ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年8号
SOLE
NECパソコン事業の生産革新活動 八倍の生産性と業界最短納期を達成

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AUGUST 2010  84  �
咤錬味兎鐱椹拮�桟酖戮離侫�� ラムでは、NECのパソコン事業会 社、NECパーソナルブロダクツの米 沢事業場を訪問し、SCM改革に取 り組む現場 の見学会を行った。
NE Cは二〇〇九年度もパソコンの国内 市場シェア No. 1を堅持している。
パ ソコン事業において、生産現場に早 くからトヨタ生産方式、RFIDを 導入している同社の生産革新活動を 報告する。
(SOLE日本支部幹事・瀬良光弘) PCのマザーファクトリー  今回訪問した「NECパーソナル プロダクツ株式会社米沢事業場」は 山形県東南部、米沢市に所在する。
山形新幹線にて、福島から西へ。
山 を抜けると、そこは米沢盆地・米沢 市、昨年のNHK大河ドラマ「直江 兼続」の地である。
我々は東京駅か ら二時間少々の米沢駅から東へ徒歩 一〇分に位置する米沢事業場に到着 した。
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� E Cパーソナルプロダクツは経 営理念・経営目標に、「人と社会に、 最善の解を。
」を掲げ、「?CS �
� o.1、?スピードNo.1、?シェア No.1、三つのNo.1を実現」を目 指して活動している(図1)。
そう した中で米沢事業場の担う機能は主 に?技術開発(先端技術・ユーザビ リティ設計でシェアNo.1商品を開 発)、?品質保証(CS �
裡錙ィ�  高品質をささえる品質管理体制)、 ?生産(生産革新、VCM: Value Chain ManagementでスピードNo. 1を徹底追求)、の三つである。
 先進技術/戦略商品の開発、ジャ ストインタイムB T O(Build to Order :受注生産方式)生産、品質 保証の体制を取り、NECのグロー バルSCMの起点となるマザーファ クトリーとして位置づけられている。
コモディティ部分の設計・生産は中 国/台湾で行われ、コンシューマー PCではベースユニットおよび一部 完成品、ビジネ スPCではベー スユニットが対 象となっている。
 米沢事業場の パソコン開発・ 生産の開始は、 米沢日本電気の 時代:昭和五九 年( 一九八四 年)にさかのぼ る。
パソコンの グローバルレベ ルでの急激な普 及と共に過酷な 競争に突入した 米沢日本電気 は、開発・生産 にコンカレント エンジニアリン グ(業務を同時 並行的に行い、 納期短縮などの効率化につなげるこ と)を導入し、ISO9002とI SO14001の取得、BTO生産 の開始、セル生産方式の導入等、独 自の改善活動を経て、平成十二年 (二〇〇〇年)に生産革新活動「生 産革新活動:トヨタ生産方式を機軸 とした現地現物の改善」をスタート させた。
 その後、グループ内のパソコン開 発・製造機能の集約、デスクトップ PC生産の米沢への統合を経て、平 成一五年(〇三年)に製販統合を果 たしてNECパーソナルプロダクツの 開発生産拠点となり、現在に至って いる。
 多品種変量生産で変動に対応  米沢事業場の生産革新活動は、 第一フェーズ( 二〇〇〇〜〇三 SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics NECパソコン事業の生産革新活動 八倍の生産性と業界最短納期を達成 図1 NECパーソナルプロダクツの経営概念・経営目標。
こうした理念・目 標の下、米沢事業場は製品の開発、品質管理、生産を行っている。
人と社会に、最善の解を。
The Best Answer for the People & the Society NEC パーソナルプロダクツは、生活者視点に立ち、高い技術力を備え、使う人の使い勝 手を最大限に追求した商品とサービスの提供を通じて、人と社会が求める最善の解を提 供する企業を目指します。
CS No.1, スピードNo.1, シェアNo.1 3 つのNo.1 を実現 お客様 (CS) 市場変化に俊敏に対応 (スピード) 魅力ある商品 (シェア) ◆サービスサポート の充実 ◆品質の強化 ◆生産革新 ◆VCM システム ◆RFID ◆コアテクノロジー ◆新コンセプト ◆ユーザビリティ ※NEC パーソナルプロダクツ資料より作成(以下、すべて同じ) 85  AUGUST 2010 年) のトヨタ生産方式導入から第 二フェーズ( 〇四〜〇八年) のス ピード徹底追求・先進IT活用(E RP/RFID/QIM: Quality Improvement Meeting)、第三フェー ズ(〇九〜一二年)のパソコン版ト ヨタ生産方式へと進化継続しており (図2)、NECパソコンの国内市場 シェアNo.1(出荷台数ベース)と いう成果に寄与してきた。
それぞれ の活動の詳細報告の前に、パソコン という商品の過酷なビジネス競争環 境を見てみよう。
 まず、商品の特性をアーキテク チャーの面からみると「コモディティ 化が進行している」製品であり、オー プン型、モジュール型へと進行して いるといえる。
部材の購入は易しく、 組み立ても簡単である。
製品価格が 下がる一方、部材費比率が上がって いることからマージン比 率が低下し、コスト競争 力が重要となっている。
 部材価格の変動も厳 しい。
半期で約十二% の価格変動がある。
必 要なものを必要なタイミ ングで調達することが 重要であり、JIT調 達力が経営スコアに直結 する。
 店頭市場の特性とし ては、季節変動が激し いことが挙げられる。
年三回の大きな商戦期: 夏季ボーナス期、クリス マス期、年度末があり、 それ以外の時期に比べ て出荷量は二倍に跳ね 上がる。
そのために変 動対応が必要となって おり、生産台数は月産 一五万台から三〇万台となっている。
 季節変動だけなく、週次、日次変 動への対応も必要であり、実売に連 動した生産出荷が求められる。
販売 店の実売(仕入れ)が土曜日である ため、木曜日に受注の六割が集中す る。
 商品ライフサイクルは三〜四カ月 と非常に短く、商品ライフサイクル の管理が競争力につながる。
鮮度ロ スの圧縮と販売機会のロス防止のた めに、流通在庫を見据えて生産のア クセル・ブレーキを使い分けること が重要である。
 このようなビジネス環境からビジ ネス用PCの生産体制に求められる のは、「多品種変量生産」である。
部品点数は少ないがモデル数が多く、 多様なビジネス環境とニーズに対応 する豊富なラインアップが求められ るので、多彩なセレクションメニュー を提供しなければならない。
受注モ デル数は二万モデル以上にも上り、 同一仕様で一台のみ受注の比率が約 五〇%を占め、一〇台未満の受注の 比率は約八〇%に達する。
受注量の デイリーの変動幅は、約二〇〇台か ら約七〇〇〇台に至っている。
セル生産を導入し改革を加速  米沢工場では以前はパソコンの組 み立てライン、検査ラインともにそ れぞれコンベア式を採用していたが、 組み立てと検査とを一体化したセル 生産方式に切り替えている。
先進I Tで武装化して二万種類以上をBT O生産する体制を実現し、生産性は 八倍以上向上、納期は業界最短を達 成したが、その改革の内容を要約す ると、次の通りである。
■業務改革? グローバル調達体制 構築 ●変動に柔軟に対応する三つの方式 と三〇分サイクル調達を実現 ?かんばん調達:RFID内蔵電 子かんばん導入 ?保税JIT:米沢事業場近隣で の実現 ?VMI調達:部材メーカーとの 情報・効率の共有にて ■業務改革? セル生産強化 ●流れ・リズムを重視したライン作り ●一秒・一歩・一円に拘ってムダを 排除。
「動き」を「働き」に ●現地現物による自動化、水すまし、 リレー方式、動作分析二・〇 ●セルライン長は一七メートルから約 四メートルまで短縮 ■業務改革? デリバリー改革 ●製造・販売・物流が一体となって デリバリー統合システムを構築 図2 パソコン事業の生産革新。
2000 年に開始し、進化させてきた。
生産革新の高度化 独自の改善活動トヨタ生産方式導入 第1 フェーズ第2 フェーズ第3 フェーズ スピード徹底追求パソコン版 トヨタ生産方式 先進IT 活用 ERP/RFID/QIM 生産革新 トヨタ生産方式を機軸とした現地現物の改善 BTO 生産開始 セル生産導入 2000~2003 年2004~2008 年2009~2012 年 SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics AUGUST 2010  86 ンにより調達物流便を三分の一に 削減  電子かんばんにRFIDを貼付し、 部品が使用された電子かんばんは米 沢事業場で自動で読み取り、リアル タイムに情報を転送、サプライヤー またはJIT倉庫においてRFID 電子かんばんを直ちに自動発行する 仕組みを構築した。
 併せて部品調達の輸送をミルクラ ン方式に変更し、工場在庫を四分の 一、調達物流便を三分の一に削減す るなどの成果を上げた。
?パソコンの品質トレーサビリティは モジュール部品の製造番号単位が 九割以上  �
劭藤稗弔粒萢僂砲茲蝓▲僖愁灰� 本体製造工程ではHDD(ハードディ スクドライブ)、LCD(液晶ディス プレイ)、マザーボード(電子回路基 板)などモジュール部品の九割以上 について、各々の製造番号までのト レースが可能というトレーサビリティ を実現している。
マザーボードの製 造工程においてはLSI(大規模集 積回路)、コンデンサ、抵抗器等の半 導体部品について、各ベンダー/ロッ ト番号までトレースを実施している。
モノづくりは、人づくり  現場見学の参加者の意見を集める  具体的な事例を挙げると、 ?生産工程管理システムに業界で初 めてRFIDを活用し生産性を三 倍に(図3)   �
劭藤稗弔瞭各�阿蓮∋罎寮源沙� 示書に印刷されたバーコードを読み 取る作業をしていたが、生産指示書 をRFIDを組み込んだカード型に 変更。
作業現場のアンテナ近くに指 示カードを置くだけで、生産指示内 容がオンラインモニターに表示、セル 内での作業確認タッチと生産指示が 順次表示される。
 導入前の人手による管理・伝達は 自動配信レポートというかたちになっ た。
一日一〇万回にも上るバーコー ド読み取り作業を排除することによ り、生産性を三倍に向上すると同時 に品質改善を実現した。
 さらに生産進捗管理にも活用して おり、生産現場に大型モニターを設 置してセルラインごとの進捗を表示、 「見える化」している。
正にリアルタ イムの工程進捗情報の把握、表示、 遅れの発見と対処、不良発見と対策、 指示を可能にしている。
例えば、セ ル間の進捗に応じての生産作業割り 当て変更を容易に行い、セルライン 全体の稼働率を向上している。
  ?工場在庫を四分の一に、ミルクラ ■IT改革? 需給リードタイム短 縮 ●VCMシステム構築により、変動 対応リードタイムを二・五週間から 一週間に短縮 ●従来、市場変化に対して需給計画 策定に一・五週間、週次生産出荷 に一週間=計二・五週間 ●〇三年のVCM導入により、需給 計画策定を三日とし、変動対応 一・五週間を実現 ●さらに強化することにより、変動 対応一週間を実現 RFIDでモノと情報を一元化  �
劭藤稗弔魯皀里半霾鵑琉豸鬼浜� を可能にするものである。
RFID 導入の狙いは、現場とERPを密に 連携させ、次の三つの領域でサプラ イチェーン改革を推進することにあっ た。
(1) ERP:スピード経営(全体最適・ 見える化・意思決定) (2) MES(Manufacturing Execution System):モノと情報の一元化(よ り早く、より正確に、より効率的 に) (3) 現場:調達・生産・出荷・保守の プロセス改善 ●まず営業部門が客先搬入日を確定。
製造部門では搬入日から逆算して 生産着手、顧客別の仕様でBTO 生産、生産ライン側で全国方面別 に仕分けて三〇分サイクルで工場 出荷。
物流部門は全国物流網を活 用して停滞なく輸送、最終ターミ ナルで荷揃え(クロスドッキング) して客先搬入 ●物流センターの廃止、製品在庫半 減、納期順守率一〇〇%達成 ■IT改革? �
孱達優轡好謄爐旅� 築 ● 全体最適、グローバル標準、ス ピード追求 ●グローバル標準のITを活用した バーチャル垂直統合SCM体制を 実現 ●販売店とはWeb─�
釘庁匹砲茲� 受注・納期回答 ●サプライヤー(中国/台湾/国内) とは、「GNPS(NECグロー バル調達システム)」によるフォー キャスト・発注・納期・価格・品 質情報の共有、三〇分サイクル調 達納品 ●VCMシステム/ERPシステム による生産計画・生産指示・進捗 管理・在庫コントール ●三〇分サイクル出荷の実現 87  AUGUST 2010 「生産革新パトロール」は一〇年間 継続して三〇〇回実施してきた。
メ カトロ技術研修は六年継続し、設備 自動化の基礎に。
また、生産革新研 修・自主研究会を改善マン育成と革 新ステップアップにつなげ、「達人大 賞」を設けて小集団活動を活発に行っ ているという。
正に、「ものづくりは、 人づくり」なのである。
※ S O L E(The International Society of Logistics : 国際ロジスティクス学会) は 一九六〇年代に設立されたロジスティクス団 体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・ 三〇〇〇~三五〇〇人に及ぶ。
日本支部で は毎月「フォーラム」を開催し、講演、研 究発表、現場見学などを通じてロジスティク ス・マネジメントに関する活発な意見交換、 議論を行っている。
サイドの柔軟性(変動への対応力) がシステム運用のキーである。
米沢 事業場の生産システムは、徹底した 「変動対応可能システム」といえよう。
 「ムダ取り」はコスト低減活動であ るが、同時に標準化活動(システム 作り)である。
同事業場では、IE (Industrial Engineering)を現場レ ベルで活用している。
昔は専門家(生 産技術者、IEマン)が現場改善を 推進していたが、今では現場作業者 (正社員のみならず請負会社も含め て)がIE活動を行っており、トヨ タの現場を髣髴させた。
正に「知恵 の詰まった生産ライン」である。
 実際の改善活動は現場のリーダー クラスが推進している。
自前主義: 一〇万円以下の投資で現場のジグ(治 具)、工具、設備を創意工夫を凝ら して制作している。
例えばセル生産 ラインの部品供給回転棚、梱包材の 組み立て供給、構内を走行するAG V(無人搬送車)、RFIDアンテ ナ︰︰。
改善の基本原理は「単純化」 という。
試作し、上手くいけば、直 ちに六〇あまりのセル生産ラインに 横展開する。
 この全社挙げての生産革新活動は 一〇年に及び、指導会・現地検討会 がこれまでに五〇回以上開催されて いる。
社長巡回は大崎、米沢、群馬 事業場合わせて七五回以上を数え、 増大した。
 情報の世界でPDCAを回せても、 モノの世界が同期しなければ正に「空 回り」、モノの世界(現場)を合理 的なシステムにしなければ、折角の 計画(情報)も効果なし。
RFID を導入するに当たっては、一般的に は「モノ」その ものにRFID を付けることを 想定しコストの 壁に突き当たる ことになるが、 ここではRFI D付き電子かん ばん、R F I D内蔵の生産指 示カードの絶妙 な組み込みによ り「モノと情報 の一致」を実現 していると理解 した。
オーダー を生産の直前ま で受け入れ、情 報処理を高速で 行ったとしても、 モノを管理する システムが追従 できなければ実 施不能である。
モノのシステム と、ある人曰く、ロジスティクス、 SCM、DCM、VCM等々は「情 報によってモノの動きを計画し、実 施し、統御すること」。
そのために は「モノと情報の一致」が不可欠で あり、これは永年の念願であるが、 RFIDによって可能性が飛躍的に 次回フォーラムのお知らせ  8月度のフォーラムは「SOLE2010 Conference 代表参加(米国開催)」の ため休会とし、次回フォーラムは9月13 日(月)「SOLE2010 Conference 報告」を予定している。
このフォーラム は年間計画に基づいて運営しているが、 単月のみの参加も可能。
1回の参加費は 6,000円。
ご希望の方は事務局(solej- offi ce@cpost.plala.or.jp)までお問 い合わせください。
図3 RFID の活用事例の1つ。
パソコン業界で初めて 生産工程管理システムにRFIDを導入した 業界初1日10 万回のバーコード読み取り作業を排除して、 生産性3 倍と品質改善を実現 導入前導入後 紙の生産指示書に印刷された バーコードを読み取り 人手による管理・伝達 RFIDプリンタオンラインモニタ RFIDを導入した生産ライン RFIDアンテナ アンテナの近くにRFIDカードを置くだけで生産指示内容が画面に表示 導入前 自動配信レポート

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