2010年5月号
SOLE

設備管理情報システム「EAM」生産設備のライフサイクルを最適化

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics MAY 2010  76  SOLE日本支部の三月のフォ ーラムでは、設備管理情報システム として注目が高まっているE AM (Enterprise Asset Management : 企業資産管理)の現状と課題を紹介 した。
EAMは設備関連情報や保全 作業情報を一元管理し、蓄積した データを改善に活用するための企業 情報システムである。
経営と現場を つないで設備のライフサイクル最適 化に大きな役割を果たすものであり、 欧米を中心に普及が進んでいる。
(S OLE日本支部会員/プラントアル ファ社長・菅伸介) アセットマネジメントとは  アセットマネジメントという言葉は、 金融、不動産、社会インフラ、設備 などの管理の分野で幅広く使用され ている。
試みにインターネットで「ア セットマネジメント」を検索してみる と、結果には金融資産運用関連と設 備管理関連のページが混在している。
一見、分野によって異なる用語法が なされているかのように見える状況 だが、実は共通点も多い。
 金融資産であれ物理的な設備であ れ、取得から保有(あるいは運用、 保全)、売却、廃棄までのライフサイ クルがある。
そのライフサイクルを通 じて得られる価値の最大化を図るこ とは、資産を有効に使っていく上で 欠かせないということに変わりはな い。
ライフサイクルの最適化のため に、資産が所定の働き(生産、サー ビス、投資収益など)をするのを維 持・継続させ、各種コストの費用対 効果や様々なリスクを適切に管理す る。
これらが普遍的なアセットマネ ジメントの課題であるということが できる。
 設備のアセットマネジメントに関 して注目すべき動きとして、英国 規格協会(BSI)によるマネジメ ント規格制定がある。
現在は正規 の規格の前段階にある一般公開仕 様書(PAS:Publicly Available 設備管理情報システム「EAM」 生産設備のライフサイクルを最適化 Specification)の段階であるが、公 開された規格案「BSI PAS5 5」に基づく認証取得企業も現れてい る。
よく知られているように、英国 規格はISO9000シリーズ、I SO14000シリーズなどのマネ ジメント規格の源流にあり、本規格 案についても今後の動向に留意が必 要である。
設備運用保全の位置付け  設備の運用保全に関しては、近年 以下のような課題がよく挙げられる。
●新設の時代から維持管理の時代へ の転換に伴う設備の高経年化 ●技術継承と人材の確保 ●事業の裁量範囲拡大や性能規定導 入を伴う法規制の変化への対応 ●リスク管理の厳格化 ●外部からのアカウンタビリティに関 わる要求への対応  これらの課題は社会や経済の成熟 に伴って国や業界を問わず共通に見 られるものであり、言うなれば設備 管理におけるメガトレンドである。
 各種の設備の中でも生産設備に焦 点を当て、本稿では論を進めていく。
図1は生産設備に関わる業務の連鎖 を示すフレームワークとしてよく利用 される設備ライフサイクル、製品ラ イフサイクル、サプライチェーンを示 したものである。
これらの連鎖は相 互に関連を持つものの、各々の担当 者・担当部門が異なり個別に最適化 が図られる傾向が強い。
この三者の 結節点として存在する設備の運用と 設備 ライフサイクル 製品 ライフサイクル サプライ チェーン 構想 定義 設計 開発 設計、開発、生産準備 製造据付け運用 保全廃却 計画調達生産製品物流 生産 販売 サービス 保守 図1 設備ライフサイクル、製品ライフサイクル、サプライチェーンの 結節点としての設備保全 77  MAY 2010 保全においては、連鎖ごとの最適化 の論理がぶつかってせめぎ合いにな り得る点に難しさがある。
 さらに、設備の運用や生産が売り 上げや利益などの財務パフォーマンス に直接関わるので組織全体から注目 されやすいのに対して、保全は財務 の観点からは固定費の一環として扱 われる。
コストカットの対象として 目を付けられやすいものの、経営の 視点からの最適化には目が向きにく い分野となりがちである。
また保全 が行き届いていないために設備が故 障すれば、生産に影響することが分 かっていたとしても、保全の実施に は設備の停止を伴うことも多い。
こ のため保全と生産の間にもせめぎ合 いが頻発する構造がある。
 生産設備に関わる情報システムと り、これらを仲立ちするために各種 の手作業に依存した業務が行われて いるのが大方の現状と思われる。
 この基幹系システムと制御システ ムを仲立ちする部分を「製造実行 システム(MES:Manufacturing Execution System)」と称すること がある。
このMESは経営と現場を つなぐシステムとも呼ぶべきもので あり、製造業の情報システムにおい て、今後注目が高まる領域であると 予想される。
MESの大きな目的は、 その名が示すように上位システムで策 定された生産計画を生産設備のレベ ルで実行するために必要な製造管理 を行うことである。
それ以外に各種 情報管理、品質管理、設備保全管 理などもカバーする概念であるとさ れているが、本稿では設備管理、保 いう観点から見ると、代表的なもの として基幹系とも呼ばれる計画系の システムがある。
この領域ではER P(Enterprise Resource Planning)、 SCM、生産計画・スケジューリン グツールなどの統合ソフトウェアソリ ューションが多く提供されている。
 一方、物理的な設備のレベルでは 機械や計器に直接つながる各種の計 測・制御システムが多く導入されて いる。
基幹系システムも制御システ ムも最近の技術進歩の成果が取り入 れ、経営目標の実現に大いに寄与す るものとなってきた。
しかしながら、 基幹系システムと制御システムの間 で情報を共有して全体を統合、最適 化するのは容易ではない。
両者の間 には業務内容、部門、時間スケール、 データの性質など数多くの落差があ 全管理に焦点を当てる。
EAMによる設備情報統合管理  近年、設備管理における情報シ ステムとして「EAM(Enterprise Asset Management: 企業資産管 理)」という概念が注目されるように なってきた。
以前は保全業務管理を 主眼とした情報システムという意味 を持つ「CMMS(Computerized M a i n t e n a n c e M a n a g e m e n t System)」という語が用いられてい たが、経営と現場をつなぐための統 合化された企業情報システムである との位置付けが強調されるようにな り、EAMという呼称が一般化して きた。
最近ではEAMパッケージソ フトウェアの発達も著しく、特に欧 米においては設備管理のための情報 MAY 2010  78 は、設備保全のために行われる各種 作業の情報である。
ここで言う作業 とは日常的な点検、故障・不具合へ の対応、定期的に実施される点検や 部品交換、改造工事など広い範囲の 業務活動をカバーするものである。
 EAMによる業務管理の核心は、 「作業指示(「ワークオーダー」、「作 業指示書」、「作業指図」などとも呼 ばれる)」によって図3に示す作業 のライフサイクルを管理することに ある。
作業の実施決定から完了に到 どの情報などがある。
また設備管理 において重要な情報である図面、仕 様書、各種記録などの文書について もEAMを利用して管理することが できる。
各種文書を設備マスターと 対応させて整理すると、設備管理業 務上のニーズと親和性が高くなり検 索性や利便性の高いシステムを作る ことができる。
 EAMにおいてメーンのトランザ クションデータ(日常的な業務を通 じて生成あるいは処理されるデータ) に対応するものであるが、EAMに おいては図2のような階層構造を持 たせるのが一般的である。
階層構造 を取ることによって設備の相互関係 がわかりやすく構造化できると共に、 階層に基づいてデータを集約・集計 できるようになるメリットがある。
 設備以外の重要マスターデータと しては、保全作業を行うのに必要な リソースである資材、機材、要員な システムは、自社開発から既成EA Mソフトウェアをベースとする導入へ と大きくシフトしてきている。
 日本においても先進的なEAM の導入事例が報告されるようになり、 ソフトウェアベンダー各社も積極的 な営業活動を展開している。
しかし、 今のところEAMの考え方が広く知 られているとは言い難い。
そこで筆 者はEAMユーザー、ソフトウェア ベンダー、コンサルタントなどとの共 著によって初の日本語によるEAM 解説書「EAMの基本と仕組みがよ ーくわかる本」(注)を昨年刊行した。
関心のある方にご一読いただければ 幸甚である。
 EAMによる設備管理のポイント は次の三点にまとめられる。
1 . EAMのデータベースによる設備 関連情報の一元管理 2 . 作業指示による実施決定から実 績データまでの一貫した作業管 理 3 . 実績データのフィードバックによ る改善ループの実現  EAMの根幹となるのは管理対象 設備のマスターデータである。
台帳 などとして取りまとめられるデータ 図3 作業指示によって保全作業の情報を一元管理する 運転担当、保全担当などによる 作業実施の要求(非定期作業) 作業の実施決定 作業の実施 作業計画の策定 (作業手順、人員、資機材 などの計画) スケジューリング (実施タイミングの決定、 人員・資機材などの割当て) 作業の完了 (報告、データ記録など) あらかじめ実施が決まっている 定期作業 図2 設備マスターの階層構造 B 生産設備 C 生産設備 製品貯蔵設備 機械X 機械Y 機械Z 本 体制御盤本 体電源ユニット A 工場 79  MAY 2010 タ活用のシナリオ全体が崩れてしま うことになりかねない。
個別最適指向の強い日本  前述のように、欧米においてはE AMパッケージソフトウェアの導入が 一般化すると共に、同分野に関わる 専門書、コンサルタント、専門家団 体なども増えつつあり、普及に向け たインフラストラクチャーの整備が進 んでいる。
パッケージソフトウェアに ついても、大規模導入に適した機能 豊富な重量級ソフトウェアから安価 かつ簡便に導入できるソフトウェアま で多くの製品が販売されている。
 これに対して日本においては欧米 系大手IT企業などが比較的大規 模なソフトウェアを中心に積極的な 販売活動を行っているが、今のとこ ろは本格的な普及には到っていない。
私見では、日本でEAMの普及が進 まない理由として ●設備管理業務における個別最適化 指向の強さ ●設備管理に関わる標準的な情報モ デル ●業務モデルが浸透していないこと があると思われる。
しかし、前述し た設備管理をめぐる各種の課題を解 決していくためには経営の視点での 情報管理の高度化が必要であり、そ のためには先進的な思想と情報技術 に裏付けられたEAMの導入が大き な役割を果たしていくものと考えて いる。
(注)EAM研究会「EAMの基本 と仕組みがよーくわかる本」、秀和シ ステム刊、二〇〇九年十一月 らを「宝の持ち腐れ」とせず、業務 にフィードバックして活用すること である。
改善には個別作業に対する 効率化や工夫に始まり、保全方針の 見直し、故障・不具合の予防と信頼 性向上、設備の改良など様々なレベ ルのものが考えられる。
EAMソフ トウェアは作業指示による作業の計 画と実施の管理に加えて、データの 検索・集計・表示、業績指標(KP I)算出、外部システムへのデータエ クスポートなど、PDCA(Plan-Do- Check-Act)ループ全体の実現を支援 する機能を有している。
 ここでEAMにおける実績データ の収集管理に関する留意点を述べる。
データ収集の主体となるべき作業担 当者の一義的な関心は保全作業の安 全確実な遂行であり、改善活動に必 要なデータの収集は「ついでの仕事」 「余計な業務」などと見られることが 往々にしてある。
したがってシステ ムを運用する前に、データをどのよ うに活用するかを様々な視点で検討 し、必要なデータだけを最低限の業 務負担で集める仕組みを作ることが 重要となる。
有効なデータを効率的 に集める方法の検討がなおざりにな っていると往々にしてデータの品質 が劣化する。
日々発生するトランザ クションデータの品質が劣化すると、 その修復は極めて困難であり、デー るまでの過程には計画策定から予算 管理、資材やサービスの発注、スケ ジュール調整、現場作業の実施管理、 記録管理など様々な部門や担当者の 関わる業務があるので、個別の最適 化がなされると情報の一元管理は困 難となる。
作業指示は、保全作業に 関わる情報を一体のデータとして管 理し、それを対象設備と結びつける ことによって情報管理の一元化を実 現するものである。
 作業指示によって管理すべき情報 量は多いため、入力データを標準化 し操作の省力化とデータ品質の確保 を図ることが重要になる。
このため 市販のEAMソフトウェアは作業指 示の標準をテンプレートとして管理す るなどの作業指示作成支援機能を持 っている。
また、定期的に実施され る作業の頻度を管理したり、各担当 者から寄せられる作業実施依頼を管 理して必要な作業指示を作成するな どの機能も整備されている。
 作業を実施するために必要な人 (要員の名簿、保有資格、作業実績 など)、モノ(資材調達と在庫管理、 機材・工具類の管理)、カネ(予算管 理、実績コスト管理)の管理もEA Mの重要な機能である。
 EAMを運用すると、設備の保全 管理に関わる大量のデータが蓄積さ れる。
EAMの本来の眼目は、それ 次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは5月17日(月) 「明治陸軍の兵站から学ぶ:元陸上 自衛官 飯島矢素氏」を予定してい る。
このフォーラムは年間計画に基 づいて運営しているが、単月のみの 参加も可能。
1回の参加費は6,000 円。
ご希望の方は事務局( sole-joffi ce@cpost.plala.or.jp)までお 問い合わせください。
※SOLE(The International Society of Logistics:国際ロジスティクス学会)は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団 体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・ 三〇〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部 では毎月「フォーラム」を開催し、講演、 研究発表、現場見学などを通じてロジステ ィクス・マネジメントに関する活発な意見 交換、議論を行っている。

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