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OCTOBER 2010 18
物流プラットフォーム化の現状
その業界の主要な物流子会社のインフラをベースにして、そ
こに同業他社の物流を乗せていくプラットフォーム事業──従
来からその可能性は指摘されていながらも、期待されたほど
事業化は進んでいなかった。 しかし、物量の減少は荷主の意
識を変えた。 ハードルは大きく下がっている。
日立物流の物流子会社買収戦略
資生堂とコーセーの全面的な物流共同化が今秋か
らスタートする。 コーセーは国内六カ所の既存拠点を
段階的に閉鎖して、日立物流コラボネクストが運営す
る資生堂向け拠点に移管する。 拠点のスペースに余裕
のない関東地区では、プロロジスが埼玉県川島町に
来年六月に竣工予定の「プロロジスパーク川島」のワ
ンフロアをコラボネクストがコーセー向けに賃借する。
コラボネクストは日立物流が二〇〇七年四月に資
生堂から買収した資生堂物流サービスを前身とする。
譲渡後も資生堂はコラボネクストの株式の五%を保
有し、物流を同社に一括して委託している。 同様に
コーセーもコラボネクストの株式の五%を新たに取得
して、同社への全面委託に踏み切った。
国内の化粧品市場は成熟化が進み、今後は規模の
縮小が避けられないと目されている。 一方でお隣の
中国では化粧品市場が急拡大を続けている。 日本の
化粧品メーカーは中国をメーンとするアジア市場に経
営の軸足をシフトさせている。 これに伴い資生堂、そ
れに続いてコーセーが、物流を完全なアウトソーシン
グに切り替えて、本業への集中を進めた。
この共同化によって、日立物流が長年取り組んで
きた「プラットフォーム事業」はようやく実を結ぶこ
とになる。 ライバルメーカー同士の物流共同化を提案
する同事業は〇五年四月にエフティ資生堂やジョンソ
ンなどのトイレタリー製品でスタートし、医療機器と
医薬品にも展開したが、その後は期待されたほど規
模が拡大していない。
メーカーが在庫の一部を共同保管する程度では効
率化効果は知れている。 同業種は繁忙期も重なるた
め庫内作業の平準化や作業スタッフの有効活用も難
しい。 配送もトイレタリー製品は一社で物量がまとま
るので共同化の余地に乏しい。 一方の医薬品は末端
の配送業者が地域ごとに寡占化されている。 事実上
の共同配送が従来からできあがっている。
「そのメーカーの既存のインフラから溢れた荷物を
集めた程度では話にならない。 荷主から包括的に物
流を受託して、拠点配置から輸送ネットワークまで再
編成するレベルから共同化に取り組まないとプラット
フォーム事業はビジネスとして着地しない」と日立物
流の長尾清志グローバル第二営業開発本部プラット
フォーム推進部部長は説明する。
しかし、これまで日本のメーカーは抜本的なアウト
ソーシングを受け入れる体制にはなかった。 既存の物
流アセットを持たない小売業とは異なり、日本のメー
カーは大手ともなれば倉庫だけでなく物流子会社ま
で抱えている。 その整理がつかない限り、どれだけ
コストダウン効果が大きくてもアウトソーシングには
踏み出せない。
しかし、リーマンショック後の不況をきっかけに、
メーカーも物流子会社や物流アセットの整理にようや
く重い腰を上げるようになってきた。 日立物流のプ
ラットフォーム推進部は、これを受けて昨年四月に新
たに設置された部署だ。 物流子会社の買収や荷主の
既存リソースの受け入れを伴う包括的なアウトソーシ
ングの推進を担っている。
新規の買収案件の検討のほか現在、同部は三つの
案件の運用を手がけている。 破産した靴の製造卸の
トークツ・グループから〇八年十二月に譲渡を受け
たスミダロジネット。 スポーツ用品のゼットが八〇%、
日立物流が一四%を出資して〇九年四月に立ち上げ
たジャスプロ。 同七月に内田洋行から譲渡を受けた日
立物流オリエントロジ(旧オリエント・ロジ)だ。
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いずれもコラボネクストと同様に、各業界の主要な
物流子会社のインフラをベースにして、そこに同業
メーカーの物流を乗せるかたちでプラットフォーム化
を進めている。 ただし、同じ業界で二つ目、三つ目
の物流子会社を買収して統合する手法をとることは
考えていない。
「プラットフォームは各業界に一つでいい。 親会社
の仕事を受託するために同じ業界で子会社を重ねて
買収すれば、アセットと人員を持てあましてしまう。
そのため今のところは必然的に物流子会社を持たな
い同業種のメーカーが主な営業ターゲットになってい
る。 我々が新たな買収対象とするのは、まだ当社が
手を出してない分野で、しかもその業界のプラット
フォームになり得るインフラを持った物流子会社だ」
と長尾部長は説明する。
必ずしも親会社が業界最大手である必要はない。
内田洋行のケースでも同社はオフィス用品メーカーと
しては中堅だ。 しかし子会社の旧オリエント・ロジは
業界有数のインフラを有していた。 管理業務に特化し
てアセットを持たない一般の物流子会社とは異なり、
関東を中心に約一〇〇台の車両を自社所有し、ドラ
イバーのほかに補助作業員を同乗させてツーマン配送
で大型家具の設置まで行う手足を持っていた。 外販
比率が四〇%に達するほどコスト競争力も高かった。
同社を買収する以前から、日立物流は複数の中堅
オフィス用品メーカーを既存荷主として抱えていた。
オリエント・ロジを傘下に収めて親会社のメーカー色
を消せば、共同化に向けたハードルが大きく下がる。
長尾部長は「既に一部のエリアでテスト的にオフィス
用品メーカーの共同化をスタートさせている。 コスト
削減効果は検証できた。 このまま軌道に乗せたい」
と自信を深めている。
改善レベルでは生き残れない
一方、親会社から一般荷主に立ち位置を変えた内
田洋行も「身内の物流子会社から外部委託に切り替
わることで、従来通りのサービス品質や柔軟な対応
が維持できるのかを懸念していたが今のところ何も
変わるところはない。 コスト面でも満足する結果が
得られている」と同社の中村武史マーケティング本部
調達部部長は評価している。
九〇年代のバブル崩壊以降、オフィス家具市場は長
期的な低迷が続いている。 ピーク時には六〇〇〇億
円近くあったマーケット規模も現在はその半分以下に
まで縮小した。 メーカー各社は在庫圧縮やコスト削減
を急いでいるが、それも追いつかない状況だ。 今後
も大幅な需要の拡大は期待できそうにない。
オリエント・ロジに出向した経験もある中村部長は
「物量が右肩下がりの時代を物流子会社が生き残って
いくには、改善レベルの取り組みでは難しいと判断
した。 オリエント・ロジのスタッフたちが内田洋行グ
ループの一員という意識を強く持っていることは私
自身よく分かっている。 それだけに苦汁の決断では
あったが、親会社と子会社の双方にとって日立物流
への売却は良い選択だったと思う」という。
プラットフォーム事業に意欲を見せているのは今
や日立物流だけではない。 有力3PLや各業界の主
要物流子会社、さらには業界再編を目論む投資家ま
でが、そのビジネスモデルに注目している。 しかし、
シェアがモノをいうプラットフォーム事業では、最終
的に生き残れるのは各業界に一つ、もしくは二つに
限られる。 先に主導権を握ったものが圧倒的な優位
に立つ。 物流子会社の再編はもはや待ったなしのテー
マとなっている。
日立物流の長尾清志
グローバル第二営業開
発本部プラットフォー
ム推進部部長
内田洋行の中村武史
マーケティング本部調
達部部長
荷主物流センター配送先
A 社
物流センター
A 社配送先a
B 社
物流センター
B 社配送先b
C社
物流センター
C社配送先c
従来─各社最適─
荷主物流センター配送先
A 社配送先a
B 社配送先b
C社配送先c
共同物流─各社最適─
日立物流
プラットフォームセンター
A 社
B 社
C社
共同保管
共同配送
特集さよなら物流子会社
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