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NOVEMBER 2005 12
循環させればコストが下がる
製造原価を半減
現在、複写機メーカーは日本国内に一〇社ある。 し
かし使用済み製品を再加工した再生機を販売してい
るメーカーは現状では半分に満たない。 とりわけ低価
格路線をとるメーカーの複写機は製造コストをギリギ
リに抑えるために、耐久性の点でリユースが困難とさ
れる。 今後、大企業や官公庁などのグリーン調達の対
象に再生機が加わえられることになれば、そうしたメ
ーカーは競争から脱落していく可能性がある。
複写機を始めとしたOA機器のビジネスは、かつて
の売り切り型からリースやレンタル形式の運用型に比
重を移している。 そこでは製造原価と販売管理費では
なく、生産から運用メンテナンス、回収そして再利用
へと循環する製品ライフサイクル全体のコスト管理が
問われる。 なかでも再利用を前提とした製品設計と、
使用済み製品の効率的な回収システムの構築は大き
なカギになる。
こうした「ライフサイクルコストの削減は、環境負
荷の軽減とほぼイコールと考えていい。 世間では環境
対策をコストアップと考えている人が少なくないが、
そうした人は環境を勉強していない、環境に取り組ん
でいない人だ」と、リコーロジスティクスの菅田勝経
営管理本部副本部長はいう。
菅田副本部長はこれまで十五年近くにわたり、リコ
ーグループで環境対策を担当してきた。 リコーの生産
管理技術者として派遣された英国のリコーUKプロダ
クツで、複写機の感光体ドラムを回収するリバース・
ロジスティクスの構築に取り組んだことがそのキッカ
ケだった。
当時のドラムには、環境汚染の規制対象にはなって
いないものの、グレーゾーンにあるとされるセレンと
いう物質が使用されていた。 ドラムは一定の使用量を
超えると交換が必要になる消耗品で、従来は使用済
みドラムがそのまま廃棄処分されていた。 これを改め、
使用済みドラムを回収して再利用しようという取り組
みだった。
英国のバーミンガム郊外にあるリコーUKの工場に
ドラムを回収して、アルミ製の筒からセレンを剥離。
それをデンマークの鍛錬場に運んで加工し、再びバー
ミンガムに戻して、新品を生産する。 このサイクルが
できあがれば、環境汚染を抑制できるだけでなく、製
造原価が大幅に削減できることは容易に予測できた。
ただし、そのためにはユーザーから使用済み製品を回
収する仕組みを構築する必要がある。
ドラムの交換は、基本的に欧州各国のリコーの現地
法人や販売代理店のサービスマンが担っている。 彼ら
の協力を得られれば回収はできる。 交換時に持参した
新品ドラムの箱に、使用済みドラムを入れて持ち帰れ
ばいい。 サービスマンの手間は多少増えるが、新たなコストは発生しない。 仕組み自体はシンプルだ。 しか
し、それを欧州全土で徹底するのは容易ではなさそう
だった。
そこでインセンティブを導入することにした。 回収
したドラム一本につき約一〇〇円の手数料をリコーU
Kが販社や代理店に支払うという制度だ。 しかし各地
を回って、その必要性を説いたものの販社側の反応は
鈍い。 そこで、ドラムに傷を付けずに、そのまま再利
用できる状態で戻してもらえた場合には二〇〇円出す
という形で、報酬を倍にした。 これで一気に回収に弾
みがついた。
それまでドラム一本の製造原価は約四〇〇〇円だ
った。 それが回収品を再利用することで、約二〇〇〇
円に下がった。 製造コストの半減だ。 この循環型ロジ
循環型ロジスティクスの実現によって、製品のライフサ
イクルコストは半減できる。 メーカーのビジネスは従来の
売り切り型から、ソリューションを提供する運用型にシフ
トしている。 そこではリサイクルまで取り込んだロジステ
ィクスの設計が決定的な役割を果たす。 (大矢昌浩)
第1部
13 NOVEMBER 2005
スティクスの実現によって、リコーUKプロダクトは
環境対策と経済性を両立した優れた取り組みを表彰
するエリザベス女王賞の環境賞を受賞した。
環境経営のロジスティクス
その後、現在のリコーロジスティクスに異動になっ
た菅田副本部長は「モノの運び方や拠点の配置を工
夫するだけではコストダウンできる程度も知れている。
物流マンはものづくりを知らなすぎる。 顧客の商売を
知らないで何の提案ができるというのか。 製造コスト
の中身を把握し、もっと広くロジスティクスをとらえ
れば、ビジネスチャンスはいくらでもある」と周囲に
ハッパをかけている。
環境対策が格好の切り口になる。 菅田副本部長は
環境対策のアプローチを以下の四つのレベルに分類し
ている(
図1)。 「レベル1」はコンプライアンス(法
令遵守)の段階だ。 運輸面では排気ガス浄化装置や
リミッターの装着、廃棄物のマニュフェスト対策など
が代表的な施策になる。 このレベルの環境対策はコス
トアップが避けられない。
「レベル2」になるとコスト削減の可能性が出てく
る。 社員の意識改革や身近な省エネ活動を実施する
段階だ。 アイドリングストップや省資源活動を社内に
根付かせることで環境負荷と同時にコストを抑制でき
る。 ただし、このレベルの取り組みで削減できるコス
トは全体のせいぜい一割程度。 しかも一度実行したら
終わり。 それ以上は減らせない。
「レベル3」で初めて環境対策による他社との差別
化が視野に入ってくる。 社外の利害関係者との調整
を進めて輸送の共同化やミルクランなどを実施すれば、
車両の積載率が高まり使用車両数など交通量自体を
減らすことができる。 コスト削減効果としては二割〜
三割が期待できるという。
そして最終段階の「レベル4」では、環境対策が単
なるコスト削減ではなく新たな収益源になる。 サプラ
イチェーンの構造や各プレーヤーの役割分担など、仕
組み自体に環境のメスを入れる。 これによってコスト
削減効果は四〜五割に達する。 さらに仕組みを他社
に提案していくことで、3PLを始めとした新しいサ
ービス事業も創出できるという発想だ。
規制強化を追い風に
今年二月一六日、「京都議定書」が発効した。 地球
温暖化の防止を目的に九七年に京都で開催された国
際会議で採択された取り決めで、先進国に対して二
酸化炭素を始めとした温室効果ガスの削減を義務付
けるものだ。 削減率は国によって異なる。 日本の場合
は一九九〇年比で六%の削減を約束している。
物流分野では二〇一〇年までに一四〇〇万トン分
の二酸化炭素を削減しなくてはならない。 これは現状の総排出量の一六%に当たる。 日本の物流分野の二
酸化炭素排出量が九〇年以降も増加したことで削減
率も拡大した。 しかも、トラック車両の約四分の一は
効率化が困難な建設用車両であることから、実質的
には物流分野で二〇%強を削減する必要がある。
これを受けて日本政府は二〇〇六年四月一日から
「改正省エネルギー法」を施行する。 これまで工場や
事業所を対象にしていた省エネ法を新たに物流分野に
も拡大する。 今後も物流分野の環境規制は強化され
ることが必至と目されている。 それを新たなコストア
ップ要因とするのか。 それともビジネスチャンスとし
て事業拡大に活かすのか。 グリーン・ロジスティクス
に対するアプローチとマネジメント能力がそれを左右
することになる。
リコーロジスティク
スの菅田勝経営管理
本部副本部長
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