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佐高 信
経済評論家
DECEMBER 2010 74
同じ一〇月三〇日付の『日刊ゲンダイ』と『夕
刊フジ』が、民主党の企業献金受け入れ再開
に反発のコラムを載せている。
前者が高橋洋一の「民主党政権下の日本」で、
後者が針木康雄の「ザ・トップ」。 後者の見出
しは「民主党の鉄面皮と経団連の時代錯誤」
だが、その中で針木は二〇〇七年度の経団連
の政治献金の額を具体的に挙げる。
企業が拠出した二九億九千万円のうち、自
民党に二九億一千万円で、当時、野党の民主
党には八千万円。
民主党が受け入れるとなったら、今度はそ
れが逆になるのか。 つまり、政権政党として
今度は民主党に九割以上を供与するのかとい
うことである。
針木ならずとも、「経団連も民主党も、一
度顔を洗って出直すがいい」と言いたくなる
だろう。
高橋洋一は、まず、企業献金を容認する自
民党を激しく批判していた民主党の「変節」
を指摘する。
九月の代表選の政見(公約)では「カネの
かからない政治実現に向け、企業・団体献金
禁止について議論し、年内に党方針をまとめ
る」と表明していたのに、一八〇度変わった。
一〇月二七日、記者に問われて菅直人は、
「あのマニフェストでは、法改正から三年後、
そうした企業団体献金を禁止すると。 そうい
う形になっていまして。 マニフェストに反した
ということではありません」
などと居直っている。
六月の所信表明演説では、自分がかついだ
市川房枝が三〇年以上前に経団連会長に企業
献金禁止を約束させたことを麗々しく主張し
たばかりなのにである。
当時、たしか、経済同友会の代表幹事だっ
た木川田一隆(東京電力会長)は、
「自民党がつぶれても、東京電力をつぶす
わけにはいかない」
とまで言い切って献金を止めた。
奥村宏が『日本の財界』(七つ森書館)で
引いているように、一九九三年、自民党一党
支配が崩れて、首相となった細川護煕は、や
はり所信表明演説で「政治腐敗事件が起きる
たびに問題となる企業・団体の政治献金につ
いては、腐敗の恐れのない中立的な公費によ
る助成を導入することなどにより廃止の方向
に踏み切る」と述べ、政治家個人への企業・
団体献金を廃止するかわりに政党助成金制度
が導入されたのである。
しかし、経団連や、のちに日経連と合併し
てできた日本経団連は献金をやめるどころか、
政党に?通信簿?をつけ、自らに都合のいい
政策を推進する政党に多額の献金を割り当て
るようにした。
これはまさに「政治をカネで買う」ものだ
った。 ところが、政権交代によって、具合が
悪くなる。 自民党より格段に悪い点をつけて
いた民主党が与党になってしまったからである。
それでも日本経団連は、政策評価に基づく政
治献金の斡旋は止めるが、個々の企業の献金
は「企業の社会貢献」として、積極的にそれ
を推進するとし、現会長の米本弘昌も、
「政治献金は個人や企業にとって社会責任だ。
ルールに沿って行うのはやぶさかならず」
とコメントしている。
針木によれば、ある経営者は、
「経団連会長があんなコメントをするのは時
代錯誤だ。 自民党時代とちっとも変わらない
じゃないか」
と批判しているというが、残念ながら、こ
れは大きな声とはならないだろう。
高橋のコラムの見出しにあるように「効果
なければムダ、あれば賄賂」が企業献金であ
り、来年の統一地方選挙を控え、派閥活動も
活発化して、民主党はカネが必要となり、何
と言われても献金受け入れを発表したのだろう。
企業献金はアメリカ、フランス、カナダでは原
則禁止。 イギリスとドイツは原則自由だとか。
「効果なければムダ、あれば賄賂」の企業献金
マニフェストをあっさり捨てた民主党の変節
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