*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
四年間の累積損失は四億ユーロ超
オランダに本社を置く3PL大手のCEV
Aロジスティクスが収益の低迷に苦しんでい
る。 同社は二〇〇六年に、イギリスの投資フ
ァンドのアポロマネジメントが、オランダ郵政
局を前身とするTNTからその3PL部門で
あるTNTロジスティクスを買収し、さらに
翌〇七年にアメリカの航空フォワーダーEG
Lを買収して、両社を統合して出来上がった
グローバル物流企業だ。
� 圍裡圓魯疋ぅ張櫂好函■妝丕咫▲侫Д妊�
クスと並ぶ国際インテグレーターの一つで、同
社にとってTNTロジは売上高のおよそ三分
の一を占める主要部門だった。 その売却を決
意したのは、3PL事業の利益率が国際宅配
便(エクスプレス)や郵便事業など他の事業
と比較して低いことが理由だった。
� 圍裡圓糧獣任浪未燭靴得気靴�辰燭里��
うか。 グローバル規模の3PL事業は十分な
利益を上げることができるのかどうか。 CE
VAの行方がその試金石になるとして業界の
注目を集めてきた。
これまでのところ、CEVAは、〇六年か
ら四年連続で最終赤字に陥っている。 四年間
の累積損失は四億ユーロ(四三六億円)を超
えている。 しかも、〇九年度は世界同時不況
の影響を被って売上高も大きく落としている
(図1)。
同社の〇九年度決算の数字を詳しく見ると、
売上高は前年比一五・二%減の五四億九四
〇〇万ユーロ(約六〇〇〇億円)、EBIT
DA(金利・税金・償却前利益)は同六八・
九%減の一億六四〇〇万ユーロ。 営業損益は
三三〇〇万ユーロの赤字で(前期は一億一二
〇〇万ドルの黒字)、最終損失は一億四〇〇
万ユーロ(前期は一億二五〇〇万ユーロの損
失)だった(図2)。
それでも同社のジョン・パタロCEO(最
高経営責任者)は、「これまで年率八%台の成
長を続けてきたロジスティクス業界が、世界
同時不況後の一年で前年と比べて十二%落ち
込んだ。 そうした厳しい状況のなか、当社は
成長と能力向上、コスト削減の三つを経営の
柱として取り組んできた。 たしかに〇九年度
第1四半期の業績は厳しかったが、その後は
底堅い業績を上げることができた。 また、経
英投資ファンドのアポロマネジメントが2006年に
オランダのTNTから3PL部門のTNTロジスティクス
を買収。 その翌年に米有力フォワーダーのEGLも買
収し、2社を統合してグローバル3PLとしての名乗り
を上げた。 しかし、業績は4年連続の最終赤字でま
だ一度も利益を上げていない。
M&A
蘭CEVAロジスティクス
TNTロジとEGLを統合し世界的3PLに
買収費用返済で業績は4年連続最終赤字
(注1) 2009年12月期の数字
企業概要本社 オランダ ホーフドルプ
社名 CEVAロジスティクス
創業 2006年
代表者 ジョン・パタロCEO
売上高 54億9400万ユーロ(5988億4600万円)
最終損益 1億400万ユーロ(152億6000万円)
従業員数 4万6246人
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
(単位:百万ユーロ)
図1 � 達釘孱舛龍叛咾凌箘�
3,340
▲21
0
-50
-100
-150
-200
5,494
6,329
6,298
3,486
▲104
▲125
▲196
05 年06 年07 年08 年09 年
売上高
最終損益
49 JULY 2010
済全体も〇九年後半から緩やかながら回復の
兆しを見せている」と楽観的な見通しを述べ
ている。
一方、ルービン・マクドゥーガルC F O
(最高財務責任者)は、〇九年度は「経済が厳
しい局面だったので、フリー・キャッシュフ
ローの確保に努めた」と説明する。 実際、同
社のフリー・キャッシュフローは、売掛金を
大幅に圧縮することで〇八年度末の一億六四
〇〇万ユーロから、〇九年度末は二億八九〇
〇万ユーロに増加している。
一〇年度に入ってから業績は回復基調にあ
る。 一〇年度第1四半期の売上高は一四億
八八〇〇万ユーロで前年同期比一四・三%
増加した。 ただし、いまだに損益は生み出せ
ていない。 税引き前利益は七六〇〇万ドルの
赤字(前期は八二〇〇万ドルの赤字)となっ
ている。
この業績を見る限り、TNTロジスティク
スを売却し3PL事業から撤退したTNTの
判断は正しかったように思える。 しかし、C
EVAの見解は異なる。 同社が利益指標とし
て重視しているのは、「特殊要因を除いたE
BITDA」だ。 これはリストラ費用や買収
費用といった一過性の費用を除いたEBIT
DAを指す。
〇九年のCEVAの「特殊要因を除いた
EBITDA」は、二億三〇〇〇万ユーロの
黒字だった。 売上高比率で四%を超えている。
〇六年度以降の決算を振り返っても「特殊要
因を除いたEBITDA」をベースにすれば
四年連続で黒字を計上している。 そのことを
もってCEVAは、「企業経営は順調だ」と
説明している。
このCEVAの主張にも一定の説得力はあ
る。 CEVAの経営の大きな足枷となってい
るのは支払利息だ。 年間一億〜二億ユーロ台
の利息を支払っている。 〇九年度決算では、
受取利息が二億ユーロ近くあったため、支払
利息のマイナスの影響が大きく相殺されたが、
〇八年度は三億ユーロ近くの利息を支払い、
受取利息との差額である「総金融収支」が二
億五〇〇〇万ユーロ超の赤字となっている。
なぜこれだけ金利負担が重いかといえば、
親会社であるアポロマネジメントが、TNT
ロジを買収した際、その買収費用をCEVA
の負債として計上したためだ。 これにより、
CEVAの総負債(Net Debt:有利子負債か
ら現金及び現金同等物を引いたもの)は、一
気に二倍以上の二億四〇〇〇万ユーロ近くに
まで膨れ上がった。 つまり、CEVAは親会
社であるアポロに利子を支払った上に、負債
を返済しながら、さらに利益を生み出すこと
を求められているのだ。
こうした諸条件をクリアして、最終利益を
上げるためには、同社が経営を判断する指標
とする「特殊要因を除いたEBITDA」で、
売上高の一〇%を上げる必要がある。 3PL
業界の営業利益率の平均が五%前後といわれ
る現状では非常に高いハードルといえる。
TNTの決断の背景
� 圍裡圓�圍裡團蹈犬稜箋僂魴茲瓩燭里蓮�
五年十二月のことだった。 同社が発表した中
期戦略には三つの柱があった。 一つは国際宅
配事業と郵便事業という二つのネットワーク
ビジネスの強化、もう一つは3PL事業の売
却、三つ目は一〇億ユーロ規模の株の買い戻
しだ。
景気が拡大局面にあった当時、同業の米
UPSと米フェデックスがTNTの買収に動
いているという憶測記事が何度も流れていた。
TNTを手に入れることで米国勢はヨーロッ
図2 2009 年度決算
売上高 54 億9400 万ユーロ -15.2%
コントラクト・ロジスティクス(3PL)部門 31 億3900 万ユーロ -10.3%
フレイト・マネジメント部門 23 億5500 万ユーロ -21.6%
営業経費 53 億3000 万ユーロ -13.5%
材料費 2 億8100 万ユーロ -23.1%
外部委託費 24 億7100 万ユーロ -24.3%
人件費 17 億1200 万ユーロ -5.3%
その他の出費 8 億6600 万ユーロ 4.0%
特殊要因を除いたEBITDA 2 億3300 万ユーロ -39.9%
EBITDA 1 億6400 万ユーロ -68.9%
減価償却費用 1 億9700 万ユーロ 16.2%
無形資産を除いた減価償却費用 1 億1400 万ユーロ 21.1%
無形資産の購入の減価償却費用 8300 万ユーロ 9.6%
営業利益 ▲3300 万ユーロ ─
総金融収支 ▲3600 万ユーロ ─
受取利息 1 億9600 万ユーロ 77.0%
支払利息 2 億3200 万ユーロ -28.4%
税引き前利益 ▲6900 万ユーロ ─
法人税 3500 万ユーロ ─
最終利益 ▲1 億400 万ユーロ ─
JULY 2010 50
パのネットワークを一気に構築できることに
なる。 これに対して事業規模で他の国際イン
テグレーターに劣るTNTが買収対抗策とし
て打ち出したのが、先の中期戦略だった。 つ
まり、3PL事業を売却し、その売却益で株
を買い戻して、株価の高値を維持しようとし
たのだった。
� 圍裡圓砲蓮�餾歛霰柯�腓藩絞愽�隋�
それに3PL部門があった。 売却前の〇四年
のそれぞれの営業利益率は、国際宅配部門が
約七%、郵便部門が二一%台、3PL部門
が二%台で、3PL部門の利益率の低さが目
立っていた。 また〇三年に至っては、3PL
部門は赤字に陥っていた。
お荷物となっている3PL部門を抱えたま
までは、そのうち他社に買収されてしまうと
TNTは懸念した。 本誌が〇七年に同社を取
材した際、ピーター・バン・ローベン戦略担
当部長(当時)はこう話している。
「3PL部門の利益率は、国際宅配部門や
郵便事業と比べて非常に見劣りがした。 それ
に加え、3PL事業者は当社が得意としてき
たネットワーク作りのノウハウを生かすことも
できない。 TNTロジスティクスは一〇〇〇
社以上の荷主企業の業務を引き受けていたが、
これは3PL部門の中に一〇〇〇社の独立し
た小さな会社を抱えているのと同じことだっ
た。 当社にとって3PL部門の売却は、当然
の結論だった」
� 圍裡圓錬械丕棉�腓稜箋僂琉娶�鯣�修�
もう一つ必要だったのは、ネットワークの
強化だ。 立ち上げ当時、CEVAは三〇カ国
に約五七〇カ所の拠点を持ち、従業員は三万
八〇〇〇人強だった。 売上高は三五億ユーロ
に上っていた。
しかし売り上げの三分の二はヨーロッパに
集中していた。 CEVAが強かったのはイタ
リアやイギリスを中心とするヨーロッパで、ネ
ットワークに欠けていた。 TNTは〇六年に
TNTロジを売却する前に、フォワーディン
グ部門をUPSに売却している。 そのため各
国に物流センターがネットワーク化されないま
ま点在する状態となっていた。
るとすぐに証券会社のゴールドマンサックスに
依頼して、コンペを開催した。 複数の投資フ
ァンドが名乗りを上げた結果、九カ月後の〇
六年八月、イギリスに本社を置くアポロマネ
ジメントが約一五億ユーロで買収することと
なった。
� 圍裡圓蓮△海稜箋儕廚鮖箸辰銅�匈瑤稜�
い取りを行った。 その結果、株価は大幅に上
昇した。 この時以来、UPSやフェデックス
がTNTを買収するという話も立ち消えとな
り、同社はドイツポストDHLを含めた四大
インテグレーターとしての足場を固めた。
米有力フォワーダーを追加買収
アポロは、TNTロジスティクスを買収し
てCEVAロジスティクスに社名変更をする
と、二つの大きな決断を下した。 一つは経営
トップの交代で、もう一つはアメリカのフォワ
ーダーであるEGLの買収だった(図3)。
アポロは〇七年に入り、それまでTNTロ
ジのCEOだったディーブ・クリック氏に代
えて、ジョン・パタロ氏を新たなCEOに指
名した。 パタロ氏は、P&Gで三〇年間働
き、サプライチェーン担当の副社長を務めた
後、〇五年にイギリスのエクセル(現在のDH
Lサプライチェーン・ソリューションズ)に転
じて、ヨーロッパ・中東・アフリカ部門(E
MEA)のCEOを務めていた。 パタロ氏が
荷主企業で培ったバックグラウンドが、新生
CEVAには欠かせないとアポロは判断した。
図3 CEVAの略史
1946 年
オーストラリアでTNT創業
1996 年
オランダ国営郵便局KPNが
TNTを買収
1998 年
社名をTNTポストに変更
2006 年
アポロマネジメントがTNTのロジ
スティクス部門を買収。 CEVA
ロジスティクスに社名変更
1984 年
アメリカでイーグルUSAエアフレ
イト創業
1995 年
株式公開
2000 年
サークル・インターナショナルを
買収。 社名をEGLに変更
2007 年
アポロがEGLを買収してCEVAに組み
入れる。 J・パタロ氏がCEOに就任
2008 年
CEVAがイタリアでSPEDIMACとトル
コのトランジィタリアを買収
TNTロジスティクスEGL
CEVA
51 JULY 2010
での三〇億ユーロ台から、一気に六〇億ユー
ロ台に倍増した。
現在のCEVAは、3PL事業(コントラ
クト・ロジスティクス部門)とフォワーディン
グ事業(フレイト・マネジメント部門)の二
つを柱としている。 売上高比率では3PL事
業の五七%に対して、フォワーディング事業
が四三%だ。
� 達釘孱舛倭汗こΔ髻崙酲魅▲瓮螢�廖◆嵋�
ヨーロッパ」、「南ヨーロッパ&中東&アフリ
カ」、「アジア太平洋」の四つのブロックに分
けて管理しており、売上高もほぼ均等に分か
れている。 収益的にもEBITDAベースで
は、四地域のいずれも黒字を計上している。
荷主の産業別の売り上げ構成比をみると、
?自動車二八%、?テクノロジー二四%、?
小売り・日用雑貨一七%、?製造業一四%、
?エネルギー五%││となっている。 これ以外
にも、宇宙航空産業、ヘルスケア産業、出版
産業においてもサプライチェーンを最適化する
ノウハウを持っていると同社は謳っている。
主な荷主は、
■自動車:ゼネラルモーターズ、フォード・
モーター、マツダ、ルノー
■テクノロジー:サムスン電子、ベライゾン
(Verizon)、LGエレクトロニクス
■小売り・日用雑貨:プロクター&ギャンブ
ル、英セインズベリー
■製造業:リコー、フィリップスエレクトロ
ニクス、グッドイヤー
■エネルギー:英EDFエネルギー・ネット
ワークス
││などとなる。
主要荷主一〇〇社を囲い込み
一〇年度の重点施策として同社は四つの戦
略を掲げている。 一つは〇八年に始めた「セ
ンチュリー・プログラム」の拡大だ。 同社の役
員会が選んだ既存荷主主要一〇〇社に対する
取引を地域ごと製品ごとに広げてゆき、荷主
のサプライチェーン・コストの半分以上の取
引を獲得することを目指すプログラムだ。 そ
のために3PL部門とフォワーディング部門
を有機的に結び付けてセールスを行うことが
必要だとしている。
二番目は、海上貨物の取り込みだ。 EG
Lが航空フォワーディング主体であったため、
CEVAはこれまで十分に海上貨物を取り込
めていなかった。 それだけ海上貨物事業には
大きなチャンスが残されていると考えている。
三番目は、新しい得意分野の開発だ。 既存
の荷主企業だけでなく、これまで手掛けてこ
なかった産業の荷主を取り込むことで売上高
の拡大を図る。
そして最後がコスト削減だ。 〇九年度には、
業務の最適化や人員削減、管理職の賃上げ凍
結などによって、一億二五〇〇万ユーロのコ
スト削減を達成した。 一〇年度も引き続き一
層のコスト削減に取り組んでいくという。
(横田増生)
そこでCEVAは〇七年に、アメリカの航
空フォワーダーである「EGL」の買収に動い
た。 買収金額は約二〇億ドルだった。 (この買
収金額はCEVAの負債とはなっていない)。
� 釘韮未枠�伺�紊縫謄⑤汽構�劵紂璽好�
ンで「イーグルUSAエアフレイト」として
創業し、一九九〇年代にナスダック市場に上
場を果たしていた。 買収前の〇六年の決算で
は、三二億ドル超を売り上げ、五六〇〇万ド
ルの最終利益を上げていた。
� 釘韮未惑箴綛發力山箒瓩�鯔綿道埔譴脳�
げていた。 同社を買収することで、CEVA
はヨーロッパに偏重していたネットワークを大
幅に強化することができた。 売上高もそれま
図4 地域別の売上高
事務所
代理店
《南北アメリカ》
売上高 16 億800 万ユーロ
従業員 19,121 人
《北ヨーロッパ》
売上高 13 億8800 万ユーロ
従業員 12,202 人
《アジア太平洋》
売上高 12 億3900 万ユーロ
従業員 9,397 人
《南ヨーロッパ、中東&アフリカ》
売上高 12 億5900 万ユーロ
従業員 5,526 人
換算レート:1ユーロ= 109円
|