ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年5号
特集
第4部 「当社は物流市場の枠を超える」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

「当社は物流市場の枠を超える」 MAY 2010  20  国内の宅配便市場は既に成熟し、国際インテグレーターの ビジネスモデルは崩壊した。
今後は宅配便の巨大なインフラ をプラットフォームとして、物流の枠を超えた各種のサービ ス事業を展開し、グループとしての成長を図る。
非物流事業 を自立させることで物流事業との相乗効果を発揮させる。
(聞き手・大矢昌浩) 「 to C」の配送を六割まで自社化 ──二〇一〇年三月期の業績はまとまりましたか?  「まだ集計中ですが、売上高は当初予想の八九〇〇 億円、営業利益は約三〇〇億円の、ほぼ見込み通り で着地しそうです」 ──リーマンショックの影響を振り返ると?  「個数ベースで見ると〇九年一月〜三月は低調でし たが、〇九年四月からは前年比五%増程度のペース で来ています。
宅配便市場全体の取扱個数は〇八年 度に史上初めて前年割れしましたが、当社の場合は 減らなかった。
ただし、予定していたほどは伸びな かった。
それが〇九年三月期に減益になった原因の 一つです。
〇八年三月期からの三カ年計画で当社は 『 to C』の配送網強化を進めました。
ドライバーを約 一万人増やした。
当然、それだけ固定費が増えたわ けですが、取扱個数が思ったように伸びなかったた めに、それを吸収できませんでした」 ──市場のパイが縮小するなかで個数が伸びた理由 は、どう解釈していますか。
 「当社のB to Cの配送品質が向上したことを、通 販会社さんなどから評価いただけたのではないかと 考えています。
〇七年三月から配送ドライバーの大量 採用に着手して、必要な人員を確保するのに約一年 かかってしまいました。
そこから教育やネットワーク の再編を始めて〇九年に入ってようやく運営が安定 し始めた。
その効果が昨年の秋ぐらいから数字とし て表れてきた」 ──〇九年三月期に入って単価が大きく下がってい ます。
価格を下げて荷物を取りに行く方針だったの ですか。
 「単価だけでは荷物は取れないですよ。
配達品質が 悪かったら、すぐに消費者から通販会社にクレームが 入るので、とても使ってもらえない。
しかし、B to Cの荷物が増えてきたことは、やはり単価にも影響 します。
B to Cの荷物は小さく、しかもエリア内の 配送が多い。
また大手通販などは拠点を分散させて、 納品リードタイムの短縮を図る動きに出ています。
そ れだけ配送距離は短くなる」  「つまりB to BからB to Cへのシフトが進むと荷物 が小型化し近距離輸送になるので、どうしても単価 は下がる。
そのため一〇年三月期上期には単価が前 年同期比で三七円マイナスの四八八円まで落ちてし まった。
通期ではもう少し下がるかも知れません。
し かし、今後はそう大きく下がることはないと考えて います。
この一〇年度からドライバーの評価制度を、 売り上げよりも利益、量よりも質を重視するかたち に変更しました。
新たなガイドラインも出しました。
荷物に見合った適正な単価をいただくことを徹底さ せます」 ──「B to C」の配送網の整備は一段落ですか。
 「まだまだ途上です。
従来はほとんどゼロに近かっ た『 to C』の自社配送比率を三年かけて約四割まで 引き上げました。
これを次の三カ年で六割まで上げる 計画です。
拠点網も整備します。
東京・大阪・名古 屋など大都市を中心に今後三年間でサービスセンター を二八〇カ所近く新設して現状の二倍以上にする計 画です」 ──佐川急便とヤマト運輸ではネットワークの設計が もともと大きく違います。
佐川急便が全国を三六〇 の比較的大型の拠点でカバーしているのに対し、ヤ マト運輸は小規模店を約四〇〇〇カ所に分散させま した。
今後は佐川急便のネットワークもヤマト運輸の ように分散化に向かうのですか。
SGホールディングス 近藤宣晃 経営戦略担当取締役 4 Interview 21  MAY 2010  「『 to C』に関しては、やはりヤマトさんと似てき ますね。
ただし当社の場合は『From C』がない ので、ヤマトさんほどの拠点数は必要ない。
またB to Bの拠点網としては既にできあがっています。
現状 でB to Bはクレームもほとんどありません。
今後も 狭隘化の進んだ拠点の増設や新設などは行いますが、 本格的な整備が必要なのは、あくまで『 to C』です」 遠隔地の当日配送サービスを開発 ──通販業では現在、当日配送が一つの焦点になっ ています。
佐川急便では、「飛脚即配便」というサー ビス名を使っていますが、これを拡大するには従来 の宅配便とは別にインフラを作る必要がありますか。
 「エリア内の当日配送であれば、既存の拠点を若干 強化すればそのまま使えます。
それとは別に即配便に ついては今年、国内航空貨物運送事業を佐川グロー バルロジスティクスから佐川急便に移管しました。
そ の狙いの一つが、航空便を使った即配便の拡充です。
今後三年間をかけて航空部隊を強化しながら全国の 即配便を整備していきます」 ──全国規模の当日配送を行うのですか。
 「全国どこでも当日配送というわけには行きません が、主要都市間の当日配送は実施します。
航空便を 使わない通常の宅配便でも二四時間稼働のセンターで あれば、受注後十二時間以内にエリア外に届く場合 が現在でもありますから、不可能ではありません」 ──�
械丕婿�函△箸�膨免硫饉劼離札鵐拭識娠超� 務については?  「営業アプローチを抜本的に改めます。
佐川急便の デリバリー機能のほかに、ロジスティクス機能は佐川 グローバルロジスティクス、そして土地建物は不動産 子会社のSGリアルティで対応し、アウトソーシング のニーズをグループで一括して請け負う体制を整えま した」 ──センター業務は従来から全国各地の「SRC︵佐 川流通センター︶」で請け負ってきましたが。
 「汎用センターのSRCに入居いただくというパ ターンだけでなく、今後は特定荷主専用に我々がセ ンターを建設し運営するというスタイルの仕事を本格 的に開始します。
それができるだけの財務的な基盤 がようやく整ってきた。
長い間、当社は営業キャッ シュフローの範囲内でしか投資ができませんでした。
荷物の増加に合わせて設備の増強や増車をしていた だけで、新たな商売を獲得するための戦略的な投資 はできていなかった」 ──なぜですか。
 「東京佐川急便事件からの約一〇年は一兆円近い 有利子負債の処理に追われていたし、返済にメドが 立った後の最近の決算でも、かなりの特別損失を出 していました。
近年の特別損失は土地の含み損など が理由ですが、それも〇七年にSGリアルティを設立 した時点で、すべて整理しました。
これで負の遺産 はなくなった」  「そのため〇七年度から〇九年度の中期経営計画、 一〇年間の長期計画の第一ステップになるため我々 は『ファーストステージプラン』と呼んでいるのです が、そこではM&Aも含めた積極的な投資に出よう という方針を立てました。
ところが、それまで我々 は荷物を獲得する営業しか経験してこなかったので、 拠点の運営ごと請け負いますというスタイルの営業に 戸惑ってしまった。
それがファーストステージプラン の反省点です。
一〇年度からのセカンドステージプラ ンでは今度こそ攻めの投資を具体化します」 ──今後三年間の投資計画は累計で一九〇〇億円。
220 300 550 3.4% 2.5% 0 100 200 300 400 500 600 0.0% 1.0% 2.0% 3.0% 4.0% 5.0% 6.0% 営業利益 営業利益率 (単位:億円) (見込) (計画) (単位:億円) (単位:%) 5.0% (実績) 8,872 8,900 11,000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 09/3期10/3期13/3期 (実績) (見込) (計画) 09/3期10/3期13/3期 営業収益 SGホールディングスの中期経営計画 M&A分 営業利益 1,000 10,000 その内訳を見ると、不動産の三二〇億円とM&Aの 六〇〇億円が注目されます。
 「グループの経営戦略担当責任者として、不動産開 発のSGリアルティに対しては、グループ内のアセッ トだけではなく、物流事業から離れた開発案件にも 積極的に取り組むように指示を出しています。
今年 二月に千葉県柏市の住友軽金属工業の工場跡地を取 得することを決めたのも、そうした動きの一環です。
土地の利用法について今詳細を詰めているところで すが、物流事業に限定しないで最も付加価値を引き 出せるスキームを組み立てます」 ──物流不動産はリーマンショックの影響で今は相場 が大きく下がっています。
 「投資のタイミングとしては悪くありません。
3P L事業にしても、アセットを持っていたほうが断然 有利です。
賃料を払うという前提ではコンペにも勝 てない。
アセットを持つことを避けていれば、物流 子会社のM&Aという手段も使えない。
事業拡大の ためには投資は必要です」 ──購入した土地の利用法を物流事業に限定しない、 という意味は?  「全国各地のSRCにしても、これまでは3PLを 目的としているというより、実態としては佐川急便 の荷物を獲得するための施設でした。
しかし佐川急 便に縛られていたら、その他の事業はいつまでたっ ても自立できない。
各グループ会社が外に向かってい くために、今後は佐川急便とは離れた投資を独立採 算でやらせていきます。
物流市場という枠さえ考え る必要はない。
当社が〇六年にホールディングス制に 移行した狙いは、そこにあるんです」  「ホールディングス体制を敷いた時点で当社は物流 業の看板を下ろしたとも言えます。
実際、SGホー ルディングという社名には、物流をイメージさせる言 葉が全く含まれていません。
『佐川』という言葉さえ 使いませんでした。
ただ社内にホールディング体制の 意味を浸透させるのに時間は掛かりました。
私自身、 社員に対して繰り返しその意味を説明する必要があ りました」 ──しかし、売上高の九割はいまでも物流事業が占 めています。
 「もちろん佐川急便と佐川グローバルロジスティク スは純粋な物流会社です。
しかしSGホールディン グスはそうではないんです。
人口減少が進むことで、 今後は日本国内の荷物が減っていくことは避けられ ません。
宅配便市場の成熟化も目立ってきた。
それ でも当グループは生き残っていかなければならない。
そのために佐川急便が元気で稼いでくれているうち に、宅配便以外の事業を伸ばして自立させようとい うのが、現在の基本戦略です」  「具体的には宅配便に続く二つ目の柱がロジスティ クス。
また代引き輸送の『eコレクト』も今や年間 一兆三〇〇〇億円近くの決済を処理しています。
そ れだけの規模があれば、宅配便にぶら下がるだけで なく、自分で絵を描いて自立成長できるはずです。
その結果、『その他事業』がコストセンターからプロ フィットセンターに変わる。
それが佐川急便に対する コスト貢献にもなる」 ──不動産開発にしてもITにしても、それぞれの 業界には専業者がいます。
物流という異業種から参 入して勝ち目はありますか。
 「プラットフォームを持っていることが我々の強み です。
物流で言えばベースカーゴを持っていて、イン フラの余剰能力を販売できる。
専業者にはそれはで きない。
例えば現在グループ内には二六四もの情報 MAY 2010  22 SGHグループの事業領域と戦略概要 重点事業 ロジスティクス事業その他事業 自動車整備(SGモータース) 不動産(SGリアルティ) IT(SGシステム) 通販(佐川アドバンス) 3PL 宅配便 (海外含む) 既存事業領域新規事業領域 メーカー物流 小売調達物流 医薬品・院内物流 設置輸送 農水産品物流 収益基盤の強化 事業領域の拡充 デリバリー事業 (佐川急便) (佐川グローバルロジスティクス) システムが乱立しています。
これを一二年度をメドに 集約します。
その結果、巨大なITプラットフォーム ができあがる。
これをグループ内の情報処理だけで なく、社外に対して、いわゆるクラウドサービスとし て活用していく。
その担い手となるSGシステムは、 既に外販比率が三〇%近くまで上がってきています。
これを一二年度には四〇%にする計画です」 インテグレーターは目指さない ──これまで佐川急便は「アジア No. 1の物流企業」と いうビジョンを掲げ、国際インテグレーターを目指し ていたはずです。
しかし一〇年度からの三カ年計画 を見る限り、国際物流事業の強化はずいぶんと控え 目です。
 「『アジア No. 1』というスローガンはホールディング 体制を敷いたタイミングで取り下げました。
以前は私 自身が最も積極的にインテグレーター路線を社内で主 張した一人でしたが、今は全く違った考えを持って います。
国際インテグレーターはドイツポストがその モデルになっていると思いますが、あれは日本の我々 には馴染まない」  「日本の宅配便のサービスレベルは間違いなく世界 一です。
欧米と比べても格段の差がある。
それをア ジアの国々に展開することに、果たしてどれだけ現 実味があるのか。
例えば上海でも日本と同じサービス が本当に求められるのか。
ご存じのように当社は〇 三年に上海で宅配便事業を開始し、現在も運営して います。
しかし、その中身は大口の通販会社の配送 であり、貨物追跡システムや代金引換サービスを提供 してはいても、不特定多数の荷主から受託する日本 の宅配便とは別モノです。
日本で言えば、かつての 百貨店の中元歳暮の配送に近い」  「これが近い将来、日本の宅配便のようなドア・ ツー・ドアのネットワークに拡大していくかについて は、歴史や生活様式が異なる国でそれが根付いてい くには、私はまだ時間がかかると思っています。
日 本の我々が現地に出て行って運営するには今が旬では ない。
もちろん、海外の物流をやらないというわけ ではありません。
日本の荷主が海外に進出すること を物流面から手助けすることは今後も積極的にやっ ていきます」 ──となるとM&Aは、どの分野が対象ですか。
 「中期計画に計上した六〇〇億円というM&Aの予 算は、宅配便を獲得するための買収、3PL案件の 買収、その他事業の買収で、ほぼ均等に使うことを 想定しています。
例えばメーカーの物流子会社を買収 した場合には、そのデリバリーを佐川急便、センター 作業を佐川グローバルロジスティクス、土地建物はそ の他事業のSGリアルティといったかたちに整理する ことになります」 ──物流事業の営業ターゲットも変わってきますか。
 「メーカーから卸までを一次物流、卸から小売りま でを二次物流だとすると、今までの当社の仕事は圧 倒的に二次物流でした。
しかし今は、メーカーや卸 から消費者、メーカーから直接小売りといったかた ちに流通構造自体が変わってきています。
そうなる と我々も上流に入っていかざるを得ない」 ──上流の3PLはなかなか利益の出ない分野です。
 「メーカーが自分でやっていた仕事を、そのまま我々 が運営するだけなら確かに利益を出すのは難しい。
し かし、先ほどの不動産事業や情報システムのプラット フォームなど、物流オペレーション以外にもサービス 領域を拡大することで、その点でもグループ経営の相 乗効果を出せると考えています」 23  MAY 2010 近藤宣晃(こんどう・のぶあき)  1956年京都市出身。
関西大学工学部卒。
81年、佐 川急便にセールス・ドライバーとして入社。
営業店の店長 および佐川急便本社営業統括本部部長を歴任後、98年取 締役京都支社長。
2000年大阪支社長、01年IT戦略本部 長兼務。
05年常務取締役。
06年純粋持株会社SGホー ルディングス設立に伴い取締役就任、経営戦略担当。
09 年、佐川急便代表取締役専務・執行役員を兼任。
PROFILE

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