ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年8号
特集
《食品編》第1部 できたてを売る仕組みに挑む

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2010  14 製販統合はどこまで来たか  スナック菓子最大手、カルビーの製品在庫日数は現 在、全商品平均で三日を切っている。
ポテトチップス は約一・五日という水準だ。
卸在庫も一・五日〜三 日というレベルを維持している。
そのために同社では、 卸からの発注を特売と定番の二つに分離し、かつ「定 時・定点配送」を実施している。
 特売分は、その日の卸の出荷時間までに仮置き場 に納品する。
それを卸がそのまま配送車両に積み込 む。
従って卸在庫はゼロ。
定番分は補充納品が基本 だ。
卸の倉庫から当日出荷した分を翌日に納品する。
理論上、卸在庫は一日で済む。
さらに納品予定時間 から三〇分以内というアローアンスで確実に商品を届 けることで、欠品への不安からくる過剰な発注を防 いでいる。
 小売段階の在庫管理には「カルビーフィールドレ ディ」と呼ぶ専任スタッフを組織し、全国の小売店を 定期的に巡回して店頭に並んだ商品の製造日を調べて いる。
製造後四五日以上、同八〇日以上という二つ の基準を設定し、その日付を超えた商品がどれだけあ るのか実地で確認する。
 油分の多いポテトチップスは、製造から日が経つほ どに風味が劣化する。
鮮度が重要な価値になる。
そ のため店頭鮮度の落ちている地域や店舗は、その原 因を分析して、取引先卸や小売りと共に問題を一つ ひとつ潰していく。
地道な取り組みの結果、カルビー 製品の平均店頭鮮度は過去一〇年で図1の通り大き く向上した。
それだけ流通在庫が減ったことになる。
 今年四月一日、同社は大幅な組織改革を行った。
従来は全国を七つのブロックに分割し、調達から生産、 販売、物流までをブロックごとに管理する「地域カン パニー制」を敷いてきた。
これを改め、七カンパニー を北海道、東日本、中日本、西日本の四つの広域事 業部に統合した。
 それと同時に、全社に横串を刺す本社スタッフ部門 として、新たに物流部を設置した。
同部の松元久志 部長は「全社的なSCMの標準を作って、受注情報 を生産計画に反映させて効率よくお客様にお届けでき る体制を作る」と、その役割を説明する。
 従来の地域カンパニー制は、生産と販売の物理的・ 時間的距離を短縮するために域内で需給を完結させ るという考え方に立っていた。
需給調整や物流管理 も各カンパニーに「SCMチーム」を置いて現地密着 型で管理してきた。
 しかし、地域限定品や期間限定品の増加などで同 社のアイテム数は一〇年前の二倍以上に増えている。
売れ筋以外の商品や終売の近付いた商品は、カンパ ニーを超えて生産を集約したほうが効率がいい。
た だし、その分だけ輸送の足は長くなり、リードタイム と支払い運賃は増加する。
そのデメリットと生産集約 によるコストメリットのトレードオフを調整するため、 需給機能を中央集権型にシフトした。
 これに合わせて物流ネットワークも三年後をメドに 再編する計画だ。
物流拠点の配置も従来は各カンパ ニーの判断を重視していた。
現在は工場隣接型のDC が全国七カ所、消費地に置いたSS(サービスステー ション)が五カ所、通過型のTC三カ所を構えている。
工場からの輸送線と主要な納品先の場所を全国規模 で分析し、これを統廃合していく。
 カルビーと同様に従来は全国を七つのブロックに分 けて地域完結型の需給体制を敷いてきたキリンビール も、今年一〇月から需給ブロックを四つに統合する。
ただし、狙いはカルビーとは対照的で、中央集権化で できたてを売る仕組みに挑む  できたての商品をすぐに販売できればバッファー在 庫は不要だ。
コストが下がり、陳腐化リスクもなくな る。
商品の鮮度が上がり、付加価値は高まる。
とりわ け食品業界では、ロジスティクスを基軸に据えた経営 が有効に機能する。
しかし、それを実施しているメーカー は少ない。
              (大矢昌浩) 《食品編》第1部 15  AUGUST 2010 はなく分散化、現場への権限委譲だ。
 キリンビールもまた、アイテム数の増加でブロック をまたがって移送する商品が増えたことに対応し、こ れまで需給調整の集中化を進めてきた。
本社物流部 門が各地の工場の生産ラインを直接コントロールして 効率を高めた。
しかし、「今回は改めて逆方向に舵を 切ることになる」と同社の吉田雅哉SCM本部物流 部物流企画担当主幹はいう。
 既に同社の製品在庫は約五日分まで低減されてい る。
そのうち一日は品質検査に必要な時間であるた め正味は四日。
今後はレイコンマ一日の単位で在庫を 調整していくことになる。
それを具体的なコスト削減 効果に結びつけるには、現場レベルでのきめ細かな調 整が必要という判断だ。
 「在庫もこの水準まで来ると、闇雲に減らすという のではなく、確実な効果を見込める施策を見極めて動 く必要がある。
例えば工場倉庫に入りきらない在庫を 保管するために借りている営業倉庫、これを解消す れば賃料や横持ち搬送費を削減できるが、そのため には、どの製品のどの在庫をいくつ減らせばいいのか。
そうした厳密な判断は現場に近いほうがやりやすい」 と吉田主幹は説明する。
 管理コストの削減も狙いの一つだ。
今回の改革に先 立ちキリンビールは昨年三月、地域レベルの需給調整 の権限および物流管理業務を、本社物流部門から子 会社のキリン物流に移管している。
その上で今年一〇 月にキリン物流の組織を改変し七支社を四支社に集約 する。
これによって親会社・子会社合わせて現在約 三〇〇人の社員を割いている需給調整・物流管理部 隊のスリム化を図る。
 そのために物流子会社の位置付けも改めた。
従来 は外販比率の拡大を奨励し、親会社からの自立を求 めてきた。
しかし現在は物流子会社としての売上高 や利益の減少を厭わずに、親会社およびグループ会社 のローコスト・オペレーションに貢献することを、最 大の使命に課している。
一連の改革で、本社物流部 門では現在の中期計画の区切りとなる二〇一二年ま でに総額五〇億円近くのコスト貢献を目指している。
ロジスティクスが格差を拡大  九〇年に味の素ゼネラルフーヅが日本の食品業界で 初めて設立した「ロジスティクス部」の初代部長を務 めた川島孝夫東京海洋大学教授は「需給調整や受発 注センターの運営をロジスティクス部門が担うという のはもはや常識だ。
そのうえで先進企業の需給管理 は月次から週次に進み、今や日次レベルの調整に焦点 が移っている」と指摘する。
 実際、カルビーやキリンビールは、需給機能の統合 をとうの昔に済ませ、在庫の最適化を大枠で実現し たうえで、その先のコスト削減へと駒を進めている。
 その一方で、ロジスティクスが全く機能していない メーカーも現実にはいまだに少なくはない。
製造と販 売が同期化していない。
生産部門と営業部門がバラバ ラに動くため、ムダな在庫が発生している。
それでも 需給管理の権限を与えられていない物流部門は目先 の輸送費や保管費の削減以外に手を出せない。
先進 企業との格差は開く一方だ。
 経営効率は棚卸資産率に表れる。
そのことを川島 教授は日本の食品メーカー大手二〇社の経営指標の暦 年推移を分析することで確認した。
在庫の多い会社 は利益率が低い。
そして借入金が多く、キャッシュフ ローが逼迫している。
ロジスティクスの管理指標が経 営指標としての重要性を増している。
それは必ずし も食品業界に限った話ではないだろう。
カルビーの松元久志 物流部部長 キリンビールの 吉田雅哉物流部 物流企画担当主幹 川島孝夫 東京海洋大学教授 2.0 1.0 0 (%) 図1 カルビーは「店頭鮮度」をKPI に設定している ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 ‘09 製造から80日以上の商品が 店頭に並んでいる割合 (年度) 【食品編】 特 集

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