ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年10号
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「アジアの工程間分業にはまだ理論がない」一橋大学 根本敏則 教授

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2010  6 中国や東南アジアに移し、販売も現 地市場が対象ということになれば国 内の物流需要が減ることは避けられ ない。
国内物流でも川下は比較的堅 調と言われていますが、それにして も少子高齢化の影響で長期的には ボリュームの縮小が目に見えている。
そのために国内物流を対象とした研 究が日本では元気がなくなっている。
ところが中国はまさに今それを必要 としている」 ──日本では誰もが今や中国やアジ ア市場を見ています。
 「物流研究に関してもグローバル・ ロジスティクスや物流サービスの海外 展開についてのニーズは高まってい ると思います。
今回の大会の統一テ ーマにグローバル・ロジスティクスを 選んだのもそのためです」 ──しかしグローバル・ロジスティク スというテーマは広過ぎて、つかみ どころがありません。
 「確かに今回の大会の発表内容を 見ても、テーマが拡散していてど こに論点があるのかはっきりしな い。
グルーバル・ロジスティクス論は 学問的に定義付けられるところまで まだ成熟していません。
私の知る限 り海外にも教科書はありません。
も ちろん海運やコンテナを中心とした 国際物流についてなら研究者も多 日中韓の物流研究者が交流 ──今年の物流学会の大会には、日 中韓の研究者による国際セッション が始めて設置されました。
 「韓国や中国の学会とは既に四、 五年前から交流が始まっています。
とりわけ韓国は熱心で、二〇〇六年 に政府間の『日中韓物流大臣会合』 が始まったのを一つのきっかけにし て、学者レベルでも交流の機運が高 まっています。
今後もお互いの大会 に呼んだり呼ばれたりという関係を 続けていきたいと考えています」 ──同じ物流学会でも、日中韓では やはりカラーが違いますか。
 「中国の物流学会はやはり政府機 関の一部という色合いが強いですね。
学会の大会に出ても役人の姿が目立 っていました。
それに比べると韓国 は日本と近いかたちなのですが、産 業界との結びつきは日本よりも強い。
学会の大会にもスポンサーがつくの で日本より派手です」 ──中国の大学では、このところ物 流学科や物流学部の新設ラッシュが 続いています。
 「日本の物流学会の大会は毎回参 加者が一五〇人ぐらいなのですが、 中国の学会には一〇〇〇人も集まる。
もっとも、その大多数は実業界の人 たちなんです。
学者の数は圧倒的に 足りていない。
実際、中国の大学関 係者と話すと『人材が不足している ので日本の大学と交流したい、研究 者を送り込みたい』と皆口を揃える。
日本の物流のノウハウを吸収したい という意欲がとても強い」  「中国の書店で物流論のコーナーを のぞくと、おびただしい数の関連書 籍が並んでいることに驚かされます。
日本の海賊版までチラホラ見られる。
これまで中国は大変な勢いで経済発 展を遂げてきたけれど、物流がそれ に追いついていない。
物流コスト比 率が先進国の倍以上という課題を抱 えています。
そのため物流を何とか して効率化しなければならないとい う意識が広く行き渡っているようで す」 ──日本の現状を考えると羨ましい 気もします。
 「確かに物流研究者がそれだけ社 会的に期待されているということで すからね。
それと比べると残念なが ら今の日本の大学には、物流コース を作ろうという動きはあまり見られ ません。
一つは日本国内の物量が減 ってきたことも影響していると思い ます。
日本のメーカーが製造拠点を 一橋大学 根本敏則 教授 「アジアの工程間分業にはまだ理論がない」  九月初旬、「グローバル・ロジスティクスの新展開とその担い手」 を統一テーマとして、日本物流学会の全国大会が開催された。
今年 は日中韓の学者による国際セッションが初めて設置され、アジア物 流に関する最新の研究成果が交換された。
大会の実行委員長を務め た一橋大の根本教授に感想をたずねた。
   (聞き手・大矢昌浩) 7  OCTOBER 2010 いし、たくさんの書籍が出ています。
しかし、我々がいま直面している問 題、自動車産業やアパレル産業など で、工程間の国際分業が急速に進み、 アジア各地のサプライヤーの協力を 得ながらモノが作られて供給される ようになっている。
その全体をどう やって最適化するかということに正 がる。
そうしたニーズは相変わらず ありますが、現地化が進んでくると 日系の物流事業者のメリットは日本 語ができることだけなのか、という ことになってしまう」  「モノを売るビジネスはわかりやす い。
デザインや技術力などに優れた 製品なら、世界のどこに持っていっ ても評価される。
しかし日本の物流 事業者のサービス品質がいかに高く ても、目には見えないサービスにど れだけの対価を支払ってもらえるの か。
それは割高な日本人社員の給料 を負担できるレベルなのかと言えば、 恐らくそんなことはあり得ない」  「それでは日本の物流事業者は海 外では何で勝負するのか。
日本のも のづくりが持っているような強みを、 日本の物流事業者は持っているのか。
もちろん海外で頑張っている日系の 物流事業者がいるのは確かです。
し かし日系の荷主にしか相手にしても らえなければ、いずれ成り立たなく なる。
現地の荷主の仕事を取れない と長期的にはやはり難しい。
そうし た経済界の動きに我々学者はとても ついて行けているとは言えませんが、 機会が与えられるのであれば実務家 の方々と一緒に研究するなど、少し でもお役に立ちたいとは常々考えて います」 面から取り組んだ研究成果はまだ登 場していない」  「中国南部からアセアンにかけての 一大産業集積、国際的な工程間分業 は、この一〇年、あるいはこの五年 間で一気に進んだものです。
そして これは世界でもアジアだけで起きて いる現象だという人が多い。
つまり 欧米にも研究蓄積は少ない。
それだ けに面白いテーマではあるのですが、 ビジネスの世界に比べると学者の世 界はどうしても動きが鈍い。
企業の 現場レベルではまさに今それに取り 組んでいるのだけれど、学者の世界 ではそんな問題があったのかという ことにようやく気付いた段階です」 物流サービスの多国籍化 ──欧米にも研究蓄積が乏し いとなると、やはり日中韓に 期待がかかってきます。
 「とりわけ日本と韓国は、強 い危機感を持っていてしかる べきです。
メーカーは必ずし も自国に縛られることはない。
海外で生産して海外で販売す ることが比較的容易にできる。
しかし、それに日本の物流事 業者がくっついて出ていって も本当に彼等のパートナーたり 得るのかは分からない」  「メーカーも海外の物流は現 地のスタッフに任せるようにな ってきた。
そうなると日系の 物流事業者は使わない。
現地 のマネージャーは現地の物流事 業者を使う。
もちろん進出し たての日系メーカーは気心の知 れた日系の物流会社を使いた 統一論題 第27 回日本物流学会全国大会 「統一課題」と「国際セッション」の講義内容 国際セッション 「中国を中心とした東アジア地域での大手国際物流企 業の競争状態」 田中浩二(三菱倉庫) “Governance Structures of Port Facilities:The case of PFI Container Terminal Project in Japan” Koichiro TEZUKA(University of Fukui) 「東アジアとの物流における輸送手段選択の分析─輸 送手段(コンテナ・航空)、貨物(製品種類・価格・重量) の特性間の比較分析─」 藤原利久(国際東アジア研究センター) “Oppotunities and Challenges of China Logistics Industry” Bo WANG(China Logistics Publishing House) 「我が国港湾政策の現状と課題についての一考察」 長谷川雅行(日通総合研究所) “The Development of Port Global Supply Chain and Port Hinterland” Hyung In CHIN(University of Incheon) 「日本と韓国の物流政策の現状と今後の課題」 権五京(東京海洋大学 訪問研究者) 李志明(日本海事センター) 苦瀬博仁(東京海洋大学) “Fuzzy Inventory Control System under Demand Uncertainty” Achmad RIADI(Graduate School of Tokyo University of Marine Science and Technology) Saburo TSURUTA, Hisayuki KUROKAWA(Tokyo University of Marine Science and Technology) 「グローバル製造業のSCM 再設計と拠点間業務の高 度化」 藤野直明、中澤 崇(野村総合研究所) “How to improve logistics service level by small and modium transportation companies-the viewpoint as foreign companies in China business” Ippei MACHIDA(Nittsu Research Institute and Consultin,Inc.) 「グローバル・ロジスティクス高度化のための新しい 発想、『モノマネジメント』システムについて」 高井英造、山本裕之(モノプラス) “The Planning and Construction of Beijing Logistics Park” Qianjin SUN(Beijing Wuzi University) 「食料品の航空輸送についての一考察」 岡田夕佳(東海大学) “Hub Location Options for Korean Enterprises to Design Pan-China Logistics Network” Hunsoo LEE, Zelei ZANG(Korea Aerospace University) 「中国の食品市場における道産食材の輸出の可能性に ついて」 千葉博正、キンエイ(札幌大学) “Analysis of Air Cargo Hub Location in East Asia using Weber model” Daisuke WATANABE(Tokyo University of Marine Science and Technology) Takahiro MAJIMA(National Maritime Research Institute) Keiki TAKADAMA, Mitujiro KATUHARA(The University of Electro-Commuication) 「自社通関が通関業者に及ぼす影響についての一考 察」 石原伸志(東海大学) “Study on the Problems of Logistics Facing Japanese Firms in China” Lanfeng YU(Gunma Prefectural Woman’s University) 「中国日系自動車企業のロジスティクス戦略の多様性 Xian ZHAO(Beijing Wuzi University) に関する一考察─トヨタ、日産、ホンダの3 社を比較 して─」 李 瑞雪(富山大学) “Low-carbon strategy for freight transportation of China’s highway:an example study on Shandong Province” Hong-qi LI(Beihang University) 「アジア地域の貿易統計を用いた国際輸送費用の推 計」 小坂浩之(海上技術安全研究所・物流研究センター) “A Study of Vehicle Operatoin policy in Warehouse” Hueon LEE, Junjae CHAE(Korea Aerospace University) Moonsu LEE(Korea University of Technology and Education)

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