*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
AUGUST 2010 16
菱食、国分がチルド事業に注力
加工食品大手、菱食の二〇〇九年十二月期の連結
業績は、売上高が一兆三八四七億五〇〇〇万円で前
期比一・三%減少したものの、経常利益は一一〇億
五二〇〇万円で同三三・五%の大幅増だった。
二〇期続いた増収増益が〇六年十二月期に途絶え
たのをキッカケに、菱食は優れたロジスティクスとI
Tを武器にして規模を拡大するという従来の戦略に別
れを告げ、マーケティングと業務改革に大きく経営の
軸足を移した。 旗印は「量から質への転換」だ。
ただし、唯一「量」を狙っている分野がある。 チ
ルド事業だ。 同社の櫻井清孝SCM推進本部長代理
は「より生に近いチルド食品を指向する消費者が増え
ている。 それに伴ってマーケットも伸びている。 卸と
してもそこに商機があると判断している。 チルド事業
を取り込んでいく上で、我々が培ってきたロジスティ
クスも一つの武器になるだろう」と語る。
同社の〇九年十二月期における連結品種別売上高
を見てみると、「冷凍・チルド類」の売上高は三六五
六億七九〇〇万円で、前期比八・八%増を達成して
いる。 全八品種のうち、「冷凍・チルド類」以外で前
期比プラスを記録したのは、「調味料類」と「麺・乾
物類」の二つだけ。 プラスといっても、それぞれ〇・
三%増、〇・六%増という極めて低い増加率だ。
「冷凍・チルド類」の売上の内訳は、チルドが約六〇
〇億円で、三〇〇〇億円余りが冷凍だ。 しかし冷凍
事業は〇八年一月に起きた毒入り餃子事件以降、強
い逆風下に置かれてきた。 足下の業績で、ようやく
〇七年度の水準まで戻したというのが実情だ。
増加した八・八%に寄与したのは、その多くがチ
ルド事業だ。 実際、〇九年度はローソンのグループ会
社で生鮮も扱う九九円コンビニ「ショップ
99
」を運営
する九九プラスの低温物流センター六拠点を、一手に
受託できたことが大きく数字に結びついている。
九九プラスは〇七年三月にローソンと業務・資本
提携したのを契機に物流合理化を全国で進めてきた。
全国の常温・低温物流センターをエリア毎に統廃合し、
ネットワークを再編した。 低温センターでは、〇七年
十一月に市川低温センターを稼働させたのを皮切りに、
横浜低温センター(〇八年二月)、川越低温センター
(〇八年六月)、関西低温センター(〇八年九月)、東
北低温センター(〇八年一〇月)、中京低温センター
(〇九年三月)を相次いで開設した。 その全ての運営
を、商流まで含めて菱食が受託した。
今期、菱食はチルド事業で前年比六〇%増の一〇〇
〇億円の売上高を目指している。 中京低温センターが
今期から本格的に売上に貢献するようになるほか、一
〇月にはスーパーのライフコーポレーションの低温物流
センターを千葉・北松戸に開設する予定だ。 水面下で
進んでいる案件もある。 櫻井本部長代理は「達成でき
る可能性は十分ある」と自信を持っている。
ライバルの国分も低温事業の拡大を成長の柱に位置
付けている。 同社もまた〇九年十二月期決算は、連
結売上高一兆四二七三億一三〇〇万円(前期比三・
〇%減)、経常利益一三五億六七〇〇万円(同十一・
五%増)の減収増益だった。
ただし、「冷凍・チルド」部門だけは、売上高一二
三八億五三〇〇万円で前期比七・九%増という高い
伸びを示している。 一二三八億円のうち、チルドが
八九〇億円、冷凍が三四八億円で、やはり伸びてい
るのはチルド事業だという。 同事業では〇九年二月に
北海道全域を基盤とするチルド商品メーンの商社、デ
リー物産を子会社化したほか、同六月には大阪・摂
中間流通はマルチ温度帯管理へ
菱食、国分がチルド食品を成長分野と位置付け、体
制強化を急いでいる。 低温卸の巨人・日本アクセスも
また「総合卸」を標榜し、ドライ、チルド、冷凍の全
温度帯をカバーするフルライン化へと舵を切っている。
互いに棲み分けてきた温度帯の境界線を越え、中間流
通の覇権争いが始まっている。 (石鍋 圭)
《食品編》第2部
17 AUGUST 2010
津に関西低温センターを稼働させている。
国分は今期の目標として売上高一兆五〇〇〇億
円、経常利益一五〇億円を掲げている。 主力のドラ
イ、酒類が奮わない中、目標にどれだけ近づけるか
は、低温事業の伸長が鍵を握っている。
日本アクセスは総合卸へ
ただし、低温事業にはドライ商品とはまた違った難
しさがある。
冷凍・冷蔵設備の建設・維持コストは、普通倉庫
とは比較にならないほど高くつく。 今後、ビジネス領
域を広げて各地の中堅スーパーやコンビニを顧客に取
り込んでいくには、全国各地に汎用型の低温施設を
きめ細かく配備する必要がある。 菱食、国分の二大
卸にとっても軽い負担ではない。
また、賞味期限が短く、温度管理の難しいチルド
商品の取り扱いには、ドライ商品以上にスピーディで、
かつきめ細かなオペレーションが求められる。 それで
いて商品単価は決して高くない。 しかも、この分野
には圧倒的な巨人がいる。 日本アクセスだ。
日本アクセスの一〇年三月期の連結売上高は一兆
三六〇五億八四〇〇万円で菱食・国分と同じレベル
だが、ドライがメーンの他の二社とは対照に、アクセ
スは低温分野をメーンとしている。
アクセスのチルドとフローズン(冷凍)を合わせた
低温事業の売上高は七二〇八億七一〇〇万円に上る。
とりわけチルドはアクセスの一人舞台だ。 低温分野の
うちチルドの売上高は四八一四億一七〇〇万円。 国
分の五倍、菱食の八倍という規模がある。
冷凍・冷蔵機能を備えた設備のインフラも二社を凌
駕している。 国分が三四拠点、菱食が約九〇拠点な
のに対し、アクセスは全国各地に二八三拠点を配備し
ている。 雪印乳業の販社だった雪印アクセスを前身と
する同社は、この分野では一日の長がある。
日本アクセスの遠藤芳則ロジスティクス本部物流企
画部長は「物流においては、〇四年に約五〇億円を
投資して開発した﹃Captain(キャプテン)﹄というシ
ステムを核にしながら、品質管理とコスト削減を同時
に進めてきた」と語る。
キャプテンの導入により、各拠点の温度管理・商品
の日付管理を入荷から納品までリアルタイムで行える
ようになった。 これが品質の維持・向上だけでなく、
コストの削減にも大きく貢献している。
例えば温度管理。 本社で集中管理できるため、そ
の拠点、その商品に適切な温度かどうかを常に確認
することができる。 調整が必要な場合は指示を出す。
各拠点でコントロールしていた頃に比べると、無駄な
温度調整を防ぐことが可能になり、ランニングコスト
を大きく減らすことができたという。
キャプテンの他にも、「A│CAT」という配送時温
度監視システムや、「AMC」という鮮度管理システ
ムを駆使し、それを現場の業務改革プロジェクトと絡
めながらコスト削減を進めている。
効果は既に見えている。 アクセスは直近決算では
メガ卸三社の中で唯一、経常利益率一%を確保した。
金額ベースでは前期に比べて経常利益が二五億円増加
した。 その多くが物流関連のコスト削減によるものだ。
さらに同社は現在、フルラインで商材を揃える「総
合卸」を目指すべき一つの形として掲げている。 遠
藤物流企画部長は「低温だけに限定せず、当社の強
みを生かせる提案をしていく」という。 低温からドラ
イにドメインを広げていく。
食品流通の再編がカテゴリー内での集約を経て、マ
ルチ温度帯へと進んでいる。
菱食の櫻井清孝戦略機能
部門(IT・ロジスティクス)
統括SCM推進本部長代理
(兼)SCM推進本部SCM
運用部長参与
日本アクセスの遠藤
芳則ロジスティクス
本部物流企画部長
日本アクセス(10 年3 月期)
売上高
経常利益
ドライ分野
チルド分野
フローズン分野
その他分野(物流事業等)
その他事業
金額( 百万円)前期比(%) 金額( 百万円)前期比(%)
99.5
121.9
97.7
100.4
103.3
95.5
112.1
1,360,584
13,734
567,177
481,417
239,454
71,720
815
菱食(09年12 月期)
売上高
経常利益
缶詰類
調味料類
麺・乾物類
嗜好品・飲料額
菓子類
冷凍・チルド類
酒類
その他
98.7
133.5
97.9
100.3
100.6
96.6
99.9
108.8
89.7
94.4
1,384,750
11,052
22,697
195,684
142,085
210,223
50,768
365,679
312,164
85,448
国分(09 年12 月期)
売上高
経常利益
加工食品
冷凍・チルド
菓子
酒類合計
その他合計
金額( 百万円) 前期比(%)
97.0
111.5
99.6
107.9
96.9
92.8
98.3
1,427,313
13,567
553,607
123,853
32,936
633,775
83,139
※「冷凍・チルド」の内、チルドが890 億円、冷凍が348 億円
※「冷凍・チルド類」の内、チルドは約600 億円
【食品編】
特 集
|