人に全体最適を進めるSC
Mのプロジェクトリーダーになっても
らいたい。 しかし、そんな現場力を
持った人がリーダーには少ない。 そ
うした人材がマネジメントすれば大分
違ってくると思う。
FWX・田中少なくとも大企業は、
もともと人材は豊富なはずですから、
人材を適性で絞り込んでいく必要が
あると思います。 適切な人材を配置
することで企業にとっては大変な利
益になるはずですから。
チーム編成がカギ握る
日通・西浜
先ほど橋本さんがおっ
しゃった人材は確かに必要だと思い
ますが、理想的であり、どこにでも
いらっしゃるわけではありません。 そ
こで、社長直轄のSCM構築プロジ
ェクトチームを設けて、ステタータ
スを与える方が現実的ではないでし
ょうか。 ロジスティクスの全体最適
は工程間のバランスによって達成で
きるものですから、それぞれの部門
の方が同じ地位で検討することが重
要ではないでしょうか。
そこで、このプロジェクトの叩き
台としての基本プランを誰が提出す
るかが問題となりますが、もっとも
中立的立場にあり、ロジスティクス
に精通しているロジスティクス企画部
門が担うのは当然のことと思われま
す。 また、ロジスティクス企画部門
の知恵袋となるのが我々3PL企業
の仕事ではないかと考えています。
3PL提案とは、お客様がロジス
ティクスの改善ではなく、改革を志
向していくなかで新たに生じる諸課
題に対して「こんなアイデアはいか
がでしょうか」と示すことであって、
トレンドによる解決ではなく、ステ
ージアップしたロジスティクスにより
抜本的解決策を導き出すことではな
いかと考えています。
当社はいろいろな業種、業界のお
客様とお付き合いさせていただいてお
りますが、その業界ではロジスティ
クス上、常識的なことが、他業界で
はまったく知られていないということ
が少なくありません。 そのような事
柄をご提案することも、3PLとし
ての重要な役割の一つだと考えてい
ます。
物産・橋本
おっしゃる通りですね。
先ほど専門性の垣根を下げる一つの
方法として、色々な領域の専門知識
の教育を挙げましたけれども、それ
は難度が非常に高く、できたとして
も数は限られてしまう。 そこで専門
性の垣根を下げるもう一つの在り方
が、西浜さんがご指摘になられた形
のチーム編成だと思います。
また3PLが日頃から顧客にねば
り強く色々な提案を続けていること
でも顧客と3PLとの認識の壁は低
くなると思います。 ただし3PLに
してみると、そうしたアプローチは実
はリスクが高い。 なぜかと言えば、実
際に契約を締結して初めて我々のよ
うな3PLはようやくゲインが得られ
る条件が整う。 しかも、実行には様々
なリスクが伴うし、必ずしももくろ
み通りには事が運ばないこともままあ
る。
なかなか、パートナーとして認知
してもらえない。 さらには色々な提案を出すには時間とコストがかかる。
一年近くかかることもある。 そこま
でリソースをつぎ込んだのに荷主がプ
ロジェクトを中止してしまうと、そ
こまでにかけたコストも全て無に帰し
てしまう。
司会・千田
確かに契約ベースでコ
ンペから入ると難しいですね。 日通
さんのように日頃の業務で関係がで
きていれば別でしょうが。
日通・浜中
いや、そのようなこと
三井物産
橋本恵治
物流本部ロジスティクス業務部
企画業務室室長
NOVEMBER 2005 82
83 NOVEMBER 2005
はありません。 しかも最近のコンペ
は前もって正解をイメージされ、提
案書を共通様式で評価しようとのお
考えのようで、提案書のフォーマッ
トまで細かく設定されています。 3
PL企業の持つアイデアを披露する
余地がありません。
FWX・田中
それはコンサルタン
トの弊害ですね(笑)。
物産・橋本
そういう形でコンペを
行えば現場レベルから上がってくる実
効性のある良いソリューションに対し
て門戸を閉ざしてしまうことにもなり
かねない。 経営者がコンサルタント
を使う時の盲点にもなっているように
思います。 本当に意味のあるソリュ
ーションや知恵は、現場にあるので
あって、そこを閉ざしてしまったら
何にもならない。
FWX・田中
気を付けないと現場
など全く見てもいない人がパソコンで
キレイに作っただけのプレゼンテーシ
ョンに、経営者がだまされてしまう。
それとは反対に、我々がクライアン
トの経営者から学ぶこともあります。
本当に市場の先端にいる経営者は、
いかに他社を出し抜くかを常に考え
ています。 そうした人たちと仕事を
することで、従来の物流の概念には
ない考え方を教えられることも少なく
ありません。
物流子会社の位置付け
司会・千田
例えば日本の家電業界
のメーカーは、どこも物流子会社を
持ち、そこに物流をずっと管理させ
てきた。 しかし、そこで行われてい
るのは、親会社から指示された輸送
や保管などのパフォーマンスを管理し
ているだけで、その体制では競争に
勝てないと分かってきて、今ではど
のメーカーも本社内のスタッフ部門
としてSCM企画部門を設けるよう
になってきました。 そこでは物流の
あり方が一から議論されています。
日通・西浜
グローバル規模のSC
Mともなれば、ご担当者は現地の諸
制度、諸法令、商習慣に基づいて各
ベンダーと仕入れ交渉することになる
わけですが、ロジスティクスをコント
ロールするには物流子会社の現地法
人化や許認可取得、雇用問題、国際
業務の人材育成等があり、親会社の
経営戦略を優先するなかで子会社と
してはなかなか踏み込めない状況にあ
ります。
司会・千田
そうなると3PLとし
ても子会社ではなく親会社に入らな
いと商売になりませんね。 そこは親
会社の経営者が全体最適の視点から、
物流子会社というものの位置付けを
改めて整理する必要がありそうです
ね。 そろそろ時間が近づいてきまし
たので、最後に一言ずつお願いしま
す。
FWX・田中
当社は物流情報シス
テムを作っているわけですが、テク
ノロジーだけに偏るのではなく、顧
客のビジネスを理解する、戦略を理
解することに大半の時間とエネルギ
ーを費やすようにしています。 そこ
から具体的な戦術を考えて、それを
実現するために何がより重要かとい
う考えに立って今後も取り組んでい
くつもりです。
物産・橋本
やはり私はSCMの経
済効果を定量的かつ論理的に顕在化
させるサイエンスをもっと開発すべき
だと思います。 そのためには人材育
成やそれをサポートする社会的インフ
ラ、例えばキャリアパスや報酬の面
で正当に評価する体制を作ることが、
理想論かも知れませんが大事だと考
えています。
また、グローバルSCMを考える
上では、関税法や関連国内法を適切
に遵守するコンプライアンスが極めて
重要な課題となっています。 例えば
昨今の輸入食品に対する「食の安全」
への関心の高まりは、その好例です。
さらに、京都議定書が発効して以来
叫ばれている環境負荷軽減を目的と
するグリーン・ロジスティクスに象徴
されるように、時代の要請が物流に
求めるものをロジスティクスに折り込
んでSCMを考えることも非常に重
要になっています。
日通・西浜
キャッシュフロー経営
の最重要課題は在庫の適正化であり、
ロジスティクスをいかにコントロール
するかにかかっています。 各企業に
SCMプロジェクトチームが発足し
てグローバルな戦略的ロジスティクス
を提案する場面が増えることを期待
しております。
司会・千田
本日は皆さんありがと
うございました。 十一月二九日/三
〇日に開催されるSCMソリューシ
ョンフェアが、皆さんの問題意識に
則した形で開催されることを期待し
ます。
日本通運
西浜邦夫
3PL部専任部長
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