2010年12月号
現場改善

第95回 若き四代目と臨んだ輸送費削減プロジェクト

DECEMBER 2010  76 国内市場の成熟から利益重視に転換  プラスチック加工メーカーのF社は創業一〇 〇年を数える老舗である。
年商は約四五億円 で関西に工場を置いている。
金型加工で創業 したが、高度経済成長期にプラスチック素材の 成長性に目を付けて業態を転換した。
現在の 生産品目数は約八〇〇。
卸や代理店を通さず、 直販体制を敷いている。
 F社の対象顧客は大きく三つに分かれる。
一 つは化学品業界だ。
かつてはF社の稼ぎ頭と なっていた事業分野だが、近年は中国や東南 アジアで生産された低価格の輸入品にシェアを 奪われて苦戦している。
昨年はついに赤字に 陥ってしまった。
 二つ目は情報通信(ICT)業界向けで、電 力会社や通信機器メーカーに納品する部品類 をメーンとしている。
この分野の主要顧客は 技術開発や安定調達のためにサプライヤー各 社を協力会社として組織化しているところが 多い。
サプライヤーの入れ替えや新規参入はあ まりなく、価格競争も起きにくい。
その恩恵 を受け、F社の同事業の売り上げは毎年安定 している。
ただし、今後の大きな伸びは期待 できそうにない。
 三つ目は自動車業界向けだ。
同分野でF社 は系列を超えて自動車部品メーカーに広く支持 されている。
F社の三つの事業領域のなかで は最も勢いのある事業だ。
しかし、部品需要 は自動車組み立てメーカーの生産動向に大きな 影響を受けるため、売り上げが安定せず、利 益率も低い。
 いずれの事業も国内市場は既に成熟してい る。
現在、F社は海外からの割安な輸入品に 対抗するため、高い技術力を要する高付加価 値品の開発に躍起になっているが、それに成 功したとしても今後売上規模を大きく拡大し ていくのは難しい状況であった。
 そこでF社は従来の売上重視から利益重視 に、経営の基本方針を大きく転換しようとし ていた。
その一貫で物流コストにもメスが入れ られることになった。
我々日本ロジファクトリ ー(NLF)がそのサポート役を仰せつかった わけである。
 NLFのホームページの問い合わせページか ら、F社からのメールが入った。
「輸配送コス トを下げたい」と書かれていた。
これを受け て後日、大阪市中央区にあるF社の本社を訪 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  プラスチック部品を加工する老舗メーカーから輸送費削減プ ロジェクトの支援要請を受けた。
先方の担当責任者は創業家の 四代目となる若き社長室長。
物流は門外漢だというが、それに しても受け答えが頼りない。
プロジェクトリーダーの大任を無事 に果たすことができるだろうか。
若き四代目と臨んだ輸送費削減プロジェクト 第95 回 77  DECEMBER 2010 れた。
面談相手はF社の社長室長のN氏。
N LFに問い合わせをメールを入れた本人であ り、F社の四代目にあたるという。
 リーマンショック直後からF社では、調達 から生産、事務コスト、そして人件費などの 様々なコスト削減策を実施してきた。
しかし、 物流コストにはこれまで手をつけていなかっ た。
社内に物流の知識、経験を持った人材が いないため、どのように進めれば良いものか 全くわからなかったという。
 それでも、これまで実施した各種のコスト ダウンプロジェクトは全て社長室長のN氏がプ ロジェクトリーダーを務めてきた。
今回の輸配 送コストプロジェクトもN氏がリーダー役を担 うという。
そこで我々はN氏に対して改善の 前提となる物流の実態を知るために種々の質 問を行った。
 質問は「基本となるリードタイムはどれくら いか」、「自社車両の車両サイズは、どんなサ イズか」といった基本的な内容である。
とこ ろがF氏は支払物流費の協力会社別・月別一 覧表を見せるだけで、ちんぷんかんぷんな答 えしか返ってこない。
 N氏が物流の門外漢であることを差し引い ても、あまりに準備不足であった。
それとも 情報開示を拒む理由が他に何かあるのではな いかと、疑いたくなったぐらいである。
拙速 な判断はつつしむべきではあったが、まだ三 〇代半ばの若き四代目に我々は一抹の不安を 抱かざるを得なかった。
 そのままでは仮説を立てるどころか基本的な 提案書も作成できないため、日を改めて、我々 がF社の工場および倉庫の視察と現場担当者 にヒアリングを行うことをN氏に提案し、了解 を得た。
提案の場に先代を引きずり出す  我々は現地視察とヒアリングを無事に済ま せ、改めて提案を行うことになった。
その席 にはN氏の実父であるT社長にも同席を願っ た。
提案はキーマンへ──我々がこれまで痛い ほど学んできたコンサルティングの基本である。
 N氏には失礼なお願いであったかも知れな い。
N氏に対して感じた一抹の不安が我々を そうさせた面は否定できない。
とはいえ、第 一印象というのはそう簡単には払拭されない ものだ。
 我々はF社に対して、支払運賃だけではな く「トータル物流コスト」さらには「全社コス ト」の範囲にまで拡大して、改善に着手する 必要があることを伝えた。
 N氏が削減の対象としている支払い運賃は 年間一億円にも満たない少額であった。
我々 のような外部のコンサルタントを使ってそれを 削減しても、コンサルティングフィーに見合う 効果を得るのは難しかった。
 また改善の余地も限られていた。
F社は地 元のS運輸を中心に複数の協力会社を利用し ていたが、各社の役割分担は明確であり、既 にフォーメーションが出来上がっていた。
 これに対してT社長からは、?いっそうの コストダウンを希望していること、?首切り はしないこと、?長年の付き合いであるS運 輸との取引は継続することなどの基本方針が 我々に伝えられた。
これで改善の骨格が固ま ったのであった。
 このミーティングを受けて、我々NLFは当 初、十三の改善実施項目を挙げた。
そこから F社の社風や改善実現力、期間と効果の検証 などを行い、最終的には以下の七つに絞り込 み、それぞれの施策に優先順位を付けた。
(1) 路線会社の集約による車両手配業務の簡素 化とボリュームディスカウント交渉の実施 (2) 調達物流の内製化による仕入れコスト削減 の検証。
(?自社便による引取り、?S運輸 既存便の帰り便活用、?S運輸の新規引取 り便設定) (3) 自社車両(トラック)の使用方法の見直し、 納品、引取りなどの効率化と、それによる 減車 (4) 運行日報の記入による配車効率および燃費 の改善 (5) 運送原価の算出による「運行四費(燃料油 脂費、修理費、消耗品費、高速費)」のチ ェックとムダの排除 (6) 支払い運賃の料金体系見直しと車両サイズ の見直し(?相場との比較、?変動費化(個 建て、重量当たり他)、?車両サイズの見直 し) (7) 出荷業務の集約化  当初挙げた項目のうち、「出荷量の少ない、 DECEMBER 2010  78 Bランク、Cランク顧客への出荷頻度の見直 し」などは削減した。
Bランク、Cランクの 得意先にも毎日、小口出荷しているのは明ら かにムダである。
得意先とF社の営業が交渉 すれば配送回数の削減や最低取引ロットを承 諾してもらえるかも知れない。
 しかし小ロット、短納期がF社の?強み? である可能性もあった。
それを失うような施 策は当面は避けた方が良いと判断した。
実際、 自社の強みを無視した物流改善によって、コ ストは下がったが取引を失ってしまったという ケースは決して珍しくはないのである。
プロジェクトメンバーの選び方  こうして七つに絞り込んだ改善項目につい て、それぞれ週単位の実施スケジュールを作 成した。
そして各項目の実務責任者を決めた。
その人選でもアドバイスを行った。
 当初、N氏はプロジェクトメンバーとして、 物流現場の管理者と、現場業務を熟知してい るベテラン陣の計三名をリストアップしてい た。
しかし、?老舗のベテラン物流マン?とい うスペックを我々は危惧した。
長年続けてきた やり方の変更に最も強く抵抗するのは、往々 にして現場のベテランである。
 それよりも、物流に関するスキルを持ち合 わせていなくても、N氏が社長となった暁に はその右腕として活躍することが期待される 人物、あるいはF社の将来を担うであろう若 手からメンバーを選んで欲しいとお願いしたの である。
 その結果、財務・経理、購買、営業事務か ら、それぞれ一人ずつがメンバーとして選出 された。
この三人は非常に優秀であった。
 なかでも営業事務担当の女性社員は、F社 の何が問題なのかがよく分かっていた。
我々 の要請も十分に理解し、必要な情報を的確に フィードバックしてくれた。
贔屓目なしに、彼 女なくしては、このプロジェクトの成功はなか ったであろう。
 彼女を始め再選出された三人のメンバーは、 それぞれ与えられた課題やテーマ、そして協 力会社との交渉などを精力的にこなしていっ た。
その活躍とは裏腹に、プロジェクトリーダ ーを務めるN氏の取り組みは遅れがちだった。
トータル物流コストの算出や自社車両に対する 車両別運送原価の算出など、経験のない仕事 に手間取っていた。
 N氏は他のメンバーに負担をかけまいとし て、手間のかかる課題に、自主的に手を挙げ ていた。
その気遣いは良かったのだが、実務 がついていかなかった。
リーダーの面目を保つ ため、黒子役の我々NLFが汗を流さなけれ ばならなかった。
 それでも、プロジェクトは当初の予定通り六 カ月で完了し、T社長が我々のコンサルティン グを受けるに際して望んでいた費用対効果を 実現することができた。
 その主なポイントとしては以下が挙げられ る。
自社車両三台のうち三t平ボディ車一台 を幌車に改装し、引き取り(ミルクラン)を 実施して仕入れコストを削減。
それまで協力 会社が担当していた納品先のうち四社を自社納 品に切り替え、支払運賃を削減。
また各事業部 に一台ずつを配分していたバン型社用車を全事 業部共通の事前予約制(カーシェア制)に切り 替え、一台に集約したことで、バン型車2台分 のリース代を不要にした。
 こうして我々はコンサルタントとしての責任 をひとまず果たせたものの、N氏のことは今も 気にかかっている。
今回のプロジェクトを通じ て、N氏が四代目として社内で認められるよう になるには、まだ時間がかかりそうだという印 象を得た。
 それでも社員を気遣うN氏の優しい性格は、 これまでも社員を大事にしてきたF社には相応 しい。
N氏の下にF社の次世代を支える有能な ブレーンたちが集まってくれることを、筆者は 心から望まずにはいられないのである。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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