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従業員数を十二%削減し固定費圧縮
スイスに本社を置く大手フォワーダー、パナルピナの二〇〇九年通期決算は、総売上から通関費用や関税を引いた「純フォワーディング収入(一般の企業の売上高に相当)」が前期比三二・九%減の五九億五七九一万フラン(約五〇六四億円)、総利益が同二〇・九%減の十三億七六八九万フランで、大幅な減収減益となった。 同期の利払い・税引き前の当期利益(EBIT)は二九九一万フラン(同八四・五%減)、最終利益は一〇四四万フラン(同九〇・八%減)で、潜在株式調整後一株当たりの利益は〇・三六フラン(同・九二・三%減)とかろうじて赤字を免れた(図1)。 売上高、最終利益とも過去五年間で最低の結果に終わった(図2)。 しかし同社のモニカ・リバーCEO(最高経営責任者)は、減収減益となったこと以上に、同社が航空と海上貨物の両分野でマーケットシェアを落としたことの方が「残念だった」と語る。 同社は世界八〇カ国に五〇〇超の支社を置き、パートナー企業との連携によって世界のほとんどの地域をカバーしている(図3)。 そのネットワークは、地域別と輸送サービス別の二つの切り口から管理している。 地域別では本社を置くスイスを含む「ヨーロッパ・アフリカ・中東部門」が売り上げ全体の五割強を占め、次に「北アメリカ」、「ア
ジア太平洋」、「中央・南アメリカ」──と続
く。 輸送モード別では、売上高の大きな順に
航空貨物フォワーディング部門、海上貨物フ
ォワーディング部門、サプライチェーン・マ
ネジメント(SCM)部門の三つがある(図
4)。
主力とするフォワーディング事業の〇九年
の取り扱い物量は航空貨物が前年比一九%減
(トンベース)で、海上貨物は同一四%減(二〇フィートコンテナ換算ベース)だった。 同社は不況対策として〇九年中に人員の削減を柱とする固定費の削減を実施した。 従業員数を〇八年期末の一万五六〇〇人超から一万三七〇〇人超へと十二%減らして、人件費を圧縮した。 人員に関しては今期一〇年度も、少なくとも第1四半期までは新規採用を手控え、市場の動向を見守りたいとする。 また事業から上がるキャッシュは減ったが、運転資金( working capital)を圧縮することで財務基盤を強化した。 具体的には従来、回収までに一八〇日以上かかっていた売掛金が全体の三〇%を超えていたが、それを二〇%台に抑えた。 これによって〇九年末時点のキャッシュフローは、前年の一億七〇〇〇万フランから二億二六〇〇万フランに三三%増加した。 同社の〇九年を四半期ごとの推移で振り返ると、その特徴は物量と利益の動きが一致しない点にある。 主力商品である航空貨物の物量の増減は、第1四半期が前年同期比二
図1 パナルピナの2009年12月期の損益計算書
前年同期比
航空フォワーディング 27億 1400万フラン -37.4%
海上フォワーディング 23億 6000万フラン -28.5%
サプライチェーン・マネジメント 8億 8400万フラン -29.0%
(注1)「純フォワーディング」とは、「総フォワーディング収入(総収入)」から「通関、関税、税金」を引いたもの。
図2 パナルピナの過去5年の業績の推移 (単位:万スイスフラン)
純フォワーディング収入:左軸最終利益:右軸
図3 パナルピナのネットワークと地域別の売上高比率
七%減 ↓第2四半期が同二八%減 ↓第3四半期が同一九%減 ↓第4四半期が同一%増 ──となり、第4四半期に至っては、物量が前年比で増加に転じている。 一方、航空貨物のトン当たりの総利益でみると、第1四半期が同一七%増 ↓第2四半期が同一〇%増 ↓第3四半期が同十三%減
↓第4四半期が同三二%減──となっている。 事業収益ベースでも、一番利益が上がったのは第2四半期で最終利益が一五一〇万フランあったのに対して、第4四半期は一一一〇万フランの最終損益になっている。 つまり物量が大幅に減った上半期の方が利益が上がり、逆に物量が回復基調に入った下半期になって利益が落ちる結果となった。 その理由をリバーCEOは「第3四半期以降、輸送キャリアは貨物スペースがタイトになったことを受けて急速に運賃値上げに動いたが、その値上げ分を当社が荷主に転嫁するのが遅れた。 航空運賃がある程度のスピードで上下することには慣れていたが、それが海上貨物の分野でも起こり、対応が後手に回ってしまった」と振り返る。 物量の回復を利益につなげることができなかったことを重くとらえた同社は、今年三月の決算発表前に組織改正を行っている。 これまで同社では各輸送モードのセールス部門と輸送枠の購入部門、現場オペレーションを担
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図4 3つの事業部門
当する部門が分かれていたが、それを一つにまとめて、キャリアからの仕入れ価格と荷主への販売価格を、これまでより短期間で連動させるように改め、二〇一〇年度に臨む態勢を整えた。
訴訟でナイジェリアから全面撤退
料金水準の是正と並ぶ、もう一つの経営課題がコンプライアンス(法令順守)の強化だ。 現在、同社は二つの大規模な訴訟を抱えている。 一つは、米法務省が原告だ。 パナルピナが米石油関連会社のナイジェリアの子会社から請け負った業務において、そのフォワーディングと通関が円滑に進むようにと、パナルピナからナイジェリアの税関職員に賄賂が渡されたという疑いが持たれている。 米法務省は〇七年七月、パナルピナの贈賄行為が、連邦海外腐敗防止法(FCPA)に違反している可能性があるとして調査を開始。 これを受けてパナルピナは〇七年秋に、調査対象となった荷主向けのナイジェリアでの業務を停止した。 しかし、それだけでは事態を収拾することはできず、〇八年一〇月には、通関業務を含めたナイジェリア国内における輸送サービスからの全面撤退を余儀なくされた。 しかも、当初はナイジェリアにおける荷主一社に対する業務だけの問題だったのが、米法務省による通関書類の調査が進むに連れて、疑念は他の複数の荷主向け業務にも広がり、調査対象国としてもカザフスタンとサウジアラビアが加わった。 パナルピナによると、米法務省の調査は〇九年十二月に一つの区切りがつき、現在は同省との話し合いを進めているというが、どの時点で、どのような決着がつくのかは、依然として見通しが立っていない。 もう一つの訴訟は価格カルテルだ。 パナルピナをはじめキューネ+ナーゲル、DHL、UPSなどの大手フォワーダーが、燃油サーチャージなど航空貨物運賃で価格カルテルを結んだ疑いが持たれている。 パナルピナに対するカルテル疑惑の調査は〇七年頃から、スイスとEU、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドでそれぞれに開始されている。 そのうちカナダとオーストラリアでは、証拠不十分として調査が終了しているが、アメリカやEUなど他の国ではまだ調査が続いている。 二つの訴訟は、同社の損益計算書にも大きな悪影響を及ぼしている。 ナイジェリア国内の業務からの撤退がなければ、〇九年の総利益は七〇〇〇万フラン増えて、一四億四七〇〇万フランとなっていたはずだった。 加えて、訴訟関連コストには、〇九年だけでも五五〇〇万フランかかっており、これがなければ、〇九年の利払い・税引き・減価償却前営業利益(EBITDA)は一億三五〇〇万フランとなり、実際の数字より七割近い増加となっていたはずだった。 こうした訴訟を抱えることはまた、訴訟を抱えた企業とは取引をしないという内規を持った荷主を失うことにもつながる。 一連の苦い経験を反省材料として同社は現在コンプライアンスの強化に本格的に取り組んでいる。 まず〇八年に社員向けの「コンプライアンス・マニュアル( code of conduct)」を作成し、三十カ国語に翻訳、世界各拠点に配布した。 入社時に、同マニュアルを順守するという誓約書にサインすることを義務付けた。 また、七人の専属スタッフを投入して独立性の高いコンプライアンス部門を設置した。 問題が発生した場合にはコンプライアンスの部門長が直接CEOと役員会議に報告するという体制だ。
六業種を対象にSCMノウハウ蓄積
同社のSCM部門は、売上高比率でみれば主要三部門のなかで一番小さい。 しかし同社が近年、最も力を注いできた分野である。 リ
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バーCEOは「我々は航空貨物と海上貨物のフォワーディング業務を含めた形でのSCM業務の能力を高めることに力を入れている。 とくに人材開発にはこれまでも多くの投資を行ってきた」と説明する。 ロジスティクス・サービスへの要求は年を追うごとに多様化・細分化してきている。 これまで主業としてきたフォワーディング業務だけでは、顧客ニーズを取り込むことは難しくなっている。 一〇万社を超える企業と取引を持つ同社は、SCM機能を強化して、発地からエンドユーザーまでサービスを提供することで、これまでの主力であった航空貨物と海上貨物の付加価値を高めようとしている。 具体的には六つの産業を主要なターゲットに定め、産業ごとにSCMのノウハウを蓄積している。 主要六分野とその主要荷主は以下のようになる。
?自動車産業(BMW、フォルクスワーゲン、ボルボ)
?医療品と化学製品(BASF、ロシュ、シンジェンタ、ノバルティス、レスメッド)
?小売りとファッション(アディダス、ZARA、H&M、P&G、ネスレ)
?ハイテク産業(ヒューレット・パッカード、レノボ、IBM、フィリップス)
?電話通信産業(ノキア、アルカテル・ルーセント、華為技術)
?原油&ガス(シェブロン、シュルンベルジェ)
(横田増生)
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