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JUNE 2010 28
「勝ち負け表」で現場の意識が一変
物流会社に日別の損益管理を導入すれば、
会社の収支は劇的に変わる。 それまでどんぶ
り勘定でやっていた分だけ効果が大きい。 経
費項目が他産業に比べて少ないため損益管理
もしやすい。 日々の損益管理さえしっかりや
れば、物流業はまだまだ儲かる。 私自身の実
務経験を通じて、そのことを確信している。
今日いくら儲かったのか。 物流会社の人間
は普通、全く分かっていない。 これは非常に
不健全な状態だ。 もともと私は物流とは全く
関係のない営業の仕事から物流業界に転じて、
最初は配車係になった。 貨物に車両をあてが
う作業を繰り返すばかりで、仕事にまったく
面白みがなかった。 自分のやっている仕事の
利益も効率もわからなかった。
営業マン時代には一定期間の売り上げノル
マが課され、自分の稼ぎの進捗もきっちり管
理するように訓練された。 それが待遇にも反
映された。 ところが配車係にはノルマがない。
どうすれば自分の稼ぎが増えるのかも分から
ないので仕事の意欲が沸かなかった。 目の前
にニンジンがなければ、やはり人は動かない
のだ。
その後、大手食品メーカーの物
流子会社に入社して管理者の立場
になり、親会社から来た経営陣と
も相談して営業の現場と同じよう
に運送現場に損益管理を導入する
ことにした。 日別配送実績表を車
両別に作成して損益を管理し、ドライバーの
給与に反映させる仕組みにしたのだ。
しかもドライバーごとの売り上げと固定費、
変動費を一覧表にして事務所の壁に張り出し
て公開した。 これで現場の意識が一変し、会
社の収支が大きく改善した。 自分の売り上げ・
利益を上げるために効率よく多くの配送をこ
なそうとする意識がドライバーに芽生えた。 前
向きに仕事に取り組む空気が現場に生まれ、皆
が競って仕事をするようになった。 そのため、
この一覧表は「勝ち負け表」と呼ばれた。
ドライバーの勝ち負け表を導入する上で重要
視したのは、毎日実績を出すということだ。 営
業マンであれば月初から中旬までの成績が悪く
とも、月末に大きな取引を成約させれば帳尻
を合わせられる。 しかし物流業は後からの追
い上げが利かない。 日々の積み重ねが勝負だ。
勝ち負けの結果は待遇だけでなく、配送ル
ートの割り当てにも反映させた。 貨物の種類
や納品場所の違いによって割のいいルートと、
そうではないルートがあることはドライバーな
ら皆が分かっている。 ルートの割り当てには
情実が入り込みがちで、それが原因で配車係
とドライバーとの間にトラブルが起こることも
しばしばだ。
そこで勝ち負け表で成績のいいドライバーか
ら順番に割のいいルートを割り振るようにした。
誰の目にも割り当ての基準が明らかであるた
め、配車係に対しても文句のつけようがない。
成績の悪いドライバーは給与も上がらず淘汰さ
れ、優秀なドライバーほど辞めなくなるという
効果もある。
こうした日次損益管理を運営する上でのポ
イントは、厳密さを求めるあまりに管理を煩
雑にし過ぎないことだ。 「運行三費(燃料費、
修理修繕費、タイヤ消耗費)」や高速代などの
項目は車両別の実績をそのまま使う必要があ
るものの、その他の管理費等の経費項目は大
まかな数字で構わない。
また各項目の数字はすべて概算値に統一す
る。 車両償却費、税・保険料などの固定費は
年間の金額を日割りにして予め入力しておき、
変動費の中でも価格が毎日のように変わる燃
料油脂費は、月間などの一定の期間で一定の
単価を決めてしまう。 タイヤ消耗費も年間の
タイヤ代と走行距離から一キロ当たりの金額を
出しておく。
あとは車両別の積載重量と配送件数、走行
距離、給油量、高速代などを入力するだけで
表が出来上がるように、エクセルなどの表計
算ソフトでフォーマットを作成すればいい。
その会社が複数の拠点を展開している場合
は、管理費の配分と計算フォーマットを統一し
て、各拠点の実績データを毎日本社にメールで
送信させる。 それを集計することで拠点単位
の損益と事業全体の損益を毎日管理できるよ
うになる。
庫内作業への導入には工夫が必要
ドライバーの管理だけでなく、物流センター
の庫内作業にも勝ち負け表は応用できる。 日々
の仕事をミスなく終えることがセンター長の
管理次第で物流業はまだまだ儲かる
黒澤明 ロジスティクス・サポート&パートナーズ 社長
特集 良い現場──物流生産性調査 2010
29 JUNE 2010
リア、パートのグループ単位が適している。
同じピッキングでもデジタルピッキングエリ
アとカートピッキングエリアでは生産性の水準
が異なり、それは個人の力量に関係なく決ま
っている。 また運送であれば、経費はドライ
バーの人件費のほかに燃料油脂費などさまざ
まな項目で構成される。 これに対してピッキン
グなどパートが行う作業の経費は人件費しかな
い。 それをダイレクトに時給に反映させると、
現場の和が乱れる。 あらぬ副作用を招く恐れ
があるので注意が必要だ。
このような物流現場における日々の損益管
理は、私が取り組みを始めた一九九〇年代には
他社では見たことがなかった。 しかし、「日々
決算」で有名なハマキョウレックスは既に実施
していたようだ。 その後、ハマキョウの取り
組みが広く知られるようになったことで、今
ではかなり一般化してきた。
その一方で、いまだにどんぶり勘定を続け
ながら、「儲からない」と嘆いている物流会社
の経営者も少なからず見受けられる。 昔なが
らの原価を積み上げ方式で料金を収受できる時
代ではないことを早く認識すべきだ。 (談)
くろさわ・あきら
学生時代に数々のベンチャービジネスに携わり、一九
八六年ICSサプライ入社。 法律事務所、会計事務所
向けOA機器・サプライ用品などの営業活動に携わる。
八九年関西定温運輸入社、九四年日本ハムの物流子会
社、日本フード物流の設立参画を経て、九七年物流コ
ンサルティング会社に入社。 同社取締役を経て、二〇
〇五年ロジスティクス・サポート&パートナーズを創業、
社長に就任。 六四年生まれ、大阪電気通信大学中退。
6 月1 日 6 月2 日 6 月8 日
月 火 月
累計
固定費合計
一般管理費
経費合計
損益
27,266
627
160
144
30
174
60
48
20
40
20
15
203
120
497
130
22,341
514
142
128
128
60
48
20
40
20
15
203
120
451
63
30,311
697
174
157
157
60
48
20
40
20
15
203
120
480
218
167,800
3,859
976
878
80
958
420
336
140
280
140
105
1,421
2,379
640
売上
変動費
固定費
出荷実績
物流売上
パート総人時
パート人件費
臨時雇用費
変動費合計
社員人件費
地代家賃
光熱費
システム償却
保守費用
その他費用
センター版。 日々の作成担当者は出荷実績とパートの総人時、臨
時雇用費のみを入力すればいいよう、書式を作っておく
1001
A
1002
B
1008
H
累計
87
22
4.0
1
1,800
23,000
6
90%
12.8
1,200
15,000
6
60%
12.5
3,000
38,000
12
75%
12.7
2
1,540
300
900
174
0
2,914
25,000
2,500
800
3,000
31,300
34,214
3,700
37,914
86
108
25
4.3
1,800
23,000
6
90%
12.8
1,200
15,000
6
60%
12.5
3,000
38,000
12
75%
12.7
2
1,750
0
900
216
0
2,866
25,000
2,500
800
3,000
31,300
34,166
3,700
37,866
134
89
23
3.9
1,800
23,000
6
90%
12.8
1,200
15,000
6
60%
12.5
3,000
38,000
12
75%
12.7
2
1,610
0
900
178
0
2,688
25,000
2,500
800
3,000
31,300
33,988
3,700
37,688
312
780
193
4.0
5
0
14,400
184,000
48
90%
12.8
9,600
120,000
48
60%
12.5
24,000
304,000
96
75%
12.7
16
13,510
1,500
7,200
1,560
0
23,770
200,000
20,000
6,400
24,000
250,400
274,170
29,600
303,770
230
車番
配送員
走行距離(km)
燃料給油(L)
燃費(km / L)
オイル給油(L)
高速代
配送重量(kg)
運送売上(円)
配送件数
積載率(%)
配送コスト( 円/kg)
配送重量(kg)
運送売上(円)
配送件数
積載率(%)
配送コスト( 円/kg)
配送重量(kg)
運送売上(円)
配送件数
積載率(%)
配送コスト( 円/kg)
配送便数(便)
軽油代金
オイル消耗費
修理修繕費
タイヤ消耗費
高速代
小計(円)
人件費
車両償却費
税・保険料
その他・運送費
小計(円)
日報入力欄1便2便総計変動費固定費
運送費合計
一般管理費
合計
損益
運送版。 日々の作成担当者は車両の売り上げ、走行距離、燃料給油、
オイル給油、高速代、配送重量、配送件数を入力するだけ。 コスト
と効率の指標も自動計算できるように工夫しておくと使い易くなる
日次損益管理表の一例
2010年6月1日
仕事だと考えている限り、生産性は上がらな
い。 日々の損益管理こそ管理者の仕事だ。 今
日は赤字で負けても明日はマイナスを縮小し、
明後日はプラスに持っていく。 そのためには、
やはり日別の損益管理が不可欠だ。
私が物流コンサルタントに転じたのは、その
効果に自信があったこともある。 実際、セン
ター運営のコンサルでも、現場管理に「勝ち
負け表」を導入することで大きな成果を上げ
ている。
ただし、物流センターへの導入は若干のカス
タマイズを必要とする。 運送とは違ってパート
一人ひとりの損益にまで落とし込むのは得策
ではない。 物流センターでの日次損益管理の
単位は、センター全体あるいはセンター内のエ
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