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JUNE 2010 76
マテハンの導入提案に疑問
� 甜劼鰐掌轍阿頬楴劼鮹屬�▲僖譽襯瓠璽��
で年商は約八五億円。 カテゴリーにおける市場
シェアは約二〇%で業界二位につけている。 納
品先は百貨店、量販店、ディスカウンター、食
品スーパーなどで、自社製品のほか卸機能も持
っている。
取扱アイテム数は年間平均で約四三〇〇。 ア
パレル製品はアイテムごとに色・サイズなどの
展開があるため、実際のSKUは膨大な数にな
る。 自社商品の大半は中国製で、委託先も含
め中国に三カ所の工場を構えている。
中国には検品・検針センターも設置している。
人手が多くかかる作業は中国国内で完結させ
て、地元の名古屋港に商品を輸入している。 名
古屋港に到着した後は、小牧にある物流センタ
ーに商品を持ち込み、そこで保管、仕分け、値
札付け、梱包、出荷を処理している。
そんなE社のK氏から弊社日本ロジファクト
リー(NLF)に連絡が入った。 「現在、ある
中堅3PLとセンター運営について協議を行っ
ているが、相手の対応が納得のいくレベルにな
い」という。
後日、K氏と直接面談することになった。 K
氏は中途採用でE社に入社してから二年目と、
まだ日が浅いこともあって、名刺の肩書きは企
画室の一般社員であったが、実際はE社の財務、
情報システム、物流の三分野を任されている改
革のキーマンであった。
� 甜劼魯�璽福軸覿箸如∪菎紊箸修梁�劼任�
る現社長が全ての意思決定を行っている。 K氏
はその側近として改革の陣頭指揮を執っていた。
K氏に肩書きがないのは、K氏および改革に対
する社内の軋轢を避けるためであり、また我々
コンサルタントのような社外の人間が、肩書き
の軽い担当者にどう接してくるのか、対応品質
をチェックする狙いもあったようだ。
そのK氏の説明によると、E社は現在、セン
ター運営の委託を前提に中堅3PLのP社との
協議を進めているのだが、先方からの提案内容
に満足できずにいるという。
その3PL、P社はE社に対して大規模なマ
テハンシステムの導入を提案していた。 しかし、
それが果たして必要なのかK氏には疑問だった。
また、その3PLはこれまで川上のメーカー物
流をメーンとしていて、販売物流、店舗配送の
実績がないことも不安だった。
しかし、別の3PLや物流会社に相談した
り、話し合いを持ったことはなかった。 もとも
とP社は、K氏が知人から紹介された会社だっ
事例で学ぶ
現場改善
日本ロジファクトリー
青木正一 代表
プロジェクトは既にスタートしていた。 センターの運営を委託
する3PLも決まっていた。 しかし、その3PLの提案にはど
うにも納得がいかなかった。 現場運営の実力にも疑問符が付い
た。 オーナー経営者と3PLの板挟みに悩むプロジェクトリーダ
ーが助け船を求めてきた。
アパレルE社の3PL導入失敗
第89 回
あおき・しょういち
1964年生まれ。 京都産
業大学経済学部卒業。 大手
運送業者のセールスドライ
バーを経て、89 年に船井
総合研究所入社。 物流開発
チーム・トラックチームチー
フを務める。 96年、独立。
日本ロジファクトリーを設
立し代表に就任。 現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/
e-mail:info@nlf.co.jp
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た。 K氏を窓口にP社の担当者をトップに紹介
したところ、すぐに意気投合し、今では互いに
認め合っているとのことであった。
最適なパートナーを見つけるためには、コン
ペを実施するのも一つの選択肢だと筆者はアド
バイスした。 K氏自身、そうあるべきだと強
く思っていた。 しかし、トップとP社担当者が、
がっちり握手してしまっている現状では、いか
にK氏といえども話を後戻りさせるのは困難な
ようであった。
� 仄劼魍阿垢海箸�任④覆ぐ幣紂��浪饉劼�
販売物流の実績がないという不安はどうにも解
消のしようがない。 それでも大規模なマテハン
システムの導入についてはまだ見直しをかけら
れる可能性があった。
� 甜劼離咼献優垢老酳未稜汎阿�腓④ぁ� 専用
センターであるため、設備を他社と共有するこ
ともできない。 そこに重装備のシステムを導入
すればコスト高につくのではないかとK氏は感
じていた。 的確な判断といえる。
� 忙瓩錬甜劼謀梢Δ垢訌阿泙之侏��世辰燭�
いう。 しかし、そうとは思えないほど物流につ
いて多くのことを学び、よく理解していた。 大
変な努力家でもあるのだろうが、会話のレスポ
ンスからK氏の地頭の良さ、切れが感じられた。
コンペなしでパートナー選択
なぜP社は大規模なシステム導入を提案して
きているのか。 K氏との会話を重ねるうちに、
その理由も分かってきた。 要はP社に現場運営
の自信がないのである。
現在、E社は自前でセンター運営を行ってい
る。 そこでは自動仕分け機やデジタル・ピッキ
ング・システムを活用した作業フローが出来上
がっている。 P社はその仕組みを新センターに
もそのまま移管しようとしているのだ。
それによって移管に伴うオペレーションの混
乱を最低限に抑えられる。 生産性の向上は、オ
ペレーションに慣れてきてから改善の手を入れ
ればいい。 既存センターは既に投資の償却も済
んでいるのでE社側に再投資の余地もある。
� 械丕未裡仄劼砲垢譴伉鶲篤睛討魘イι�廚�
ない案件であるため、それが最も安全なやり方
であるのは確かだろう。 しかし、それだけE社
はリスクを背負わされることになる。
このほかにも、もう一つK氏には懸念してい
ることがあった。 新センターの立ち上げ時の混
乱から軌道化までのプロセスと、その方法が見
えない、P社の説明が不明確だということであ
った。
これらの問題に対して我々NLFは次のよう
な実施項目をP社にアドバイスした。
1.「物流事業者評価表」を活用した
� 仄劼箸離譽戰襯�礇奪廚粒稜�
我々NLFが作成した「物流事業者評価表」
を使って、P社の実力を評価する(次頁表1)。
物流パートナーに求められる機能・能力を、コ
スト、品質、運営、システム面など七六項目か
ら評価してチェックする。 (ただし、これは本
来なら他のパートナー候補との実力の比較に用
いるツールであり、E社の場合はP社以外に候
補がいないため、その効果は限定的になる)
2.定期的な物流連絡会議の開催
正式な委託決定後は定期的な連絡会議を実
施する。 連絡会議は稼働の二カ月前から、テー
マ別にそれぞれ週一回のペースで開催する。 そ
こで互いの進捗状況、問題点と解決策、次回
までの準備事項などを決める。
立ち上げ二週間前からは毎日の始業前に、E
社、P社の現場責任者でミーティングを行う。 稼
働日以降もしばらくは毎日のミーティングを継
続し、その後は現場の安定状況を見ながら週一
回、月二回などの開催頻度に減らしていく。
軌道化が済んだ後も月一回の連絡会議は継続
し、互いの要望事項とその対応策、改善の進捗
状況、今後の予定(新規の納品先の発生、新
商品の投入時期など)を共有する。 これにはコ
ミュニケーションを深めるという一面もある。
3.立ち上げ時における応援体制
(人員、役割分担)の確認
新センターの立ち上げプロジェクトは稼働か
ら約一カ月半、四五日目までが勝負になる。 四
五日目までにどれだけの応援スタッフを投入す
ることができるのか。 そのスタッフに、何をや
ってもらうのか、その時のP社の現場リーダー
(旗振り役)は誰か。 その現場リーダーには、ど
んな経験があるのかなどを確認する。
4.情報システムの稼働時期の前倒し
一般にセンターの立ち上げに失敗する原因の
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八割は情報システムに起因している。 現場オペ
レーションの開始に先だって情報システムを稼
働させ、テストランの期間を設けることで、ト
ラブルの多くは回避できる。
今回のケースでは従来からE社が使用してき
たWMSをそのまま新センターでも利用するこ
とになるため大きなトラブルが発生する恐れは
低いが、P社側ではWMSの操作とピッキング
リストなど帳票類に対する?慣れ?が必要にな
るため、やはりテストランは必要だ。
5.物流管理指標の導入
現場の混乱収拾を経て、軌道に乗ってからは
物流管理指標に基づく業務の可視化(見える
化)を実施する。 適切な指標がなければ運営が
上手くいっているのかどうかも分からない。
ただし、物流管理指標は多くの種類を設定し
過ぎると実効性がなくなる。 具体的には生産性
の指標と、物流品質の指標をそれぞれ一つずつ
に絞り、そのデータを常に把握し、継続的に改
善サイクルを回していくというやり方が、最も
管理が容易で、効果も上げやすい。
そうアドバイスしたところK氏は、生産性の
指標を「一分当りピッキング行数」に、そして
品質の指標を「誤出荷率」に絞り、これをK
PI(重要業績評価指標)として導入するこ
とになった。
プロジェクトの誤算
これらの実施項目をプロジェクトと現場に反
映させるかたちでK氏はP社との協議を再開し
た。 これに伴い
E 社からトップ
ダウンでP 社に
内示書が渡され
た。 そこには「弊
社(E社)の要
望事項にP社が
対応できない場
合には、他の3P
L企業との商談、
交渉を開始する」
という一文が付
け加えられた。
それから二カ
月ほど経ったあ
る日、改めてK氏
から筆者に連絡
が入った。 内示書
の提示からずいぶんと日にちが空いているのに、
K氏から連絡がないことを、ちょうど気にし始
めた頃だった。
� 忙瓩諒鷙陲防�圓六廚錣瑳�魑燭辰拭� 「P
社がドロップアウトしてしまいました。 あらた
めて3PL導入の検討を最初からやり直すこと
になりました」という。
懸念事項の一つであった?大規模マテハンシ
ステム導入?について、E社は再検証もしない
まま方針を譲らなかった。 それに対してE社も
また代替案が出せなかった。
しかし、何と言っても大きかったのは、E社
のトップと意気投合したP社の担当者が突然、
退職してしまったことだったようだ。 すぐさま
後任者が就いたが今までの協議とのギャップが
あまりにも大きく、P社への委託を断念せざる
を得なかった。
これによってE社は大きく時間をロスしてし
まっただけでなく、社内に3PL導入に対する
トラウマまで残ってしまった。 もっと早くから
複数の3PLと折衝していれば、E社も最適な
パートナーを選定できたかもしれない。
この手のプロジェクトはやはりキックオフ時の
プロセス設計が大事だ。 プロジェクトの進め方を
誤まったことで、上手くいくはずの改革が頓挫し
てしまうことが、意外なほど多いのである。
表1 「物流事業者評価表」の例(部分)
評価の対象満点A 社B 社C社
評価
?提案内容の具体性・実現性
?物流品質指標
?視察倉庫での商品取り扱い状況
?サービスレベル
5 2 1 0
5 0 2 0
5 5 2 4
5 4 3 4
20 11 8 8
5 4 0 3
5 2 1 3
5 5 5 5
5 3 2 2
20 14 8 13
5 3 3 3
5 5 2 2
5 3 1 4
5 5 4 4
20 16 10 13
10 10 4 6
10 2 0 2
20 12 4 8
10 10 0 0
10 8 4 4
20 18 4 4
100 71 34 46
?倉庫内業務の提案内容の具体性・実現性
?配送業務の提案内容の具体性・実現性
?類似商品の取り扱い実績
?視察倉庫の運営状況
小計
小計
小計
小計
小計
合 計
?提案する倉庫の立地
?提案する倉庫のキャパシティ
?倉庫内作業場所・商品配置設計
?倉庫の清潔度、防塵対策
?提案内容の具体性・実現性
?障害時の対応能力
?見積もりの優位性
?今後の更なるコストダウンの可能性
内容
3. センター
設計
2. 業務運営
1. 業務品質
4. システム
5. コスト
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?物流品質指標の設定<注:目標値は設定例>
評価の対象指標項目
1. 在庫差異率?アイテム数
?金額
データ行数
納品先件数
内容指標の単位計算式目標
実地棚卸とコンピュータ上の商
品在庫数・金額との差異の割合
在庫として品揃えできている商
品の割合
在庫品のうち出荷当日に在庫が
なくなった商品の割合
出荷当日に出荷できなかった商
品の割合
出荷検品で品違い、数量相違、
出荷漏れが発見された商品の割
合
納品検品や顧客クレームにより
品違い、数量相違、出荷漏れが
発見された商品の割合
顧客の注文を間違って出荷の手
配を行った商品の割合
納品先を間違えて配送した配送
先件数の割合
約束の時間より一定の許容時間
以上前後して納品した配送先件
数の割合
2. ?ヒット率
?品切れ率
(在庫品)
?品切れ率
(全品)
3. ?誤出庫率
?誤出荷率
4. 誤受注率
5. 誤配送率
6. 遅納率
差異アイテム数(金額)/在
庫アイテム数(金額)×100
在庫商品のデータ行数/受注
データ行数×100
在庫品品切れ受注データ行数
/在庫品受注データ数×100
当日出荷データ行数/当日出
荷受注データ行数×100
誤出庫データ行数/受注デー
タ行数×100
誤出荷データ行数/受注デー
タ行数×100
誤受注データ行数/受注デー
タ行数×100
誤配送発生納品先件数/全配
送納品先件数×100
遅納発生納品先件数/全配送
納品先件数×100
?15%以下
?0.5%以下
85%以上
99%以上
84.15%以上
0.1%以下
0.02%以下
0.1%以下
0.02%以下
0.02%以下
センターの出荷精度を
評価する指標
品揃えの状況を
評価する指標
センターの出荷精度を
評価する指標
受注精度を評価する
指標
配送精度を評価する
指標
?物流作業効率指標の設定<注:目標値は設定例>
評価の対象指標項目
ピッキング効率データ行数
データ行数
円
内容指標の単位計算式目標
ピッキング担当者が一定時間内に
ピッキングを行う伝票行数
出荷データ行数/ピッキン
グ時間2行/分
─
─
要員の出荷効率を判断
する指標
エリア別
出荷効率
エリアごとの1人当たりの出荷数
量
出荷データ行数/エリア別
投下人員
エリア別の生産性を
判断する指標
対売上運賃比率ルート別の売上金額に占める支払
運賃の比率
ルート別支払運賃/ルート
別売上金額×100
ルート別の配送効率を
判断する指標
?その他指標の設定
在庫及びイレギュラー業務の発生状況を追跡する判断材料として、以下の指標を設定する<注:目標値は設定例>
評価の対象指標項目
商品別在庫日数個
アイテム数
納品先件数
納品先件数
データ行数
内容指標の単位計算式目標
商品別の直近3 カ月間の平均在庫
日数(金額ではない) 平均在庫数量/1日当たり
出荷数量
30 日
15%
現在の50%
現在の50%
現在の70%
─
─
商品別の在庫状況を
判断する指標
滞留在庫率
3カ月間出荷実績がないアイテ
ム数の全在庫アイテム数に占め
る割合
受注締め時間後に受注があった
納品先数。 納品先と担当セール
スを付記
当日の納品先変更や引取り対応、
宅配便への変更依頼が発生した
件数
全納品数に占める返品が発生し
た商品数量の割合。 納品先と
セールスを返品理由と共に付記
滞留在庫アイテム数/全在
庫アイテム数×100
返品データ行数/納品デー
タ行数 ×100
イレギュラーの発生状況
や営業力の強さを
判断する指標
時間外受注件数
?得意先別
?担当セールス別
出荷当日納品
方法変更件数
?得意先別
?担当セールス別
時間外受注件数
?得意先別
?担当セールス別
物流現場管理指標の設定
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