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親会社の国内貨物輸送量は縮小に向かっている。 国際
物流に進出するノウハウや資本力にも乏しいとなれば、物
流子会社が窮状に陥るのは明らかだ。 それを放置すれば親
会社がツケを払わされることになる。 世界に類をみない“物
流子会社大国”の終わりが近付いている。
OCTOBER 2010 16
““子会社大国”” ニッポンの夕暮れ
優良子会社には高額の買収オファー
日本の電機業界には通称「八社会」と言われる非
公式の組織がある。 日立、パナソニック、ソニー、東
芝、NEC、三菱電機、三洋電機、富士電機の物流
子会社による勉強会で、長年にわたって定期的に会
合を開いて情報交換を行ってきた。 現在も活動を継続
しているが、富士電機系の富士通は二〇〇四年に富
士通ロジスティクスを当時のエクセル・ジャパン(現
DHLサプライチェーン)に売却、さらに今年は三洋
電機と富士電機も物流子会社を手放した。 八社会の
通称は馴染まなくなっている。
独立系投資ファンドのロングリーチグループは七月、
三洋電機ロジスティクスの株式公開買付(TOB)を
成立させた。 続く九月には三菱倉庫による富士物流
のTOBが成立した。 ロングリーチグループの吉沢正
道代表は「電機業界で物流子会社のM&Aが立て続
けに実現したのは偶然とは思わない」という。
九〇年代末、日本の大手電機メーカーは軒並み赤
字に転落し、人員削減も含めた大規模なリストラを余
儀なくされた。 物流子会社の売却も検討され、水面
下で売却先候補との活発なやり取りが繰り広げられ
た。 しかし先輩社員や身内を切ることに対する経営
者の抵抗感は根強く、売却に踏み切るメーカーは結局
現れなかった。
その後、中国特需でメーカーの業績が回復したこ
ともあって、物流子会社の再編問題は先送りにされ
てきた。 ところがリーマンショック後の世界同時不況
で親会社の尻に再び火が付いた。 しかも「この一〇
年で日本のメーカーの置かれた環境は様変わりした。
しばらく我慢すれば昔の勝ちパターンに戻れるとは今
や誰も考えていない」と吉沢代表は指摘する。
特 集
17 OCTOBER 2010
国内の物量は減少に向かっている。 親会社の国内
物流だけでは、物流子会社は既存の組織を維持でき
ない。 一方で海外の物流ニーズは急増しているが、そ
れを新たな収益源とする経営ノウハウやリソースは不
足している。 このまま先送りを続けていれば傷口が
大きくなるだけなのは明らかだ。
それを見越して有力メーカーから先に動き始めてい
る。 3PL事業で先行した物流子会社には現在、高
額な買収オファーが殺到する。 三洋電機ロジや富士物
流の買収額は、それまでの株式時価総額に倍以上の
プレミアムがついた。
三菱倉庫が大型買収に踏み切るのは今回が初めて
のこと。 これまでは時間をかけても必要な機能は社
内で開発する自律成長を選んできた。 しかし「リー
マンショックを機に時代が変わった。 我々が機能を内
製化している時間を市場は待ってくれない。 今後は
M&Aという手段も有力な選択肢の一つになってく
る」と久保利克業務部長はいう。
同社は倉庫業界でも3PLに意欲的な会社の一つ
として知られている。 とはいえ売り上げの大半はま
だ汎用倉庫をベースとした定型サービスだ。 そして今
回の不況を経験したことで、同社は今までの自分た
ちの経営が日本の輸出入貨物の自然増にどれだけ依
存していたのかを思い知らされたという。
富士物流はメーカー向け3PLのノウハウを蓄積し
ている。 それを手中に収めることで三菱倉庫は伝統
的な倉庫会社からグローバル3PLへの事業構造改
革を加速させようと決心した。 高額とされる落札価
格も「それまでの株価が富士物流の企業価値を反映
していなかっただけ」と意に介してはいない。
同じ財閥系倉庫会社の安田倉庫は〇八年一月に日
本IBMロジスティクス(現・日本ビジネスロジスティ
クス:略称はいずれもJBL)を一〇〇%子会社化
している。 JBLはハードを持たないノンアセット型
で、買収は事実上、既存スタッフの人員受け入れを
意味していた。 これによって約三〇〇人だった安田
倉庫の正社員数は三割増えた。
〇六年末に日本IBMからJBL売却の打診を受
けた。 社内の意見は賛否両論で割れていたという。
IBMは既にパソコン事業を売却し、メーカーからソ
リューションベンダーに業態をシフトする方針を打ち
出していた。 物流子会社の買収によって取引の拡大
が期待できるわけではない。
それでも買収を決めたのは、「KPI(重要業績指
標)に基づく管理手法や購買まで含めた調達物流の
ノウハウ、コンサルティング機能など、当社が必要と
している経営資源をJBLは持っていると判断した
からだ」と安田倉庫の松下陽一常務は説明する。
リーマンショックの影響でJBLの業績は〇八年度
に落ち込んだが、現在は回復基調にある。 〇九年度
は減収増益。 今期は増収増益を見込む。 IBM以外
の一般荷主の販売比率は約五割。 IBM向けの物量
減少を外販拡大でカバーしている。 「現状に一〇〇%
満足しているとはいえないが、当初想定していたシ
ナリオは実現できている。 JBLの提案力や輸出梱
包の設計技術は安田倉庫本体の事業にも活きている」
と松下常務は評価している。
日本の物流子会社の多くは物流需給が逼迫してい
た高度経済成長期に、安定輸送の確保のために設立
された。 供給過剰が恒常化した現在その役割は失わ
れ、物流子会社の存在はアウトソーシング導入の足枷
ともなっている。 無策のままそれを放置する親会社
は自分の首を絞めるだけでなく、能力のある物流マ
ンを飼い殺しにしていることになる。
安田倉庫の
松下陽一常務
三菱倉庫の
久保利克業務部長
9月、三菱倉庫は約100億円で富士物流を買収した。
発表会見で手を握る三菱倉庫の岡本哲郎社長(写真右)
と富士物流の小林道男社長(写真左)
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