ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年5号
特集
第1部 物流大手の事業モデルはこう変わる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

残存「ペリカン便」二億個の行方  郵便事業(日本郵便)は二〇一〇年度の「ゆうパ ック」の取扱個数を三・五億個と見積もっている。
日 本通運の「ペリカン便」を吸収する以前の両社の取扱 個数はそれぞれ、ゆうパックが二・八億個、ペリカン 便が三・三億個だった。
合わせて六・一億個になる はずが、統合計画のドタバタで大幅にシェアを落とす 事態に陥っている。
 郵便事業と日通が〇八年六月に共同出資で設立し た宅配便子会社、JPエクスプレス(JPEX)は今 年七月から清算に入る。
日通のペリカン便も六月末を 持って郵便事業に承継され消滅する。
今年度末時点 で両社が背負うことになるJPEXの累積損失は一 〇〇〇億円近くにも上る見込みだという。
 その影響で郵便事業は〇九年度決算で八年ぶりの 赤字に転落する見通しだ。
三七六億円の特別損失を 計上し、当期純利益が一七九億円の赤字になる。
今 年度も一八三億円の特別損失が見込まれるほか、そ れとは別に三〇〇億円の貸し倒れが発生する。
一方 の日通の累損も一二四億円に上る見込みだという。
 ここまで損失が膨らんだのは、昨年一〇月にゆう パック事業をJPEXに移管する計画が総務大臣から 却下された影響が大きい。
宅配便事業の統合は昨年 四月一日に、先に日通がペリカン便をJPEXに移管 し、半年遅れて同一〇月一日に郵便事業がゆうパッ クをJPEXに移管する計画だった。
 ところが統合直前の昨年九月に当時の自民党の佐 藤勉総務相は計画の認可を見送った。
さらに政権交 代で国民新党の亀井静香代表が郵政・金融担当相に 就いたことから、郵政の再国営化に向けて政策が一 八〇度転換した。
民営化の尖兵だったJPEXの計 画は、ご破算となった。
 約一〇〇〇億円の累損の半分程度は清算費用や統 合の初期費用として説明がつく。
JPEXが計画通 りに事業を継続していれば発生しなかったはずの損失 だ。
しかし残りは、郵便事業や日通が従来明らかに してこなかった宅配便事業の赤字だ。
これまでの両 社の宅配便事業は、それぞれ年間二〇〇億円程度の 実質的な赤字だったと推測される。
 二社合わせて年間約四〇〇億円。
これを事業統合 によって配送密度を上げることで削減し、また経営規 模を確保して背水の陣でヤマト運輸、佐川急便の?二 強?に立ち向かう、というのが事業統合のシナリオだ った。
その戦略が頓挫し、いたずらに時間が費やさ れた結果として赤字幅が大きく膨らんだ。
 その後始末を強いられた郵便事業は現在、日通側に 残っているペリカン便の承継業務に追われている。
〇 八年度のペリカン便売上高約一六〇〇億円のうち〇 九年四月にJPEXに移管されたのは六四四億円分 に過ぎない。
一〇〇〇億円分近く、個数にして二億 個程度が日通のセンター運営事業の一部に計上された まま残った計算だ。
今年六月末をもって、これをゆ うパックに移管する。
 しかし、〇九年度に入って以降もペリカン便からは 大口荷主が流出している。
郵便事業の一〇年度の事 業計画から類推すれば、今やペリカン便の事業規模は 統合前の半分以下に縮小したと考えるほかない。
ゆ うパックもまた、〇九年度の今年一月までの累計取扱 個数は前年比で四・六%のマイナスだ。
 一方でヤマト運輸と佐川急便は〇九年度に取扱個数 を増加させている。
ペリカン便とゆうパックから荷物 が流れたのは明らかだ。
現在は日通に残っているペリ カン便も、相当数がヤマト・佐川に奪われることにな 物流大手の事業モデルはこう変わる  今年6月末をもって日本通運の「ペリカン便」が消滅する。
これを機に日通は国際物流に大きく軸足を移す。
ヤマト運 輸も「宅急便」のアジア展開を本格的にスタートさせた。
一 方、SGホールディングスは国内に回帰して事業領域の拡大 を目指す。
宅配便市場の淘汰が終わり、物流大手の事業モ デルが大きく変化し始めた。
         (大矢昌浩) MAY 2010  12 1 ろだろう。
統合の失敗によって二強との差はいっそう 開いた。
 郵便事業の鶴田信夫経営企画部門経営企画部企画 役は「統合のゴタゴタで、ゆうパックを誰が営業する のかが曖昧になってしまった。
今後の体制を説明でき ないことから顧客に逃げられてしまった面があったこ とは否定できない。
しかし、ようやく今年七月以降 の体制が固まった。
これからは取り返せる部分もある はずだ」と説明する。
 今年三月、郵便事業は大手通販のニッセンと包括 提携を結んでいる。
ニッセンの年間約二〇〇〇万個の 荷物をヤマト運輸から奪いとった格好だ。
うち宅配便 は約一六〇〇万個。
残り約四〇〇万個は家具などの 大型商品だが、これも郵便事業が梱包・発送作業か ら納品・組立までを管理する。
 郵便事業が大型貨物を扱うのは今回が初めて。
宅 配便以外の配送まで含めた元請けというスキームも過 去に例がない。
「従来の宅配便だけ下さいというだけ の営業は、荷主を説得することが難しかった」(同社 法人営業部)。
今回の提携をきっかけに、今後は元請 けとしての提案営業を進めて巻き返しを図る考えだ。
 もっとも、亀井担当相は現在、郵政の非正規社員 約一〇万人を正社員化するとぶち挙げている。
うち約 七割が郵便事業に従事している。
正社員と非正規社 員の実質的な人件費負担は約二倍違うとされる。
正 社員化が実現すれば年間数千億円ものコスト増だ。
ゆ うパックだけでなく郵政全体の収益基盤が崩れる。
 郵便事業としては「現時点では具体的な内容がま ったく分からない。
我々としては政治的な決定がな されたら、それに対応しますとしか言いようがない」 と鶴田企画役。
政治の混乱に翻弄される状況から脱 することは、当面できそうにない。
 一方、ヤマト・佐川は国内の宅配便市場の淘汰に ケリを付け、次のステップに進もうとしている。
ヤマ トホールディングスは今年、シンガポールと上海で「宅 急便」を開始した、B to Bに主眼を置いた欧米のエ クスプレス便とは異なり、日本と同様のC to Cの集配 ネットワークを現地に構築する。
 ヤマトとは対照的に、佐川急便を擁するSGホー ルディングスは「アジア No. 1」という従来の経営ビジ ョンを取り下げた。
国際インテグレーター志向を改め、 国内に回帰。
宅配便のインフラをプラットフォームに 利用した非物流事業を強化して、グループとしての成 長を図る戦略に転換した。
 そして、宅配便市場から撤退する日通は経営の軸 足を国際物流に大きく移す。
三月に発表した中期経 営計画で、国際関連事業の売上比率を現在の二七% から三年後の一三年三月期までに三三%に上げ、最 終的には五〇%を目指すという方針を打ち出した。
今 後三年間で一〇五〇億円の拠点投資を含む一九二〇 億円の設備投資も計画している。
 その一方、国内小口配送は、宅配便はゆうパック を利用し、特別積合輸送の「アロー便」はグループの 日本トラックをメーンとする利用運送に徹する。
一時 期の総合物流路線とは完全に決別し、フォワーディン グとアセット型センター事業という組み合わせの3P Lを志向しているようだ。
 これまで宅配便を軸としてきた物流大手の市場競 争が、新たな局面を迎えている。
国際物流に対する スタンス、目指す事業モデルは主要各社でバラバラだ。
同時にグローバル物流市場でもまた、国際インテグレ ーターが往時の勢いを失い、先の見えない乱戦模様と なっている。
海図のない航海で、経営者の状況判断 とビジネスセンスが問われている。
13  MAY 2010 (単位:億個) 宅配便取扱個数の推移 ヤマト運輸 佐川急便 日本通運 日本郵政 福山通運 西濃運輸 その他 ※国土交通省資料、日本郵政資料より本誌作成 99 年度 00 年度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度 35 30 25 20 15 10 5 0 08 年度 郵便事業の鶴田信夫 経営企画部門経営企 画部企画役

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