ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年7号
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「物流エンジニアリングは既に成熟した」サン物流開発 鈴木準 代表

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2010  4 用し始めましたが、欧州では日本よ りも一〇年以上も前から重量検品機 能を備え、しかもモーターで自走する ピッキングカートを使っていました」  「なかでもドイツやスウェーデンな どのマテハン先進国では、九〇年代 にロボットと呼ぶのに相応しい高度な マテハン機器が次々に開発されまし た。
ドイツの医薬品卸のHAGED A社は九二年にピッキングロボットと 補充ロボットを導入し高度な庫内シス テムを構築しました。
もっとも、この 設備は五年ぐらいで撤去されていま す。
フレキシビリティの欠如と能力不 足、マシントラブルが理由です」  「スウェーデンのボランタリーチェ ーンのICA社もやはり九二年に世 界最先端のシステムを構築しています。
パレット用の自動倉庫のスタッカーク レーンにピッキング装置を搭載し、ケ ースを自動ピッキングして、さらにそ のケースをカゴ車に自動的に積み込む システムです」  「このシステムはバーコードを一切 使用していませんでした。
ケースのサ イズと重量を計測して、重いケースが カゴ車の下に来るように計算してピッ キングする順番を決めていました。
し かし、この装置も数年で撤去されて います。
作業スピードが人手でやるの と大差なく、マシントラブルが多くて 時給八〇〇円に勝てるか ──依然としてマテハン機器市場が低 迷しています。
 「日本に限らず物流の設備投資は失 業率と反比例するという特徴があり ます。
それに加えて日本の場合は物流 現場への人材派遣や3PLの普及が マテハン投資を停滞させています。
い つでも安い賃金で人手が確保できる のなら、自動化設備に高いお金をか ける必要はないし、現場運営を3P Lに委託しているのであれば、投資 も含めて3PLに任せてしまえばい い。
荷主が自分で投資する必要はな い。
しかし3PLとしてはいつまで 続くか分からない仕事のために投資 するわけにはいかないので、結果と して物流投資が停滞してしまう」 ──庫内オペレーションの自動化は停 滞どころか後退している気さえします。
 「その時の景気や労働環境の影響で、 マニュアルと自動化の間を行ったり来 たりするのは、日本だけの傾向では ありません。
ピッキング装置でいえば、 米国では一九七〇年代には既に全自 動のピッキングロボットが稼働してい ました。
当時のロサンゼルスのエイボ ン化粧品のセンターで、小物の化粧 品がホルダーから切り出されて段ボー ル箱に自動的に投入されていく光景 を目にして、まるでSF映画を見て いるような気持ちになったことを覚え ています。
しかし投資金額があまり に大きく、ロボットが広く普及すると いうことにはならなかった」  「その後八〇年代に入ると?ピッ ク・トゥ・ベルト(コンベヤ)?と呼 ばれるタイプのピッキングシステムが 普及しました。
一ケースに一枚のラベ ルを事前に出力して、それをもとに 作業者が棚からケースをピッキングす る。
ピッキングしたケースにラベルを 貼って、コンベヤに乗せると後は自動 的に仕分けられるという仕組みです」  「しかし、これは従来のマニュアル ピッキングと人時生産性がほとんど変 わらず、コンベヤと仕分け機に多額 の投資を必要とすることから廃れて しまった。
それに代わったのが、ピ ッキングした商品をパレットやカート に積む昔ながらのピック・トゥ・パレ ットやピック・トゥ・カートですから、 ピッキング方式は先祖帰りしていった ことになります」 ──マテハン機器は米国より欧州が先 進国だと聞いていますが。
 「最近になって日本でも大手日用雑 貨品卸や生協のネットスーパーが重量 検品機能付きのピッキングカートを採 サン物流開発 鈴木準 代表 「物流エンジニアリングは既に成熟した」  マテハン機器の開発はその国の労働市場に大きな影響を受け る。
そのため従来は労働規制の厳しい欧州の先進国がこの分野 をリードしてきた。
しかしグローバル化によって労働市場の平準 化が進み、物流管理はエンジニアリング志向からソフト志向、そ してマネジメントに重心を移している。
  (聞き手・大矢昌浩) 5  JULY 2010 ランニングコストがかさんだことが理 由です」  「その後は欧州でも物流の設備投資 はいったん下火になりました。
これは 東側諸国の労働力が西側に入り込み、 また人件費の安い中国や東南アジア諸 国に拠点がシフトしていったことで失 業率が世界的に平準化されたことが 原因だと思います」  「ところが最近になって、ドイツで はまた自動化投資が復活しています。
昨年、ドイツの食品スーパー最大手 のEDEKAのセンターを視察したと ころ、総額二〇〇億円を投じてほと んど無人に近いシステムを構築してい ました。
現時点でメカ的には恐らく世 界一と言って良いセンターだと思いま す。
ただし、これはドイツの人件費 が日本より四割以上高いから成り立 荷検品と同時に、物流管理用のラベ ルを発行する。
そのラベルに従ってフ ォークリフトか、あるいはコンベヤで 商品を保管場所に格納する」  「ピースピッキングにはDPS(デジ タル・ピッキング・システム)か、端 末を搭載したカートで?摘み取り式? で行う。
あるいは自動仕分け機を使 って?種まき式?に仕分ける。
ケー スピッキングも自動仕分け機。
そして 仕分け済みの商品のバーコードをスキ ャンして出荷検品を済ませてトラック に積み込む」  「今や日米欧どこの国に行ってもこ のパターンで、WMSの仕組みも金太 郎飴的です。
今後はマネジメントに重 点が移っていく。
そこでは機械に過度 に依存せずに『人と道具とコンピュー タ』の統合を重視する日本型の物流 管理が世界をリードすることになるか も知れない。
百万分の一などという 必要以上の精度を求めることをやめ ればその可能性はあります」 っているわけで、同じやり方が日本 でも通用するとは限らない」 ──これからの日本におけるマテハン 投資をどう考えたら良いでしょう。
 「やはり第一にはコストです。
メン テナンスフィーも含めて、時給八〇 〇円のパートタイマーに対抗できる設 備でなくてはならない。
日本のパー トの作業精度は世界一優秀ですから、 これは容易なことではありません」  「また現状では投資は三年、長くて も五年で回収する必要があります。
そ して償却後も長く使う。
これまで日 本では税制上の理由もあって、せっか く導入したマテハン機器を七年で撤去 して、新しい機器に買い換えること が多かった。
それではもったない。
欧 米では自分でメンテナンスしながら二 十年近く使い続けるケースが珍しくあ りません」  「設備の稼働率の問題にもメスを入 れる必要があります。
欧米のセンター はどこも一日一六時間以上稼働して います。
ところが日本では一日八時 間以下のセンターが多い、それでは投 資を回収できない。
それを考えると やはり物流は設備投資まで含めて3P Lに任せ、荷主はマネジメントに集中 したほうが有効だという気がします」  「ただし、現状では3PLが自分の 判断でマテハンに投資し、それによっ て効率化が進んだとしても、その成果 をタダで荷主に持って行かれてしまう。
それでは3PLは投資しない。
そう ではなく、3PLが自分の責任で投 資して得た利益は認めてあげる。
コ ストが下がったからといって料金を叩 かない。
実際、私が荷主の物流部長 だった時は、そのことを約束して協力 会社に投資してもらいました。
それ によって3PLは儲けが増え、一方で 荷主は物流サービスや精度の向上を手 にすることができた」 今や業務フローは世界共通 ──荷主自身がマテハンやエンジニア リングについて把握しておく必要はあ りませんか。
 「もちろん荷主だって知っておいた ほうがいい。
しかし同時にマテハン機 器やエンジニアリングの技術が既に成 熟していることも頭に入れておくべ きです。
具体的には、まず入荷では 『ASN(事前出荷通知)』を利用す る。
事前に何が入って来るのか分かれ ば受入準備ができるし、事務処理も いらなくなる」  「以前は納品伝票を事務所で手入力 していたけれど、今ではASNを元 に無線付のハンディターミナルで入荷 した商品のバーコードを読み込むだけ で荷受けが済んでしまう。
そして入 すずき・じゅん 1933年、 東京生まれ。
58年、東京 経済大学商学部卒。
70 年、長崎屋入社。
物流部長、 電算部長、物流子会社社 長等を歴任。
92年に独立 してサン物流開発設立。
代 表に就任。
現在に至る。
こ れまでに国内外千カ所以上 のセンターを視察し、海外 のマテハン事情にも精通し ている。
写真左:ピック・トゥ・ ベルト(コンベヤ) 下:ピック・トゥ・カー ト 左:EDEKA社のセン ターに導入されたピッ キングロボット

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