ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年12号
ケース
日本郵政公社――国際物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2005 54 国際物流を収益の柱に 郵便事業を支えてきた「はがき」や「封書」 といった通常郵便物はインターネットや電子 メールの普及に押されて、取扱量が年に五〜 六%ずつ減少していく。
さらに民間の宅配便 に相当する「郵便小包(ゆうパック)」につ いても、ここ数年はコンビニエンスストアの 取次店化などが奏功して取扱量が拡大してい るものの、市場はすでに成熟期に入っている ため、中長期的には頭打ちとなることが確実 視されている。
国内市場に軸足を置いたままだと、じり貧 は免れない――。
そんな危機感を抱いていた 日本郵政公社は、公社化後の早い段階から国際物流の分野に熱い視線を注いできた。
パイ の縮小が決定的な国内市場とは対照的に、国 際物流のマーケットは将来の成長が見込まれ ているからだ。
とりわけ中国を中心とするア ジアのマーケットは当面、大幅な伸び率を示 しながら市場規模が膨らんでいくと予想され ている。
もっとも、郵政公社はこれまで身動きが取 れない状況に置かれていた。
郵政公社が国際 物流に進出することを、公社法が認めていな かったためだ。
商船三井出身で物流業に精通 している生田正治総裁は「赤字の続く郵便事 業の建て直しには将来の成長が見込まれてい る国際物流への進出が不可欠である」と訴え、 国際物流の?制約〞を一刻も早く取り除くよ 国際市場への本格進出をにらみ アライアンスと拠点整備を加速 民営化法の成立で国際物流事業への 進出が可能になった。
これを受けて10 月下旬にANAやTNTと戦略的提携を 締結した。
その一方で国際物流の受け 皿となる拠点の整備にも乗り出してい る。
2年後の民営化を前に、将来の成 長が見込まれる国際物流市場の開拓に 向けた準備に本腰を入れ始めた。
日本郵政公社 ――国際物流 敷地面積一万六一〇〇平方メートル、延べ床面積約三万二〇〇〇平方メートルの四階建て。
郵政公社にとって公社化後に建設した初の大 型施設で、投資額は約四五億円に上った。
少し脱線するが、公社化される前から計画 が持ち上がっていたという同拠点の建設をめ ぐっては一瞬耳を疑いたくなるようなエピソ ードがあったことを披露しておこう。
それは、当初の計画では新拠点の建設コス トとして八二億円を計上していたが、最終的 には四五億円に落ち着いたというものだ。
実 に四五%ものコストダウンに成功した計算に なる。
コスト削減のための具体策は明らかで はないが、「計画に盛り込まれていたムダな 部分を徹底的に省いていった結果、建設費を 低く抑えることができた」とトヨタ自動車出 55 DECEMBER 2005 う国会などに働きかけてきたが、その声はな かなか聞き入れられなかった。
ところが、ここにきて潮目が変わった。
今 年九月の衆議院選挙、それに続く国会で成立 した郵政民営化関連法が「二〇〇七年一〇 月の民営化に向けた準備期間中である来年四 月に郵政公社が国際物流事業に進出するこ と」をようやく認めたからだ。
これを受けて、 郵政公社は早速、国際物流の解禁日に向けた 布石を打ち始めている。
民営化法が成立してからわずか六日後の一 〇月二〇日。
郵政公社は航空キャリアの全日 本空輸(ANA)と戦略的提携(アライアン ス)することで合意に達した。
両社は来年四 月をめどに合弁で貨物専用機運航会社を設立 すると同時に、上海など中国の大都市向けに 国際エクスプレスサービスを開発・提供して いくという。
さらに十一日後の一〇月三一日にはオラン ダを本拠地とする国際インテグレーターであ るTNTとの提携を発表した。
両社はジョイントベンチャーを設立し、来年四月以降に共 同ブランドのエクスプレスサービスを開始す るほか、アジア太平洋地域をターゲットにし たロジスティクスサービスを展開する計画だ という。
ANAとの提携を発表する記者会見に臨ん だ生田総裁は、「ドイツポストやUPSとい った海外の有力プレーヤーたちの動きに比べ、 郵政公社の国際事業は『グラウンド三周分』 遅れていると主張してきたが、実は三周どこ ろかスタートラインにさえ立っていなかった。
今回、関係各方面の尽力によって民営化法が 成立し、民営化の約一年半前に国際物流の分 野に進出できるようになった意義は大きい。
郵便事業の黒字化に向けた収益の柱の一つと して国際物流事業を育てていきたい」と、晴 れ晴れとした表情を浮かべながら国際物流に 賭ける意気込みを語った。
公社化後初の大型拠点 国内外の有力企業とのアライアンスを通じ て国際物流市場の開拓に向けた営業体制づく りを進める一方で、郵政公社は貨物の受け皿 となる物流拠点の整備にも本腰を入れ始めて いる。
民営化法が成立する四日前の一〇月一 〇日には、江東区・新砂に「東京国際郵便 局」をオープンさせた(写真)。
新拠点は千代田区・大手町に設置されてい た東京国際郵便局を移転・新設したもので、 郵政公社は10月20日にANAとの業務提 携を発表した(写真右が生田総裁) 10月10日にオープンした東京国際郵便局(江東区・新砂) 入力で貨物の行き先を指定する、?その音声 情報をもとにソーター(仕分け機)が貨物を 行き先別に仕分けて各シューターに流す、? バーコードはシューターに設置された機械が 自動的に読み取る――というオペレーション を展開している。
その結果、作業スピードは 飛躍的に向上し、現在では一時間当たり四六 〇〇個の貨物を処理できるようになった。
新拠点ではこのほかにも?郵袋をトラック に直積みするのでなく、ロールボックスパレ ットを活用することで、積み下ろし作業の時 間短縮を実現、?新拠点で貨物を航空コンテ ナに直接積み込むことで、成田空港での航空 コンテナへの積み替え作業の発生を抑制、? 従来は手作業で処理していた貨物の「課税」 「非課税」の分類作業を機械化――するなど 身の高橋俊裕日本郵政公社副総裁は説明し ている。
本来であれば、大幅なコストダウンに成功 したことは賞賛されるべきことなのかもしれ ない。
しかし、裏を返せば、それだけ計画段 階でのコスト算定に甘さがあったと受け取る こともできるだろう。
いずれにせよ、郵政公 社に染みついていた?お役所〞的なコスト感 覚のズレには今回のプロジェクトを通じてき ちんと修正が加えられたことだけは間違いな さそうだ。
話を元に戻そう。
旧・東京国際郵便局は一九六八年に開局 して以来、首都圏を中心に東日本一帯をカバ ーする国際郵便の基幹拠点として機能してき た。
しかし、ここ数年は郵便物の大型化や取 扱量の増加などに伴う施設の狭隘化が顕著に なっていた。
ま た、郵便物の区 分(方面別仕分 け)など作業の ほとんどがマン パワー(手作業) で行われてきた ため、貨物をス ピーディーに処 理できないなど オペレーション 上の課題も山積 していた。
新拠点の建設に踏みきったのは、こうした問題を解消して、すでに国際物流の分野で先 行している国際インテグレーターや国内の有 力物流企業に比べスピードや品質の面で遜色 のないサービスを提供できる体制を構築する のが狙いだ。
新拠点は「国際インテグレータ ーが展開しているエクスプレスサービスと競 合するEMS(国際スピード郵便物)サービ スのスピードアップを実現することに重点が 置かれている」と木原茂施設改善担当部長は 説明する。
作業改善でサービスレベルを向上 新拠点の稼働を機に、郵政公社では現場の オペレーションを機械化・自動化の進んだ仕 組みに刷新した。
例えば、国際郵便の主力商 品であるEMSや小包を方面別に仕分けする 作業は従来、すべて手作業で処理していたが、 これを自動仕分け機で処理する体制に改めた。
旧局では?作業員が目視で貨物の行き先 (国・地域)を確認する、?その後、作業員 は行き先別の一時保管場所まで手持ちで貨物 を運ぶ、?作業員は貨物追跡に使用するバー コードを一つひとつスキャニングする――と いう手順で区分け作業が行われていた。
その ため、各地から集まる膨大な量の貨物の処理 に多くの時間を費やしていたほか、人的ミス による誤出荷が発生することも少なくなかっ たという。
これに対して、新拠点では?作業員が音声 DECEMBER 2005 56 方面別仕分け作業の様子 1時間に4600個を処理でき る自動仕分け機を導入。
音声 入力で行き先を指定する の作業改善に取り組んだ。
こうした活動の積み重ねによって、郵政公 社はサービスレベルの向上に成功している。
57 DECEMBER 2005 例えば、発送者から貨物を引き取った日の翌日午前中に出発する国際航空便に搭載できる エリアはこれまで、東京および関東地区(群 馬・山梨)に限定されていた。
これが新たに 長野と静岡の一部地域までをカバーできるよ うになった。
また、引受締め切り時間の延長、 通関待ち時間の短縮なども実現している。
ユ ーザーの利便性は格段に高まった。
それだけではない。
拠点の運営コストも大 幅に削減している。
新拠点では従来よりも二 五%少ない作業員数でオペレーションを展開 しているという。
日本の国益を守る 現在、日本の国際エクスプレス市場のうち、 法人発メール分野のシェアは、DHLを傘下 に収めるドイツポストが二九%でトップ、米 フェデックスが二六%で第二位と、外資二社 が過半数を握っている。
これに対して郵政公 社は、一八%で第三位に甘んじているのが実 情だ。
四位以下も外資勢が大半を占めており、 郵政公社を含めた日系物流企業はこの分野で 完全に出遅れてしまっている。
「日本の市場をこれ以上失わないように防 衛すると同時に、われわれも積極的に海外に 進出していきたい。
とくにアジアにはまだ開 拓の余地がある」と生田総裁は指摘する。
日 本の国益の回復、そして物流市場の世界的な 勢力図の塗り替えなど、郵政公社の今後の活 躍に寄せられている期待は大きい。
国際物流 市場への進出が解禁される来年四月までに、 次はどのような戦略を打ち出してくるのか。
郵政公社の動きからしばらく目が離せそうに ない。
( 刈屋大輔) 航空コンテナに直接、貨物を 積み込むことで空港での積み 替え作業をなくした 出荷作業の様子

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