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特集
NOVEMBER 2010 14
欧米では物流専門職の平均年収が19万ドル以上
に達している。 アジアの新興国も物流人材の確保と
育成に躍起になっている。 物流を軽視する日本との
格差は広がるばかりだ。 しかし、変化は始まってい
る。 物流の専門スキルが正当に評価される時代が近
づいている。 (大矢昌浩)
ロジスティシャンの過半数が大学院卒
米オハイオ州立大学では毎年、企業のロジスティク
ス管理担当者や物流会社の社員などのロジスティクス
専門職を対象としたキャリアパターン調査を行ってい
る。 その二〇一〇年版によると、米国のロジスティク
ス専門職の年収は二〇〇九年時点で平均一九万二五
〇〇ドルで、リーマンショック以降も依然として高水
準をキープしている。
同調査の回答者は、世界最大のロジスティクス研
究団体「米CSCMP」の会員が中心となっている。
その最終学歴は大学院卒が五〇%、博士号取得者が
三%で、修士以上が過半数を占める。 勤続年数の中
央値は十一・一年、ロジスティクスの職務経験は同一
七・八年だ。
また欧米の有力大学院でロジスティクスを専攻した
学生には、新卒者でも一〇万ドルレベルの待遇とポス
トが用意される。 その後のキャリアパスにおいても、
ロジスティクス最高責任者(CLO)を経験すること
が、CEOに昇進する有力なルートの一つとなってい
る。 ロジスティクス専門職がエグゼクティブのキャリ
アとして社会的に認知されている。
新興国においても有力企業は現在、ロジスティクス
人材の確保に躍起になっている。 韓国のサムスンやL
G電子などのグローバル企業は、欧米でロジスティク
スの専門教育を受けた人材に厚遇を提示し、採用に
積極的に取り組んでいる。 新卒学生の就職難で知ら
れる中国でも物流学部の卒業生は引っ張りだこだ。
それに対して日本は、主要国の中でロジスティクス
専門職の評価が最も低い国の一つに数えられている。
大手人材紹介会社の担当者は「現在の転職市場にお
けるロジスティクス専門職の年収は五〇〇万円〜七
年収1000万に向けたキャリアプラン
15 NOVEMBER 2010
〇〇万円が中心。 他の職種と比べて安いわけではな
いが、年収一〇〇〇万円以上のクラスになると採用
ニーズがガクンと落ちる」という。
ロジスティクス専門職のハイクラス人材のニーズが
日本ではコンサルティング会社やIT企業、あるいは
外資系企業に限られている。 国内系荷主企業の募集
はオペレーション管理を担当するマネジャークラスが
中心で、年収は一〇〇〇万円に届かない。
ロジスティクスの軽視は、すぐに業績にその影響が
表れることはなくても、ボディーブローのように経営
に効いてくる。 物流管理部門の子会社化や3PLへ
のアウトソーシングによって、日本の製造業のロジス
ティクス管理機能は、この一〇年で著しく弱体化し
たと言われている。 その結果、グローバルに拡大した
サプライチェーンの運用で海外の有力企業との格差が
目立ち始めている。
しかし、いったん失われてしまった機能は容易に
は回復できない。 そのため日本の製造業者は、物流
パートナーにますますその機能を依存するようになっ
ている。 これを受けて物流業界では、本格的な物流
人材教育のニーズが高まっている。
日本通運は今年度から「ロジスティクス営業講習」
を開始した。 その第一ステップとして四月には八〇〇
人を超える社員が「ビジネスキャリア検定」の「ロジ
スティクス管理3級」および「ロジスティクス・オペ
レーション3級」を受験した。 そのほとんどが事前準
備としてeラーニング形式の自己学習を行っている。
インターネットを通じてパソコン上でテキストを読み、
演習問題や模擬テストを体験する。
さらに八〇〇人のうち二〇〇人強が今年夏に「新
任物流担当者育成講習」を受講した。 今秋には第三
ステップの「貿易実務講習」が実施される。 教育ツー
ルにはJETROのeラーニング講座を使い、一〇〇
人弱が参加する予定だ。 そして年明けに最終ステップ
として二泊三日の合宿形式で「マーケティング戦略・
ケーススタディ」研修を行う。
一連のカリキュラムは、グループの日通総合研究所
が開発・運営をサポートしている。 同社の山田健取締
役教育コンサルティング部長は「日通の経営は今や完
全にグローバルを向いている。 それに対応したグロー
バルロジスティクスの営業担当者を育成することが最
終目標だ。 日通だけに限らず物流業界における教育
ニーズは大きく膨らんでいる。 今後はその傾向にさ
らに拍車が掛かっていくだろう」という。
物流キャリアでレバレッジを効かせろ
その一方で、荷主企業においては物流教育に割く
リソースが枯渇しつつある。 その費用負担に加え、物
流部門のスリム化で人的資源が減少し、ノウハウや暗
黙知の承継が難しくなっている。 必要な人材は外部
から獲得するしかないため、物流企業の実務家を即
戦力として中途採用するケースも増えてきた。
物流業界から給与水準が比較的高い業界の荷主企
業への転職であれば、ミドルクラス以下でも待遇は向
上する。 ただし、物流の専門家に止まっている限り、
それ以上の昇進は期待できない。 その先のステップ
アップには、リーダーシップや経営知識など、ビジネ
スパーソンとしての普遍的な能力が求められる。 これ
はどんな職種、どんな国でも共通だ。
それでも人材の社会的評価にはテコの原理が働く。
専門知識を持つことが、他の要素との足し算ではな
く掛け算で効いてくる。 物流が不当に軽視されてい
る現在の日本において、それを自らの専門に選ぶと
いう選択は恐らく損にはならない。
米ロジスティシャンの平均年収2009(ボーナス含む) 日通総研の日通向け教育メニュー
出典:米オハイオ州立大学
「2010 Survey of Career Patterns in Logistics」
下位25%
25〜50%
50〜75%
75〜100%
全体平均
100,000
140,000
175,000
275,000
172,000
87,500
150,000
272,500
500,000
252,000
90,000
130,000
160,000
350,000
182,000
(単位:ドル) 製造業 流通業 3PL
97,500
135,000
187,500
350,000
192,500
ステップアップ
ベーシック
ビジネスキャリア検定3 級
新任物流担当者育成講習
貿易実務講習
マーケティング戦略・ケーススタディ
ロジスティクス
営業講習
営業マン・スキルアップ講習
現場データ処理・分析講習
階層別研修
その他
カリキュラム研修・
セミナー
◎
◎
○
○
◎
◎
◎
eラー
ニング
調査・コンサル
◎日通総研が企画・運営
○外部企業に運営を委託
中央値
回答者の学歴
高卒
技能検定(非大学)
準学士
学士
修士
博士
合計
1
1
2
43
49
3
100
2
0
2
41
51
4
100
3
3
7
37
50
0
100
製造業流通業3PL
2
1
3
42
50
3
100
%
日通総合研究所の山田健
取締役教育コンサルティング部長
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