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MAY 2010 32
大塚商会
──“商物一体”並みのサービスを通販で
オフィス用品通販の「たのめーる」はアスクルに次
ぐ業界2位。 大都市圏では、たのめーる専用便を組織
して専属ドライバーによる当日配送を実施している。
それ以外の地域でも翌日には届ける。 コストよりも手
厚い付加価値サービスを重視し、不況下にも売り上げ
を伸ばしている。 (梶原幸絵)
たのめーる専用便で当日配送
「当社の『たのめーる』は一般的には通販と呼ばれ
るが、われわれの中ではあくまでもリアルビジネス。
営業マンありきのサービスで、お客さまとの接点を重
視したビジネスモデルをとっている。 当然、物流サー
ビスもそれに合わせて設計している」と大塚商会の
築地冬樹物流推進部部長はいう。
大塚商会はOA機器や周辺機器の販売から、近年
ではシステムインテグレーションにも事業領域を拡大
している。 何千人もの営業マン・技術者を抱え、中
小企業から大企業まで全国七八万社の顧客をカバー
している。
このほかにオフィス用品の通信販売「たのめーる」
を運営している。 二〇〇九年十二月期のたのめーる
の売上高は約九三〇億円。 九九年の事業開始から順
調に売上規模を拡大し一〇周年を機に年商一〇〇〇
億円の達成を目標に置いている(図1)。
同社は在庫を全国五カ所の物流センターに分散し
て保管している。 東京に二拠点、ほかに大阪、愛知、
福岡の計五カ所だ。 このインフラを、たのめーるも利
用している。 ほかにクロスドッキングセンターとして
一四カ所の配送センターを設置している。 拠点を分散
しているのは大都市圏でたのめーるの当日配送を実
施しているからだ。 それ以外の地域でも一部を除い
て全国を対象に翌日配送を実施している。
かつての同社はサプライ品を販売するのに、全国各
地の営業所に在庫を置いて、営業マンが顧客企業の
事務所に顔を出し、注文を取って営業車で配送して
いた。 サプライ品には緊急性の高いものも含まれるた
め、納品先の場所によっては電話から数十分で営業マ
ンやサービスマンがかけつけることもあったという。
そうした“商物一体”と同様の手厚い物流サービ
スを通販事業でも目指している。
同社が“商物分離”に取り組んだのは一九九〇年
代前半のこと。 営業マンを物流作業から解放し、本
来の営業活動に集中させるという目的と同時に、顧
客側の負担も軽減しようという狙いだった。
同社の当時の営業組織は、複写機、ファックス、サ
プライ品など商品カテゴリーごとに分かれていた。 同
じ顧客でも商品カテゴリーによって担当の営業マンが
違うため、注文した商品もバラバラに届く状態だった。
そこで各地に複写機やサプライ品を置くデポを設置
し、およそ八〇カ所に分散していた営業所の在庫を
デポに集約していった。
デポでは当初、午前中一便と午後二便の一日三便
体制をとっていた。 受注件数の増加により作業処理
の費用が増大したことから一日二便に改めたが、そ
の際には顧客への徹底したヒアリングを実施。 要望が
あれば緊急出荷を行う体制も整備した。
九五年にはサプライ品のカタログ販売を開始。 さら
に九九年には対象商品をオフィス用品全般に拡大し、
ネット通販にも対応する現在のたのめーるを立ち上げ
た。 これを機に、東京を皮切りに大都市圏で保管型
の物流センターを立ち上げ、在庫の集約を図った。
その後、顧客の注文が営業マン経由から、たのめー
るに移行するのに合わせて物流センターの増設と在庫
集約を進め、たのめーるの当日配送・翌日配送の対
象地域を拡大していった。
たのめーるのスピードを支えるのは迅速なデータ処
理とセンターのオペレーションだ。 現在、一日の受注
件数は平均三万六〇〇〇件に達している。 データは
バッチ処理だが、メッシュを細かくしているため、事
実上のリアルタイムに近い。
6 大手通販会社ケーススタディ
33 MAY 2010
物流センターからの出荷は一日二回、午前八時と
午後一時半だ。 当日朝十一時までの注文分は、一三
時半の午後便に載せて当日出荷する。 受注から最短
二時間半で出荷作業が可能ということになる。
首都圏と京阪神の中心部の当日配送圏では、たの
めーる専用便を組織し、同社専属のドライバーを使っ
ている。 それ以外の地域のドライバーも専属ドライ
バーに近いかたちになっているという。 配送は大塚
商会が行うサービス行為の最後の部分、いわば“サー
ビスアンカー”と位置付けられている。
物流サービスに必要なのはスピードだけではない。
高い品質が求められる。 「営業マンがお客さまのとこ
ろに出かけて要望をお伺いする、という基本の姿は創
業以来変わっていない。 営業マンやサービスマンがお
届けしていたサプライ品をたのめーるに載せ替えて、
社員に代わって配達員がお届けしている」と築地部
長は説明する。
物流品質には細心の注意を払っている。 協力物流
会社も品質第一で選び、かつ複数の協力会社を利用
するようにしている。 センターの運営は現在、リコー
ロジスティクスと鴻池運輸がパートナーで、配送はそ
れら二社に加えて宅配会社などにも委託している。 そ
うすることで業者間で競争意識が働くため、さらな
る品質の向上を狙うことができる。
大塚商会の要望を受けて協力物流会社はそれぞれ
詳細なマニュアルを整備している。
同社の専属ドライバーになるためには、協力物流
会社による基本講習を受ける必要がある。 新人研修
や定期研修は大塚商会が協力物流会社と共同で実施
する。 マニュアルの徹底はもちろん、接客技術まで
指導する。
顧客の要望は最優先だ。 指定された納品条件にき
め細やかに対応する。 例えば段ボールを開けてから届
ける、事務所の中でも客先が指定する場所に納品す
る、さらには棚入れまで行う。
「当社の配送は単に商品を届ければいいというもの
ではない。 われわれ物流部門としても営業マンと同
じ意識を持つよう肝に銘じており、専属ドライバーさ
んには大塚商会の社員になったつもりで配送しても
らっている」と石川正樹物流推進部物流管理課課長
は力説する。
専属ドライバーの定着率は品質の裏付け
元請け業者に対しては配送の再委託を制限してい
る。 許容するのは一次傭車まで。 そうした基準を設
けなければ委託が際限なく繰り返され、品質維持に
支障が出かねない。 運賃も中抜きが繰り返されれば、
実際に運ぶドライバーの待遇が保証されなくなってし
まう。
ドライバーに厳しいサービス基準を順守してもらう
には、モチベーションの向上策も必要だ。 顧客からド
ライバーに対する感謝が届けばすぐに伝え、基準を
クリアしたドライバーを表彰する「ドライバー感謝制
度」も設けている。
石川課長は「専属ドライバーさんにとって、当社
の仕事は大変厳しいものだと思う。 だからこそお客
さまだけでなくドライバーさんに対しても細やかな気
配りが必要だ。 そうしなければ人は動かない。 当社
の配送品質のレベルは非常に高いと自負しているが、
専属ドライバーさんの定着率も高い」と説明する。
それだけに物流網の維持にはコストをかけている。
コスト効率よりも顧客満足を重視して、たのめーる
にとどまらず他事業も含めて相乗効果を出す戦略を
とっている。
築地冬樹物流推進部
部長
石川正樹物流推進部
物流管理課課長
1200
1000
800
600
400
200
0
(単位:億円)
図1 MRO(消耗品などの間接材)事業の売上高推移(単体)
99/
12
00
/
12
01
/
12
02
/
12
03
/
12
04
/
12
05
/
12
06
/
12
07
/
12
08
/
12
09
/ 12
(単位:万口座)
たのめーる以外
のMRO たのめーる
たのめーる口座数
80
70
60
50
40
30
20
10
0
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