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物流指標を読む
SEPTEMBER 2010 88
荷動きは景気の先行きを物語る
第21 回
●在庫圧縮が進み、出荷量の動向が景気変動と密接に
●荷動き指数は、業種によって先行指標的な役割も
さとう のぶひろ 1964年 ●過去には07年11月以降の景気後退に警鐘の実績
生まれ。 早稲田大学大学院修
了。 89年に日通総合研究所
入社。 現在、経済研究部研究
主査。 「経済と貨物輸送量の見
通し」、「日通総研短観」など
を担当。 貨物輸送の将来展望
に関する著書、講演多数。
もはや遅行指標ではなくなった
先月号において、「『物流需要は経済活動の結果
発生する派生需要』であるから、国内貨物輸送量
の動きは、景気の変動と一致、ないしは若干遅行
すると一般的には考えられる」と書いた。 ただし、
近年、企業物流における在庫圧縮の動きのなかで、
生産と出荷の間のタイムラグは従来と比較して大
幅に短縮されており、その結果、出荷量の動向が
景気変動に密接に結びつくようになってきている。
裏を返せば、モノの動きで景気動向について判断
することも決して不可能ではないと考えられる。
モノの動きと一口に言っても、個々の品目でそ
の特性は大きく異なる。 景気変動の影響を大きく
受け、大幅に増減する品目もあれば、受ける影響
が比較的小さく、変動幅も小さい品目もある。 先
月号では、景気循環の理論に倣い、?景気変動に
最も早く反応する品目は鉄鋼や化学製品等素材系
の生産財、?景気低迷期でも比較的堅調に動く品
目は食品類、あるいは医薬品、化粧品等の生活必
需品、?景気の回復に比べて輸送量の回復が遅い
品目は投資財、と分類した。 今月号では、上記の
品目が実際に理論通りに動いているのかを、「企業
物流短期動向調査」における業種別荷動き指数の
動きをベースに検証してみよう。
まず、直近(第一四循環)におけるわが国の景
気の山と谷の時期について整理しておきたい。 内
閣府の景気動向指数研究会によると、〇二年一月
を谷に景気は拡張に向かい、〇七年一〇月を山に
後退局面入りしている。 さらに〇九年三月を谷に
再び景気は拡張に向かっていると暫定的に認定さ
れた。 したがって、〇七年十一月から〇九年三月
までが景気後退期、〇九年四月以降が景気拡張期
と位置づけられる。
景気の山・谷の前後における荷動きの動向が分
かるように、表に〇七年一~三月実績から一〇年
七~九月見通しまでの一五期分の荷動き指数(製
造業)を示した。 この間の製造業合計の指数の動
きをみると、景気が後退局面入りした〇七年一〇
~十二月の次の期(〇八年一~三月)にマイナス
に転換したあと、マイナス幅は大きく拡大してい
き、〇九年一~三月にはマイナス七七まで落ち込
んだ。 その後、徐々に持ち直していき、一〇年一
~三月に九期ぶりにプラスに浮上している。
指数の大小の差こそあれ、製造業合計の指数と
近似した動きをしている業種が多いなかで、非常
に特異な動きをしているのが食料品・飲料だ。 す
なわち、上下のブレが最も小さい、言い換えれば、
景気変動にあまり大きく左右されないという、ま
さに?の理論通りの動きをしていることがお分か
りいただけよう。 当該一五期において、指数が最
も高水準だったのが〇八年一~三月のプラス一九、
逆に最も低水準だったのが〇九年一~三月のマイ
ナス三五であり、両者の乖離幅は五四にすぎない
(注:ちなみに、製造業合計では九四、最も乖離
幅の大きかった鉄鋼・非鉄では一三三)。
もちろん、食料品・飲料メーカーも、景気の低迷
を受けて多少の生産調整は行っている。 また、消
費者の財布の紐が固くなり、第三のビールに象徴
されるように、売り上げが好調なのは低価格商品
ばかりという状況のなかで、出荷金額は減少した
が、金額ベースに比べて量ベースでの落ち込み幅
日通総合研究所「企業物流短期動向調査」
89 SEPTEMBER 2010
はそれほど大きくはなかったものとみられる。 た
だし、その反面、反動増があまり見込めないこと
もあって、足下において多くの業種の指数がプラ
スに反転しているなかで、一〇年四~六月実績で
はマイナス一四、七~九月見通しではマイナス八と、
未だに水面上に浮上できずにいる。
景気のピーク前に黄信号
次に、?について検証してみよう。 前述のとお
り、景気の谷は〇九年三月であり、〇九年一~三
月に荷動き指数が最低水準まで落ち込んだ業種が
全十三業種中一〇業種を占める。 以降、〇九年四
~六月、七~九月とややL字型に近い緩やかな上
昇を経て、一〇~十二月に大きく持ち直した業種
が多い。 なかでも、化学・プラスチックはプラス五
とまっさきにプラスに転換し、また鉄鋼・非鉄も
一〇年一~三月にプラス四六と大幅に上昇してい
ることから、素材系の生産財の回復スピードが他
業種に比べていくぶん早いものと判断できる。 化
学・プラスチックおよび鉄鋼・非鉄の出荷が回復
した背景には、川下の自動車や家電などの生産増
があることは言うまでもない。 すなわち、エコカ
ー減税・補助金やエコポイント制度などの消費喚起
策の効果を受けて、自動車や家電などの生産が増
加したが、それに先んじて、原材料となる生産・
出荷が増加したというわけである。
もちろんあらゆる転換期に該当するわけではな
いだろうが、景気の回復期にはこのように素材系
の生産財の荷動きが他業種に先んじて回復するケ
ースが多いものと考えられる。 逆に、景気の後退
期には、他業種における生産の縮小を先取りして、
素材系の生産財の荷動きは早々に悪化しよう。
景気後退局面入り直前の荷動きについてもみて
みよう。 前述のとおり、景気の山は〇七年一〇月
であったが、製造業合計の荷動き指数は、それ以
前の〇七年四~六月にマイナス五と急落しており
(前期比で一四ポイントの低下)、荷動きの面から
景気の先行きに黄信号が発せられていた(と筆者
は考えている!)が、その一期前(〇七年一~三
月)をみてほしい。 化学・プラスチックおよび鉄
鋼・非鉄の二業種がマイナスとなっている。 これ
はちょっとこじつけになるかもしれないが‥‥。
最後に、?についてであるが、これも比較的分
かりやすい。 投資財の代表的な業種のひとつであ
る一般機械は、一〇年一~三月までマイナスで推
移したあと、一〇年四~六月実績、七~九月見通
しでそれぞれプラス十三とようやく水面上に浮上し
たが、依然としてその水準は低いままである。 こ
うした一般機械の荷動きから判断すると、設備投
資には底打ちからプラスへの反転の兆しが窺えるも
のの、まだ力強さは感じられない。 ちなみに、日
銀短観(一〇年六月調査)によると、一〇年度に
おける大規模製造業の設備投資計画は前年度比プ
ラス三・八%と、前回の三月調査(マイナス〇・
九%)からは上方修正されたものの、依然として
盛り上がりに欠けるものとなっている。
荷動き指数は、荷動きに対する?定性的な?動
向を集約したもので、この結果がそのまま全体と
しての?定量的な?出荷量の増減を意味するもの
ではないが、各業種における出荷の方向性を明確
に示すものであり、景気動向を判断する材料とし
て十分に活用できる指標であると考えられる。
1~3月 4~6月 7~9月 10~12月
荷動き指数(製造業)の推移
実績 実績 実績 実績
2007 年
1~3月 4~6月 7~9月 10~12月
実績 実績 実績 実績
2008 年
1~3月 4~6月 7~9月 10~12月
実績 実績 実績 実績
2009 年
1~3月 4~6月
実績 実績 実績
2010 年
7~9月
(見通し)
2 △3 2 16 19 △11 △17 △15 △35 △24 △23 △29 △26 △14 △8
6 △6 △13 △12 △15 △15 △24 △53 △69 △67 △68 △56 △25 △8 △7
21 △28 △26 △21 △15 △40 △38 △63 △89 △94 △65 △51 △15 △19 △16
3 △5 △3 9 △30 △14 △28 △69 △96 △78 △65 △33 3 15 2
△2 △1 9 6 △6 △18 △22 △66 △83 △62 △51 5 16 30 24
17 4 △13 0 △18 △18 △15 △77 △86 △83 △73 △42 △5 13 25
△4 5 △9 △8 △12 △16 △30 △73 △87 △85 △72 △32 46 34 29
7 △15 △8 △13 △16 △26 △39 △62 △76 △68 △65 △33 △4 11 △3
14 △3 4 8 2 △24 △28 △51 △78 △80 △70 △47 △1 13 13
22 △8 9 16 △3 △25 △20 △68 △83 △79 △66 △12 10 28 23
16 △4 15 14 14 △2 △12 △66 △70 △72 △58 △6 31 27 28
23 0 △13 △8 △22 △24 △16 △55 △67 △64 △32 △34 △3 40 40
3 △15 9 21 14 △16 △29 △61 △85 △81 △65 △20 8 38 40
9 △5 0 5 △3 △19 △24 △60 △77 △71 △60 △26 6 17 17
食料品・飲料
繊維・衣服
木材・家具
パルプ・紙
化学・プラスチック
窯業・土石
鉄鋼・非鉄
金属製品
一般機械
電気機械
輸送用機械
精密機械
その他
製造業計
07.10
景気拡張期 景気後退期 景気拡張期
09.3
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