ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年7号
特集
第3部 ベストプラクティスの現場に学ぶ【安全輸送】パートの定着率維持に面談シート

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

応募をかけなくても人が集まる  「子供のことを主人に相談しても、話を聞いてく れないんです」  神奈川県を地盤とする物流会社、安全輸送の「川 崎センター」で、センター長が現場のパートや社員 と定期的に行っている個人面談では、仕事のこと はもちろんプライベートな内容にまで話の及ぶこと が少なくない。
悩み事を解決するためにセンター長 が個人的なことに口を出せるわけではない。
それ でも現場スタッフとのコミュニケーションを密にす ることを同社は最も重視している。
 同社の服部亮一常務取締役は「物流業ではスタ ッフが一堂に会する機会を設けることは不可能だ。
その分、センター長はスタッフに対して非常に細や かな気遣いをしなければならない」と語る。
 面談の頻度は期初、期中、期末の年三回以上。
事前に「面談シート」を配布し、記入内容に基づ いて実施する。
記入項目は、今の仕事に働きがい や充実感を感じるか、職場の人間関係で悩みはあ るか、上司に希望することは何か、仕事をする上 で知ってもらいたいことは何か、職場にどういう 改善を希望するか──など多岐にわたる。
 個人面談の効果もあって同社のスタッフの定着率 は非常に高い。
職場に不満があって辞める例は皆 無だという。
パート・アルバイトを増員する際も、 情報誌などで募集 をかけずとも既存 スタッフからの紹 介で人を集められ ることが多い。
退 職したスタッフの 復帰も珍しくない。
 安全輸送の創業は一九七二年。
当初はメーカー 貨物の輸送をメーンとしていたが、事業領域を川 下に広げていき、今では卸と小売りを主要荷主と した生鮮・加工食品、日用雑貨のセンター運営と 配送を得意としている。
保有車両台数は約四〇〇 台、拠点数は一七拠点。
 川崎センターでは中堅食品卸の酒類と加工食品 を取り扱うほか、食品包装資材メーカーの商品な どを受託している。
延べ床面積は一五〇〇坪、在 庫SKU数は約一万。
社員一六人、パート・アル バイト四三人が在籍している。
 納品先は大手スーパーや百貨店などの専用センタ ー一七カ所と店舗二〇〇軒。
庫内の業務フローは 納品先別に分かれており、それぞれ出荷時間も異 なるが、リードタイムは当日受注・当日出荷・当 日納品が大半を占める。
最も庫内リードタイムの短 い納品先には受注後約二時間で出荷するという厳 JULY 2010  30 パートの定着率維持に面談シート  泥臭い現場改善を積み重ねることで作業生産性を 3倍以上に向上させた。
性別、年齢の違いはもちろん、 パート、正社員などの雇用形態による区別も一切つ けず、現場のコミュニケーションに徹底して配慮する ことで高い定着率を誇っている。
それが事業の拡大 に結びついている。
          (梶原幸絵) 服部亮一常務取締役 取扱アイテム数 3万SKU 注文ロット ケース50 %、バラ50 % 1日当たり平均処理行数 2万4000行 1日当たり平均総労働時間 240人時 1人1時間当たり平均処理行数 100.0行 設備 ハンディ端末、WMS(パッケージ) 管理手法 5S、日別業務管理、ロケーション メンテナンスの頻度年4回以上 第 3部 ベストプラクティスの現場に学ぶ【安全輸送】 ※川崎センターの納品先のうちの一社の業務について回答 川崎センターの生産性の推移 (09 年7 月=1) 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 09 年 7 月 09年 8 月 09年 9 月 09年 1 0月 09年 11 月 09年 12 月 10年 1 月 10年 2 月 10年 3 月 10年 4 月 10年 5 月 しさだ。
 それでも高い順守率を維持している。
「特売情報 が事前に得られず、思わぬ物量の増加が発生する こともある。
そうした普通に考えれば無理な業務 でも二歩先、三歩先を考えてこなせる体制を築い ている。
当社に任せれば何でもできると言われる ように力量を上げてきた」と服部常務は胸を張る。
 限られた時間内で出荷を完了するため、職場環 境も含めた改善を繰り返し、人時生産性の向上に 努めてきた。
その一つが事務職の活用だ。
物量の 波動に対応するため、事務職にも現場作業のトレ ーニングを行い、忙しい時には応援を頼む。
 これによって事務作業における現場のバックアッ プもスムーズになるという効果がある。
実際に作業 を行うことで、客先から入ってくる情報が、現場作 業にどう影響するのか判断が可能になり、適切な 情報伝達や問い合わせを行うことができるという。
 現場では常に納品先別の作業の進捗率を館内放 送で流している。
計画に対して遅れがあれば、現 場リーダーが時間のかかる作業に能力の高いスタッ フを割り当てるといった調整を行う。
 作業動線を短縮するため庫内のレイアウトも工夫 している。
ピッキング用のラックはリードタイムの 厳しい納品先順に中央から配置。
ラック間の通路 は台車二台がすれ違うことができて、かつスペー ス効率に配慮したギリギリの幅に設定している。
 ラック内の商品のロケーションは出荷頻度を基準 としている。
「ヒット率」と呼ぶタッチ数で分けた カテゴリー別にロケーションを設定し、カテゴリー 内をメーカー別に分けている。
 バラ出荷商品の中でも荷姿の小さい商品は、納 品先の最低発注ロットに合わせた単位でビニール袋 などにまとめることで、ピッキングのスピードを上 げた。
数量間違いなどの誤出荷の防止にも役立っ ている。
 入荷しても特売などですぐに出荷する商品はラ ックに格納せず、入出荷バース近くに専用のロケー ションを設け、パレット積みのまま置く。
目印とし て出荷日を書いた白い紙を目立つように貼ってお き、ほかの商品と区別している。
目で見てわかる ことが管理の基本だ。
パートの正社員登用を推進  マテハンはハンディ端末とWMSが入っている程 度だ。
実は川崎センターは〇六年に開設したもの の、荷主の都合で昨年七月に現在の場所に移転して いる。
旧センターでは仕分けにソーターを利用して いたが、現センターへの移転に合わせて撤去した。
主にDC型で運営している川崎センターはソーター の稼働時間が短い。
そのためソーターの存在がコス ト効率・スペース効率を落としていると判断した。
 鮮度管理も人手で行っている。
各商品のロケー ションにロットごとの製造日や賞味期限日などを書 いた表を貼る。
WMS任せにせず、ロットごとに 作業者自身が手で表に書き、自分の目で見た方が 正確に管理できるという考えだ。
 こうした細やかな庫内運営について、安全輸送 の藤本良太トラスト事業部ロジスティクス担当次長 は「現状のすべてを疑ってかかることが重要だ。
現 状で満足せず、毎日改善を追求しなければならな い」と力を込める。
 センターの生産性の管理には、出荷行数などか ら算出した独自の指標を用いている。
各スタッフの 生産性も把握して改善に活用するとともに、月間 の総合ランキング表を張り出す。
するとゲーム感覚 の競争意識が働くという。
 パート・アルバイトと正社員の区別はしない。
パ ート・アルバイトから正社員への登用も積極的に行 っている。
アルバイトを経ていきなり副センター長 になった例もある。
性別や年齢などによる区別も 一切なく、多様な人材が集まっているという。
障 がい者も雇用している。
その人の特性に合った仕 事を割り振ることで健常者以上の生産性を発揮し ているという。
 現在の課題はパート・アルバイトの評価制度の構 築だ。
現状でも時給に幅は設けているが、明確に 制度化されていない。
このため、評価者の主観が 入らない、誰が見ても納得できる評価項目と基準 を検討している。
 川崎センターの生産性は旧センター時代も含めて 上昇し続けている。
現在の生産性は〇六年の開設 当初の三倍以上になっており、昨年七月の移転時 からでも三割以上向上している。
その効果の多く は作業料金を引き下げるというかたちで顧客に還 元している。
コスト削減の実績と柔軟な対応力が 口コミで広がり、新規顧客の獲得につながってい る。
31  JULY 2010 バラ商品の一部は最低注文ロットに 合わせてまとめている 庫内のレイアウトを工夫し、スペー ス効率を高めた 特集

購読案内広告案内