2010年5月号
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「楽天モデルのB to C物流でアマゾンに挑む」楽天 武田和徳 COO(最高執行責任者)

MAY 2010  4 せん。
大きなチャレンジになりますが、 それに我々は取り組んでいきます」 ──具体的には?  「家族や仲間と始めたばかりの小さ な店舗さん、いわゆる?スモールB? の物流は、当初は自分たちで出荷作 業をしているけど、ヒット商品が出る と、とたんに行き詰まってしまいます。
三日間店舗を休みにして出荷作業に かかりっきりになるといった事態に陥 る。
事業が成長していくと必ず物流 の壁にぶつかるわけです」 ──どのレベルで、その壁に直面する のでしょうか。
 「一日一〇〇件ぐらいですね。
これ が一〇〇〇件ともなれば、自分たち ではとても処理できない。
そこで普 通は地元の物流会社への委託を考え ます。
それによって確かに物流業務 からは解放されるのだけれど、価格 的には競争力がない。
一日一〇〇〇 件といってもB to B物流と比較すれ ば小規模ですから交渉力がない」  「それに対して我々は〇八年に開始 した『楽天物流サービス』で、我々 とパートナー契約を結んだ全国各地の 物流会社の倉庫に、その地方の店舗 さんの物流を集約するという提案を しました。
集約によって品質を上げ、 価格を下げることができる。
これが 店舗さんの間でも評判になって、立ち アマゾンの隣に大型拠点を設立 ──二〇〇八年五月にスタートした 「楽天物流サービス」を本格的に強化 するそうですね。
 「新たに楽天の一〇〇%出資の物流 子会社として楽天物流を設立しまし た。
これに合わせて物流不動産開発 会社のプロロジスが所有する『プロロ ジスパーク市川?』(千葉県市川市)に 約七〇〇〇坪の自社倉庫を確保しま した。
偶然ですがアマゾンさんの倉庫 とは目と鼻の先です」 ──物流子会社の役割は?  「これまでの楽天の課題を克服する ことです。
楽天に出店いただいてい る店舗さん、また顧客の皆様たちの支 持のおかげで楽天市場は今や大変な賑 わいを見せています。
しかし、ネット 通販には店頭販売と違って顧客にモノ を届けるという機能が不可欠です」  「その点でアマゾンさんは最初に物 流インフラを整備して、そこにナショ ナルブランド商品を乗せるというアプ ローチで事業を展開されてきました。
一方、楽天は全国各地の店舗さんが 発掘したユニークな商品をメーンとし た、ロングテールが特徴です。
同じネ ット通販でもアプローチがアマゾンさ んとは全く逆だったわけです」  「だからといって我々がラストワン マイルの問題を軽視していいわけが ありません。
実際、我々の調査でも、 顧客は『送料』、『配送ステータス』、 『納品リードタイム』、『配送日指定』 などの物流サービスを、買い物の大事 な評価基準と考えています。
B to C の物流を楽天として整備していくこ とが、どうしても必要でした」 ──アマゾンは米国市場で構築した物 流モデルを日本にも導入して既に強力 なインフラを築いています。
キャッチ アップできますか。
 「アマゾンさんと同じアプローチを とるつもりはありません。
日本の物 流環境は世界でもナンバーワンだと思 います。
それを上手く活用して、ネ ット通販向けのB to C物流も世界ナ ンバーワンにする。
その山頂からグロ ーバルな市場を眺めれば、また色んな ことが見えてくるはずです」 ──楽天の目指すB to C物流とは?  「通販でも百貨店でも、これまでの B to C物流は出荷場所が限定されて いました。
しかし我々は全国に三万 もの店舗さんを抱えています。
全国 から出荷される商品を全国の顧客に送 付するというネットワーク型のB to C 物流を構築する必要があります。
世 界のどこにも、まだお手本はありま 楽天 武田和徳 COO(最高執行責任者) 「楽天モデルのB to C物流でアマゾンに挑む」  楽天の物流事業が新たなフェーズに入った。
トヨタ自動車出 身のCOOが陣頭指揮をとり、ライバルのアマゾンとは全く異な るモデルで全国規模の物流ネットワークを整備する。
B to C物流 の革新によってネット通販事業の成長を促進すると同時に、新 たな物流需要の創造も狙っている。
   (聞き手・大矢昌浩) 5  MAY 2010 上げからまだ二年足らずですが、既 にかなりの数の店舗さんにご利用い ただいています」 ──それなのになぜ、楽天自身で拠 点を構える必要があるのですか。
 「丸投げではB to C物流の品質を上 げて、価格を下げていくノウハウが溜 まっていかないからです。
店舗さんの 物流を集約してパートナーに委託する だけでは、結局のところ我々が店舗さ んに代わって?叩き購買?をするだけ の話になってしまう。
物流会社とWi n─Winの関係にはなれません」  「また〇八年一〇月に楽天市場が開 始した翌日配送の『あす楽』という サービスは、登録店舗数が今では五 〇〇〇を超え、商品数でも四四万を 数えるまで増えてきた。
これに対応 して、ステータス管理の仕組み、ま た納品日や納品時間を指定できるナ ビゲーション・システムを楽天として 作る必要があります」  「さらにもう一つ、各店舗からバラ バラに出荷するのではなく、顧客の 指定したタイミングで、複数の店舗の 商品をまとめて届けたい。
そうする ことで、顧客は受け取りの手間が省 けると同時に、安く届けることが可 能になる」  「在庫の管理精度を上げ、回転を 早めて、まとめて出荷することで、 の模範となるオペレーションを構築し、 それをパートナーさんに習得してもら うことで横展開を図っていきます」 ──既存の物流会社には脅威かも知 れません。
 「全くそうは思いません。
店に買い にいくより本当は家まで届けてもらい たいという商品は、まだまだたくさ んあるはずです。
パートナーの物流会 社さんと一緒に力を合わせて、B to Cの物流サービスを革新することがで きれば物流のパイ自体を拡大すること ができます。
物流会社さんとのWi n─Winの関係が成り立ちます」  「私は〇六年にトヨタ自動車から楽 天に転職したのですが、トヨタ時代に は生産物流部門を長く経験しました。
物流は天職だと思っています。
混沌と したB to C物流の世界を指揮者のタ クトに合わせて全体が整然と動くB to B物流と同様の世界に、強い信念を 持って作り変えていきます」 現在のB to C物流のコストレベルは、 将来的に五分の一ぐらいにまで低減 される可能性があると考えています。
単純に言えば五つバラバラに送ってい たものを一つにまとめれば宅配料金 は五分の一になるわけですから」 ──そのためにパートナーによる地方 分散型のインフラとは別に、在庫を共 同保管するセンターが必要だったわけ ですか。
 「共同保管でなくても、地方の拠点 から中央のセンターに送って、そこで クロスドッキングして同梱して出荷す ることもできます。
そのためには保管 だけでなく高度なクロスドック機能を 備えた施設とオペレーションが必要で す。
それを新センターで作り込む。
地 方の拠点から中央のセンターに荷物を 運ぶ幹線輸送も物量が増えてくればシ ャトル便が整備できるようになる。
そ こでまたコストを下げられる」 ──アマゾンと直接ぶつかっている楽 天ブックスの物流については?  「これも新センターでオペレーショ ンします。
これまで楽天ブックスの物 流は出版取次の日販さんにお任せし てきましたが、回転の速い売れ筋につ いては新センターに在庫を置いて、当 社が自分でオペレーションします。
人 気書籍や予約販売商品の在庫をしっ かり確保すると同時に、書籍と他の 商品を同梱して出荷することで、こ こでも送料が下げられる。
書籍はモ ノが小さいうえ楽天ブックスは毎日数 万件もの出荷をしていますから、メ リットは大きい」 物流の革新で需要を生み出す ──物流事業で利益を上げることを 目指すのですか。
 「そこは簡単ではなくて、楽天物流 の売り上げは楽天市場にとってコスト になりますから、どちら側から見る かによって数字の意味も変わってくる。
いずれにせよ一〇〇%子会社ですか ら楽天市場に貢献することが求めら れるわけで、楽天モデルのB to C物 流を構築することが大命題です」  「現在、一般的な店舗さんの発送処 理では一%以上のミスが発生していま す。
これに対して我々は一〇〇万分 の九九以下というミス率を当初の目標 に設定し、現在は一〇〇万分の五〇 以下まで改善しました。
一つひとつ の作業工程の処理時間をいかに短縮 するかといった、泥臭い現場改善も 日々積み重ねています」  「B to B物流では当たり前の取り組 みでも、B to C物流ではこれまでは当 たり前ではなかった。
そのため我々は 自分で物流を作り込むしかないと判断 したんです。
新センターでB to C物流 たけだ・かずのり 1986年、早稲田大学法学部 卒。
同年、トヨタ自動車入社。
93年、米ハーバード大学経営 大学院MBA取得。
2006年7 月、楽天に入社し、常務執行 役員に就任。
同11月、同社が COO(最高執行責任者)を創 設すると同時に同ポストに就任。
現在に至る。
楽天の三木谷社 長とはハーバード時代の同窓生。

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