ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年5号
特集
第6部 大手通販会社ケーススタディベネッセコーポレーション──日通をパートナーに通販拠点を集約

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2010  34 ベネッセコーポレーション ──日通をパートナーに通販拠点を集約  アパレル、幼児用文具、生活雑貨などの幼児・女 性向け通販事業を強化している。
2008年5月には分 散していた通販用倉庫を集約し、神奈川県に新セン ターを設置してセンター運営と配送を日本通運に一 括委託した。
           (梶原幸絵) 事業拡大に物流が追いつかない  ベネッセコーポレーションは二〇〇八年五月、神奈 川県足柄上郡に通販物流センター(以下、秦野セン ター)を新設した。
群馬県の数カ所に分散していた 保管・出荷拠点を同センターに集約した。
 「拠点の集約によって物流コストを大幅に削減でき た。
リードタイムや出荷精度など物流品質も安定し、 当初目標としていた顧客サービスレベルを達成するこ とができた」と中島健児取締役基盤本部長は成果を 強調する。
 ベネッセは〇六年頃から通販事業の強化を進めて きた。
通販ブランドを統合・再編し、〇七年には各 雑誌・カタログ媒体ごとに行っていた通販事業を集約 して「通販事業部(現W&F〈Women & Family〉 事業本部通販ドメイン)」を新設した。
 商品構成も拡充した。
以前は幼児教育教材の補助 的な商品といった位置付けのDVD、文具、靴など の取り扱いが中心だったが、新たに幼児・女性向け のアパレル品などの販売を開始した。
 これが物流管理に大きな影響をもたらした。
アイ テムごとに色やサイズの異なる商品を揃えなければい けないため、取り扱いSKU数が飛躍的に増加した。
売り上げも拡大し、物量が急増したため、既存セン ターのキャパシティをオーバーしてしまった。
それで も通販の受注は増加していく。
 雑誌・カタログ媒体ごとに保管・出荷拠点が分散 していたことも効率を落としていた。
「各センターで は、あとから機能をどんどん継ぎ足していったこと で、大きなムダが出ていた」と基盤本部の山下穣調 達物流部部長は語る。
 そこでコンペを開催することにした。
それまでは、 どの拠点も受注データ処理を委託していた通販支援 会社にデータ処理の延長線上で物流も任せている状態 で、荷主として本格的なコンペを開催した経験がな かった。
 しかし、今回はセンター運営と配送の仕組みを抜本 的に改革し、その管理体制を整備する必要があった。
また在庫の削減や設備、運営の効率化のためにセン ターは一カ所に集約すべきだと通販事業部では判断 していた。
 契約期間は三年とした。
専用センターの設置を伴 う契約としては決して長くはない。
委託料金には業 務の立ち上げ費用が上乗せされるため、契約期間が 短いほど料金は高くなる傾向がある。
 しかし通販事業の物量増加のスピードを予測する のは困難だ。
長期間で契約して単価を下げるよりも、 短い契約期間にして将来の物量の変化に対応する柔 軟性を確保する方が重要だと考えた。
 コンペでは一五社にRFP(提案依頼書)を出し、 センターのキャパシティと通販のノウハウ、個人情報 の管理体制、コストなどから日本通運をパートナーと して選定した。
日通の物流センターを賃借するのに 合わせ、配送もそれまでのヤマト運輸から日通に切 り替えた。
 秦野センターの稼働を機に取り組んだのがコストと 品質、リードタイムのKPI(重要業績評価指標)の 設定だ。
ベネッセは主業の通信教育事業の教材物流 では、岡山県と埼玉県に物流センターを構え、日本 郵便やヤマト運輸をパートナーに全国配送網を構築し ている。
その管理ノウハウを水平展開しながら、日 通とも協力し半年ほどかけて作り込んでいった。
 誤配送率や誤梱包率、着荷予定と着荷日の差異な ど出荷精度と物流品質に関するKPIは教材物流と 6 大手通販会社ケーススタディ 35  MAY 2010 共通だ。
しかしセンターの運営に必要なKPIは異 なっている。
教材は月に一回定期的に届けるが、通 販商品は受注後すぐの出荷処理が必要だ。
物量も予 測しづらい。
 また教材物流では会員制で必要商品の予測ができ るため、在庫管理の優位性は低い。
これに対して通 販物流では精度の高い在庫管理が重要になる。
 そこで秦野センターでは、欠品率、在庫回転数、 そしてセンター内の仕分けの棚数の使用率などをK PIに設定した。
棚が足りなくなった場合には、ス ペースの拡張が可能な契約を日通とは結んでいるが、 使用率を管理することで物量の増加に早めに手を打 てる。
また作業生産性については一人一時間当たり のピッキング数、一人一時間当たりの梱包数などを KPIとした。
 これらのKPIの実績を週一回のミーティングで日 通と確認する。
KPIが悪化すれば仮説を立て、改 善策を実行し、その効果を検証し、さらに対策を練 るというPDCAサイクルを回す。
 「秦野センターの稼働前はベネッセ側のしっかりと した管理指標ができていなかった。
それができてい れば出荷量の急増にも早めに対処できていたと思う。
そのためにコストが増加し、お客さまへのお届け日数 が伸びてしまった時期もあった。
その反省を踏まえ て現在の体制を作り上げた」と山下部長は振り返る。
情報システムの刷新でサービス向上  現在の受注から着荷までのリードタイムは概ね三日 以内で土日を入れても五日程度。
今後はこれを短縮 する考えだ。
 ベネッセは現在、「次世代販売管理システム」の開 発に取り組んでいる。
事業部ごとにバラバラだった情 報システムを統合する。
昨年一月、調達、物流、情 報システム企画、コンタクトセンター運営などの機能 を一元管理し、次世代販売管理システムの開発と移 行をスムーズに進めるため「顧客基盤本部(現基盤 本部)」を新設した。
新システムは来年春から秋にか けて稼働させる計画だ。
これによって物流サービスの 大幅な向上が可能になる。
 従来のシステムとの大きな違いは三つ。
まず顧客管 理を商品別管理から契約者管理に変更する。
例えば 同じ世帯で母親が通販、子供が通信教育を利用して いる場合、世帯ごとに管理できるようになる。
 次に顧客の要望への個別対応。
それぞれの顧客の 要望をすべてシステム上で管理する。
そして三つ目 がリアルタイムの運用だ。
これまで受注や出荷などの データ処理は夜間にバッチで行っていたが、リアルタ イムで処理できるようになる。
 これによって受注後すぐに出荷指示が出せるよう になる。
リードタイムは受注後二日から二・五日に短 縮する見込みという。
当日配送や翌日配送など通販 業界ではリードタイムを競う傾向もみられるが、求め られるスピードは商材によって異なる。
ベネッセの商 品にとっては十分なスピードだ。
 顧客の利便性も向上する。
教材物流では夏休みの 間だけ配達先を変更する、配達時期を指定するといっ た個別の要望への標準対応が可能になる。
通販物流 でもこれまで異なるブランドの商品を購入すれば請求 明細は二枚、荷物も二個口になるのが標準だったが、 請求明細は一枚、荷物も一個口になる。
ウェブ上で 送付状況を閲覧できるようにもなる。
 教材物流と通販物流の統合は考えてはいない。
両者 の商品特性の違いは大きく、従来通り分けて管理をし ていく方が効率的だと判断している。
中島健児取締役 基盤本部長 基盤本部の山下穣 調達物流部部長 (単位:万人) 女性向け口コミサイト「ウィメンズパーク」の会員数 こうしたサービスも生かして通販事業を拡大している 06 /3 07 /3 08 /3 09 /3 160 140 120 100 80 60 40 20 0 151.9 (月期) 64.9 89.7 121.1

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