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物流指標を読む
AUGUST 2010 82
GDPと貨物輸送量の相関関係
第20 回
●オイルショック以降、輸送量とGDPの伸び率が乖離
●産業の軽薄短小化・製品の高付加価値化等が背景に
さとう のぶひろ 1964年 ●品目の特性により、景気変動の影響度合いは異なる
生まれ。 早稲田大学大学院修
了。 89年に日通総合研究所
入社。 現在、経済研究部研究
主査。 「経済と貨物輸送量の見
通し」、「日通総研短観」など
を担当。 貨物輸送の将来展望
に関する著書、講演多数。
内需主導か外需主導かもポイント
新聞記者などから、「GDPと国内貨物輸送量
には相関関係があるのか?」という質問を受ける
ことがある。 統計学上は、「両者の間には正の相関
関係はない」というのが正解だ。 なぜならば、実
質GDPはたまにマイナス成長となることはある
が、近年、基本的には小幅なプラス成長が続いてい
る。 一方、国内貨物輸送量はどうかと言えば、二
〇〇〇年度以降ずっとマイナスだ。 片やプラス、片
やマイナスであるのだから、統計学上、両者の間
に正の相関関係はないということになる。
とは言っても、両者は決して無関係に動いている
わけではない。 物流需要は、生産・出荷・消費・
投資など経済活動の結果発生する派生需要である
から、一般的には、経済が成長し、生産規模、消
費規模、投資規模などが拡大すれば、物流需要は
増加する。 したがって、国内貨物輸送量と経済活
動を包括的に捉えた指標であるGDPとの間には、
何らかの関係があるとみるべきだ。
実際、第一次オイルショック以前においては、国
内貨物輸送量はGDPとほぼパラレルに推移して
いた。 すなわち、たとえばGDPが一〇%成長す
れば、国内貨物輸送量もほぼ同程度の増加となっ
ていたのである。 しかし、オイルショック以降は、
国内貨物輸送量の推移がGDPの変化にストレー
トに対応しない現象が発生しており、これを「貨
物輸送量とGDPの乖離」現象と呼ぶ。
一九九二年度〜二〇一〇年度における国内貨物
輸送量と実質GDPの増減率(注:一部、日通総
研による予測値)を比較してみると、実質GDP
の増減率が年平均〇・八%であるのに対し、国内
貨物輸送量の増減率は、それを二・七ポイント下
回る同マイナス一・九%にとどまっている。 総じ
てみると、「国内貨物輸送量の増減率がGDP成
長率よりも三〜五ポイント前後低い」といった関
係がほぼ定着した模様である。
このように、国内貨物輸送量とGDPの動きに
乖離が生じた要因としては、以下のようなことが
考えられる。
?産業の軽薄短小化・製品の高付加価値化の進展
に伴い、各品目において、生産額・出荷額と比
較して輸送トン数が相対的に減少したこと(注:
表を参照)
?素材型産業のような重量貨物の大量生産部門の
ウエイトが低下したこと
?サービス経済化の進展に伴い、「モノ」の生産部
門のウエイトが低下したこと
?企業物流においてロジスティクス志向が高まった
こと
また、GDP成長率が同じ水準であっても、そ
の成長が内需主導なのか、あるいは外需主導なの
かによっても、国内貨物輸送量の増減率は異なっ
てくる。 もちろん、前者の方が国内貨物輸送量の
増加により大きく寄与することは言うまでもない。
過去の推移をみると、国内需要が寄与度ベースで
プラス四ポイント以上の場合、国内貨物輸送量も
プラスとなる場合が多い。
モノの動きで景気を読む
さて、今後の国内貨物輸送量の動向を予測する
場合、?今後の経済成長率とその内容、?今後の
国土交通省「全国貨物純流動調査報告書」
83 AUGUST 2010
調で推移するとみて間違いあるまい。
ところで、前述のように、「物流需要は経済活
動の結果発生する派生需要」であるから、国内貨
物輸送量の動きは、景気の変動と一致、ないしは
若干遅行すると一般的には考えられる。 好況時に
は経済活動が活発になることから、当然、貨物の
動きも活発になり、不況時には総じてモノの動き
は低調となる。 ただ
し、個々の品目につ
いてみると、景気変
動の影響を大きく受
け、大幅に増減する
品目もあれば、受け
る影響が比較的小
さく、変動幅も小さ
い品目もある。 こう
した相違は、輸送需
要の発生源である各
産業の、いわば景気
変動に対する弾力
性の相違によるもの
である。
?景気変動に最も
早く反応する品目
景気循環の理論
によると、製造業の
場合、景気変動に最
も早く反応する業種
は、在庫投資の影響
をストレートに受け
やすい生産財型の
製造業であるとされている。 したがって、貨物輸
送の観点からみても、鉄鋼や化学製品等素材系の
生産財が、景気後退局面において最初に動かなく
なり、逆に景気拡大局面においては最初に動き出
すと考えられる。 なお、素材系の生産財に関して
は、一般に生産コストの安定化を図るため、生産
の振幅をなるべく小さくするような生産体制がと
られている。 逆に言えば、生産の振幅が大きくな
った場合、景気の転換点が近いことを示唆してい
る可能性がある。 ただし、近年、中国等への生産
財の輸出が大幅に増加しているため、上記の理論
通りの動きにはならない場合もある(注:国内需
要が減少しても、生産は増加する場合がある)。
?景気低迷期でも比較的堅調に動く品目
景気低迷期でも比較的堅調に動く品目としては、
食料工業品や農水産品といった食品類、あるいは
医薬品、化粧品等があげられる。 なぜならば、食
料工業品など生活必需品に近い性格をもつ品目の
製造業が、比較的景気の影響を受けにくい産業だ
からだ。
?景気の回復に比べて輸送量の回復が遅い品目
景気循環の理論によると、投資財型の製造業
は設備投資の動向に大きく左右されるため、一般
に不況からの回復が遅いとされている。 したがっ
て、貨物輸送の観点からみても、一般機械やプラ
ントなどの投資財の輸送量は、景気回復局面でも
なかなか回復しないと考えられる。 ただし、近年、
中国等への投資財の輸出が大幅に増加しているた
め、上記の理論通りの動きにはならない場合もあ
る(注:国内需要が減少しても、生産は増加する
場合がある)。
産業構造、産業動向、?国際物流の動向、?ロジ
スティクス等の進展の動向などが重要なポイントと
なる(注:もちろん、人口、労働力需給、環境・
エネルギー問題なども重要である)。 国内貨物輸送
量とGDPの増減率が乖離する現象は今後も続く
であろう。 わが国の潜在成長率を一%程度と想定
するならば、今後も国内貨物輸送量はマイナス基
貨物出荷量原単位の推移
食料品
飲料・飼料・たばこ
繊維
衣服・その他繊維製品
木材・木製品
家具・装備品
パルプ・紙・紙加工品
出版・印刷
化学
石油製品・石炭製品
プラスチック製品
ゴム製品
なめし革・同製品・毛皮
窯業・土石製品
鉄鋼
非鉄金属
金属製品
一般機械器具
電気機械器具
輸送用機械器具
精密機械器具
その他の製造業
製造業計
出荷量(?)/出荷額(1 万円) 倍 率
1990 1995 2000 2005 95 / 90 00 / 95 05 / 00 05 / 90
44.94 42.57 42.82 42.49 0.947 1.006 0.992 0.945
64.70 67.27 66.01 64.27 1.040 0.981 0.974 0.993
14.31 14.57 15.27 14.48 1.018 1.048 0.948 1.012
6.65 5.79 5.05 5.88 0.871 0.872 1.164 0.884
125.12 115.74 100.47 98.83 0.925 0.868 0.984 0.790
22.94 25.23 21.23 23.01 1.100 0.841 1.084 1.003
69.21 68.67 71.54 80.41 0.992 1.042 1.124 1.162
15.73 16.04 16.03 26.04 1.020 0.999 1.624 1.655
55.30 57.20 56.44 55.84 1.034 0.987 0.989 1.010
277.93 269.18 280.66 317.69 0.969 1.043 1.132 1.143
23.01 21.46 21.08 19.78 0.933 0.982 0.938 0.860
19.11 20.74 20.03 23.09 1.085 0.966 1.153 1.208
4.57 4.10 3.84 3.78 0.897 0.937 0.984 0.827
912.83 912.43 975.82 936.15 1.000 1.069 0.959 1.026
141.80 147.08 157.51 173.98 1.037 1.071 1.105 1.227
37.29 37.16 36.52 41.17 0.997 0.983 1.127 1.104
33.29 30.86 31.66 30.75 0.927 1.026 0.971 0.924
11.36 9.41 8.76 8.69 0.828 0.931 0.992 0.765
9.88 7.89 5.80 4.38 0.799 0.735 0.755 0.443
18.88 15.85 14.83 13.71 0.840 0.936 0.924 0.726
3.04 2.84 2.69 2.21 0.934 0.947 0.822 0.727
10.38 10.34 10.34 9.56 0.996 1.000 0.925 0.921
79.41 77.25 72.98 66.93 0.973 0.945 0.917 0.843
注)1.貨物出荷量原単位:出荷額1万円当たりの出荷量。
注)2.上記年次は「全国貨物純流動調査」の実施年次を指し、出荷量は調査実施年次の前年のものである
(たとえば、2005 年調査においては2004 年の出荷量を用いている)。
注)3.強調した3 業種は、貨物出荷量原単位の低下が顕著なもの。
資料)国土交通省「全国貨物純流動調査報告書」(平成19 年)
業 種
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