ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年11号
特集
環境物流で差をつけよう モーダルシフトの制約条件

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2005 16 モーダルシフトでCO 2 削減 「モーダルシフト」という言葉をご存じだろうか。
ト ラック中心の輸送形態(輸送モード)を、鉄道や船舶 を多用した輸送形態に切り替える(シフトする)こと を意味する。
物流マンの間ではすでに広く浸透しているキーワー ドであるが、一般社会での認知度はまだ低い。
ある物 流企業が施設見学に訪れた高校教師二〇人にヒアリ ングしたところ、モーダルシフトという言葉を知って いたのはわずか二人。
しかもその中身の詳細まできち んと説明できたのは一人だけだったという。
日本においてモーダルシフトという言葉が使われ始 めたのは八〇年代に入ってからだ。
鉄道や船舶は大量 一括輸送が可能であることから、八〇年代初めには省 エネの観点で、九〇年代初めには物流分野における労 働力不足の解消を目的に、モーダルシフトの必要性が 叫ばれたという経緯がある。
さらに九〇年代後半に入 ると、今度は環境対策という視点からモーダルシフト が再び脚光を浴びるようになった。
トラックに比べ、鉄道や船舶のCO2排出量は圧倒 的に少ない。
鉄道で「一トンの貨物を一キロメートル 輸送」する場合、CO2排出量はトラックの八分の一 程度に、船舶の場合は四分の一程度に抑制できると 試算されている( 図1)。
つまりモーダルシフトは地 球温暖化の原因の一つとされるCO2の削減に大きな 成果をもたらす取り組みとして、その進展に大きな期 待が寄せられているのだ。
九七年の「京都議定書」以降、企業の社会的責任 (CSR)として環境対策を強化してきた日本企業は、 物流部門におけるCO2削減策としてモーダルシフト に着手した。
例えば、日産自動車では九州工場までの 自動車部品輸送をトラックから鉄道に切り替えること で、年間約一五〇〇トンのCO2削減に成功。
同様に キヤノンは複写機の幹線輸送をトラックから鉄道にシ フトさせた(一八ページ記事参照)。
そして今年四月 からはトヨタ自動車が自動車部品の鉄道輸送を試験 的に開始するなど、日本を代表する企業が相次いでモ ーダルシフトを加速させている。
もっとも大手企業を中心としたモーダルシフト化の 機運は徐々に高まりつつあるものの、国全体としては 不十分と言わざるを得ない。
国土交通省がまとめてい る「モーダルシフト化率の推移」という指標がそのこ とを如実に物語っている。
輸送距離五〇〇キロ以上の雑貨輸送量のうち、鉄 道もしくは海運によって運ばれている輸送量の割合を 示すモーダルシフト化率は、平成一〇年度を境に悪化 の一途を辿っている( 図2)。
日本のモーダルシフト は進展するどころか、むしろ年を追うごとに後退して しまっているというのが実情だ。
「輸送キャパが足りない」 モーダルシフトが一向に進まないのには、いくつか 理由がある。
まず鉄道や内航海運は地震や台風といっ た災害に弱く、列車の運休や船舶の欠航が発生する リスクを常に抱えていることが大きなネックとなって いる。
例えば、鉄道では被災した地域を走行する列車 が数カ月にわたって運休となるケースが過去に何度も 発生しており、こうした輸送の不安定さを理由に、ト ラックからの切り替えに二の足を踏んでいる企業が少 なくない。
実際、日本貨物鉄道(JR貨物)のもとにも「旧 国鉄時代にはストライキの関係で運行がストップして しまうこともあった。
鉄道にはかつて痛い思いをさせ モーダルシフトの制約条件 環境対策としてトラック輸送を鉄道や内航海運に切り 替えるモーダルシフトに取り組む企業が増えている。
行政 もそれを後押ししている。
ところがマクロ的に見たときの モーダルシフト比率は逆に低下している。
補助金を餌に 利用を促すだけでは課題は解決しない。
(刈屋大輔) 第3部 17 NOVEMBER 2005 られた。
とにかく一度止まったら、なかなか動かない。
そんなイメージがいまだに払拭できない。
鉄道が環境 にやさしい輸送手段であることは十分承知しているが、 輸送の安定性が担保されない限り、トラックは輸送モ ードとして手放せない」という声がユーザーから寄せ られているという。
顧客から要求される物流条件は年々厳しい内容に なりつつある。
最近では遅延の発生などに対してペナ ルティーを課している企業も少なくない。
そのため 「環境対策」と「より安全で確実な輸送」を天秤にか けた場合、現状ではどうしても鉄道や内航海運ではな く、トラックに軍配を上げざるを得ないというのがユ ーザーたちの本音のようだ。
輸送のキャパシティーが不十分である点もユーザー にとっては高いハードルとなっている。
再び鉄道を例 に挙げると、東京〜大阪間や東京〜福岡間を走行す る使い勝手のいい時間帯の列車にはユーザーが殺到し、 輸送枠は常に埋まってしまっている状態にある。
トラ ックによる幹線輸送を鉄道に切り替えることを検討し ていながら、結局は輸送枠の確保がままならないため、 利用を断念するケースも少なくないという。
本来、需要に応じて列車の本数を増やすことができ れば、この問題は解消できるはずだ。
しかし、旅客会 社のレールを間借りしている立場にあるJR貨物には 列車数を自由に設定できる裁量が与えられていない。
「列車の長編成化などに取り組むことで、ユーザー のニーズに対応しようと努力はしているものの、輸送 力アップにはどうしても限界がある。
レールの問題で モーダルシフトの受け皿としての機能をきちんと果た せないでいることに歯がゆい思いをしている」(JR 貨物)という。
リードタイムもトラック輸送と比較すると見劣りす る。
列車の運行速度自体は早くても、末端輸送を含 めたドア・ツー・ドアのリードタイムは、トラックと 比較して半日から一日程度遅い。
スピードの求められ る荷物には事実上、対応できない。
バラマキ行政に対する批判 総合物流施策大綱では「二〇一〇年までにモーダ ルシフト化率を五〇%に引き上げる」という目標が掲 げている。
その達成の雲行きが怪しくなってきたのを 受けて、国土交通省はここ数年モーダルシフトを後押 しするための施策を矢継ぎ早に打ち出している。
昨年三月に発足した「モーダルシフト等促進協議 会」、そして同協議会を引き継ぐかたちで今年度に立 ち上がった「グリーン物流パートナーシップ会議」で は、民間企業が主導するモーダルシフトプロジェクト の一部に対して補助金を交付するなどの支援措置を 講じている。
もっとも、こうした国の施策がマクロ的なモーダルシフト化率の改善に結びつくのかどうかは未知数だ。
モーダルシフトは基本的にインフラ問題だ。
トラック 輸送を鉄道貨物や海上輸送に振り向けるには、国土 計画のレベルで施策を打つ必要がある。
民間企業の対 応には限界がある。
実際、行政の対応を当事者であるロジスティクスの 実務家たちは冷ややかな目で見ている。
あるメーカー の物流担当者は「カネをばらまけば済むという問題で はない。
国はモーダルシフトが一向に進まない理由を きちんと理解していない。
補助金というニンジンをぶ ら下げて、われわれの尻を叩くよりも、鉄道や内航海 運といったモーダルシフトの受け皿サイドに山積して いる諸問題の解決に取り組むことが先決だ」と指摘し ている。
NOVEMBER 2005 18 キヤノン 専用コンテナを開発 「グループ全体の連結売上高」を、「原材料の生産か ら製造・販売、顧客による使用および使用後のリサイ クル・廃棄までの全ライフサイクルにおいて直接的ま た間接的に排出される全CO2量」で割る。
それによ って算出される数値を二〇一〇年に二〇〇〇年比で 二倍以上にする――。
少し複雑だが、キヤノンではこ のような指標を用いて環境負荷の発生をコントロール している。
二〇〇四年時点での数値は一・三倍だった。
「当初 の予定よりも〇・一ポイント下回るペースで推移して いるものの、二〇一〇年の達成に向けて着実に環境 負荷を減らすことに成功している」(ロジスティクス プロジェクト推進部の山口雅史環境物流推進課長)と いう。
このような全社的な目標値とは別に、物流部門には 二〇〇六年までにCO2排出量を二〇〇〇年比で二 〇%削減するというミッションが与えられている。
こ れを受けて、物流部門は二〇〇二年に「ロジスティク ス環境対応ワーキンググループ」を設置し、環境対策 を本格的にスタートした。
具体的には?モーダルシフ トの推進、?輸送効率化(積載効率の向上)、?走行 距離の削減、?空車走行の削減、?包装の改善―― といった五つのテーマを中心に活動を進めていくこと になった。
?モーダルシフトの推進では、複写機などの製品を 全国の販社(キヤノン販売)に供給する販売物流の 領域で、幹線輸送をトラックから鉄道や船舶に切り替 える取り組みに着手した。
まず関東物流センター→福 岡物流センターおよび関東物流センター→札幌物流セ ンター間の長距離輸送をフェリーやRORO船にシフ ト。
続いて、関東物流センター→大阪物流センター、 関東物流センター→名古屋物流センター、近畿物流 センター→東京物流センター間を鉄道に切り替えた ( 図1参照)。
このうち船舶にシフトした区間のモーダルシフト化 率はスタート後すぐに八〇%を超えた。
ところが、鉄 道の区間、例えば関東物流センター→大阪物流セン ターのモーダルシフト化率はスタートからおよそ一年 間、四〇〜五〇%で推移するなど伸び悩みの状態が 続いた。
「JR貨物の五トンコンテナのサイズにマッ チしない製品もあり、そうした製品については積載効 率などの観点から、従来通りトラックでの輸送を余儀 なくされていたためだ」(ロジスティクスプロジェクト 推進部の竹谷隆部長)。
関東〜大阪は輸送量の最も多い区間である。
その 分、CO2の排出量も多い。
物流部門にとって、この 区間のモーダルシフト比率を高めることはCO2の削 減目標を達成するうえで欠かせない条件の一つとされてきた。
キヤノン製品の約八割は輸出用である。
そのため、 製品の梱包は海上コンテナの規格に基づいて設計され ている。
そしてこの梱包形態こそが鉄道へのモーダル シフトを妨げる要因となっていた。
JR貨物が用意す る三十一フィート型の鉄道コンテナ「エコライナー」 には収まらない製品群が少なくなかったからだ。
そこでキヤノンでは二〇〇三年に日本通運やJR 貨物と共同で「ビッグエコライナー」を開発した。
同 コンテナは「エコライナー」に改良を加えて内寸をよ り大きくしたものだ。
新たに用意したこの専用コンテ ナを導入することで、キヤノンは従来の梱包形態を維 持したままでの鉄道輸送を可能にした。
「ビッグエコライナー」を投入して以降、関東〜大 キヤノン――幹線輸送の脱トラック化を完了 日本通運――現場を公開して不安を解消 国全体としての普及こそ遅れているものの、大手企業 を中心にモーダルシフトの輪は着実に拡がりつつある。
先 進企業ではどのような取り組みが展開されているのか。
キ ヤノンと日通の事例を紹介する。
(刈屋大輔) 第3部モーダルシフトの限界 19 NOVEMBER 2005 阪間のモーダルシフト比率は一気に高まった。
現在、 その比率は七〇〜八〇%台で推移している。
さらに二 〇〇四年にはモーダルシフト比率が二〇%台と低迷し ていた関東〜名古屋間にも導入。
同区間のモーダルシ フト比率も五〇%台に引き上げることに成功している という。
日本通運 拡販キャンペーンを展開 「これを機に環境対策としてモーダルシフトに取り 組んでみませんか」 物流業界最大手の日本通運がここ数年、モーダル シフト営業を加速させている。
鉄道貨物輸送のフォワ ーディング部分を担う通運事業で国内取扱量トップを 誇り、さらに内航海運の分野では自社船を運航するな どモーダルシフトの受け皿としての機能が充実してい る同社は、二〇〇二年に「モーダルシフトキャンペー ン」をスタート。
全社を挙げてモーダルシフトの拡販 に乗り出している。
「モーダルシフトキャンペーン」は荷主企業の担当 者にモーダルシフトへの理解を促すとともに、鉄道や 内航海運の営業拡大を図ろうという試みだ。
キャンペ ーンは毎年二回、夏と冬にそれぞれ約二カ月間かけて 展開されており、今年の夏で七回目を迎えた。
現行の物流システムをモーダルシフト化することで、 どのくらいのCO2削減効果が期待できるのか。
それ を試算するには膨大な手間と時間を必要とする。
そこ で日通ではキャンペーン期間中に荷主企業に代わって 効果測定を行い、その結果を無料で提供するサービス を実施している。
モーダルシフトに踏み切るかどうか の判断材料の一つとして、荷主企業に役立ててもらっ ている。
このほか、キャンペーン期間中には鉄道と内航海運 の施設見学会も開催している。
鉄道の貨物駅ではどの ような荷役作業が行われているのか。
そしてRORO 船はどのような構造になっているのか。
荷主企業の担 当者にモーダルシフトの現場を自分の目で確かめても らうのが狙いだ。
「トラック中心の物流システムに慣れている荷主企 業の担当者に対して、いきなり鉄道や内航海運への移 行を提案しても理解は得られない。
まずはモーダルシ フトの実態を知ってもらうことに重点を置いている。
トラックに比べ貨物事故が発生するリスクが高いので はないかといった鉄道や内航海運に対する不安感やマ イナスイメージを少しずつ取り除いていくことがモー ダルシフト営業の第一歩だ」と作業管理部の長谷川 雅行専任部長は説明する。
施設見学会などを通じてモーダルシフトへの抵抗感 が和らいだ荷主企業に対し、日通では輸送トライアル の実施を提案している。
「実際にトラックから鉄道に 切り替えた場合でも輸送品質に問題がないことを確認してもらう」(通運事業部の齋藤直也専任部長)ため だ。
このステップをクリアしたら、いよいよモーダル シフトに向けた具体的な話し合いに入るわけだが、こ こからカットオーバーに漕ぎ着けるまでには半年以上 の歳月を要するという。
モーダルシフト営業を強化したことによる拡販効果 は大きい。
二〇〇五年上期の鉄道コンテナ取扱個数 は前年同期比二・九%増を記録した。
とりわけ三十 一フィート型コンテナ「エコライナー」の取り扱いが 伸びている。
一方、内航海運も「特に東京〜九州航 路が好調だ。
コンテナは三%増、トレーラーは二・五 倍に増えた。
増送分の多くはトラックから内航海運に シフトしてきた貨物だ」(海運事業部の久保雅和専任 部長)という。
キヤノンの 竹谷隆ロジスティクス プロジェクト推進部長

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