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NOVEMBER 2005 48
医薬品向けセンターに強み
同社はその名の通り、三菱系の倉庫会社
であり、物流事業と不動産事業が収益の二
本柱である。 二〇〇五年三月期の連結売上
高構成比は物流事業七九%、不動産事業二
一%。 一方、営業利益構成比は物流事業二
三%、不動産事業七七%。 利益比率を見る
かぎり、不動産会社という色彩が強い。
物流事業の強みは医薬品メーカー向け配
送センター業務であり、同事業が利益成長の
牽引役となっている。 不動産事業は賃貸ビジ
ネスが中心であるが、同事業の連結営業利益
(配布不能費用控除前:以下、セグメントの
営業利益は同じベース)は、九八年三月期の
一四七億円をピークに、二〇〇五年三月期
の一〇五億円まで減益基調が続いている。
二〇〇五年三月期の連結決算は前期比三%
の増収、同一〇%の営業減益であった。 物
流事業は医薬品向け配送センター業務が予
想以上に好調であったが、不動産事業は既
存物件の賃料見直し(賃料値下げ)が想定
以上に厳しかった。 不動産事業の減益幅であ
る二六億円を、物流事業の増益幅の一五億
円で吸収できず、営業減益となった。
セグメント別の概況は以下の通りである。
二〇〇五年三月期の物流事業は前期比六%
の増収、同九〇%の営業増益と、二〇〇三
年三月期を底に二期連続の大幅増益を達成
した。 二〇〇五年三月期の営業利益は前期
比一五億円の増益幅となったが、このうち約
七億円は減価償却費の償却方法を変更した
ことによる影響、テクニカルな増益要因であ
った。 残り八億円の増益要因は同社が注力
している医薬品向け配送センター業務の受託
が好調だったためと推測できる。 ちなみに二
〇〇五年三月期には六社向け計八カ所の配
送センターを新規に稼働した。
医薬品配送センターに関連した売上高は
二〇〇四年三月期の三八億円に対して、二
〇〇五年三月期は前期比五〇%増収の五七
億円だった。 物流事業に占める売上高比率
も二〇〇四年三月期の三%から二〇〇五年
三月期には五%まで上昇した。
医薬品配送センターでの売上高は倉庫保
管料だけでなく、荷役料や配送料など周辺事業も含めた金額である。 同社は現時点で医薬
品メーカー〜医薬品卸までの領域をカバーし
ている。 二〇〇六年三月期の期初の段階で、
医薬品向け配送センターの受託実績は累計
で二一社、二七カ所となっている。
国際運送取扱料は前期比一〇%の増収で、
物流事業セグメントの中では最も増収率が高
かった。 同セグメントの約八割を占める海上
フォワーディング事業は、プラント輸送の大
型案件受注を主因に前期比九%の増収とな
ったが、海運会社からの運賃値下げ要求が厳
しい模様である。
同二〇%を占める航空フォワーディング事
業も航空貨物需要の拡大を背景に前期比一
第17回
三菱倉庫
不動産事業への依存度が高かった三菱倉庫
が3PLに本腰を入れ始めている。 医薬品向
け配送センター業務の好調を受けて、物流事
業は二期連続の大幅増益を達成した。 ただし、
今後も不動産事業が減益で推移することが見
込まれているため、すでに株価は妥当な水準
に落ち着いていると言える。
尾坂拓也
野村證券金融経済研究所
シニアアナリスト
医薬品センター事業が利益成長に貢献も
不動産が足かせで株価上昇は期待できず
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四%の増収と売り上げ面では好調だった。 た
だし、事業規模が小さいため、航空会社(キ
ャリア)に対するスペース運賃の交渉力が相
対的に弱いことが影響して利益寄与は小さい。
一方、不動産事業は前期比五%の減収、同
二〇%の営業減益と厳しい結果となった。 そ
の要因は?埼玉県戸田市の商業施設の建て
替えに伴い、賃貸物件が一時的に不稼働の
状態にあったこと、?既存物件は賃料の値下
げ要求が厳しかったこと――の二点である。
もっとも、戸田市の商業施設は二〇〇四年
一月に取り壊しを開始して、同年十一月には
再稼働にこぎ着けている。
業績回復は織り込み済み
野村證券金融経済研究所では三菱倉庫の
連結営業利益を、二〇〇五年三月期の一〇
一億円(前期比一〇%
減)に対して、二〇〇
六年三月期は一一三億
円(同十二%増)、翌
二〇〇七年三月期は一
三九億円(同二三%
増)と予想する。 財閥
系倉庫会社の中では相
対的に堅調な業績で推
移すると期待している。
利益拡大の牽引役は
以下の二点であると考
えている。
第一に物流事業にお
ける医薬品メーカー向
けの3PLビジネスである。 従来の保管型倉
庫の需要低迷や保管料低下などを受けて、同
社は今年一〇月に大阪・櫻島に増設した倉
庫を稼働させるなど医薬品向け配送センター
業務を強化している。 医薬品向け配送センタ
ー事業は相対的に採算性が高いため、今後も
利益成長に貢献すると見ている。
野村證券金融経済研究所では、物流事業
の営業利益を、二〇〇五年三月期の三一億
円(前期比九〇%増)に対して、二〇〇六
年三月期は四三億円(同三九%増)、二〇〇
七年三月期は四九億円(同一四%増)と、年
率二九%増で推移していくと予想している。
今後の課題は国際物流の強化による規模拡
大と収益性の改善だろう。 配布不能費用を売
上構成で案分した実質ベースで見た場合、物
流事業の営業利益率は一%程度と試算できる。
第二に不動産事業におけるマンション販売
である。 同社は不動産賃貸事業を主力とする
が、既存物件では賃料の値下げ圧力が厳しく、
大幅な利益成長は期待できないだろう。 しか
し、二〇〇七年三月期にマンション販売によ
る営業利益の上乗せが三〇億円程度期待で
き、不動産事業の営業利益は一時的に増加
すると予想している。 ただし、上記のマンシ
ョン販売を除いたベースでは、むしろ二〇〇
五年三月期比で減益基調の利益見通しを想
定している。
二〇〇六年三月期〜二〇〇七年三月期の
予想ベースの連結PERは二八〜三四倍で
あり、運輸セクター平均(海運を除く)の一
九〜二六倍、住宅・不動産セクターの二三
〜二五倍と比較しても割安感はない。
また、営業利益の七七%を不動産事業で
稼いでいるため、不動産セクターの
EV/EBITDA倍率(EV:時価総額+ネット
の有利子負債、EBITDA:営業利益+減価
償却費)と比較してみると、同社の二〇〇六
年三月期予想ベースの連結EV/EBITDA倍
率は十二倍と、不動産セクター平均の十三
倍程度と比較して低位にある。
しかし、同社の不動産事業の連結営業利
益は九九年三月期の一四七億円をピークに
二〇〇五年三月期は一〇五億円と減少傾向
にある。 さらに、マンション販売による利益
計上を除けば、二〇〇六年三月期以降も営
業減益基調が続くと予想されるため、株価に
割安感があるとは言えないだろう。
最近の株式市場では脱デフレ期待から保有
資産の含みに注目した資金流入も増加しているようである。 同社の土地の含み益は、税引
き前ベースで五〇〇億円と推定される。 税引
き後の土地の含み益を考慮した実質PBRは、
一・二倍(実質BPSは一〇九一円)と試
算される。 資産面から見ても現在の株価はほ
ぼ妥当な水準にあると言えよう。
三菱倉庫の過去10年間の株価推移
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