2010年5月号
特集
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第6部 大手通販会社ケーススタディディノス──宅配5社がセンター内で日々コンペ
MAY 2010 28
ディノス
──宅配5社がセンター内で日々コンペ
ディノスの大型物流センターでは宅配会社5社が横並び
で軒を連ね、各社の毎日の取扱個数はオープンにされてい
る。
その動きを見て各社は自ら提示価格を調整する。
この 仕組みでディノスの配送コストは大きく下がった。
現在は過 度な値下げ競争を抑制し、品質とのバランスを重視した管 理に移行している。
(石鍋 圭) ヤマト・佐川・郵政が軒を連ねる 東京・町田市にあるディノスの「ロジスティクスセ ンター東京(DLC)」は、延べ床面積が五万二〇〇 〇平方メートルを超える大型物流拠点だ。
ディノス の取り扱う商品のほぼ全てがこのDLCを経由する。
常時五万点以上という膨大なアイテムを在庫し、一 日一万五〇〇〇件〜二万件、ピーク時には二万五〇 〇〇件ほどの出荷業務をこなしている。
まさにディ ノスの物流の“心臓部”ともいうべき機能を果たし ている。
このDLCでは、ちょっと珍しい光景を目にする ことができる。
センター内の一角に、五社の宅配業 者がライバル同士横並びで事務所を構えているのだ。
通常サイズの商品を運ぶ業者としてはヤマト運輸、佐 川急便、JPエクスプレス(JPEX)の三社が、家 具・収納といった大型の商品を運ぶ業者としてはヤ マトホームコンビニエンス、佐川引越センターの二社 が、いずれも宅配幹事店として軒を連ね、エンドユー ザーへの配送を担っている。
どの宅配業者に荷物を任せるかは、注文一件一件 の内容によって異なる。
顧客からの注文が入ると、 その内容を宅配各社がディノスに提出した商品サイズ 別・配送エリア別の運賃タリフに照らし合わせ、最も 安い提案をしている宅配業者に任せる、というのが 基本的なやり方だ。
同じAエリアへの配送でも、届ける商品が最も小 さいサイズ区分ならヤマトに、ミドルサイズの商品な ら佐川に、大きな商品ならJPEXに、といった具 合に委託先が分かれる場合もある。
ディノスは宅配会社別の毎日の出荷件数を隠して はいない。
宅配会社は、ライバルがその日にどれだ け荷物を受託したか把握できる。
自分達の受託した 荷物が従来よりも相対的に少なくなれば、それは他 社がタリフを改訂して荷物を受託したことを意味して いる。
巻き返そうという意識が自ずと働く。
センター 内で日々コンペが行われているような状態になる。
ディノスの近村信之ロジスティクス部DLCセン ター長は「やはりある程度の競争意識を持ってもら うことで、物流コストの削減につなげようというの が当初の狙いだった」と語る。
実際この方式を採用 したことで、配送費は以前に比べて大きく削減され たという。
しかし、現在はディノス自身が宅配会社同士の運 賃競争に一定の歯止めをかけている状態だ。
一時期、 各宅配会社の値下げ合戦が加熱しすぎて、ディノス が期待した以上に下がってしまったことがあった。
も ちろんコストが下がるのは歓迎だが、それによって生 じるリスクもある。
あまりに運賃が下がれば、それによって配送品質 に影響が及ぶかもしれない。
また、荷物の委託先が どこか一社に偏れば、他の宅配会社は幹事店として DLCに事務所や人材を投資することができなくな る可能性もある。
「それは必ずしも我々が望むところ ではない。
今は競争余地を残しつつも、過去の実績 などを考慮し、各社にある程度の荷物がいくように 配慮している」と近村センター長は説明する。
同社が複数の宅配業者を使っているのはコスト削 減だけが目的ではない。
顧客満足度の向上のためで もある。
顧客から業者に関する要望が入れば、その 声は運賃タリフよりも優先される。
顧客の中には、宅配業者やドライバーを選り好み し、特定の業者の配送を拒否したり、場合によって は業者を指定してくるケースさえある。
特にディノス 6 大手通販会社ケーススタディ 29 MAY 2010 が主力商品の一つとする家具・収納といった大型商 品の配送は、顧客の自宅にあがり込んで設置作業ま ですることも多い。
それだけに顧客は配送会社やド ライバーの対応に敏感になる。
特定の宅配業者としか 付き合いがなければ販売のチャンス・ロスにも繋がっ てしまう。
「宅配業者を選定し、配送網を設計する上で重要な のは、コストだけでも、また品質やサービスレベルだ けでもない。
リスクやお客様満足などを総合的に判 断し、バランスの取れた選択をする必要がある」と 近村センター長はいう。
五つの物流センターを集約 ディノスがこのDLCを開設したのは二〇〇六年 一〇月のこと。
それ以前は東京と神奈川に五カ所の 物流センターを構えていた。
家具・収納などの大型 商品、通常サイズの商品、食品といったカテゴリー毎 にセンターを分けて管理していた。
それをDLCに集 約した。
その狙いをディノスの岸端聡ロジスティクス 部部長は次のように説明する。
「お客様の注文が複数のカテゴリーにわたる場合に は、それぞれのセンターから別々に発送するので納品 が分かれてしまっていた。
一度の注文に対し、面倒 な受け取り作業を何度もさせてしまえば、ディノスへ の不満に繋がってしまう可能性がある。
“お客様第一 主義”を貫くためには、センターを集約し、一括配 送を実現する必要があった」 入出庫時、あるいは顧客から商品が戻ってきた時 の検品作業を自社社員の管理下に置くこともセンター 集約の重要な目的の一つだったという。
以前から庫 内作業を委託している企業にも協力を仰いではいた が、どうしても五つのセンター全てには目が行き届か ない部分があった。
とりわけ通信販売ビジネスにとっ て検品の正確性は顧客満足度にダイレクトに響く重要 な作業。
検品精度向上への継続的な努力は避けては 通れないと判断した。
個人情報保護への社会的な関心の高まりも背景に あった。
以前は五つのセンターを経由する商品以外 に、メーカー直送の商品がディノスの物量全体の約二 〇%を占めていた。
直送の場合は顧客情報をメーカー 側に提供する必要がある。
しかし、大切な顧客情報 を外部に出せば、それだけ情報漏洩のリスクも増え てしまう。
大型物流センターを設けて、全ての商品 がそこを通過する仕組みにすれば、情報の漏洩リス クを取り除くことができると考えた。
DLCを開設したことで、ディノスは配送コストの 低減、顧客への一括納入、検品の精度向上、顧客情 報の漏洩防止を実現した。
これらに加え、DLCの 庫内作業を効率化することでリードタイムの大幅な短 縮にも繋げている。
現在、ディノスのリードタイムは注文の翌日配送が 主流になっている。
午後までに受注した商品は、そ の日のうちにDLCから出荷することが基本的な約 束事になっている。
しかし、岸端部長は必ずしも早 く届けることだけが重要なのではないと語る。
「もちろんリードタイムは短いにこしたことはない。
しかし、商品やお客様の特性によってその重要度や 優先順位は変わる。
例えばネット経由での小物商品 の注文は翌日どころか即日配送まで求められる時代 だが、大型家具の注文では配送品質や期日の順守を 優先してほしいという声が強い。
同じように、テレ ビショッピングとカタログ経由の注文でも特徴が異な る。
それぞれのニーズを正確に把握し、的確に応え られる庫内・配送設計をすることが重要だ」 近村信之ロジスティクス本 部ロジスティクス部DLC担 当部長 DLCセンター長 岸端聡ロジスティクス本部 副本部長兼ロジスティクス 部部長 DLCでは5万点以上のアイテムが常時在庫され、1日1万5000件 から2万件の出荷業務が行われている
その動きを見て各社は自ら提示価格を調整する。
この 仕組みでディノスの配送コストは大きく下がった。
現在は過 度な値下げ競争を抑制し、品質とのバランスを重視した管 理に移行している。
(石鍋 圭) ヤマト・佐川・郵政が軒を連ねる 東京・町田市にあるディノスの「ロジスティクスセ ンター東京(DLC)」は、延べ床面積が五万二〇〇 〇平方メートルを超える大型物流拠点だ。
ディノス の取り扱う商品のほぼ全てがこのDLCを経由する。
常時五万点以上という膨大なアイテムを在庫し、一 日一万五〇〇〇件〜二万件、ピーク時には二万五〇 〇〇件ほどの出荷業務をこなしている。
まさにディ ノスの物流の“心臓部”ともいうべき機能を果たし ている。
このDLCでは、ちょっと珍しい光景を目にする ことができる。
センター内の一角に、五社の宅配業 者がライバル同士横並びで事務所を構えているのだ。
通常サイズの商品を運ぶ業者としてはヤマト運輸、佐 川急便、JPエクスプレス(JPEX)の三社が、家 具・収納といった大型の商品を運ぶ業者としてはヤ マトホームコンビニエンス、佐川引越センターの二社 が、いずれも宅配幹事店として軒を連ね、エンドユー ザーへの配送を担っている。
どの宅配業者に荷物を任せるかは、注文一件一件 の内容によって異なる。
顧客からの注文が入ると、 その内容を宅配各社がディノスに提出した商品サイズ 別・配送エリア別の運賃タリフに照らし合わせ、最も 安い提案をしている宅配業者に任せる、というのが 基本的なやり方だ。
同じAエリアへの配送でも、届ける商品が最も小 さいサイズ区分ならヤマトに、ミドルサイズの商品な ら佐川に、大きな商品ならJPEXに、といった具 合に委託先が分かれる場合もある。
ディノスは宅配会社別の毎日の出荷件数を隠して はいない。
宅配会社は、ライバルがその日にどれだ け荷物を受託したか把握できる。
自分達の受託した 荷物が従来よりも相対的に少なくなれば、それは他 社がタリフを改訂して荷物を受託したことを意味して いる。
巻き返そうという意識が自ずと働く。
センター 内で日々コンペが行われているような状態になる。
ディノスの近村信之ロジスティクス部DLCセン ター長は「やはりある程度の競争意識を持ってもら うことで、物流コストの削減につなげようというの が当初の狙いだった」と語る。
実際この方式を採用 したことで、配送費は以前に比べて大きく削減され たという。
しかし、現在はディノス自身が宅配会社同士の運 賃競争に一定の歯止めをかけている状態だ。
一時期、 各宅配会社の値下げ合戦が加熱しすぎて、ディノス が期待した以上に下がってしまったことがあった。
も ちろんコストが下がるのは歓迎だが、それによって生 じるリスクもある。
あまりに運賃が下がれば、それによって配送品質 に影響が及ぶかもしれない。
また、荷物の委託先が どこか一社に偏れば、他の宅配会社は幹事店として DLCに事務所や人材を投資することができなくな る可能性もある。
「それは必ずしも我々が望むところ ではない。
今は競争余地を残しつつも、過去の実績 などを考慮し、各社にある程度の荷物がいくように 配慮している」と近村センター長は説明する。
同社が複数の宅配業者を使っているのはコスト削 減だけが目的ではない。
顧客満足度の向上のためで もある。
顧客から業者に関する要望が入れば、その 声は運賃タリフよりも優先される。
顧客の中には、宅配業者やドライバーを選り好み し、特定の業者の配送を拒否したり、場合によって は業者を指定してくるケースさえある。
特にディノス 6 大手通販会社ケーススタディ 29 MAY 2010 が主力商品の一つとする家具・収納といった大型商 品の配送は、顧客の自宅にあがり込んで設置作業ま ですることも多い。
それだけに顧客は配送会社やド ライバーの対応に敏感になる。
特定の宅配業者としか 付き合いがなければ販売のチャンス・ロスにも繋がっ てしまう。
「宅配業者を選定し、配送網を設計する上で重要な のは、コストだけでも、また品質やサービスレベルだ けでもない。
リスクやお客様満足などを総合的に判 断し、バランスの取れた選択をする必要がある」と 近村センター長はいう。
五つの物流センターを集約 ディノスがこのDLCを開設したのは二〇〇六年 一〇月のこと。
それ以前は東京と神奈川に五カ所の 物流センターを構えていた。
家具・収納などの大型 商品、通常サイズの商品、食品といったカテゴリー毎 にセンターを分けて管理していた。
それをDLCに集 約した。
その狙いをディノスの岸端聡ロジスティクス 部部長は次のように説明する。
「お客様の注文が複数のカテゴリーにわたる場合に は、それぞれのセンターから別々に発送するので納品 が分かれてしまっていた。
一度の注文に対し、面倒 な受け取り作業を何度もさせてしまえば、ディノスへ の不満に繋がってしまう可能性がある。
“お客様第一 主義”を貫くためには、センターを集約し、一括配 送を実現する必要があった」 入出庫時、あるいは顧客から商品が戻ってきた時 の検品作業を自社社員の管理下に置くこともセンター 集約の重要な目的の一つだったという。
以前から庫 内作業を委託している企業にも協力を仰いではいた が、どうしても五つのセンター全てには目が行き届か ない部分があった。
とりわけ通信販売ビジネスにとっ て検品の正確性は顧客満足度にダイレクトに響く重要 な作業。
検品精度向上への継続的な努力は避けては 通れないと判断した。
個人情報保護への社会的な関心の高まりも背景に あった。
以前は五つのセンターを経由する商品以外 に、メーカー直送の商品がディノスの物量全体の約二 〇%を占めていた。
直送の場合は顧客情報をメーカー 側に提供する必要がある。
しかし、大切な顧客情報 を外部に出せば、それだけ情報漏洩のリスクも増え てしまう。
大型物流センターを設けて、全ての商品 がそこを通過する仕組みにすれば、情報の漏洩リス クを取り除くことができると考えた。
DLCを開設したことで、ディノスは配送コストの 低減、顧客への一括納入、検品の精度向上、顧客情 報の漏洩防止を実現した。
これらに加え、DLCの 庫内作業を効率化することでリードタイムの大幅な短 縮にも繋げている。
現在、ディノスのリードタイムは注文の翌日配送が 主流になっている。
午後までに受注した商品は、そ の日のうちにDLCから出荷することが基本的な約 束事になっている。
しかし、岸端部長は必ずしも早 く届けることだけが重要なのではないと語る。
「もちろんリードタイムは短いにこしたことはない。
しかし、商品やお客様の特性によってその重要度や 優先順位は変わる。
例えばネット経由での小物商品 の注文は翌日どころか即日配送まで求められる時代 だが、大型家具の注文では配送品質や期日の順守を 優先してほしいという声が強い。
同じように、テレ ビショッピングとカタログ経由の注文でも特徴が異な る。
それぞれのニーズを正確に把握し、的確に応え られる庫内・配送設計をすることが重要だ」 近村信之ロジスティクス本 部ロジスティクス部DLC担 当部長 DLCセンター長 岸端聡ロジスティクス本部 副本部長兼ロジスティクス 部部長 DLCでは5万点以上のアイテムが常時在庫され、1日1万5000件 から2万件の出荷業務が行われている
