ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年6号
特集
第1部 現場によって作業効率は3 倍違う

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

 本誌はこのたび、本誌読者および関係者を対 象に物流センターの運営実態に関するアンケート 調査を行い、一九三社・二九四拠点の有効回答 を得た。
その結果、庫内作業の生産性が高い上位 二〇%のセンターと、下位八〇%のセンターでは、 その生産性に五倍以上の開きのあることが分かっ た。
上位二〇%と全体の平均を比べても約三倍の 差があった。
 物流コストの約六割は人件費だ。
物流の競争力 は、労働力をどれだけ有効に活用しているかで決 まる。
荷主企業であれば、それが商品の価格競争 力に反映される。
3PLや物流会社ならダイレク トに会社の業績に結びつく。
戦略やビジネスモデル の選択以上に重要な経営要素といえる。
 ところがこれまで、物流現場の生産性は過去の 実績と比較するか、あるいは同じ会社の別の拠点同 士を比較するくらいしか、 その良し悪しを判断する 方法がなかった。
物流作 業は現場によって内容や条 件が大きく異なる。
同じ現 場であってさえ、その日 によって、注文によって、 処理に必要な労働力は違 ってくる。
 それでも広汎なデータを 収集することで、大まか な生産性の目安を得るこ とはできるはずだ。
そう した考えから、本誌は今 回の調査に先立ち二〇〇 八年五月号特集で同様の 調査報告を行っている。
そこでもやはり庫内作業 の生産性は現場によって三倍以上も違うという分 析結果が出ている。
 しかし前回の調査は、物流の労働生産性を測る 尺度を事前に詰め切れておらず、アンケートの設計 に不十分なところがあったことを認めざるを得な い。
その結果、良い現場とダメな現場にどの程度 の違いがあるのかを把握することはできても、そ こで算出された生産性の絶対値は、基準として使 うには信頼性が薄かった。
 その反省に立って今回の調査では、庫内作業員 が一人一時間当たりに処理した注文行数(注文伝 票の行数)を物流生産性の尺度として明確に位置 付け、その算出に必要な投入労働力(人時)およ び処理行数を正確に把握できるように設問を設計 した。
これによって以下に紹介する各種の絶対値 の信頼性は前回調査よりも大きく向上しているは ずだ。
■■一人一時間当たり処理行数  投入した生産要素(労働力その他のリソース)と 産出量の割合が生産性だ。
そのうち生産要素を労 働力だけに絞ったものを労働生産性と呼ぶ。
物流 センターにおいては現場の作業員数×時間が生産 要素、処理した仕事量(今回の調査では処理行数) が産出量になる。
そこで、その拠点の一日当たり の平均処理行数を、一日当たりの平均投入人時で 割って、一人一時間当たり処理行数を算出し、こ れを本誌では「物流生産性」とした。
 上の図1がその集計結果だ。
全体の平均値は二 一・八行だった。
これに対して生産性上位二〇% の拠点の平均値は六三・二行。
一人が一分間に一 JUNE 2010   12 現場によって作業効率は3 倍違う  “良い物流現場”では、作業員1人1時間当た り63.2行の注文を処理している。
その労働生産 性は標準的な現場の3倍、ダメな現場と比べると 5倍以上も高い。
現場によって庫内作業の効率に は決定的な違いがある。
図1 1人1時間当たり平均処理行数=物流生産性(全体) (行) TOP20外全体平均TOP20 21.8 63.2 11.9 特集 良い現場──物流生産性調査 2010 全体 平均 全体 平均 全体 平均 全体 平均 図2 業態別物流生産性 80 70 60 50 40 30 20 10 0 70.3 11.4 22.5 58.5 15.5 23.8 60.9 8.9 19.3 (行) 図3 納品先別物流生産性 80 70 60 50 40 30 20 10 0 29.2 3.4 13.3 19.0 5.9 8.7 73.4 30.1 39.0 TOP 20 TOP 20外 メーカー 全体 平均 TOP 20 TOP 20外 全体 平均 TOP 20 TOP 20外 卸売業小売り 全体 平均 (行) 35.9 11.4 16.3 TOP 20 TOP 20外 事務所/消費者宅 全体 平均 56.3 12.0 21.1 TOP 20 TOP 20外 その他及び混合 全体 平均 図4 拠点機能別物流生産性 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 58.9 11.7 21.3 12.2 32.8 55.1 9.9 19.4 (行) 108.1 TOP 20 TOP 20外 TOP 20 TOP 20外 TOP 20 TOP 20外 全体 平均 全体 平均 TOP 20 TOP 20外 TOP 20 TOP 20外 TOP 20 TOP 20外 製造業流通業物流業主に在庫型(DC) 主に通過型(TC) 混在型 行のペースで注文を処理している。
一方で生産性 下位八〇%の平均は十一・九件だから、およそ五 分間に一行だ。
 ピッキングや検品、梱包といった一つひとつの作 性を比較したのが図2だ。
一般に取引は流通の川 下に行くほど多頻度小口化する。
取引ロットが小 さくなり、注文処理数は多くなる。
フォークリフト を使ったパレット単位の入出庫と、バラモノのピー スピッキングでは一つの注文を処理する作業負荷も 違う。
そのため一人一時間当たりの処理行数で生 産性を測ると、製造業よりも流通業や物流業が有 利になると予想していたが、結果は必ずしもそう ならなかった。
それほど大きな差は出なかった。
■■納品先別生産性  そこで、拠点の運営会社の業態ではなく、その 拠点の主たる納品先別に生産性を計算したところ 図3のような結果となった。
主に卸売業に納品し ている拠点が一人一時間当たりの行数が最も少な く、小売業に納品している拠点が最も多かった。
両 者の絶対値には大きな差があった。
メーカーに納品 している拠点、また消費者宅や事務所に納品して いる拠点はその中間だった。
■■拠点機能別生産性  その拠点がピッキング作業の必要な保管型(D C)か、それとも在庫を持たずにクロスドッキング で荷合わせするだけの通過型(TC)かといった 機能によっても、物流生産性は当然ながら大きく 左右される。
そこで拠点の機能別に生産性を計算 したところ図4のような結果となった。
 これらの調査結果のうち自分の担当する拠点に 当てはまる属性を選んで、その属性の生産性デー タと実績数値を照らし合わせてみることで、現状 のパフォーマンスの水準を把握し、改善目標の目安 を得ることなどができるはずだ。
13  JUNE 2010 業時間に、そこまで大きな違いはないはずだ。
し かし、物流生産性には、手待ちになって作業員を 遊ばせている時間や在庫を探す時間、ミスを修正 する時間などが反映されている。
マテハンや情報 システムなど、労働力以外の生産要素の影響もあ る。
その結果として生じる生産性の差は、一般に 考えられている以上に大きいということだろう。
■■業態別生産性  製造業、流通業、物流業という業態ごとに生産

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