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DECEMBER 2010 20
ファミリーマート
──現地の実情に合わせて物流を構築
ファミリーマートの中国事業が収穫期を迎えてい
る。 従来は本部経費を含めると赤字だったが、今
期は上海地区で単月黒字が出るようになった。 来
年度の通期黒字化も視野に入っている。 今年九月
現在、中国では上海、広州、蘇州に計四五九店舗
を展開している。 うち主戦場と位置付ける上海が
三七一店舗を占める。
上海は四〇〇〇〜五〇〇〇店舗のコンビニが存
在すると言われる激戦区。 日系では一九九六年に
出店したローソンが先行した。 ファミリーマートの
進出は二〇〇四年と後発だが、今年に入って店舗
数がローソンを上回った。
海外でコンビニを展開する際に、一番のボトル
ネックとなるのが弁当などの「中食」の製造と物
流インフラだ。 コンビニの差別化要因であり、生命
線ともいえる。 店舗数が少なくとも先行投資で一
から整備しなければならず、負担は大きい。
インフラの枠組
みは日本国内と
同様だ。 ただし、
すべてに日本流を
通そうとすれば、
多くのムダが発生
する。 このため現
地の実情に合わせ
て日本の工場・セ
ンターをベースに
台湾や韓国など、
他の新興国で蓄
積したノウハ
ウを移植して
いる。
上海では物
流センターか
らのケース出
荷とバラ出荷
の組み合わせが日本とは違う。 夏場を中心に販売
量が膨らむ飲料など販売量の大きな商品は、国内
ではバラ出荷でも上海ではケース出荷だ。
物流環境も日本とは異なる。 例えば渋滞緩和の
ため、昼間は市中心部へのトラックの進入が原則
禁止されている。 終日進入禁止の街路もある。 こ
うした規制に合わせて配送と中食製造のスケジュー
ルを組み立てなければならない。
「お客さまと店舗にとって何が一番いいのかを起
点に考え、現地に即した方法にモディファイする。
マーケットが違うのだから、サービスレベルを客観
的に比較しても意味がない。 しかし、絶対守らな
ければならないところはきちっと守って踏襲する。
製造と物流、全体を考えながら最も効率的で他社
よりも高精度なインフラを目指している」とファミ
リーマートの北村篤AFC事業本部海外事業部海
外事業第一グループマネジャーは説明する。
今年五月、中食工場と物流センターを一体化し
た「総合センター」を上海に開設した。 以前は別々
に立地していたのを移転・統合し、三倍以上の規
模に拡大した。 常温品も含めたすべての商品を一
カ所から配送する体制に改めた。 これに伴い、店
舗への配送を二便に増便した。 これまでは通行規
制もあって夜間の一便のみだったが、昼間も通行
可能な小型のチルド車を使用し、夕方にも配送し
日系企業の中国内販マーケティング
アジア内需へのシフトは、自動車や家電などの輸出産業だ
けでなく、流通業にまで広がっている。 主戦場はもちろん
中国だ。 マーケティングに集中するため物流はアウトソーシ
ングが前提になる。 それだけに協力物流会社の選択とパート
ナーシップがカギになる。 (梶原幸絵、石鍋圭)
北村篤AFC事業本部海外
事業部海外事業第1グルー
プマネジャー
上海市内の店舗。 出店ペースが加速している
第3部
特 集 アジア内需の物流
21 DECEMBER 2010
ている。
新センターでは六〇〇〜七〇〇店舗まで対応が
可能だが、上海・蘇州の店舗数は今年度中に五〇
〇店舗を突破する見通しだ。 これに合わせて現在、
既に次のインフラの検討を始めているという。
北村マネジャーは「中国事業は拡大成長期に入
ろうとしている。 今年から来年にかけてがターニン
グポイントになるだろう。 出店戦略とリンクしてイ
ンフラを拡充していかなければならない。 ただし
設備投資が大きいため、店舗展開のペースより早
すぎれば過大な負担になり、遅ければ物流が混乱
する。 どういうタイミングでどういうやり方をする
かは非常に重要な経営判断になっている」と説明
する。
アシックス
──ヤマトへの委託で販売に集中
国内スポーツ用品最大手のアシックスは、ランニ
ングシューズなどスポーツ用品の「アシックス」と、
シューズのほかアパレル、バッグなども揃えるスポー
ツファッションブランド「オニツカタイガー」の二
ブランドを中国で販売している。 販売会社の愛世
克私(上海)商貿(以下、アシックス上海)が代
理店約二五社に商品を卸すほか、直営店を展開し
ている。
アシックスは国内の競合他社に先駆けて海外市
場の開拓を進めてきた。 特にランニングなどのスポー
ツシューズで世界的に高いブランド力を持つ。 二〇
一〇年三月期連結売上高二二四三億円のうち、海
外売上高比率は五八・四%に達している。
ただし、海外売上高は欧米市場の売り上げが中
心で、中国では出遅れが指摘されている。 スポー
ツ用品各社は〇八年の北京五輪も睨んで中国で莫
大な投資を続け、熾烈なシェア争いを繰り広げてき
た。 現在は外資系のナイキとアディダスを現地大手
の李寧、安踏体育用品などが猛追している。 これ
らの大手メーカーは中国全土に数千〜七〇〇〇店
以上(直営、代理店合計)を展開する。 これに対
してアシックスの中国での店舗数は、約一四〇店
(同)に過ぎない。
アシックス上海の設立は二〇〇六年。 それまで
中国向けの販売は現地の総代理店を通していたが、
販売体制の強化を目的に直接販売に切り替えた。
これに伴い、中国での物流網を新たに設計する必
要に迫られた。 総代理店から引き継いだ物流網が
アシックス上海の販売実態に合わなかったため、〇
七年に物流改革プロジェクトをスタートさせた。
第一ステップとして、分散していた倉庫を上海
に集約し、在庫削減を図った。 アシックスの小売
店は上海と北京が中心だが、当時の倉庫は上海と
広州にあり、このほかに一時保管倉庫を北京に置
いて各店舗に小口配送していた。 華南地域には店
舗がほとんどないため、広州に倉庫を置く必要性
は低かった。
そこで〇七年十二月、本社を置き、地理的にも
沿岸部の中心にある上海に、新たに倉庫を賃借し
て、上海と広州の旧倉庫から在庫を移管した。 北
京の一時保管倉庫も廃止した。
第二ステップは、物流業務のアウトソーシングだ。
それまではアシックス上海が現地の倉庫会社から倉
庫を借り、庫内業務や配送を自社で管理していた。
しかし、〇八年七月に物流改革プロジェクトのパー
トナーとしていたヤマト運輸の現地法人、雅瑪多国
際物流(以下、ヤマト)へ一括して委託し、同社
の倉庫に在庫を再度移転した。
これによって倉庫面積は大幅に削減された。 改
革前は上海と広州で合計約六〇〇〇平方メートル
のスペースを使用していたが、上海への集約時に約
四〇〇〇平方メートルに縮小。 さらにヤマトへの委
託開始時に保管ラックなどを導入し、三五〇〇平
方メートルまで絞った。 その後も保管効率の改善や
不良在庫の処分などで現在の使用面積は一五〇〇
平方メートルにまで縮小した。
日系物流業者をパートナーとした狙いは物流品
質の向上だった。 アシックスの井上忠史執行役員
アジア・パシフィック統括室統括室長は「中国のト
ファミリーマートの国内外の店舗数の推移。 2015 年度には国内外
で2 万5000 店舗(うち中国4500 店舗)を計画している
10,000
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
(店舗)
08 年
8月末
09 年
2月末
09 年
8月末
10 年
2月末
10 年
8月末
11 年
2月末(計画)
700
600
500
400
300
200
100
0
日本国内(左軸) 海外(左軸) 海外のうち中国(右軸)
7,295 7,404
7,604 7,688
7,946
6,988 7,247 7,636
8,101 8,608
9,130
8,258
159
194
248
359
437
643
DECEMBER 2010 22
ラック業者の
品質は日本の
それとはまっ
たく違う」と
語る。 以前は
現地の配送業
者を利用して
いたが、紛失などの品質面の問題が多かった。
配送だけでなく庫内業務も含めて包括的に委託
することで、管理負担も軽減した。 倉庫と配送、
それぞれを別の業者に委託すれば、問題が起きた
際、原因をまず特定した上で担当業者と改善策を
講じなければならない。 しかし、一括で委託すれ
ばそうした手間は不要になる。
物流改革が完了したことによって、アシックス上
海がマーケティングに集中する体制を整えた。 当面
は現在の物流体制を維持する考えだ。 「オニツカ」
の販売は好調に推移している。 「アシックス」では
直営店を通じた販促活動によって認知度の向上と
ブランドイメージの確立に注力する。
井上執行役員は「現状の売り上げ規模であれば、
物流よりもとにかく販売を強化して売り上げを伸ば
すことにプライオリティを置いている。 中国は難し
い市場ではあるが、想像を絶する大市場だ。 一%
のシェアでも金額にすれば大きなインパクトがある」
と期待している。
デサント
内陸部進出を睨み物流体制見直し
アシックス、ミズノに次いでスポーツ用品国内三
位のデサントは、今期から新三カ年計画「Compass
2010」をスタートさせている。 一〇年三月期には
七八〇億円だった売上高を、最終年度にあたる十
三年三月期に八八〇億円にまで伸ばす計画だ。 経
常利益は三三億円から五〇億円へ、当期純利益は
一八億円から三〇億円への拡大を掲げている。
計画を実現するための基本戦略の中で、最重要
課題と位置付けているのが「海外事業の更なる収
益力の強化」、とりわけアジア内需の取り込みだ。
一〇年三月期のアジアでの売上高は一七〇億円だ
が、三年後には二四八億円にまで伸ばす方針だ。
デサントのアジア事業は韓国市場が牽引してい
る。 アジアでの売上高のうち約七割を占めている。
対して、中国での売上高は今のところ二割強に留
まっている。 しかし、デサントの中国現地法人・上
海迪桑特商業(以下、上海デサント)の多田裕彦
総経理は「マーケットの大きさを考えると、今後
は大きな成長が期待できる」と語る。
デサントの中国ビジネスは、日本のように自社
ブランドの展開が主体ではない。 ゴルフウェアの
「マンシングウェア」、スポーツ総合の「ルコックス
ポルティフ」、水着の「アリーナ」など他社ブラン
ドとのライセンス契約に基づく製造・販売がメーン
となっている。
日本と中国ではターゲットにしている顧客層も
大きく異なる。 日本ではプロのアスリートや一般の
スポーツ愛好者、学校の部活動やスポーツ団体など
に向けて本格的な
スポーツ・ギアを
中心に販売してい
る。
一方の中国では
富裕層向けの普段
着や高級マンショ
ンのプールで泳
ぐための水着な
ど、ハイエンド
に向けて商品を
提供している。
中国における
デサントは、ス
ポーツ用品とい
うよりも高級ア
パレル企業とし
てのイメージが
強いという。
中国では代理
商などを通し、
百貨店やショッ
ピングモールな
ど約三〇〇店
舗で各ブランド
を販売してい
る。 製造された
商品を上海と北
京の倉庫に集約
し、そこから周辺の店舗に配送している。 配送業
務、倉庫オペレーションともに中国の大手物流企業
一社にアウトソーシングしている。
この物流体制を来年一月から見直す。 配送業務
では納入先を熟知している既存の大手物流企業を
そのまま使うが、倉庫オペレーションは伊藤忠グ
ループが資本参加する物流企業、上海宝藤服飾整
理に委託することが決定している。 上海デサント
の多田総経理は「内陸部進出を睨んだ戦略の一環」
と説明する。
多田裕彦総経理
井上忠史執行役員アジア・
パシフィック統括室統括
室長
北京五輪以降、水泳愛好者が増えているバーバリーやダーバンと同等の位置づけのマンシン
グウェア。 ハイエンドユーザーに支持されている
特 集 アジア内需の物流
23 DECEMBER 2010
デサントは経営計画のなかで、中国での店舗数
を今後三年間で五九二店舗にまで増やす方針を打
ち出している。 今年度中には三八六店舗体制を構
築する予定だ。 その目標に向けて、現在「アリー
ナ」の店舗を中心に出店攻勢を強めているが、消
費力が増す内陸部への販売および物流網の確立が
喫緊の課題となっている。
多田総経理は「内陸部を開拓するには庫内シス
テムやオペレーションの変更、拠点の新規立ち上げ
など物流面でやらなければならないことが山ほど
ある。 しかし既存の大手物流企業にとってウチは
数多い荷主の一社に過ぎない。 改善要求や相談を
持ち込んでも、なかなか迅速には対応してくれな
い」とパートナー変更の経緯を語る。
新たなパートナーとなる上海宝藤は、規模こそ中
堅だが庫内システムへの対応や新拠点進出の要請
に対し、積極的に協力するというコンセンサスが取
れている。 そして何より、繊維物流に強みを持っ
ていることが大きかった。 デサントが扱うようなア
パレル品のオペレーションはお手のものだ。
検品能力も自社で有している。 これまでは既存
の物流企業に検品ノウハウが無かったため専門業者
に依頼していた。 その際、横持ち輸送をかけるた
めに余分なコストが発生していたが、今後はその
費用が削減される。 さらに基本の委託料も落とす
ことができたという。
「中国の物流企業は日系物流企業のように自ら改
善提案をしてくるということがない。 そればかり
か、うっかりしていると倉庫の共有部分の賃料ま
で取られることもある。 マーケティングと同様、荷
主は物流にもしっかり目を配る必要がある」(多田
総経理)
中国内需が爆発しているが、日系企業は欧米系や韓国企
業の後塵を拝している。 理由を一言で言えば、中国市場を
取り込もうとする本気度がまったく足りていない。 経営計
画を見ると『中国市場に注力する』と謳ってはいるが、エ
クスキューズにしか見えない。
その現れの一つが、日本でのビジネスモデルをそのまま中
国に移植しようとする姿勢にある。 日本で売れた商品を同
じ方法で売ろうとする。 それで成功すれば良いが、売れな
くても何も変えようとしない。
中国で成功している外資企業は、現地に入り込んでトラ
イ&エラーを繰り返している。 試してみてダメならその度に
修正する。 消費者のいる現地に赴き、なぜ自分たちの商品
が選ばれないのか、どうすれば選ばれるかを徹底的にマーケ
ティングし、得られた結果を商品開発や販売方法に活かし
ている。 もし値段がネックになっているなら消費者にオマケ
をつけたり、場合によっては品質や機能を多少落としてで
も選ばれる商品を作る。 日本人はデスクの上の仕事は得意か
も知れないが、現地で汗を流し、血を流すような努力はし
ていない。
日系企業の人は『品質を維持するためにビジネスモデルは
変えられない』と口を揃えて言う。 物流にしても無条件に
割高の日系物流企業を選び、そ
れが高コスト体質の一因になっ
ているケースも多い。
そういった姿勢は改める必要
がある。 中国は今や成長著し
い世界一の巨大市場だ。 この
市場で勝てない企業に明るい
未来はない。 そのことが本当
に分かっているなら、中国で
売れて、なおかつ利益の出る
ビジネスモデルを真剣に考えるはずだ。 決して品質を蔑ろに
しろと言っているのではない。 求められているのは、『巨大
ビジネスをものにするんだ』という気概と、それを達成す
るためのスケール感を持ったビジネスモデルの構築だ。
さらに言うなら、日本企業は自らの品質を過信している。
確かに日本の技術や品質は世界最高峰のものだ。 マーケティ
ングの強力な武器になるだろう。 しかし他国との差は年を
追うごとに縮まっている。 キャッチアップは既に始まってい
る。 この先5年、10年とその優位性を保てる可能性は低い。
品質で並ばれ、売り方で負ければ撤退するしか道は無い。 ま
だ優位性のあるうちに、サプライチェーンを含む全ての分野
でイノベーションを起こす必要がある。
そういった努力が出来ない一つの要因は、会社の制度の
問題にある。 日系企業の中国事業の責任者は2〜3年くらい
ですぐに変わってしまう。 これでは新しいことにチャレンジ
しようという意欲も湧かないし、消費者を深く知ることも、
販売や物流を担当する中国企業との充分なパートナーシップ
やネットワークを築くこともできない。
現地法人に決定権を与えていないことも問題だ。 中国企
業と商談をする度に日本の本社に内容を持ち帰る。 本社の
決定を待って次の商談は2週間後などと平気で言う。 これで
は時間がかかりすぎる。 いま成長している中国の経営者は
ベンチャー精神溢れる創業社長ばかり。 スピード感の無いビ
ジネスに力を入れる道理はない。
日本企業が中国市場で勝つには、その企業で最も優秀な
人材を中国に土着させ、権限を持たせ、スピーディかつ壮大
なスケールで事業を進める必要がある。 しかしそれは今の日
本の大企業の体質では難しいかもしれない。 そういった意
味でいうと、無名でも果敢にリスクに挑めるベンチャー企業
やオーナー企業の方が中国で成功するチャンスは大きいかも
知れない。 (談)
「中国市場で勝てない企業に未来はない」
中国市場戦略研究所 徐向東 代表
Interview 中国スペシャリストに聞く
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