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SEPTEMBER 2010 38
「これからは取扱規模がものを言う」
国内の既存荷主の物量減少はリーマンショック前か
ら始まっていた。 この傾向は今後も続く。 物量が減っ
ても効率を維持できる3PLだけが生き残る。 各エリア
における取扱規模がそのカギを握っている。 3PL市場
は淘汰の時代に入った。
既存荷主は物量減少が前提に
──二〇一〇年三月期の決算で六期連続の増収増益
が途絶えました。 3PL市場全体の規模も縮小に転
じました。 一時的な現象でしょうか。
「3PL市場の規模自体はまだまだ拡大基調にある
と見ています。 ただし物量減少はリーマンショックに
よる一時的なものとは言えません。 それ以前の〇四
年頃から、既存荷主の物量は年率三、四%のペース
で緩やかながらも減る傾向にあります。 その穴を従
来は新規案件で埋めることで当社は増収増益を維持
してきた。 ところが前期は、荷主によっては物量が
半減以下になるなど減少幅が極端だったために、新
規案件の受託ペースはそれまでと変わらなくても穴
を埋めきれなかった」
──既存荷主の物量減少は今後も続きそうですか。
「今は既存荷主の物量は毎年減っていくものだとい
う前提に立っています。 二〇〇〇年前半までは、極
端に言えば営業しなくても大丈夫でした。 放って置い
ても当社の業績は拡大した。 しかし、これからは常
に一定以上の新規案件を受託し続けて行かなくては業
績の拡大どころか維持もできない」
──それは日立物流だけの話ではありませんね。
「これまで3PL市場の拡大を牽引してきた小売り
の一括物流も、この一〇年で既に一巡した感があり
ます。 不動産ファンドが大規模施設を大量供給した
ことで、拠点集約も大きく進んだ。 大がかりな改革
が一段落した結果として、引き合いの数自体は依然
として減っていないものの、昨年辺りから案件の規
模が小さくなっている。 これはあくまで個人的な考
えですが、今後は3PLにアウトソーシングしたこと
が本当に正しかったのか、検証が本格化すると思い
ます。 これまでの3PL事業はいったん受託してし
まえばよほどのことがない限り、契約を切られると
いうことはなかった。 しかし、これからは違う」
──何が生き残りの条件になりますか。
「当然ながらコスト競争力です。 物流の生産性とい
うのは、何と言っても物量の増加が一番効く。 それ
も、じわりじわりと物量が増えてくことで、あらゆ
る分野の生産性が向上する。 五〇店舗をカバーしてい
た拠点で急に七〇店舗を扱うとなれば、設備はもち
ろん作業員の数を増やさないと対応できない。 ところ
が一店舗ずつ増えていって七〇店舗を扱うようになっ
た場合には、五〇店舗の時と同じ人数で処理できて
しまう。 その分、売り上げと利益は増えている」
「それだけに物量の自然減はやっかいです。 七〇店
舗を一気に五〇店舗に減らすというのであれば、作業
員数やトラックを減らすなどの手が打てる。 しかし、
毎月零コンマ数%ずつ物量が落ちる場合には、コスト
削減がどうしても後追いになってしまう。 それをカ
バーするには、やはり新規案件を獲得するしかあり
ません。 物量の減少で空いたスペースを、新規案件で
埋める。 あるいは別の荷主を移管する。 ただし、人
は増やさない。 その拠点の既存スタッフで新規案件も
運営する。 配送にしても、物量が減れば各店舗への
納品時間を調整することで車両を減らし効率を維持
する。 それができるかどうかです」
──物量の変化に合わせて、荷主の配置や配送を調
整するには、そのエリアで複数の案件を扱っていない
とできません。
「3PLのコスト競争力を決める最も大きな要因が、
そのエリアにおける取扱規模です。 当社も3PL事
業の黎明期の頃はまったく儲からなかった。 一〇〇
〇坪の仕事を受託できそうだけれど、好立地にタイ
日立物流 長谷川伸也 執行役専務
Interview
39 SEPTEMBER 2010
ミング良く一〇〇〇坪を用意できないので、とりあ
えず二〇〇〇坪の倉庫を借りる。 残り一〇〇〇坪に
は別の荷主を呼び込もうとするけれど、そう都合の
良い案件はない。 それで儲かるはずがない。 首都圏
なら首都圏、大阪なら大阪で圧倒的なボリュームを獲
得することによって、初めてコスト競争力を確保でき
るようになりました。 利益を出せるようになったん
です」
「もっとも、ボリュームが何より大事だと痛感する
ようになったのは、この数年のことです。 やはり既
存荷主の物量減少が始まったことで、ボリュームの差
がコスト競争力の差としてはっきり現れてくるように
なった。 その傾向に今後はどんどん拍車がかかって
くるはずです」
海外と川上へ事業領域を拡大
──一〇年三月期の売上高三三一九億円を三年間で
五〇〇〇億円まで拡大するという目標を掲げていま
す。 現在の環境では容易なことではありません。
「グローバル物流の規模拡大と、国内では川上のメー
カー物流に事業領域を広げていくことで目標達成を目
指します。 ボリュームが大事だというのは海外でも同
じで、今のところ当社の海外における3PL事業は
黎明期を脱していません。 そこで当面はフォワーディ
ング機能を強化する。 昨年、インドでフォワーディン
グ会社のフライジャック・ロジスティクスを買収した
のもそのためです」
──フォワーディングで既存の専業者と伍していくの
は容易ではなさそうです。
「フォワーディング機能の強化は、荷主とアクセス
する窓口を増やすことが第一の目的で、当社の軸足
は海外でもやはり3PLです。 当社が国内で得意と
している、きめ細かな流通センターの運営を海外で
も展開する。 そして利益を出すために海外でも圧倒
的なボリュームを確保します。 ただし、新興国では物
流サービスの付加価値が配送にある場合が多いので、
国内と違って新興国では配送もアセット型になる。 そ
のために必要な機能の確保には、現地企業の買収も
有効な選択肢だと考えています」
──メーカー物流の拡大というのは? これまで国内
では川下が主なターゲットでしたが。
「川下の物流と比較すると、メーカーの物流は単純
輸送が中心で、難易度は低いけれども、付加価値も
小さい。 一方で小売りの一括物流が急拡大している
こともあって、これまでは川下を中心にしてきまし
たが、今後は川上にも本格的に切り込みます」
──川上では〇七年に資生堂、昨年は内田洋行と、
物流子会社の買収が目立っています。
「各業界の中核メーカーがターゲットです。 資生堂
さんもそうでしたが、内田洋行さんの場合もオフィ
ス用品市場では中堅でも、オフィス家具の実運送で
はナンバーワンの実績を持っていた。 そうした物流子
会社と当社が一緒になって、その業界の物流プラット
フォームを構築するというやり方を進めていきます。
今下期に開始する資生堂さんとコーセーさんの共同物
流をそのモデルケースにしたい」
──過去を振り返ると日立物流が経験のない川下物
流や異業種を外販のターゲットとしたのは、グループ
以外のメーカーに営業をかける上で﹁日立﹂の看板
が制約になったからでした。
「しかし看板がプラスになることも多かった。 しか
も現在は誰も看板を気にしなくなっている。 海外では
電機業界のライバルメーカーでも当社をパートナーに
選んでくれている。 もはや制約ではありません」
3,528 物量減
08年度
(実績)
09年度
(実績)
3,005
▲523
233
81 3,319
3,500
(億円)
2012年度に売上高5000億円を目指す 2009年度売上高増減の詳細
売上高
3,000
0
既存受注
新規受注
(システム
物流他)
M&A
5,500
5,000
4,500
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
3,700
3,319
4,300
5,000
4,150
3,500
2,950
148
127
193
250
《売上高》
《営業利益》
(億円)
(億円)
250
200
150
100
50
02 03 04 05 06 07 08 09 10
(見込み)
11
(中計)
12
(中計)
(年度)
2,522
売上高
営業利益
実績計画
システム物流(3PL 事業)売上高
特 集 3PL市場 2010
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