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AUGUST 2010 26
「卸の集約はまだ終わっていない」
医薬品卸業界では急激な再編が踊り場を迎え、大手卸はインフラ
の再構築を進めている。 物流ネットワークは中規模センターを全国20
カ所前後に配置する分散型へのシフトが進んでいる。 狙いは効率化
だが、多額の設備投資は卸の収益を圧迫している。 既に大手4社で
8割以上のシェアを握るほど集約は進んでいる。 しかし、近くもう
一段の再編が起こる可能性もある。 (聞き手:梶原幸絵)
中規模センターへシフト
──医薬品卸業界ではこの一〇年で集約が劇的に進み
ました。 物流インフラはどう変化したのでしょうか。
「〇六年〜〇八年頃にかけて、メディパルホール
ディングス、アルフレッサホールディングス、スズケ
ン、東邦ホールディングスの大手卸四社はいずれも物
流の再構築に本腰を入れました。 その中で特徴的な
のは、主力の医療用医薬品卸売事業で東邦以外の三
社が中規模物流センター体制を志向したことです」
「それまで卸は大小物流センターとともにほとんど
の営業拠点に在庫を置き、各地域に密着した商物一
体型の物流体制をとっていました。 これに対して中
規模物流センター体制とは、営業拠点から極力在庫
と物流機能を集約しつつ、センターと一部営業拠点
を併用して顧客に商品を届けるというかたちです」
──中規模センターが主流になりつつある背景は。
「アルフレッサの地域密着型物流センターによる
サービスが、調剤薬局から高い評価を得たことが要因
です。 アルフレッサに追随するかたちでメディパルと
スズケンも似たような戦略を取る格好になっています」
「アルフレッサは中小物流センターと営業拠点に在
庫を置き、緊急配送など顧客の要望に柔軟に応じる
手厚い物流サービスを提供してきました。 しかも配
送は正社員ではなく、女性を主体とする契約社員や
パート社員の配送専門職が担っています。 これによっ
てローコストでしかもきめ細やかな配送体制を整え、
調剤薬局向けの販売シェアを高めることに成功した。
同社は今後、物流センターを二五カ所から一八カ所に
集約して合理化を行う計画ですが、必要な在庫は営
業拠点に残す方針です」
──最大手のメディパルは東西二拠点のメガセンター
を中核とする八センター体制をいち早く構築し、アル
フレッサとは対照的な戦略をとってきました。
「在庫と物流機能を可能な限り集約し、大規模で
しかも広域をカバーするセンターを設置すれば、集約
効果は高くなる。 センターに商品を納めるメーカーに
とっても、納品の負担が軽減し物流コストを削減でき
るというメリットがある。 メーカーは九〇年代中頃か
ら物流コストの削減を目的として、物流アローアンス
(リベートとは別に卸へ政策的に支払う報奨金)を設
定しています。 センターの集約が進んでいればその
分、卸はアローアンスを得られる仕組みです」
「しかし一方で、大規模センター体制では顧客であ
る調剤薬局・医療機関からの距離が遠くなり、サー
ビスの柔軟性に欠けるというデメリットがある。 この
ため、顧客起点で考えれば在庫拠点は分散させて顧
客にできるだけ近いところに置いた方が好ましい」
──それでメディパルも戦略を転換した?
「全国三〇カ所に中規模センターを設置する構想を
打ち出しています。 三〇のセンターは『ALC(エ
リア・ロジスティクス・センター)と、ALCよりも
規模の小さい『FLC(フロント・ロジスティクス・
センター)』から成る。 各商圏の中心にALCを設置
し、ALCは周辺の顧客に向けて配送する。 ALC
でカバーできない遠隔地の顧客は、FLCがカバーす
る。 二カ所のメガセンターは「NLC(ナショナル・
ロジスティクス・センター)」としてメーカーからの納
品の受け入れセンターとする。 ただし各地の営業拠点
の在庫は原則的に撤去する方針で、そこがアルフレッ
サとはやや異なります」
──スズケンは物流センター九拠点と物流センターの
補完機能を持つ商品センター八拠点の計一七拠点を
構築する計画を策定しました。
保高英児 サプライチェーン ロジスティクス研究会 代表
《医薬品編》Interview
27 AUGUST 2010
「スズケンは地域密着志向が強く、物流センターへ
の集約が最も遅れていました。 しかし〇五年、埼玉
県戸田市に東京向け物流センターを開設したのをきっ
かけとして方針を変更し、センターの整備に合わせて
営業所の在庫の集約を進めています」
「残る東邦は、大規模物流センター体制を基本的に
は維持する方針です。 同社は医薬品のセンターとして
大きくは四拠点を置き、各センターのテリトリーは非
常に広いため、営業拠点も在庫拠点として活用して
センターの機能を補完する体制をとっている」
──業界再編によって大手四社の市場シェアは八〇%
以上にもなりました。 物流センターへの投資余力が
出てきたということでしょうか。
「寡占化が進んだからといって、経営基盤が盤石に
なったというわけではありません。 〇八年度の薬価
改定で公定価格が引き下げられたこともあり、卸間
では価格競争が激化しました。 結果、同年度の大手
卸の売上高営業利益率は過去最低にまで下がってい
ます。 連結では平均して〇・六%、医療品卸売事業
は〇・四%という水準です。 〇九年度はやや改善し
ているとはいえ、一%を切る低い水準であることに
は変わりない」
「センターや情報システムなどインフラへの投資は各
社にとって大きな負担になっています。 販管費比率
の低減が停滞する一因にもなっている。 しかし競争
上、効率化のためのインフラ投資はやめられない」
東邦と地域有力卸の動向に注目
──医薬品卸の次の一手は。
「一つは川上、川下分野への垂直展開が挙げられま
す。 アルフレッサは医薬品製造、スズケンは医薬品と
医療機器の製造を行ってきましたが、調剤薬局事業
にも進出しつつあります。 スズケンは医薬品を核に
診断薬、医療機器、医療材料など医療全体の流通を
担うという戦略です。 メーカーからの物流受託も進
めています。 そして東邦は昨年四月の持ち株会社化
を機に調剤薬局事業を本格化している」
「もう一つは商品カテゴリーを拡大する水平展開で
す。 総合ヘルスケア企業として川下に新たな提案を
し、存在感を高めていくということです。 九〇年代
末からの業界再編の過程で、医薬品卸の間では採算
の悪い一般用医薬品から撤退する動きが相次ぎ、一
般用医薬品の卸売りは一部を除いてメディパルとアル
フレッサの二社にほぼ集約されました。 このうち、メ
ディパルは一般用・医療用医薬品から日用品、化粧
品までを揃えています。 アルフレッサは食品卸の日本
アクセスとの提携を、日用品のあらたも交えたもの
に発展させています」
──〇八年にメディパルとアルフレッサの統合が発表
されましたが、独占禁止法に抵触する可能性があり、
公正取引委員会の判断が遅れたために白紙撤回され
ました。 今後、再び再編が起こる可能性は。
「可能性はあります。 特に、東邦と地域有力卸の八
社が提携して設立した『葦の会』に注目しています。
〇八年に葦の会の参加メンバーのうち三社による一般
用医薬品事業の統合、〇九年にはメンバー二社の統
合が起こりました」
「九社合わせた売上高は二兆円を超える規模で、仮
に一体化すればメディパルに次ぐ一大勢力になる。 し
かし葦の会では各社の経営の自立と地域性の尊重が謳
われており、提携はするけれども合併はしない、と
みることもできる。 すると葦の会で経営基盤の弱い
会社から他の大手三社にのみ込まれていくというこ
とも考えられるでしょう」
医薬品卸業界では90 年年代末から大再編が進み、今では大手4 社に集約されている
※主要な統合のみ掲載
クラヤ三星堂
東邦HD 共創未来グループ
東邦ほか、地域卸12 社加盟
サンキ
スズケンアスティス
翔薬
メディパルHD
クラヤ三星堂
メディセオHD パルタック
アズウェル福神
00年 アルフレッサHD
03 年
04 年
06 年
05 年
日雑卸
売上高2 兆5460 億円
売上高
1 兆7354 億円
03 年
売上高2 兆592 億円
バイタルネットケーエスケー
バイタルケーエスケーHD
東邦ほか、地域卸7 社参画
09 年
売上高1 兆21 億円
提携/
子会社化
葦の会
提携
【医薬品編】
特 集
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