ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年9号
道場
メーカー物流編 ♦ 第12回 「在庫アナリストの連中は、もちろん生産量の決定に関与しています。というか、アナリストの言うとおりに生産しているんです」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 SEPTEMBER 2010  78  物流業者の部長が「そうですか、それなら よかったです」と大先生に頭を下げる。
メー カーの部長もほっとしたような顔をする。
そ の顔を見て、物流業者の部長が、興味深そ うな顔で、メーカーの部長に声を掛ける。
 「部長の先ほどのお話にはびっくりしました。
ほんとにロジスティクスをやってる会社があ るんだ、という驚きです。
大きな声では言え ませんが、うちの荷主さんでそんなことやっ てるとこは一社もありません」  「そんなこともないでしょうけど、あれです よ、私どもなど、まだまだロジスティクスの 真似事をやってるに過ぎません。
そうですよ ね、先生?」  「いやー、立派なロジスティクスをやってま すよ、御社は。
製販調整に力を入れているの は昔からの御社の伝統ですね?」  遠慮気味の部長の言葉に大先生が話を促 67「在庫アナリストの連中は、もちろん生産量の決定 に関与しています。
というか、アナリストの言うと おりに生産しているんです」 《第101事に終わった頃には、外はもう薄暗くなり始 めていた。
 会場のビルの玄関で時計を見たメーカーの ロジスティクス部長が「もうこんな時間なん ですね。
よろしかったら、せっかくの機会で すから、そこらで軽く打ち上げなどいかがで すか?」とみんなを誘った。
こんなメンバー で一杯やることなどめったにないことでもあ り、大先生を含め全員が賛同した。
こうして、 四人で近くの居酒屋に繰り出した。
 大先生の音頭で乾杯をしたあと、メーカ ーの部長が「座談会はあんな話でよかったん でしょうか?」と大先生に不安そうに尋ねた。
物流業者の業務部長や大手食品卸のSCM 担当部長も不安げに大先生の顔を見る。
「い やー、なかなかおもしろかったですよ。
何の 心配もいりません」と大先生がこともなげに 返事をする。
 ﹁在庫アナリスト﹂の登場  まだまだ残暑が厳しい中、大先生はある雑 誌の座談会に出席した。
ロジスティクスをテ ーマにした座談会で、スピーカーにメーカー、 大手卸、物流業者の部長クラスの人たちを集 め、大先生が司会役を務めた。
座談会が無 メーカー物流編 ♦ 第 12 回  ロジスティクス先進企業として名高 い某メーカーでは、出荷データの分析 結果を営業部門や生産部門に提供する 「在庫アナリスト」が活躍している。
市 場の動きと日々向き合っている物流現 場には、貴重なビジネス情報が手付か ずのまま眠っている。
それを在庫アナ リストが、利益を生む宝に変える。
79  SEPTEMBER 2010 すように質問する。
メーカーの部長が、満更 でもなさそうな顔で答える。
 「はい、ただ、かつては、やったりやらなか ったりという感じでした。
変な言い方をすれ ば、流行り廃りがあったということです。
まあ、 簡単に言えば、売り上げが伸びているときは、 全社的に製販調整などあまり関心を持たれな いという感じです」  「そうですか、それがいまは定着していると いうことですか?」  「そうですね。
特にリーマンショックの後、 トップの強い意向もあり、定着した感があり ます」  メーカーの部長の妙に自信ありげな物言い に大先生が興味深そうな表情で続けて聞く。
 「それは部長の部隊が生産や営業という活 動に深く食い込んでいるということですか? ロジ部隊がないとそれらの業務に支障を来た すくらいに‥‥」  大先生の質問に「それほど大それたことで はないですが、まあ、それに近い状況になっ ているといえば言えます」と遠慮気味に答え る。
ただ、表情は自信ありそうだ。
 それまで黙って聞いていた大手卸の担当部 長が膝を乗り出すような風情で質問する。
大 いに興味を持ったようだ。
 「へー、すごいですね。
具体的にどういう 関わり方をしてるんですか?」  「えーとですね、先ほどの座談会ではお話 ししなかったんですが、実は、うちの部に製 販調整室というところがあって、あっ、これ についてはお話しましたが、実はそこに在庫 アナリストという人間を三人置いているんで す。
三〇代の中堅社員です」  「在庫アナリストですか?」  物流業者の部長が思わず口を挟む。
メーカ ーの部長が頷き、続ける。
 「そうです。
まだ、あまり一般的ではない かもしれませんが、うちではそう名づけて、 社内的に存在感をアピールしています。
在庫 アナリストを置いてから、もう二年になりま すが、いまでは当社にとって欠かせない存在 になってます」  リアルなデータは物流にある  そこまで話してメーカーの部長がビールを 空ける。
大手卸の担当部長がビールを注ぎな がら、「その方々がどんなことをなさっている か詳しくお聞かせ願いますか?」と話の先を 促す。
 メーカーの部長が「こんな話をしてもいい んでしょうか?」と大先生に確認する。
大先 生の「私も非常に興味があります」という言 葉を受け、部長が頷いて続ける。
 「在庫アナリストの役割はまだ一般的では ないと思いますので、うちなりの仕事という 点でお話しをします。
先ほど三人いると言い ましたが、当社の製品は大きく三つの製品群 に分けられますので、それぞれに一つの製品 群を担当させているということです」  「へー、でも、御社の場合、一つの製品群 といってもかなりな製品数になると思います が‥‥」  大手卸の担当部長が独り言のように呟く。
メーカーの部長がたしかにといった顔で頷き、 続ける。
 「はい、もちろん、全製品ではなく、いま のところ売上上位二〇%程度の主力製品を 主に対象にしています。
これだけで売り上げ の九割以上になります。
彼らが何をやってい るかというと、簡単に言えば、在庫管理シス テムで把握できる在庫データ、というよりは むしろ出荷データですね、この分析をやって るということです。
主力製品の各地域別の出 荷状況を営業の連中が興味を呼ぶ形に加工し て、営業に情報提供しています。
主力製品と いえども地域によって売り上げに結構差が出 るんです。
その実態を数字だけでなく、彼ら なりの原因分析を加えて提示しています」  「へー、その分析というところがポイントな んでしょうね?」  大手卸の担当部長が感心したような顔で感 想を口にする。
メーカーの部長が頷く。
 「そうなんです。
売れている地域と売れてい ない地域との比較分析までやりますから、営 業にとっては貴重な情報源というか、まあ助 っ人ですね。
ですから、うちでは毎月の定例 の営業会議に彼らは主要メンバーとして参加 しているくらいです」  「そこまでやるんですか?」 SEPTEMBER 2010  80  思わず大手卸の担当部長が声を出した。
 「在庫アナリストの範囲を超えているかもし れませんが、そもそもは出荷に応じた在庫を 維持するというねらいから出荷分析を行って いるんです。
それが、実は営業にとって貴重 な情報だったってことです。
出荷状況を論理 的に説明するんですから、それは営業に対し て説得力があります」  「となれば、営業が行う、在庫に影響を与 えるイベント関係の情報などは当然というか、 必然的というか、その在庫アナリストのとこ ろに入ってくるということですね?」  また大手卸の部長が口を挟む。
 「もちろんです。
今度こういう売り方をしよ う、販促を掛けようという取り組みを在庫ア ナリストと相談しながら決めるという関係に なってます」  ここで大先生が確認するように質問する。
 「そもそも論でいうと、やはりリアルタイム で取っている出荷データの威力ということで しょうかね?」  「はい、実はそうなんです。
うちだけかもし れませんが、日々の製品別の販売データとい うのが存在しないんです。
もちろん、売って いるわけですからその実績データはあります が、それが出てくるのは何週間も後なんです。
リアルな販売データは私らロジが持ってると いうことなんです。
これを新鮮なうちに加工 して提供したということがポイントです。
在 庫アナリストという専門職をその任にあたら  「たしかに、出荷実績にそれを加味しない と欠品が出てしまう」  大先生が呟く。
 「はい、うちは週次生産をしているんです が、在庫アナリストの連中は、もちろん毎週 の生産計画会議にも参加して生産量の決定に 関与しています。
というか、アナリストの言 うとおりの量を生産するということです。
営 業の取り組みと出荷に関するデータを基にし て、なおかつ生産効率まで考えて必要生産量 を提示しているわけですから、生産側から異 論を挟む余地などありません」  「なるほどー、御社で製販調整を仕切って いるのは、在庫アナリストの彼らなんですね? うちもたくさんのメーカーさんの在庫を預か ってますが、そういう人の存在は聞いたこと がありません。
でも、それはかなりおもしろ そうな仕事ですね。
専門職として価値の高い 仕事だし、もっと広まってしかるべきですね」  物流業者の部長の言葉に大手卸の担当部 長が大きく頷き、何か決心したように呟く。
 「たしかに、そうですね。
そういう専門職、 うちも設置する方向で検討してみようかな。
売り上げにも貢献するし、うちの場合は仕入 れにも貢献するということだな。
主力商品の 在庫量を適正に維持できれば在庫圧縮にてき めんに効いてくるし‥‥これはたしかに価値 が高い仕事だと思います」  大先生も感心したように頷く。
 「在庫アナリストというのは、営業の動きを せたということが成功要因だったと思います」  「出荷データの背景を論理的に解明できる 能力を持った専門職の存在ということです ね?」  大先生の言葉に物流業者の部長が独り言 のように反応する。
 「なるほど、出荷データとその出荷の背景 を分析するわけか。
そうか、物流の現場では 当たり前に存在する出荷データは実は宝だっ たってわけだ‥‥いままで宝だなんて誰も思 わなかったものを、その原石を掘り出し磨き 上げて宝にするという職人が登場したってこ となんだ。
そうなると、その磨き上げる技術 というか、出荷データの背景を含めた分析能 力が極めて重要だということですね?」  物流業者の部長が、やや興奮気味に自分 なりの整理をする。
メーカーの部長が頷く。
それを見て、大先生がさらに質問する。
 市場と供給を同期化させる役割  「その在庫アナリストの人たちは、もちろ ん生産ともかかわりを持っているわけですよ ね?」  「おっしゃるとおりです。
主力製品について は、在庫管理システムが推奨する生産依頼数 をベースに在庫アナリストの連中が営業側の 動きを加えて生産必要量を決めます。
出荷が 伸びていないときは営業がてこ入れをします ので、欠品を出さないように、そのてこ入れ 要素を在庫に加味する必要があります」 湯浅和夫の 81  SEPTEMBER 2010 いて、彼らが活動を始めてから社内的にロジ スティクスへの理解が深まったように思いま す」  「なるほど、定着したというのはそういう意 味なんですね‥‥」  最初に、定着の意味を問い掛けた大先生が 納得したように呟く。
 
械丕未悗隆待  「いやー、今日はおもしろい話を聞きました。
改めて乾杯しましょうか?」  そう言って物流業者の部長がグラスを掲げ る。
それにみんなが合わせる。
突然、大先生 が物流業者の部長に質問する。
 「ところで、御社は3PLとか標榜してる んでしょ?」  大先生の突然の質問に部長がぎくっとした 顔をし、小さく頷く。
それを見て、大先生が 続ける。
 「3PLをやろうというなら、いまの話を ただおもしろいで済ませてもらっては困るな。
ねっ?」  突然、大先生に同意を求められ、大手卸 の担当部長がつい頷き、「御社もメーカーの ロジスティクス支援を積極的に展開したらい いじゃないですか? 
械丕未箸靴萄澹亡浜 システムを提供し、そのデータをベースに在 庫アナリストを育てたらどうですかって売り 込むのもおもしろいかもしれませんよ」と大 先生の意を汲むような発言をする。
 「はぁー、そうですね。
荷主の物流を代行 するというのが3PLの本来的な役割だと思 いますから、その方向性もありですね‥‥そ うだな、在庫アナリストというのをキーワー ドに3PLを考え直してみます。
はい、おっ しゃるように、おもしろいだけではもったい ないお話でした。
ありがとうございました」  そう言って、三人に深々と頭を下げる。
そ の仕草がおかしいと三人がどっと笑った。
ま だまだ楽しい話が続きそうだ。
    (続く) 含む市場動向と生産や仕入を結びつける役割 を担っているわけだ。
いままで言葉では、市 場と供給を同期化させるということが言われ ていたけど、それでは実際誰がどうするんだ という点では曖昧だったというのが実態だと 思います。
その意味では、それを実践する専 門職という存在はロジスティクスの進展にと って興味深いですね。
ロジスティッシャンと いう言葉があるけど、役割的には、御社で言 う在庫アナリストを指すと言えますね?」  「そんな立派なものかどうかわかりませんが、 たしかに、うちの場合、在庫アナリストを置 ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE Illustration©ELPH-Kanda Kadan

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