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MAY 2010 30
ファンケル
──ペリカン便の納品方法をカスタマイズ
17時30分までの注文分の当日出荷を実施している。 関東
圏なら翌日午前中に納品できる。 配送には宅配便を使いなが
らも「置き場所指定お届け」という独自のサービスメニュー
を用意。 返品・交換も送料無料で無期限に受け付ける。 物流サー
ビスを通販ビジネスの差異化の手段と位置付け、ノウハウの
蓄積を図っている。 (大矢昌浩)
七月からは「ゆうパック」に移行
化粧品・健康食品のファンケルは現在、配送の約
七割に日本通運の「ペリカン便」を使っている。 今
年六月末にペリカン便が日本郵便に吸収された後も、
引き続き「ゆうパック」をメーンに利用する考えだ。
ゆうパックには他の宅配会社と比較して割安な料金
に加え、ペリカン便で実施してきた「置き場所指定
お届け」と呼ぶファンケル独自の物流サービスの維持
を期待している。 配送ドライバーに玄関の呼び鈴を押
させない納品方法だ。
届け先の玄関前やガスのメーターボックス、洗濯機
の中、自転車のカゴなど、あらかじめ顧客の指定した
場所に商品を置いて帰る。 対面がないので当然、受
領証はない。 その代わりドライバーは納品完了後に、
その旨を記載した用紙をポストに投函しておく。
昼間の一般宅配送は時間指定のある場合でも不在
が多い。 再配達になれば顧客の手元に届くタイミング
が遅れてしまう。 “新鮮つくりたて”を売り文句にす
るファンケルとしては歓迎できない。 男性ドライバー
による夜間の再配達に不安を感じる単身世帯の女性
も少なくない。 小さな子供のいる家など、昼間でも
チャイムを鳴らして欲しくないという声もある。
そうしたニーズに応えて、ファンケルは以前、商品
の包装をポストサイズに揃えて、ポストに投函すると
いう納品メニューを用意していた。 しかし、その後、
商品のバリエーションが広がったことでポストに収ま
らない商品が増えてきた。 そこでポストだけでなく、
顧客が自由に置き場所を指定できる新しい納品方法
を考案した。
しかし宅配便は高度にパッケージ化された商品で、
個別の荷主ニーズに応じたカスタマイズには限界があ
る。 顧客側の思い違いや詐欺的なクレームに対して
も、受領証がないと反証できないといった問題も懸
念された。 宅配各社がどこも尻込みするなかで唯一、
日通だけが対応を承諾した。
この置き場所指定お届けは、サービス開始から既に
一〇年以上が経過し、今ではファンケルならではの物
流サービスとして顧客に広く認知されている。 当初は
不安定だったオペレーションも改善を重ねることで格
段に洗練された。 顧客リストを整備して明らかに悪質
なクレームを繰り返す顧客がいればこれを排除し、ま
た「ツーストライク・アウト」を原則として配送品質
の管理を徹底した。 一回目のミスは仕方ない。 顧客
も容認してくれる。 しかし、同じミスを二回繰り返
したり、クレーム対応自体を誤ることは許されない。
クレームが入れば、ミスを発生させた営業所の担当者
にまで問題を落とし込んで、荷主から直接改善を促
すことで一つひとつ原因を潰していった。
今後は日通をパートナーに続けてきた現場レベルの
品質改善活動を、改めて郵政相手に積み重ねていく
しかない。 そのためにファンケルの物流を統括する永
坂順二カスタマーサービスユニット物流企画グループ
マネージャーは現在、日本郵便の担当者と頻繁に打ち
合わせを重ねている。
「今のところ郵政の対応に不安は感じていない。 ペ
リカン便からゆうパックに変わっても従来と同様の
サービスが継続できそうだ」と永坂マネージャー。 時
間指定などの難度の高い配送には一部、ヤマトの宅
急便も利用しているが、メーンパートナーを切り替え
る必要は感じていないという。
ファンケルは、不満、不安、不快などの顧客の
「“不”の解消」を経営理念に掲げている。 物流サー
ビスもその発想で設計している。 「もちろんコストも
6 大手通販会社ケーススタディ
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大事だが、物流サービスに不満を持たれてしまうと
通販事業の場合は致命傷になる。 逆に物流サービス
の向上は、そのままリピート率に反映される」と永坂
マネージャーは説明する。
なかでも重視しているのが納品リードタイムだ。 同
社は通信販売の顧客に対して「注文受付日から二〜
三日」という納品リードタイムを提示している。 しか
し、実際には全受注の約九割を当日に出荷している。
二〇〇八年八月に同社の「関東物流センター」が
稼働するまでは、一五時三〇分までに注文を受けた
分しか当日出荷できていなかった。 当日出荷比率は
七八%だった。 そこでICタグを使って仕分け作業を
高速処理するシステムを開発し、同センターに導入し
た。 これによって従来三時間かかっていた受注から
出荷までの作業リードタイムを、三〇分〜一時間に短
縮した。 当日出荷の締め時間を二時間後ろ倒しにし
て、一七時三〇分まで引き延ばすことができた。 当
日出荷比率は約九〇%まで向上した。
残り一〇%は一七時三〇分以降零時までの注文分
だ。 これを除けば、宅配会社の翌日配送エリアでは、
全国翌日納品が実現していることになる。 関東圏な
ら受注した翌日の午前中にも納品できる。 「B
to
Cの
全国配送で当社と同じレベルの物流サービスを実施し
ているケースはまず聞いたことがない」と永坂マネー
ジャーは胸を張る。
オープンブック制で成果配分
物流センターの現場運営は日立物流に委託してい
る。 日立物流には「ゲインシェアリング」を約束して
いる。 改善活動によって作業の生産性が向上した場
合には、そのコスト削減効果を荷主と協力物流会社
で折半するという契約だ。 これに対して日立物流は
現場スタッフ一人ひとりの人件費まですべてファンケ
ルに公開する「オープンブック制」で応えている。
施設費や設備費、センター長の人件費など固定費
は毎月定額の支払いになる。 ただし、固定費を除い
た現場スタッフの人件費は個建ての単価制だ。 単価
は入荷、保管、ピッキング、検品といった作業ごとに
設定している。 各作業の生産性が上がって実コスト
が下がれば、その半分だけ個建ての単価を下げる。
ファンケル自身で各作業のプロセスや人材の活用の
仕方までチェックして、その生産性を把握し、課題の
開発から改善活動まで直接管理している。 平日の派
遣スタッフの利用は五%まで、休日であれば一〇%
まで、といったかたちで派遣スタッフの利用比率まで
荷主側で規定している。 そこまで細かく管理するの
は物流がブラックボックスになってしまうのを避ける
ためだ。 現場が見えなくなれば、コストやサービスレ
ベルがコントロールできなくなる。 通販会社にとって
物流は重要な差異化の手段。 そのノウハウは社内に確
保しておく必要があるとの考えだ。
関東物流センターが稼働する前まで、同社の常温
品のセンターは全国八カ所に分散していた。 荷主と
して同社自ら現場を運営している拠点もあった。 関
東物流センターに集約したのを機に、現場作業はす
べてアウトソーシングに切り替えた。 これは物流重視
の方針とは一見矛盾する。 しかし永坂マネジャーは
「マネージャーが現場に入り込んでしまうと、日々の
ルーティンワークに追われて本来の管理業務ができ
なくなってしまう。 現場スタッフの確保や維持、教
育などは、やはり物流会社に任せたほうがいい。 現
場を直接運営していた時代の経験からそのことを痛
感した」と、アウトソーシングに意味を見出してい
る。
永坂順二カスタマーサービス
ユニット物流企画グループマ
ネージャー
ファンケル「関東物流センター」 バケットのICタグに情報付加
通販品の高頻度ピッキング 通販品の低頻度ピッキング
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