*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
NOVEMBER 2010 56
� 咤達佑涼羈謀�兵茲蠢箸澆箸靴董�な�
市場では大手メーカーと大手小売りによる
コラボレーション(協働)が進められている。
それに対して日本ではメーカー│小売間の
協働がほとんど進んでいない。 日本では卸
売業の介在を前提として、メーカー│卸間
での情報連携に力点が置かれている。
卸経由を選んだ日本のメーカー
次世代のS C Mはメーカーと小売りと
の連携であると言われてきた。 メーカー
が小売りの実売情報をデイリーで受領し
てそれを生産計画に活かす「C P F R
(Collaborative Planning Forecasting and
Replenishment :協働による計画、需要予
測、補充)」が、その代表的手法である。
しかしながら、これまで見てきたように、
日本ではCPFRは進展していない。 日本
でいま取り組まれているのは、メーカーによ
る川上側との連携強化、つまり調達と需要
計画の一元管理である。
これに対して本リサーチでは、改めて川下
との流通連携の現状について、食品や日用
雑貨品などのCPG(Consumer Packaged
Goods)メーカー各社にインタビューを行っ
ている。 その結果、図1のような各種の問
題が浮かび上がってきた。
すでに歴史上の話となりつつあるが、日
本のCPGメーカーは一九八〇年代後半から
九〇年代前半にかけて、小売店との間での
積極的な情報連携に取り組んでいた。 特に
それに熱心だったのが、ビールメーカーと日
雑メーカーである。 業種別小売り、いわゆる
パパママストアを対象に、小売り向けPOS
(販売時点情報)システムを開発し、POS
情報の収集と活用を図った。
まだインターネットもパソコン通信も普及
していない時代だった。 そのためメーカーの
営業マンが、各小売店のPOSデータをフ
ロッピーなどで回収し、そのデータ分析に基
づく「売れる店作り」の支援を行った。
その支援方法のひとつとして注目された
のが「プラノグラム(棚割りシステム)」であっ
た。 さらには売れ行きに合わせて棚スペース
第回
アビームコンサルティング
経営戦略研究センター
次世代を拓く
日本型SCM が
梶田ひかる
日本型コラボレーションの現状
6
中間流通の存在
小売りとの間のバッファーとしての期待
小売POS データの質
会社によってフォーマットやデータ項目が異なる
「定特分離」ができていない
標準EDI の整備状況
メーカー・卸間:業種により異なる普及率
小売EOS:個別対応の必要性
取り組むことによる取引条件悪化への懸念
取り組み先に有利な取引条件への変更要請
競合からの同様な取引条件への変更要請
図1 メーカーにおける小売連携への躊躇
日本型SCMが次世代を拓く
57 NOVEMBER 2010
を配分し、発注を最適化することで、多頻
度小口配送を是正するといった取り組みも当
時の経済紙上を賑わせていた。
しかし、そのようなメーカー─ 小売間の
連携はその後、徐々に後退していった。 理
由の一つは、量販店やコンビニなどへのシフ
トである。 組織型小売業では、本部が各店
舗のPOSシステムを整備し、品揃えについ
ても本部が取り扱いアイテムの大枠を決めて
しまう。 メーカー営業が個々の店舗をリテー
ルサポートする必要性は薄れる。
また組織型小売業の台頭は、パパママスト
アのシェアを低下させた。 パパママストアの
多くがコンビニのフランチャイズになる、あ
るいは廃業するなどで、メーカーのリテール
サポートの対象となる店舗数自体が減少して
いったのである。
メーカー─ 小売間の連携が後退したもう
一つの理由は、低価格化の進展によるメー
カー流通政策の転換である。
日本のメーカーは長らく、流通全体を支配
するという政策をとってきた。 価格政策では、
メーカーが卸や小売りのマージンを決める建
値制をとり、卸、小売り各段階の販売価格
をコントロールした。 チャネル政策では、地
域ごとに卸を代理店または特約店という形
で組織化し、小売店への営業には卸に代わっ
てメーカーが直接出向いた。
組織型小売業からの低価格化要請により
コスト低減を迫られるようになってからも、
メーカーの大半は、卸を経由する日本型流通
構造を守った。 パパママストアに対するリテー
ルサポートを、メーカーに代わって卸が担う
ようにすることで、コストを抑制するという
対応を行ったのである。
現状、メーカーは次のような流通政策を
採っている。 大手組織型小売業については
メーカーが直接、小売本部との間でリテール
サポートや営業活動を行い、本部から販売
情報を入手する。 一方、卸は中堅以下の組
織型小売業本部への営業および組織型小売
業の個別店舗やパパママストアへのリテール
サポート、営業、物流、金融機能を果たす。
さらに卸はそれらから得られる市場の情報
をメーカーに提供する。
多くのメーカーが現時点で描いているのは、
このような青写真である。 卸を小売りとの
間の重要なバッファーと捉え、積極的に機能
してもらうことにより、メーカー自身の効率
化を図ろうとしているのである。
POSデータ活用の実態
なぜ日本のメーカーは、小売りとの連携強
化を志向しないのか。 それにはいくつかの
理由がある。
今では大半の小売店がPOSデータを収集
している。 小売店ではそれを分析し、発注
量の決定や、キャンペーン等の販促策別の効
果把握などに活用している。 そのようなP
OSデータは、有償あるいは無償で卸やメー
カーにも提供されている。 なかにはPOS
データの提供を条件に価格交渉を行う小売り
もある。
しかしながらメーカーはPOSデータを十
分に活用できていない。 各社のSCM部門
へのインタビューでも、大半は「営業部門や
マーケティング部門がPOSデータを入手し
ているようだが、何に使用しているかは把
握していない」とのことであった。 CPF
Rが提唱された当初に想定されていたような、
需給管理にPOSデータを活用するという方
法もほとんどとられていない。
小売りから提供されるPOSデータは、各
社でフォーマットがまちまちで、そこに含
まれている内容も異なっている。 メーカー
がそれらを需要予測に活用しようとすれば、
フォーマットを揃え、内容も統一するように
変換しなければならない。
手間をかけてデータを変換したとしても、
さらに難題が待っている。 メーカーの需要予
測に必要なのは、単にどのSKUが何個売
れたかではない。 それがキャンペーンで売れ
たものなのか、値引き販売で売れたものな
のか、あるいは定番として売れたものなの
かの区分けがされていないと、実際には利
用できない。 しかし小売りから提供される
データの多くは「定特分離」(定番と特売の
分離)ができていない。
加えて収集できるデータ量にも限界がある。
NOVEMBER 2010 58
メーカーにPOSデータを提供している小売
りは徐々に増えてはいるものの、まだマーケッ
トの大半をカバーできるほどではない。 生産
計画に反映させるには不十分だ。
そのようなことから、メーカーのSCM部
門におけるPOSデータの使い道は限定され
る。 POSデータの利用法として今回の調査
で比較的多く挙がっていたのは、「コンビニ
の棚落ちの把握」であった。 また「新商品
の初期販売量を今後の生産量決定の参考に
している」という企業もあったが、メーカー
─ 小売間の情報連携によるメリットは、今
のところそのレベルに留まっている。
業種によって情報連携レベルに格差
それではメーカー─ 卸間の情報連携は現
在、どのようなレベルにあるのであろうか。
� 達丕廼罰Δ砲�韻襯瓠璽�次Σ郡屬裡釘�
Iには現在、加工食品の「ファイネット(F
INET)」、菓子の「e─お菓子ネット」、
日雑の「プラネット(PLANET)」とい
う三種類のVANが存在している。 それぞ
れ普及状況は異なっている(図2)。
加工食品業界では比較的早期に、カテ
ゴリーごとに業界V A Nが構築された。
一九八六年に冷凍食品業界用のVANが稼
働。 その翌年にドライ食品がそれに加わり、
さらに二〇〇二年には別に構築されていた
酒類VANを統合、現在のファイネットと
なっている。
対象領域は広がってきたが、その普及状
況は今のところ、あまり高いとはいえない。
メーカー、卸の双方とも、大手は加入してい
るが、中堅以下の加入率が低い。
日配品などの小規模メーカーは近隣の地場
スーパーや小売店との取引が中心であるため、
もともと業界VANを利用する必要性に乏
しい。 近隣の飲食店を対象としている業務
用卸もまた、取引量が少ないために情報化
投資には及び腰だ。 そのために大手メーカー
がファイネット経由で受注できる取引先の数
は限られてくる。 行数や出荷量ベースでみて
も、中程度の割合にとどまっているのが現
状だ。
一方、日用雑貨業界のVANであるプラ
ネットは、今やほとんどの日雑メーカー・日
雑卸に利用されている。
プラネットはライオンをはじめとする大手
メーカー九社が出資して八五年に創業、翌
八六年からサービスを開始した。 卸チャネル
を堅持するメーカーの連合組織として普及に
熱心に取り組んだこと、そして九〇年代中
盤から始まった日雑卸の再編による企業規
模拡大が普及の追い風となった。
市場のカバー率が高いことから、プラネッ
トでは卸の出荷実績をメーカーに提供するな
ど、需給管理に活用できるデータ交換を行っ
ている。 それを需要計画策定時に参考にし
ているメーカーもある。
� 紲,�杙劵優奪箸蓮▲侫.ぅ優奪箸肇廛�
ネットの中間的な普及レベルにある。 菓子業
界でも販売チャネルの主力はパパママストア
からコンビニやスーパーなどに移ってきてお
図2 CPG 業界流通VAN の種類とオンライン化率
食品メーカー菓子メーカー日雑メーカー
食品卸菓子卸日雑卸
オンライン化率
e- お菓子ねっと 大手量販
( 菓子 VAN)
PLANET
( 日雑 VAN)
FINET
( 食品 VAN)
EOS
小中大
日本型SCMが次世代を拓く
59 NOVEMBER 2010
り、それに伴い菓子卸の再編が進んでいる。
また組織型小売業への販売では、食品卸や
酒類卸がファイネット経由で菓子メーカーに
注文しているケースも多い。
このようなことから、全般的な傾向として、
加工食品メーカーにおける受注オンライン化
比率は、日雑メーカーよりも低い。
ただし、同一業種であってもメーカーに
よってオンライン化比率はかなり異なる。 加
工食品メーカーでも、大手卸中心の取引であ
れば、オンライン化率は高くなる。 また大手
小売りと直接取引を行っている場合も、小
売りのEOSと直接接続を行うため、やは
りオンライン化比率は高くなる。 販路の選択
が受注オンライン化比率と密接に関係してい
るのである。
今後、日本においてCPGメーカーは、小
売りのPOSデータの代わりに卸売業の出荷
実績データを需要予測に活用するようになる
のであろうか。 その答えはまだ見えていない。
ただし、その方向に最も進みやすいのがプラ
ネットを使用している日雑メーカーであるの
は明らかだ。 それに対してファイネットおよ
びe─お菓子ねっとを利用している加工食品
業界のメーカーがそうした形をとるようにな
るのは、現状からすると当面先のことにな
ると思われる。
日本でメーカーと小売間の連携が進まない
原因は、EDIの整備状況ばかりではない。
以前にも指摘したように、日本の小売市
場は欧米のように大手数社によって寡占化
されているわけではない。 大手の組織型小
売でも市場シェアは限られている。 そのため
にメーカーが特定の小売りと連携しても、そ
こから得られるメリットは限定的だ。
それに加え、特定の小売りとの連携が他
の小売りとの取引に悪影響を与える恐れが
ある。 メーカーとの情報連携の強化に合意し
た小売りは、当然ながらその見返りを期待
する。 メーカーに対して、従来よりも有利な
取引条件を求めていくる。
その要望に応じてメーカーが取引条件を優
遇してしまうと、情報連携していない小売
りからも同等の条件への変更を要請される
可能性がある。 それを受け入れない場合には、
取引中止などの強行手段をちらつかせてく
る小売りもあるだろう。 そうしたリスクがあ
るために、メーカーの多くは小売りの情報連
携に消極的になっているのである。
指定倉庫の実態とその供給管理
今回の調査では「指定倉庫」についても、
その実態を調べている。
指定倉庫とは、組織型小売業や外食産
業などが調達先のメーカーに供給管理を
委託している倉庫のことである。 「VMI
(Vendor Managed Inventory : ベンダー
主導型在庫管理)」、「CRP(Continuous
Replenishment Program :連続自動補充方
式)」といった企業間SCMの広がりに伴い、
指定倉庫を使用するケースは増えている。
指定倉庫への対応姿勢はメーカーによって
大きく異なる。 「まったく行っていない」と
いうメーカーがある一方で、全国一〇〇カ所
以上で対応しているというメーカーも複数あっ
た。 しかし、多くの指定倉庫を運用してい
るメーカーでも、それを進んで受け入れてい
るわけではない。 各社とも顧客からの要請
を「受け入れざるを得ない」という消極的
な理由から指定倉庫に対応している。
指定倉庫に求められる機能は取引先によっ
て様々である。 在庫の所有権はメーカーにあ
るのか、それとも販売先か。 保管アイテム数
は多いか少ないか。 出荷の変動はどのレベル
か、といったように条件が細かく異なる。
そのため運用体制にもバリエーションがあ
る。 「コンビニのセンターはSCM部門が管
理し、他は供給管理部門が管理している」、
「大手量販一社のみSCM部門が管理、他は
営業」「すべて担当営業が決定」というように、
供給量の決定についても複数の方法で対応
していることが多い。
一般的な傾向としては、対象となる指定
倉庫の規模・出荷変動とも大きい場合はS
CM部門が管理し、自社デポと同様の方法
で供給量を決定している。 その他の指定倉
庫の供給量決定は、営業が行うケースが多
い。 営業の方がその顧客の販売状況に詳しく、
また管理アイテム数が少ないため、的確に供
NOVEMBER 2010 60
日用雑貨品は、商品のリニューアル時にも
JANコードは変えず、旧商品の在庫がなく
なり次第、新商品を納品するというパターン
が大半であるため、良品返品はほとんど発
生していない。 棚落ち(売れ行きが悪いも
のを陳列棚からはずす)時も、小売りが見
切り販売で売り切っている。 また食品でも酒
類の場合は、酒税があるため、メーカーは良
品返品を受け付けていない。
だが加工食品では、商品切り替えや棚落
ち時に良品が返品されてくる。 今回調査し
た加工食品メーカー全一四社中、返品を受け
付けないと答えたのは一社のみで、残りは
すべて良品返品を受け付けていた。
そして小売りから戻ってきた商品は、そ
の時点で倉庫から出荷しているものに比べ
て日付が古く、小売りによって定められてい
る賞味期限ルールに抵触してしまうため再出
荷ができない。 廃棄に回らざるを得ないの
である。
ある食品メーカーでは、「廃棄のうち六割
は流通からの返品で、商品改廃や棚落ちに
伴うものである」という話であった。 その
ような返品を拒めないのかたずねたところ、
「コンビニで棚落ちしたものは店舗のレジを
通らないので、返品を受けざるを得ない」
と答えたメーカーもあった。
そのような良品返品、また納品時の賞味
期限ルールによって発生する「日付逆転によ
り出荷できなくなったもの」が、倉庫の中
で動かないまま処分期限を迎えてしまったも
のと共に、廃棄処分に回っている。
各社の有価証券報告書からすると、棚卸
資産処分損の売上原価に対する比率は、原
材料や仕掛品も含めて、少ない企業で〇・
〇一%、多い企業では一%程度である。
廃棄処分の削減は環境問題の観点からも
重要である。 そのためには、流通全体での
商慣行見直しが必要である。 小売りは良品
返品や日付逆転禁止ルールが地球環境に影
響を及ぼしているのだという認識を持つべ
きであろう。
その一方、返品を受け付けないというN
B(ナショナルブランド)メーカーも実際に
存在するのであるから、他のメーカーも返品
削減への働きかけにもっと本腰を入れるべき
であるといえよう。
給量を決定できるというのがその理由である。
良品返品と廃棄問題
小売りからの返品も、日本型商慣行の課
題の一つである。 とりわけ現在、問題となっ
ているのは、「棚替え(季節毎の商品入れ替
え)」に伴う返品である。 棚替え時点で売れ
残っていた在庫が、商品の品質や期限に問
題がないにも拘わらず返品されてくる。 い
わゆる「良品返品」である(図3)。
当調査で改めてその実態を調べたところ、
いくつかの興味深い事実が判明した。 返品
問題に悩まされているのは、CPG業界の
中でも食品だけだということがその一つだ。
日本型SCMが次世代を拓く
図3 返品のタイプと商慣行
返品良品
誤納
棚替え
棚落ち
不良品
廃棄
廃棄
廃棄
商慣行変更により削減可能
梶田ひかる(かじた・ひかる)
1981年、南カリフォルニア大学OR理学修
士取得。 同年、日本アイ・ビー・エム入
社。 91年、日通総合研究所入社。 2001年、
デロイトトーマツコンサルティング入社(現
アビームコンサルティング)。 現在に至る。
電気通信大学大学院情報システム学科学
術博士。 中央職業能率開発協会「ロジステ
ィクス管理2級・3級」のテキスト共同監修
のほかSCM関連の著書多数。 アビームコ
ンサルティングHP http://jp.abeam.com
|