ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年7号
特集
蘭CEVAロジスティクス M&A

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

四年間の累積損失は四億ユーロ超  オランダに本社を置く3PL大手のCEV Aロジスティクスが収益の低迷に苦しんでい る。
同社は二〇〇六年に、イギリスの投資フ ァンドのアポロマネジメントが、オランダ郵政 局を前身とするTNTからその3PL部門で あるTNTロジスティクスを買収し、さらに 翌〇七年にアメリカの航空フォワーダーEG Lを買収して、両社を統合して出来上がった グローバル物流企業だ。
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圍裡圓魯疋ぅ張櫂好函■妝丕咫▲侫Д妊� クスと並ぶ国際インテグレーターの一つで、同 社にとってTNTロジは売上高のおよそ三分 の一を占める主要部門だった。
その売却を決 意したのは、3PL事業の利益率が国際宅配 便(エクスプレス)や郵便事業など他の事業 と比較して低いことが理由だった。
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圍裡圓糧獣任浪未燭靴得気靴�辰燭里�� うか。
グローバル規模の3PL事業は十分な 利益を上げることができるのかどうか。
CE VAの行方がその試金石になるとして業界の 注目を集めてきた。
 これまでのところ、CEVAは、〇六年か ら四年連続で最終赤字に陥っている。
四年間 の累積損失は四億ユーロ(四三六億円)を超 えている。
しかも、〇九年度は世界同時不況 の影響を被って売上高も大きく落としている (図1)。
 同社の〇九年度決算の数字を詳しく見ると、 売上高は前年比一五・二%減の五四億九四 〇〇万ユーロ(約六〇〇〇億円)、EBIT DA(金利・税金・償却前利益)は同六八・ 九%減の一億六四〇〇万ユーロ。
営業損益は 三三〇〇万ユーロの赤字で(前期は一億一二 〇〇万ドルの黒字)、最終損失は一億四〇〇 万ユーロ(前期は一億二五〇〇万ユーロの損 失)だった(図2)。
 それでも同社のジョン・パタロCEO(最 高経営責任者)は、「これまで年率八%台の成 長を続けてきたロジスティクス業界が、世界 同時不況後の一年で前年と比べて十二%落ち 込んだ。
そうした厳しい状況のなか、当社は 成長と能力向上、コスト削減の三つを経営の 柱として取り組んできた。
たしかに〇九年度 第1四半期の業績は厳しかったが、その後は 底堅い業績を上げることができた。
また、経  英投資ファンドのアポロマネジメントが2006年に オランダのTNTから3PL部門のTNTロジスティクス を買収。
その翌年に米有力フォワーダーのEGLも買 収し、2社を統合してグローバル3PLとしての名乗り を上げた。
しかし、業績は4年連続の最終赤字でま だ一度も利益を上げていない。
M&A 蘭CEVAロジスティクス TNTロジとEGLを統合し世界的3PLに 買収費用返済で業績は4年連続最終赤字 (注1) 2009年12月期の数字 企業概要本社 オランダ ホーフドルプ 社名 CEVAロジスティクス 創業 2006年 代表者 ジョン・パタロCEO 売上高 54億9400万ユーロ(5988億4600万円) 最終損益 1億400万ユーロ(152億6000万円) 従業員数 4万6246人 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 (単位:百万ユーロ) 図1 �
達釘孱舛龍叛咾凌箘� 3,340 ▲21 0 -50 -100 -150 -200 5,494 6,329 6,298 3,486 ▲104 ▲125 ▲196 05 年06 年07 年08 年09 年 売上高 最終損益 49  JULY 2010 済全体も〇九年後半から緩やかながら回復の 兆しを見せている」と楽観的な見通しを述べ ている。
 一方、ルービン・マクドゥーガルC F O (最高財務責任者)は、〇九年度は「経済が厳 しい局面だったので、フリー・キャッシュフ ローの確保に努めた」と説明する。
実際、同 社のフリー・キャッシュフローは、売掛金を 大幅に圧縮することで〇八年度末の一億六四 〇〇万ユーロから、〇九年度末は二億八九〇 〇万ユーロに増加している。
 一〇年度に入ってから業績は回復基調にあ る。
一〇年度第1四半期の売上高は一四億 八八〇〇万ユーロで前年同期比一四・三% 増加した。
ただし、いまだに損益は生み出せ ていない。
税引き前利益は七六〇〇万ドルの 赤字(前期は八二〇〇万ドルの赤字)となっ ている。
 この業績を見る限り、TNTロジスティク スを売却し3PL事業から撤退したTNTの 判断は正しかったように思える。
しかし、C EVAの見解は異なる。
同社が利益指標とし て重視しているのは、「特殊要因を除いたE BITDA」だ。
これはリストラ費用や買収 費用といった一過性の費用を除いたEBIT DAを指す。
 〇九年のCEVAの「特殊要因を除いた EBITDA」は、二億三〇〇〇万ユーロの 黒字だった。
売上高比率で四%を超えている。
〇六年度以降の決算を振り返っても「特殊要 因を除いたEBITDA」をベースにすれば 四年連続で黒字を計上している。
そのことを もってCEVAは、「企業経営は順調だ」と 説明している。
 このCEVAの主張にも一定の説得力はあ る。
CEVAの経営の大きな足枷となってい るのは支払利息だ。
年間一億〜二億ユーロ台 の利息を支払っている。
〇九年度決算では、 受取利息が二億ユーロ近くあったため、支払 利息のマイナスの影響が大きく相殺されたが、 〇八年度は三億ユーロ近くの利息を支払い、 受取利息との差額である「総金融収支」が二 億五〇〇〇万ユーロ超の赤字となっている。
 なぜこれだけ金利負担が重いかといえば、 親会社であるアポロマネジメントが、TNT ロジを買収した際、その買収費用をCEVA の負債として計上したためだ。
これにより、 CEVAの総負債(Net Debt:有利子負債か ら現金及び現金同等物を引いたもの)は、一 気に二倍以上の二億四〇〇〇万ユーロ近くに まで膨れ上がった。
つまり、CEVAは親会 社であるアポロに利子を支払った上に、負債 を返済しながら、さらに利益を生み出すこと を求められているのだ。
 こうした諸条件をクリアして、最終利益を 上げるためには、同社が経営を判断する指標 とする「特殊要因を除いたEBITDA」で、 売上高の一〇%を上げる必要がある。
3PL 業界の営業利益率の平均が五%前後といわれ る現状では非常に高いハードルといえる。
TNTの決断の背景  �
圍裡圓�圍裡團蹈犬稜箋僂魴茲瓩燭里蓮� 五年十二月のことだった。
同社が発表した中 期戦略には三つの柱があった。
一つは国際宅 配事業と郵便事業という二つのネットワーク ビジネスの強化、もう一つは3PL事業の売 却、三つ目は一〇億ユーロ規模の株の買い戻 しだ。
 景気が拡大局面にあった当時、同業の米 UPSと米フェデックスがTNTの買収に動 いているという憶測記事が何度も流れていた。
TNTを手に入れることで米国勢はヨーロッ 図2 2009 年度決算 売上高 54 億9400 万ユーロ -15.2% コントラクト・ロジスティクス(3PL)部門 31 億3900 万ユーロ -10.3% フレイト・マネジメント部門 23 億5500 万ユーロ -21.6% 営業経費 53 億3000 万ユーロ -13.5% 材料費 2 億8100 万ユーロ -23.1% 外部委託費 24 億7100 万ユーロ -24.3% 人件費 17 億1200 万ユーロ -5.3% その他の出費 8 億6600 万ユーロ 4.0% 特殊要因を除いたEBITDA 2 億3300 万ユーロ -39.9% EBITDA 1 億6400 万ユーロ -68.9% 減価償却費用 1 億9700 万ユーロ 16.2% 無形資産を除いた減価償却費用 1 億1400 万ユーロ 21.1% 無形資産の購入の減価償却費用 8300 万ユーロ 9.6% 営業利益 ▲3300 万ユーロ ─ 総金融収支 ▲3600 万ユーロ ─ 受取利息 1 億9600 万ユーロ 77.0% 支払利息 2 億3200 万ユーロ -28.4% 税引き前利益 ▲6900 万ユーロ ─ 法人税 3500 万ユーロ ─ 最終利益 ▲1 億400 万ユーロ ─ JULY 2010  50 パのネットワークを一気に構築できることに なる。
これに対して事業規模で他の国際イン テグレーターに劣るTNTが買収対抗策とし て打ち出したのが、先の中期戦略だった。
つ まり、3PL事業を売却し、その売却益で株 を買い戻して、株価の高値を維持しようとし たのだった。
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圍裡圓砲蓮�餾歛霰柯�腓藩絞愽�隋� それに3PL部門があった。
売却前の〇四年 のそれぞれの営業利益率は、国際宅配部門が 約七%、郵便部門が二一%台、3PL部門 が二%台で、3PL部門の利益率の低さが目 立っていた。
また〇三年に至っては、3PL 部門は赤字に陥っていた。
 お荷物となっている3PL部門を抱えたま までは、そのうち他社に買収されてしまうと TNTは懸念した。
本誌が〇七年に同社を取 材した際、ピーター・バン・ローベン戦略担 当部長(当時)はこう話している。
 「3PL部門の利益率は、国際宅配部門や 郵便事業と比べて非常に見劣りがした。
それ に加え、3PL事業者は当社が得意としてき たネットワーク作りのノウハウを生かすことも できない。
TNTロジスティクスは一〇〇〇 社以上の荷主企業の業務を引き受けていたが、 これは3PL部門の中に一〇〇〇社の独立し た小さな会社を抱えているのと同じことだっ た。
当社にとって3PL部門の売却は、当然 の結論だった」  �
圍裡圓錬械丕棉�腓稜箋僂琉娶�鯣�修�  もう一つ必要だったのは、ネットワークの 強化だ。
立ち上げ当時、CEVAは三〇カ国 に約五七〇カ所の拠点を持ち、従業員は三万 八〇〇〇人強だった。
売上高は三五億ユーロ に上っていた。
 しかし売り上げの三分の二はヨーロッパに 集中していた。
CEVAが強かったのはイタ リアやイギリスを中心とするヨーロッパで、ネ ットワークに欠けていた。
TNTは〇六年に TNTロジを売却する前に、フォワーディン グ部門をUPSに売却している。
そのため各 国に物流センターがネットワーク化されないま ま点在する状態となっていた。
るとすぐに証券会社のゴールドマンサックスに 依頼して、コンペを開催した。
複数の投資フ ァンドが名乗りを上げた結果、九カ月後の〇 六年八月、イギリスに本社を置くアポロマネ ジメントが約一五億ユーロで買収することと なった。
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圍裡圓蓮△海稜箋儕廚鮖箸辰銅�匈瑤稜� い取りを行った。
その結果、株価は大幅に上 昇した。
この時以来、UPSやフェデックス がTNTを買収するという話も立ち消えとな り、同社はドイツポストDHLを含めた四大 インテグレーターとしての足場を固めた。
米有力フォワーダーを追加買収  アポロは、TNTロジスティクスを買収し てCEVAロジスティクスに社名変更をする と、二つの大きな決断を下した。
一つは経営 トップの交代で、もう一つはアメリカのフォワ ーダーであるEGLの買収だった(図3)。
 アポロは〇七年に入り、それまでTNTロ ジのCEOだったディーブ・クリック氏に代 えて、ジョン・パタロ氏を新たなCEOに指 名した。
パタロ氏は、P&Gで三〇年間働 き、サプライチェーン担当の副社長を務めた 後、〇五年にイギリスのエクセル(現在のDH Lサプライチェーン・ソリューションズ)に転 じて、ヨーロッパ・中東・アフリカ部門(E MEA)のCEOを務めていた。
パタロ氏が 荷主企業で培ったバックグラウンドが、新生 CEVAには欠かせないとアポロは判断した。
図3 CEVAの略史 1946 年 オーストラリアでTNT創業 1996 年 オランダ国営郵便局KPNが TNTを買収 1998 年 社名をTNTポストに変更 2006 年 アポロマネジメントがTNTのロジ スティクス部門を買収。
CEVA ロジスティクスに社名変更 1984 年 アメリカでイーグルUSAエアフレ イト創業 1995 年 株式公開 2000 年 サークル・インターナショナルを 買収。
社名をEGLに変更 2007 年 アポロがEGLを買収してCEVAに組み 入れる。
J・パタロ氏がCEOに就任 2008 年 CEVAがイタリアでSPEDIMACとトル コのトランジィタリアを買収 TNTロジスティクスEGL CEVA 51  JULY 2010 での三〇億ユーロ台から、一気に六〇億ユー ロ台に倍増した。
 現在のCEVAは、3PL事業(コントラ クト・ロジスティクス部門)とフォワーディン グ事業(フレイト・マネジメント部門)の二 つを柱としている。
売上高比率では3PL事 業の五七%に対して、フォワーディング事業 が四三%だ。
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達釘孱舛倭汗こΔ髻崙酲魅▲瓮螢�廖◆嵋� ヨーロッパ」、「南ヨーロッパ&中東&アフリ カ」、「アジア太平洋」の四つのブロックに分 けて管理しており、売上高もほぼ均等に分か れている。
収益的にもEBITDAベースで は、四地域のいずれも黒字を計上している。
 荷主の産業別の売り上げ構成比をみると、 ?自動車二八%、?テクノロジー二四%、? 小売り・日用雑貨一七%、?製造業一四%、 ?エネルギー五%││となっている。
これ以外 にも、宇宙航空産業、ヘルスケア産業、出版 産業においてもサプライチェーンを最適化する ノウハウを持っていると同社は謳っている。
 主な荷主は、 ■自動車:ゼネラルモーターズ、フォード・ モーター、マツダ、ルノー ■テクノロジー:サムスン電子、ベライゾン (Verizon)、LGエレクトロニクス ■小売り・日用雑貨:プロクター&ギャンブ ル、英セインズベリー ■製造業:リコー、フィリップスエレクトロ ニクス、グッドイヤー ■エネルギー:英EDFエネルギー・ネット ワークス ││などとなる。
主要荷主一〇〇社を囲い込み  一〇年度の重点施策として同社は四つの戦 略を掲げている。
一つは〇八年に始めた「セ ンチュリー・プログラム」の拡大だ。
同社の役 員会が選んだ既存荷主主要一〇〇社に対する 取引を地域ごと製品ごとに広げてゆき、荷主 のサプライチェーン・コストの半分以上の取 引を獲得することを目指すプログラムだ。
そ のために3PL部門とフォワーディング部門 を有機的に結び付けてセールスを行うことが 必要だとしている。
 二番目は、海上貨物の取り込みだ。
EG Lが航空フォワーディング主体であったため、 CEVAはこれまで十分に海上貨物を取り込 めていなかった。
それだけ海上貨物事業には 大きなチャンスが残されていると考えている。
 三番目は、新しい得意分野の開発だ。
既存 の荷主企業だけでなく、これまで手掛けてこ なかった産業の荷主を取り込むことで売上高 の拡大を図る。
 そして最後がコスト削減だ。
〇九年度には、 業務の最適化や人員削減、管理職の賃上げ凍 結などによって、一億二五〇〇万ユーロのコ スト削減を達成した。
一〇年度も引き続き一 層のコスト削減に取り組んでいくという。
(横田増生)  そこでCEVAは〇七年に、アメリカの航 空フォワーダーである「EGL」の買収に動い た。
買収金額は約二〇億ドルだった。
(この買 収金額はCEVAの負債とはなっていない)。
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釘韮未枠�伺�紊縫謄⑤汽構�劵紂璽好� ンで「イーグルUSAエアフレイト」として 創業し、一九九〇年代にナスダック市場に上 場を果たしていた。
買収前の〇六年の決算で は、三二億ドル超を売り上げ、五六〇〇万ド ルの最終利益を上げていた。
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釘韮未惑箴綛發力山箒瓩�鯔綿道埔譴脳� げていた。
同社を買収することで、CEVA はヨーロッパに偏重していたネットワークを大 幅に強化することができた。
売上高もそれま 図4 地域別の売上高 事務所 代理店 《南北アメリカ》 売上高 16 億800 万ユーロ 従業員 19,121 人 《北ヨーロッパ》 売上高 13 億8800 万ユーロ 従業員 12,202 人 《アジア太平洋》 売上高 12 億3900 万ユーロ 従業員 9,397 人 《南ヨーロッパ、中東&アフリカ》 売上高 12 億5900 万ユーロ 従業員 5,526 人 換算レート:1ユーロ= 109円

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