ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年8号
特集
《医薬品編》第2部 メガ卸を軸に物流インフラ再編

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2010  28 メーカーは物流の主導権を渡す  独立系の中堅倉庫会社、サカタウエアハウスは、子 会社を通じて医薬品メーカー向けの物流コンサルティ ングに豊富な実績を持っている。
近年は医薬品業界の 再編に伴う物流拠点の集約やアウトソーシングの導入、 あるいはアウトソーシング先の評価などの依頼が増え ているという。
 サカタウエアハウスの田中孝明社長は「医薬品業界 では卸の再編が急速に進んだことで、メーカーの物流 センターの統廃合が盛んに行われている。
そのタイミ ングで物流をアウトソーシングに切り替えるメーカー も多い。
そうやってメーカーが研究開発に経営資源を 集中する一方で、卸売業の果たす物流機能が格段に 重みを増してきた」と説明する。
 政府の度重なる薬価切り下げで、医薬品業界の事業 環境は様変わりした。
収益を圧迫されたのはメーカー だけでなく医療機関も同じだ。
経営の合理化のため 医療機関は仕入先の集約を進め、卸に対してフルライ ンの品揃えとローコスト・オペレーションを強く求め るようになった。
これを受けて一九九〇年代末から 医薬品卸業界ではM&Aの嵐が吹き荒れた。
日本医 薬品卸業連合会によると、八六年には四四〇社あっ た同連合会傘下の地域団体に加盟する企業数が、今 年三月末時点で九八社まで減少している。
メディパル、 アルフレッサ、スズケン、東邦の大手四社で市場の八 割以上のシェアを握るほど寡占化が進んだ。
 処方箋なしで購入できる大衆薬(OTC)や医薬 部外品の分野でも、小売りチャネルが大きく変化し た。
街の個人薬局に代わって、ドラッグチェーンが台 頭。
さらに薬事法の規制緩和でドリンク剤など一部の 医薬品が医薬部外品とされ、コンビニやスーパーでの 販売が解禁されたことで、物流の流れが一変した。
 伝統的にメーカー直販体制を敷いてきた大正製薬で は、以前はほとんどが個人薬局への納品だった。
そ れが現在は金額ベースで全体の八五%が大手チェーン との取引にシフトし、その多くが物流センターへの納 品に変わっている。
輸送ロットがまとまるため支払い 運賃は軽減されるが、センターフィーの負担がある上、 「各センターのオペレーションに合わせるため、物流管 理の手間も増している」と大正製薬の吉田和男物流 管理室部長はいう。
 個人薬局向けの納品リードタイムは発注の翌々日。
納品頻度は週一回程度で土日休日はなし。
発注ロッ トは中箱単位が基本だった。
それに対してチェーンス トアは納品が注文翌日もしくは当日。
販売分を補充 するのでロットは一個単位のバラ。
それを一部の総量 納品を除いて店舗別に仕分けて納品する必要がある。
土曜日や祝祭日の納品も要求される。
これに対応す るため大正製薬は九八年に物流子会社の大正製薬物 流サービスを設立している。
大正製薬の既存の勤務体 系では土曜・祝祭日の納品に対応できない。
そこで 法人を分けてローテーションで休みをとる勤務体系を 整える必要があった。
現在、同社には約四〇〇人が 在籍している。
 物流にコストをかけても直販体制を堅持するのは、 発毛剤の「リアップ」をはじめ圧倒的な商品力を持つ ブランドを有しているからといえる。
ブランド力を維 持したまま販売量を拡大できるのなら、人手とコスト をかけて流通の末端までコントロールしても、お釣り が来る。
しかし差別化商品を持たないメーカーが大正 製薬と同様の体制を敷こうとすれば、コスト割れして しまう。
各メーカーがそれぞれ各地に特約卸を置く従 来の縦割りのサプライチェーンは有効性を失った。
メガ卸を軸に物流インフラ再編  医薬品の中間流通はメディパル、アルフレッサ、 スズケン、東邦の大手卸4社に集約された。
各社は それぞれ物流インフラ投資に巨額を投じて、高度な プラットフォームを作り上げている。
これに応じてメー カーは物流機能を卸に移管し、既存インフラのリス トラを進めている。
         (梶原幸絵) 《医薬品編》第2部 29  AUGUST 2010  四大卸の一角を占める東邦が東京・品川区に置く 先端物流センター「TBC東京」の納品精度は現在、 九九・九九九九七%に達している。
「商品自体の誤配 は事実上皆無。
ミスが発生するのは医薬品に付帯す るバーコードのない消耗品など、特殊なものに限られ る」と東邦HD傘下の医薬品卸売事業会社、東邦薬 品の有留逸郎執行役員物流本部長は胸を張る。
 同社では現在、製造ロット管理の精度向上に取り組 んでいる。
従来から物流センターでは同じ商品でも製 造ロットごとにSKUを分けて、機械的に日付を管理 してきた。
しかし、営業所段階では製造ロットの使用 期限日を目視で確認するしかなかった。
 これを改め、営業所でロットの使用期限日まで二次 元バーコードで検品できるようにハンディ端末を切り 替えている。
数年前に開発した仕組みだが、生産段 階でロットの使用期限を商品にソースマーキングする メーカーが徐々に増えてきたことから、有効に機能す るようになってきた。
ロット別の販売履歴の情報精度 が大きく向上した。
 サービス品質の点でも、大手卸の物流機能は飛躍 的に高まり、メーカー物流との差は大きく開いている。
四大卸抜きに医薬品の中間流通はもはや成り立たな くなっている。
しかし、そこに風穴を空けようとする 動きも、全くなかったわけではない。
 ヤマトロジスティクスは二〇〇八年に、「ヤマトメ ディカルダイレクト」と名付けた新たなソリューション を開始した。
ジェネリック医薬品(後発品)メーカー が卸を通さずに、医療機関・薬局に直接販売するた めの物流機能と決済機能をヤマトが代行するものだ。
 その第一弾として同年九月には、太洋薬品と聖マ リアンナ医科大学病院の取引がスタートした。
次いで 昨年には北海道大学病院も、この仕組みを使って太 洋薬品からの直接購買を開始したと伝えられている。
しかし、今のところ他メーカーに広がる兆しは見られ ない。
関係者によると、中抜きに対する卸の反発が 強いためだという。
しがらみのない物流会社の事業 でさえ大手卸には歯向かえないのが現状だ。
 鴻池運輸は九四年四月に鴻池メディカルを設立し、 「院内物流(SPD)」事業に物流会社として初めて 本格参入している。
近年、鴻池メディカルの売上高は 急ピッチで拡大し、一〇年三月期は六四億四〇〇〇 万円を計上した。
しかし、同社の根来茂社長は「滅 菌会社の買収や経営譲渡で売上高こそ伸びてはいる が、収益的にはなんとか単年度でトントンという程度。
決して胸を張れるような状態ではない」という。
 同社の事業内容は大きくSPDと滅菌処理事業、 物流事業の三つに分けられる。
このうちSPDは病 院内で発生する使い捨て資材の在庫管理を同社が請け 負っている。
病院内の倉庫に鴻池のスタッフがシステ ムを持ち込み、外来、病棟、手術室などで発生する 使い捨て資材の入れ替え作業を行う。
 同社は売上構成としては、今のところSPDと滅菌 処理事業を合わせた「院内事業」が八割を占めてい る。
しかし、院内事業は薬価切り下げのたびに、病 院から値下げの要求が来る。
院内事業を本業の付帯 サービスと位置付ける医薬品卸や商社などが採算度外 視で営業をかけてくると、純粋な物流事業としてそ れを展開している鴻池には辛い。
 そこで現在は売り上げの二割に過ぎない物流事業を 拡大し、売上構成を院内事業と五対五まで引き上げ ることを当面の目標に置いている。
物流事業の荷主 は現在十三社。
全て医療機器メーカーだ。
「物流会社 としてのノウハウを生かせる分野であり、これから伸 びる余地が大きい」と根来社長は見ている。
サカタウエアハウスの 田中孝明社長 東邦薬品の有留逸郎 執行役員物流本部長 鴻池メディカルの 根来茂社長 デジタルピッキングにはICタグを導 入。
ピッキング作業に使用するカゴ にICタグを貼付し、ミスの発生を防 いでいる バラ出荷商品用の自動倉庫。
この ほかケース商品用の自動倉庫も設け ている 東邦薬品の先端物流センター「TBC東京」。
延べ床面積は約2万?。
2万2000品目を在庫し、営業所75カ所と約3万5000軒の得意 先をカバーする 【医薬品編】 特 集

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