ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年5号
判断学
第96回 実に奇妙な政治資金問題

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 MAY 2010  64       なぜ鳩山と小沢だけなのか  鳩山由紀夫首相の偽装献金問題と小沢一郎民主党幹事長 の政治資金問題を、マスコミが大きく取り上げたところから 民主党は窮地に追い込まれている。
 これまで政治資金が問題になったのは、言うまでもなく政 権与党の自民党であった。
政権を握っている与党が財界や企 業から政治献金を受け取り、その見返りに政府が財界や大企 業に都合の良いような政策を行う。
これが政治資金問題であ り、自民党にそれは集中していた。
 ところが奇妙なことに民主党が政権を取ると、それまで野 党であった時の鳩山由紀夫や小沢一郎の政治資金が問題にさ れる。
そして、あれだけ巨額の政治資金を受け取ってきた自 民党の代議士については全くといっていいほど問題にされな い。
 経団連は二〇〇八年には自民党に対して二七億円の政治献 金をしていたが、これに対し民主党には一億円しか政治献金 をしていない。
 それもそうだろう。
財界は政権与党の自民党に対して政治 献金をすることで、その見返りに利益を与えてもらう。
それ に対し野党である民主党に政治献金をしても見返りは期待で きないから、ほんのわずかなカネだけ献金する。
 ところが民主党が政権を取ると、鳩山首相が母からもらっ たカネや小沢幹事長が土建会社から受け取ったカネが大問題 になる。
鳩山首相は母からもらったカネで母に都合の良いよ うな政策を実行したわけではないし、小沢幹事長が西松建設 や水谷建設から政治献金を受け取ったとしても、政権与党で はないから、これらの土建会社に対して都合の良いような政 策を実行することはできない。
 最も多くの政治献金を受け取ってきた自民党が全く問題に されず、わずかのカネを母や土建会社から受け取った民主党 の幹部の政治資金が大問題にされる。
全く奇妙である。
      法人=会社には選挙権はない  利益を追求することが目的である株式会社が政治献金をす るということは政治をゆがめることである。
これに対し、個 人は基本的人権として成人になれば参政権を与えられ、一人 一票で代議士を選挙するが、その政治活動のために政治家に 献金することができる。
一方、法人である株式会社には選挙 権はない。
その法人が政治献金をするということは民主主義 の原理に反することである。
 そこでアメリカでは法人である会社が政治献金をすること は違法であるとされている。
二〇世紀はじめアメリカの裁判 所がそういう判決をしているのだが、そこでニクソン政権の 時代になって会社がPAC(政治活動委員会)を作り、そこ へ経営者や従業員が献金し、それを政治家に与えるというや り方が流行するようになった。
 このPACでは、会社がいったん経営者や従業員に給与や ボーナスをという形でカネを与え、そこからPACに献金さ せて、それを政治家に渡すのだから、事実上は会社が政治献 金をしているのと同じことになる。
しかしあくまでも政治献 金は個人でするもので、法人である会社による政治献金は違 法である。
 ところが日本では、一九七〇年の八幡製鉄政治献金事件 の最高裁判決で、「法人である会社にも個人と同様政治活動 の自由がある」という理由で、会社による政治献金は合法で あるということになった。
 それ以後、日本では会社による政治献金が大っぴらに行わ れるようになり、そこから汚職が大流行するようになった。
 もし最高裁の判決のいうように「会社にも政治活動の自由 がある」というのであれば、当然、会社にも選挙権を与えな ければならないが、そんなことを言う人はいない。
日本の最 高裁にはアメリカの裁判所のような常識さえも欠如していた のであるが、これが日本の政治をゆがめてしまったのである。
 会社が政治献金をする目的は「政治をカネで買う」ためであり、民主主義 の原理に反する。
果たして鳩山首相は公約通りにこの問題を打破する勇気が あるだろうか。
第96回 実に奇妙な政治資金問題 65  MAY 2010          「政治をカネで買う」  「政治をカネで買う」──そこから汚職が起こり、政治が 混乱するのだが、政治家はその活動のためにカネがいる。
も し政治献金をすべて禁止すれば、金持ちしか政治活動はでき ないことになる。
鳩山首相のように金持ちの息子なら親から もらったカネで選挙活動をすることができるが、そうでない 人は選挙活動ができない。
 そこでカネのある人が自分の意思で政治献金をすることは 許されるが、しかしそれには限度があり、一定の金額以上の カネを政治家に献金することは禁止されている。
 個人と違って株式会社は株主の利益を最大にするために作 られたものである。
それが政治献金をするということは、す なわち利益追求のために政治献金をするということであり、 それは始めから汚職を目的にしていると言ってよい。
 なにより法人である会社には基本的人権もなく、選挙権も ない。
それが政治献金をするということは民主主義の原理に 反することである。
 先に述べたようにアメリカでは一〇〇年も前に裁判所がそ ういう判決を下しており、現在でも会社による政治献金は禁 止されている。
ところが日本では会社が政治献金をするのは 当然のことであるとされており、誰もそれを疑わない。
 経団連の御手洗会長は政治献金のあっせんは止めるが、あ とは個々の企業に任せるというのだから、会社による政治献 金はこれまでと同じように続けるということになる。
 そこで問題になるのは、民主党が果たしてマニフェストで 公約したように、企業、団体による政治献金を禁止するのか どうかということである。
それには政治資金規制法を改正す ることが必要だが、それにはまだ手をつけていない。
もしそ れに手をつければ、それこそ日本の政治を大きく変えること になるが、鳩山首相にそれだけの勇気があるのかどうか、そ れが試されているのだ。
      経団連の政治献金をめぐる動き  そこで、これまで野党は会社による政治献金を禁止せよと 要求してきた。
そして民主党も企業、団体による政治献金を 禁止するという方針をマニフェストに掲げてきた。
そして民 主党が政権を取った段階で鳩山首相は企業、団体の政治献金 を禁止するという方針を明らかにしている。
 ところが奇妙なことにマスコミは、鳩山首相の母からの政 治資金供与を大問題にし、小沢幹事長の西松建設や水谷建設 からの政治献金を取り上げるが、自民党の政治資金について は全く問題にしない。
 こうして政治資金問題が混迷しているのだが、一方、経団 連はそういう状況のなかで政治献金をやめるという方針を明 らかにしている。
 それまで個々の会社が政治家に献金していたので汚職事件 が続発したというところから、一九五四年から経団連が個々 の会社から政治献金を受け取って、これをまとめて自民党に 献金するという方式をとってきた。
 しかしこの政治献金への世論の反対が強いところから、一 九九三年になって経団連は政治資金のあっせんをやめるとい うことになった。
それは細川内閣の成立で自民党が野党にな ったためであったが、その後、自民党が政権に復帰するとと もにその方針を変えた。
 トヨタ自動車の奥田碩会長が経団連会長になった段階で、 経団連は政治資金のあっせんを再開したのである。
 ところが昨年の選挙で自民党が野党になると、今度はまた 経団連は政治献金のあっせんをやめるという方針を打ち出し た。
ということは自民党が政権を取れば経団連は政治資金の あっせんをするが、それが野党になれば止めるということに なる。
 こうして政治資金問題は全く奇妙な展開をしており、これ が日本の政治を混乱させてしまっているのである。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『徹底検証 日本の三 大銀行』(七つ森書館)。

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