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AUGUST 2010 20
市場規模は一兆二〇〇〇億円
日本の食品産業の最終消費額は約八〇兆円とされ
る(二〇〇六年度、農林水産省調べ)。 市場の成長は
既にピークを過ぎており、今後は人口減少を反映して
規模の縮小が確実視されている。
しかし、低温物流市場は堅調で、今後も拡大が続
くと見込まれている。 チルド食品が伸びていることに
加え、従来はドライ商品として扱われていた食品を温
度帯管理に切り替えるケースが増えている。 医薬品や
半導体、危険品など、食品分野以外でも温度帯管理
を必要とする商品は増加する傾向にある。
今のところ低温物流市場の規模を示す公的な統計
はない。 過去の試算によると二〇〇〇年初頭時点で
一兆円〜一兆一六七〇億円と推定されている。 その
後の拡大を考慮すると現在の市場規模は一兆二〇〇
〇億円程度と本誌では推定している。
その主要プレーヤーの顔触れは図1の通り。 日本通
運やヤマト運輸、佐川急便といった物流大手の名前
はなく、上位にはニチレイロジグループをはじめ、キ
ユーピーの子会社のキユーソー流通システム、協同乳
業系の名糖運輸など食品メーカー系の物流会社が並ぶ。
これらの企業は一般の物流会社と比較して利益率
も高く、安定した業績を誇っている。 旨味の大きな市
場に見えるが、なぜそこに既存の物流大手は参入し
ないのか。 低温物流市場に詳しいJCNコンサルティ
ングの藤田真チーフコンサルタントは次のように解説
する。
「低温倉庫の建築コストは普通倉庫の倍近くかかる。
ベースカーゴを持たない物流専業者にとってはリスク
が大きい。 またチルド食品ともなると取り扱いに商品
知識が必要だ。 しかも二四時間稼働を求められるので、
一般の大手にとっては労務管理が壁になる」
現在の主要プレーヤーの大半は、荷主が自家物流の
インフラを他の一般荷主にも開放するかたちで物流の
事業化に乗り出してきた。 その沿革を反映して、温
度帯ごとの棲み分けも明確になっている。
?低温?と一口に言っても、その温度帯は細かく分
かれる。 倉庫業法においては、C級(Cooler class:
1〜3級)とF級(Freezer class:1〜4級)に区
分されている。 マイナス四〇℃以下、温度の最も低い
F3、4級は「超低温」と呼ばれる。 主に冷凍食品
の原料となるマグロなどを保管する温度帯だ。
マイナス四〇℃〜マイナス二〇℃のF1、F2級は
「冷凍」に区分される。 ここではアイスクリームや冷
凍食品などが管理される。
マイナス二〇℃〜一〇℃のC級はすべて「冷蔵」と
呼ばれる。 乳製品や練り製品、鮮魚や野菜などが管
理対象となる。
さらに、〇℃付近での温度管理は、高度な鮮度保
持技術が必要になるため、チルド(マイナス五℃〜
五℃)、パーシャル(マイナス三℃)、氷温(マイナス
三℃〜〇℃)といった詳細な分類区分が発生する。
低温物流とは、これらチルドやパーシャルを含む、
一〇度以下の管理を必要とする商品の輸配送や保管、
梱包作業などを指すのが一般的だ。 マヨネーズやチョ
コレートのように、一〇℃〜二〇℃での温度管理を必
要とする領域も存在するが、これらは「定温」とし
て「低温」とは区分されることが多い。
このうち冷凍分野は、冷凍食品メーカー系の物流
会社が市場を独占している。 現在、二〇万トン以上
の冷蔵設備能力を有する企業は七社あるが、そのう
ちの四社、ニチレイ、マルハニチロ物流、東洋水産、
日水物流は、冷凍食品の有力ナショナルブランド(N
低温物流市場の勢力図を読む
国内貨物輸送需要の低迷をよそに低温物流市場が伸
びている。 しかも、この分野の主要プレーヤーの利益
率は一般の物流会社に比べて高い水準にある。 高額な
設備投資と365日24時間稼働を強いられる過酷な市場
環境が、不況に負けない経営体質を作り上げた。
(石鍋 圭)
《食品編》第4部
21 AUGUST 2010
B)としての顔も持つ。
長期保管の利く冷凍・冷蔵食品向けの物流は、や
はり倉庫事業が核になる。 設備投資の償却期間は数
十年にも及ぶが、荷物を確保できている限り、一〇%
を超える高い利益率を確保できる。 川上型で安定し
た物流事業といえるだろう。
一方、冷蔵・チルド物流は、乳業メーカーを母体と
する物流会社が担ってきた。 名糖運輸、ランテック、
明治ロジテックなどがそれに当たる。 日配品であるた
め、三六五日二四時間稼働とスピーディで安定した輸
配送機能が求められる。
ただし、単純な低温輸送は既に過当競争気味で、
実勢運賃は今や通常のトラック運賃と変わらないレベ
ルにある。 車両費やランニングコストが割高な分だけ
低温輸送の収益性はきつい。 それでも大手の利益率
が比較的安定しているのは設備の回転率が高いから
だ。 同じ車両を一日に二回転、三回転させることで
固定費比率を抑えている。
また二四時間三六五日稼働の運営体制は、小売り
の一括物流センター向け3PL事業で威力を発揮して
いる。 川下の3PLは国内物流市場で今や最大の成
長分野だ。 チルド系のみならず冷凍系、さらには日立
物流やハマキョウレックスなど一般の3PLが参入し
激しい競争を繰り広げている。
そのなかでもチルド系は低温設備の運営と日配品の
取り扱いに長けているだけでなく、深夜や早朝のオペ
レーションにも慣れているため優位性がある。
独立系物流会社は共同配送を柱に
これに対してベースカーゴを持たない独立系の低
温物流会社は共同配送を武器にしている。 その一つ、
ヒューテックノオリンは普通倉庫業から出発し、六〇
年代に冷蔵倉庫業へ舵を切った。 七〇年代からは冷
凍食品メーカーの共同配送事業を開始し、それが現在
の中心事業となっている。 荷物が一社ではまとまら
ない中小冷食メーカーや大手メーカーのこぼれた荷物
を取り込み、トラックに積み合わせて、効率的なルー
ト配送を行う。
同社の綾宏將常務取締役は「冷凍食品の伸長と共
に当社のビジネスも拡大してきた。 拠点はもちろん、
配送も大部分は自前の冷凍車両で行っている。 保管
から配送までのコールドチェーンを一括して管理して
いることが、荷主からの支持を得ている。 当社には
特定のメーカー系列色がないため、ニュートラルな立
場で共同配送を提案できるのが強み」と語る。
関東を地盤とする独立系低温物流会社の南日本運
輸倉庫は、自社専用センターを所有するほどの事業規
模がない外食チェーン向けに、汎用物流センターを提
供することで好業績を維持している。 配送密度を重
視して同じエリアに出店する外食チェーンを集中的に
開拓し、センター運営から配送まで共同化することで
ローコスト運営を実現している。
同社は全国各地の独立系の中堅低温物流会社を組
織してオールジャパンチルドフローズンネット(JF
N)と呼ぶグループも組織している。 無理な営業エリ
アの拡大を避け、エリア外の仕事はグループ内で融通
しあうことで、広域に事業を展開する荷主のニーズに
対応している。
同様に佐賀のトワード物流や横浜の安全輸送など
で組織する日本コールドネット協議会(JCN)では、
広域チェーンへの対応のほかに、物量のまとまらない
小規模チェーン向けに三温度帯一括納品車両を開発す
るなど、鮮度管理の専門技術とノウハウの高度化に取
り組んでいる。
JCNコンサルティング
の藤田真チーフコンサ
ルタント
【食品編】
特 集
図1 09年度主要低温物流企業の売上高図2 倉庫業法における温度帯の区分
横浜冷凍
(冷蔵倉庫事業)
193
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
ニチレイ
ロジグループ
キユーソー
流通システム
ハマキョウ
レックス
名糖運輸
フーズレック
ランテック
ヒューテック
ノオリン
1,390 1,354
(単位:億円) −50 −40 −30 −20 −10 0 +10 +20
783
463
394 365 323
FF44級 F3級 F2級 F1級 C1級 C2級 C3級 定温 加温
F4級は−50℃以下C2級は−2℃以下
超低温定温
加温
冷凍
チルド
氷温
−3℃〜0℃
−5℃〜+5℃
乳製品、練り製品、
鮮魚、野菜
冷凍食品
アイスクリーム
マヨネーズ
チョコレート
冷凍マグロ
パーシャル
−3℃
冷蔵
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