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建材物流の3PL子会社を設立
住友林業は今年四月、住宅建設業界向け
の物流事業を手掛ける一〇〇%子会社、ホー
ムエコ・ロジスティクス(以下、エコロジ社)
を発足させた。 七月中にも利用運送業の免許
を取得し活動を本格化する。
初年度から、住友林業グループが手掛ける
住宅事業の物流業務を全面的に請け負うほ
か、資材メーカーの販売物流や、他の住宅メ
ーカーの建設現場への納品業務の受託を進め
る。 五年後に売上高一六〇億円をめざす。
住友林業が二年前から全国展開している
「中継センター」方式の物流ネットワークがそ
のインフラとなる。 建材を現場ごとにとりま
とめて一括納品するための中継拠点で、全国
二七カ所に設置している。
このインフラをグループ外にも解放するか
たちで3PL事業を展開する。 住友林業の住
宅部門をはじめとするサービスの利用者はエ
コロジ社に対価を支払い、エコロジ社はセン
ター運営の実務を担う物流事業者に経費を支
払う。 これらの実務会社の営業活動をエコロ
ジ社が代行するという位置づけだ。
住友林業は、住宅メーカーと建材商社とい
う二つの顔をもっている。 直近の連結売上高
は七二三九億円(二〇一〇年三月期)で、う
ち住宅事業が三七五二億円、商社として機能
する木材建材事業が三四四八億円と、ほぼ売
り上げを二分している。
木材建材事業本部で事業開発部長を務め
る坂直執行役員がエコロジ社の社長を兼務し、
この事業を商社部門の新規ビジネスとして展
開していく。 新たに3PL事業に乗り出した
狙いを坂執行役員はこう説明する。
「うちの住宅事業で扱う棟数は年間一万程
度。 これが今後一・五倍とか二倍に増えるの
であれば中継センターを運営する物流会社も
喜ぶのだろうが、現実には難しい。 物量を増
やしていくには商材しかない。 当社の木材建
材事業部は商社として年間四〇〇〇億円程度
を扱っている。 そこに中継センターの仕組み
を使えばコスト低減の成果をお客様や取引メ
ーカーに還元できる。 商流も物流もよくなり、
CO2排出量の削減にもつながる」
住宅メーカーのサプライチェーン管理は、
プレハブと在来工法で大きく異なる。 プレハ
ブメーカーは基本的に自ら工場を構え、資材
メーカーから仕入れる部材をいったん工場に
集約してパッケージ化して現場に納品してい
る。 取り扱う資材の絞り込みや、業務の標準
化にも熱心で、それによって業務全体の効率
建築資材メーカーがそれぞれ建設現場に納品する従
来の体制を改め、必要な建材を現場ごとにとりまと
めて一括納品するための「中継センター」を全国27
カ所に設置した。 その運営には各地の中小物流会社
21社が当たる。 今年4月には3PL子会社も新設。 住
宅建材の物流プラットフォーム事業に乗り出した。
SCM
住友林業
全国に中継拠点を設置して建材を一括納品
中小物流会社を組織化し3PL事業にも参入
エコロジ社の社長を兼務する
住友林業の坂直執行役員
49 AUGUST 2010
化を図っている。
一方、住友林業のように木造の在来工法を
主力とする住宅メーカーのサプライチェーンの
効率化は一筋縄ではいかない。 建材のバリエ
ーションの豊富さが競争条件の一つになるた
め、そもそもアイテムを絞り込めない。 サッ
シ(窓枠)やプレカット木材といった分野ご
とに流通網も分かれている。 それでも、現場
での日々の納期変更などは工務店と資材メー
カーが直接やり取りする商慣習のため、住宅
メーカーが物流のオペレーションに悩まされる
ことはなかった。
しかし、こうしたサプライチェーンが非効
率なのは明らかだった。 住友林業の社内でも
合理化の必要性を指摘する声は以前からあっ
た。 実際、九〇年代中頃には物流効率化に
乗り出したこともあった。 ところが多品種少
量の膨大な物量をさばき切れず、取り組みは
頓挫してしまった。
プッシュ型では機能しない
〇五年春、物流管理部門に新たな人材を得
たことが転機になった。 それまで大手プレハ
ブメーカーでサプライチェーン構築に携わって
いた萩平潔氏が住友林業の住宅事業本部・資
材物流部に中途入社で加わったのである。 現
在は木材建材事業本部で事業開発部のマネー
ジャーも兼務している萩平氏は、当時感じた
在来工法住宅における物流効率化の難しさを
次のように振り返る。
「大手プレハブメーカーはSCMで原価を管
理しており、現場が望もうと望むまいと、あ
らかじめパッケージングした資材を押し込んで
いく。 総原価はたぶんこのやり方が一番安い。
ところが在来工法の木造住宅で同じことをや
ろうとしても、まずパッケージングができな
い。 現場のスケジュールも頻繁に変わる。 こ
の会社に入った当初は、私の経験に基づく提
案をしても、まるで日本語が通じないかのよ
うな状態だった」
それでも萩平マネージャーは新たな同僚た
ちと議論を重ね、徹底的に考えた。 そして在
来工法の世界では、プレハブのように資材メ
ーカーからの出荷と現場への納入を連動させ
られないことを再認識した。
在来工法のサプライチェーンを効率化する
には、資材メーカーと現場の中間に、時間的、
量的なバッファーとなる何らかの仕掛けが欠
かせなかった。 しかも、それを「デマンドチ
ェーン型で、情報を全部、後工程から持って
くる必要がある」と確信するに至った。
そこから「中継センター」を軸とする物流構
想が形づくられていった。 資材メーカーがそ
れぞれ現場に納品していたやり方を改め、現
場に必要な資材を中継センターでとりまとめ
て、作業の進捗に合わせてジャスト・イン・
タイムで納品するというスキームだ。
これを実現するには、その前提として現
場の情報をサプライチェーンの上流工程の資
材メーカーに伝達する仕組みが必要だったが、
幸いその整備はIT部門によって進められて
一時保管
一括納品
入荷検品
品質確認
欠品確認
邸別セット
配送拠点
現場情報
代理荷受
品質確認
欠品確認
部材保管
配送計画
分割納品
一時保管
不在納品
納期調整
全国各地に設置した「中継センター」の機能と目的
現場・資材メーカーにとって最適な管理をCPM(Critical Path Method)に基づいて具現化した
中継センター
保有機能
入荷保管出荷
資材メーカーA
資材メーカーB
資材メーカーC
資材メーカーD
資材メーカーE
工務店A
工務店B
工務店C
工務店D
工務店E
資材メーカー
合理化機能
現場(工務店)
合理化機能
発 注
基本的な認識:資材メーカーの合理的なJIT 納品(Just In Time)と現場の合理的なJIT 納品
のタイミングが融合することはない
住友林業・木材建材事業本
部の萩平潔事業開発本部マネ
ージャー
AUGUST 2010 50
いた。 〇一年に稼働した「NACSS」(生産
合理化支援システム)がそれだ。
住友林業の情報システム部企画グループの
宮下敬史チームマネージャーは、「NACS
Sは全国各地で毎日三〇〇〇件ぐらい動い
ている現場を、ITを使ってバーチャル的に
生産管理できるものだ。 当社には工場がない。
家は現場でつくっている。 この現場の数が三
〇〇〇だろうと五〇〇〇だろうと標準的に管
理できるシステムを整備しようということで
開発した」とその狙いを説明する。
〇一年にシステムを稼働した当初は、住友
林業と工務店の間での図面のやりとりや、工
事の進捗状況を共有するために使いはじめた。
〇三年、そこに工事の請負契約などをデータ
でやりとりできる機能を追加した。
それ以前の請負契約はすべて紙ベースでや
りとりしていた。 まず住友林業が注文書と
「請書(注文承諾書)」を工務店に送る。 この
請書に印紙を貼って返してもらい、工事が終
了してから請求書を送ってもらうという手順
だ。 これをすべてウエブEDIで処理できる
萩平氏自身「本当に可能なのだろうか」とい
う不安を抱えながらのスタートだった。
そこで〇五年九月から、関東と関西の二カ
ようにしたところ、請書の印紙代
が不要になる点や、事務処理の負
担を軽減できることが高く評価され
た。 有料のサービスにもかかわらず、
住友林業と現場を結ぶオンライン網
が一気に普及することになった。
さらに〇五年になるとITを使っ
た資材のオンライン発注を可能した。
それまでの資材の注文方法では、住
友林業の担当者が手作業で図面か
ら資材を拾うなどの作業負担を伴っ
ていた。 それをCADシステムと連
動させることで発注業務の自動化
を進めた。 これによって現場と資材
メーカーがITインフラを介してつ
ながることになった。
実は一〇年前にNACSSの構
築に着手したときから、IT部門
は「最終ゴールは物流の効率化」と
意識していた。 その活動に萩平氏
のノウハウが加わったことで、物流
改革がにわかに動き出した。 萩平氏
と宮下氏が中心になって検討を重ね、
「中継センター」を活用しながらデ
マンドチェーン型の物流効率化を図
るという具体策が固まっていった。
コスト重視でネットワークを設計
もっとも、理屈のうえでは成立しても、初
めての試みであり、プロジェクトを主導する
住友林業・情報システム部の
宮下敬史企画グループチーム
マネージャー
電子受発注などIT インフラの整備が不可欠だった
情報の共有化
邸別情報+物件串刺し全体情報
物件基本情報 :お客様名、敷地情報など
資材仕様情報 :品番、色柄、数量など
図面情報 :平面図、設備図など
工程情報 :計画情報、実績情報、納期など
施工店情報 :連絡先、担当者など
お客様
建設会社
現場管理・検査
データ管理
工事店
(協力業者以外の施工業者)
電気・水道・屋根
足場・外装・内装
その他
資材メーカー
鉄筋・木材・内装資材
外装資材・住設資材
その他
物流センター
(物流拠点)
協力業者
工程・品質・
安全・資材管理
現場
大工
進捗報告
計画生産
在庫削減
無駄の排除
工程管理
JIT
工程調整
受発注合理化
現場進捗 計画と実績管理
トレーサビリティ
必要なユーザーに、必要な時、必要な情報を
51 AUGUST 2010
なデータを集めた。 関東はすぐに軌道に乗っ
た。 関西も微調整こそ必要だったが、慣れて
しまえば問題はなかった。
手応えを得た住友林業は、〇六年春から次
の行動を起こした。 まず過去の実績から、ど
の位の物量がどこで発生し、各地にどの程度
の規模のセンターが必要なのか、その場合の
倉庫代や人件費などに関する詳細なシミュレ
ーションを繰り返した。 そのうえでエリア別
に必要なセンターの機能を割り出した。
こうして固めた仕様に基づいて、各地で
センターの運営を委託する物流事業者を決め
ていった。 「資材メーカーの立場では、一部
の地域だけで
なく『全国で
この仕組みが
使えるのなら
考える』とな
る」(萩平氏)。
そうしたニー
ズに応えるた
めに〇六年度
中に全国展開
することにな
り、地場の有
力な中小物流
事業者に限定
して声を掛け
ていった。
大手の物流
事業者をパートナーにするつもりは最初から
なかった。 実務を手掛けずに管理だけを担う
事業者に運営を任せれば、コスト高になるこ
とが明白だったからだ。 中継センター構想が
資材メーカーと施工会社の双方から支持を得
るには、低コストが絶対条件だった。 結果と
して、全国二七カ拠点を二一社に運営しても
らう物流ネットワークができあがった。 拠点
はすべて物流事業者の既存施設などを活用し
ており、住友林業が固定費として負担してい
るところはない。
住友林業は現在、試行時に把握した作業
コストや工数なども参考にしながら、各拠点
の運営コストを最適化している。 場合によっ
ては、運営事業者の決算にも目を通す。 現場
レベルで問題があれば作業改善の指導もする。
納得できないことがあれば、契約上は三カ月
前に申し出れば、センターの運営委託を解除
できるようにしてある。 すでに四センターで
事業者を入れ替えたという。
中継センターによるネットワークがほぼ完成
した〇八年九月頃から、このインフラをさら
に強化していくために、センター運営の事業
化を模索しはじめた。 そこから誕生したのが
冒頭で紹介したエコロジ社である。 坂執行役
員は、「われわれは従来のやり方からから脱皮
する必要がある。 そのために、こうしたやり
方を社内でも教えている。 これからは萩平の
分身をどんどん作っていきたい」と考えてい
る。 (フリージャーナリスト・岡山宏之)
所で「中継センター」のトライアルを実施した。
関東は住友林業グループの施工会社、関西は
一般の工務店を対象とする試みだった。 その
ための物流拠点には、住宅建材の分野で実績
があり、萩平氏にとっても旧知のHOTTA
の既存施設二カ所を利用した。
東西二拠点で実地検証した理由は二つある。
地域ごとに異なる作業工程への対応を試すと
いうのが一つ。 そしてグループ会社でも実施
することで掛け値なしの作業コストや工数を
把握し、今後のベンチマークに活用したいと
いう狙いもあった。 半年ほどかけてそれぞれ
約五〇棟の住宅への資材供給を手掛け、詳細
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