ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年9号
SOLE
JITを超えたトヨタの次世代経営日本的生産方式の進化モデルに学ぶ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

85  SEPTEMBER 2010  
咤錬味兎本支部七月のフォーラ ムでは、青山学院大学理工学部の天 坂格郎教授をお招きして「JITを 超えて│日本的生産方式の進化」と いうタイトルでご講演いただいた。
天 坂教授はトヨタ自動車で生産部門やT QM推進部門などの職務に従事され、 長年の経験から生み出された次世代 の経営技術?New JIT〞を提唱さ れている。
トヨタ自動車がグローバル 化するためのカギとなった、この新し い経営技術についてお話を伺った。
(SOLE日本支部・小宮享) 世界同一水準・同一サービス  日本国内の製造業は、一九八〇年 代まで自動車や工作機械などの工業 製品を輸出する加工貿易により発展 してきた。
それまで多くの工業製品 が海を渡り、その結果、貿易摩擦が たびたび問題となっていた。
 ところが八五年のプラザ合意以降 は、円高誘導政策のために輸出産業 の収益性が大きく悪化し、国内の主 要な製造業は生産拠点を北米や東南 アジア、中国へと移すことを余儀なく された。
トヨタ自動車も例に漏れず、 九〇年代半ばまでには、自動車を国 内で生産し輸出する方式から国外で 現地生産し販売する方式に転換する ことになる。
 その背景には製造コストの問題や現 地での雇用の創出といった問題等が 挙げられるが、いずれにせよ、それ まで下請け・孫請けまでの裾野が広 い国内のネットワークで生産してきた 自動車を、部品供給ネットワークが未 確立の海外の製造拠点で生産する必 要に迫られた。
その際にはブランド名 を損なわないよう、同一水準の品質・ サービス内容で、きちんと機能する自 動車を顧客に満足してもらう形で提 供できるような体制を構築すること が重要な課題となった。
 こうした課題は?グローバル化〞す る企業ならば必ず直面する問題である。
トヨタでは、それまでに築き上げてき たトヨタ生産方式(TPS)を軸に新 たな時代の新生産方式(Advance d TPS)を再構築し、国内外での 製造拠点および販売・サービス網での 成功を具現化してきている。
海外企業がトヨタを猛追  トヨタ自動車の経営は、図1に示す ようなハード・ソフト両面からの技術 が柱となって支えている。
ハード面の 柱は、いまや世界中の製造業者の間で はあまりにも有名となったトヨタ生産 方式であり、ソフト面の支えは完成し た製品やサービスの質を管理するTQ M(Total Quality Management)で ある。
トヨタにおける経営では、ま さにこれらが?車の両輪〞となって おり、造り込まれた品質の改善・維 持のための活動が常時進められている。
 製造工程に効果的にTQMを適用 してコスト削減の原則を認識しつつ、 最大限の合理化を追求し、品質を高 める努力をする。
これにより、材料 費やエネルギー費を抑制する一方で、 給料(年俸)を増大させるべく努力し、 トータルとして作業者の満足度を増大 させようとしている。
こうした意識 は製造現場のみならず、ホワイトカ ラーにも同時に意識され、全社的に QCD(Quality, Cost, Delivery)の 改善が進められているのである。
 こうしたトヨタの経営理念は、しか し、長い年月の間に海外の企業、具 体的には米国や韓国の自動車製造業 にも浸透した結果、トヨタと同等の品 質水準まで到達しつつあり、もはや トヨタの優位性は薄れつつある。
さら には、開発・製造拠点を海外に移転 するにあたり、現地の人々のニーズを 的確に捉えた自動車の設計から製品 出荷での期間を、以前にもまして短 縮する製造技術が求められている。
 このためには国内外を問わず、コ ンカレントな開発製造環境を迅速に立 ち上げ、常続的に生産活動を維持し 続けることが必要不可欠であり、製 SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics JITを超えたトヨタの次世代経営 日本的生産方式の進化モデルに学ぶ → 時間(経過) 良 ↑ QCDのレベル TQM(ソフト) TPS(ハード) 図1 トヨタの経営技術の2本の柱 Q C D 統計的品質管理によ る造り込み品質の改 善・維持活動 Timely Level up 改善後 改善前 ※講演資料より作成 SEPTEMBER 2010  86 品企画や設計、製造、販売部門など あらゆる部門のハイリンケージ化も同 時に実施されなければならない。
従 来の日本的な経営技術から大幅な刷 新が世界展開するために必要になっ ている。
次世代経営技術「New JIT」  新しい時代の経営技術として、ト ヨタ自動車では天 坂教授が確立し た「New JIT (二〇〇〇年)」を 展開し、その有効 性を論証している。
その全体像を図2 に示す。
 組織を構成する 十三の部門が中心 付近に描かれてお り、これらの部門 が相互に連携しあ いながら、企業活 動が営まれていく。
企画開発部門を 中心としてT D S (Total Development System) が、製造 検査部門ではTPS (Total Production System) が、販売 やサービス部門では T M S(Total Marketing System) が業務のコアを担っている。
 さらにそれら全部を束ねる形でT IS(Total Intelligence Management System)やTJS(Total Job Quality Management System)があり、業務 を統括する。
これらのシステムはいず れも科学的な管理手法に基づいて設 計されている。
 企業全体の経営が各部門の連携に より構成されていることから、各部 門ではできるだけ信頼性の高い仕事 が要求される。
簡単な例で考えてみ ると、例えば各部門が九九・九%の信 頼度で業務を実施できている場合には、 業務が連続して遂行されることから、 組織全体では、〇・九九九の十三乗= 九十八・七%の信頼度となる。
逆に言 えば、エラーは一・三%ということで ある。
このレベルであれば、客からク レームが出る程度の範囲で収まってい るだろう。
 しかし、各部門が九九%の信頼度 でしか仕事ができなければ、企業全 体のエラーは十二・二%にも達し、リ コールが発生しかねない状況になるの である。
さらに各部門の仕事の質が 低下すれば、もはやブランドの信頼が 損なわれる事態や、会社存続の危機 さえ招きかねない。
高い信頼性を保 ちながら一連の仕事をしていくため には、組織を支えている各社員の意 識を高める必要があり、体系的かつ 組織的なチーム活動が定常的に推進さ れていかなければならない。
次世代生産方式「NJ│GPM」  グローバル生産に踏み切ることで、 日本の製造業にはどのような問題が 発生するのだろうか?  まず、生産拠点が海外に移ること で、「ものづくり」の技術力が拡散す ることになる。
また、日本で先行し て生産準備から初期生産/本格生産 を開始した後、海外で設備を立ち上 げて生産準備/生産開始するのが一 般的であるから、現地では日本と比 べて通常、三〜六カ月程度の遅れで ラインが稼働し始める。
さらには海外 特有の資材調達や生産のトラブルも発 生しうる。
 これらの問題を克服するために は、まず生産現場のインテリジェンス 化が必要であり、これを実現するシ ステムとして、近年天坂教授は「A dvanced TPS」を創出し、そ の有効性を実証している(〇五年)。
このシステムでは、?グローバルネッ トワークを利用することで、デジタ ル化された生産方式に刷新され、? 労働作業の質が変革され、高齢者や 女性でも対応できるように設計され ている。
また、?ロボットが導入さ れ、生産技術やその準備が刷新され ている。
?CAE(Computer Aided Engineering)を活用することで、生 産企画も刷新されている。
 こうした製造現場での技術革新に より、国内外を問わず、同一品質で 同時立ち上げの製造環境が実現可能 になった。
 そこでさらに天坂教授は、トヨタ のみならず、生産拠点のグローバル化 図2 次世代経営技術 「New JIT」の全体像 総合企画 人事・総務 財務・経理 渉外 調達管理生産管理 情報技術 品質保証 TQM推進 販売管理 技術管理 広報・宣伝 安全衛生・環境 商品企画製品企画 デザイン 設計 研究開発 実験評価 生産準備 製造 生産技術 検査 市場調査 営業・販売 物流・サービス Science TQM by utilizing Science SQC Science SQC TMS TDS TIS TJS TPS Total Development System Total  Marketing System Total Production System Management System Total Intelligence Total Job Quality Management System 何が 必要か どう どう ありたいか だったか どうやって 売るか うまく 造れたか どうやって 造るか 何を 造るか ※講演資料より作成 海外事業 87  SEPTEMBER 2010 リンケージ化が促進される。
 以上、紹介したNJ│GPMは、ト ヨタ自動車に加えて国内の他の製造業 にも取り入れられ、普及し始めてい る。
グローバル化を考える日本の製造 業が一つの成功モデルとしてNJ│G PMをきちんと理解することが、また、 スタンダードモデルとして実践して普 及させることが、日本企業を復活さ せるためのカギとなることを実感した。
NJ│GPMの有効性は示されつつあ るが、今後の課題としては、各部門・ システム間での連携を図り、企業全体 としての最適化を目指す必要がある とのことであった。
 様々な作業工程の中から注目した い工程を選択し、その工程で取得す る様々なデータを即座に表示する。
ま た、統計解析機能も組み込むことで、 リアルタイムで工程内の異常値の検出 や、データを層別化した傾向からラ インの状況把握をすることができる。
これらのデータは逐次、データベース に保存され、稼働データの適正な数値 の精度向上に寄与する。
(5) 生 産 情 報 の グ ロ ー バ ル 化 : グ ロ ー バ ルネットワークシステム(V│MICS)  国内外の工場にクライアント端末を 設置し、本部に配置した「V│MIC S」サーバーとの間で生産情報を相互 に交換するシステム。
最小単位の作業 工程の手順がテキストや動画で参照で きる。
また、様々な部材の分解・組 み立ての様子も電子ファイル化された 画像により理解しやすい形で提供さ れる。
各工場からのデータ登録も可能 であり、立地によらず、必要な生産 情報を工場間で共有できる。
(6) 生産プロセスの可視化:デジタルパ イプラインシステム(HDP)  一連の生産プロセスでの各作業につ いて、その前後関係、それぞれの作 業に要する期間等をチャート化して表 示することで、その工程に関係する 作業者全員に生産プロセスの全容につ いて共通の認識を持たせることに寄 与する。
これによって作業者間のハイ 企図したシミュレーションモデルを構 築し、作業性の検討や配置されてい る設備間の干渉の問題などの事前把 握に努めている。
さらに、工場全体の 製造ラインのレイアウトもシミュレー トし効率的な配置決めを行っている。
(2) 生産準備の刷新:知的オペレーター 育成システム(HI│POS)  高度な製造システムを稼働させる ためには、高い技能を持った作業者 が必要不可欠である。
「HI│POS」 では、特定の作業が行える技能に達す るまでに必要とされる訓練内容と評 価の体系および学習機材をチャートで 示し、技能の効率的な習熟のための プロセスを見出すことを支援している。
(3) 労働作業環境の刷新:知的生産オ ペレーティングシステム(RRD│I M、AWD│COS、V│IOS)  ロボットを現場に導入する際の信頼 性の向上や効果の程度などについて 評価している。
また、作業者が加齢 して、疲労の感じ方が変わることや 体力が低下していくことによって作 業にどのような影響が出るかを検討し、 より良い作業環境を提供するように 努めている。
さらには作業の各工程を、 図を中心とする電子ファイル化し、未 熟練者や初心者の作業を補助するド キュメントも整備している。
(4) 工程管理の刷新:高品質保証生産 システム(QCIS、ARIM) の問題に直面している日本の主要製 造業にとって、次世代の標準的なビジ ネスモデルとなりうるAdvanced TPSの戦略的展開として「NJ│G PM(New Japan Global Production Model)(〇八年)を近年創案し、ト ヨタでその有効性を例証している。
 
裡沸■韮丕佑蓮∪渋じ従譴妨堕蠅 ず、?生産企画の刷新、?生産準備 の刷新、?労働作業環境の刷新、? 工程管理の刷新、?生産情報のグロー バル化、?生産プロセスの可視化、に 着目した次世代型のグローバル生産方 式である。
 このモデルにおいては、生産プロセ スの各段階でプロセス要素をそれぞれ 明確に区分し、相互のあいまいさを 排除している。
またそれらを高いレベ ルでリンケージし、グローバル生産対 応型の高信頼性生産システムの実現を 企図したものとなっている。
日本企業復活のカギ  
裡沸■韮丕佑鮗尊櫃隆覿箸謀用し た例として、トヨタ自動車のグローバ ル生産体制での個々のプロセスを見な がら、以下、簡単に紹介する。
(1) 生産企画の刷新:プロセスレイアウ トCAEシステム(TPS│LAS)  生産現場での作業者の作業性の向 上やロジスティクスの簡便さの向上を 次回フォーラムのお知らせ  9月度のフォーラムは9月13日 (月)「SOLE2010 Conference 報告」を予定している。
このフォー ラムは年間計画に基づいて運営し ているが、単月のみの参加も可能。
1回の参加費は6,000円。
ご希 望の方は事務局( sole-j-offi ce@ cpost.plala.or.jp)までお問い合 わせください。
※ S O L E(The International Society of Logistics:国際ロジスティクス学会)は一九六 〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国 に本部を置き、会員は五一カ国・三〇〇〇〜三 五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎月「フォーラ ム」を開催し、講演、研究発表、現場見学など を通じてロジスティクス・マネジメントに関する 活発な意見交換、議論を行っている。

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