ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年12号
物流不動産市場レポート
第30回 首都圏・近畿圏(二〇一〇年九月期)

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

物流不動産市場レポート DECEMBER 2010  84  年内は新規供給がないため、大型マーケット については引き続き需給バランスの改善が期待 される一方で、企業の設備投資意欲の本格回復 にはしばらく時間がかかることも予想される。
全般   来年二月に二棟が竣工  前期(二〇一〇年六月期)と比べるとテナン トの動きは見られてきているものの、先行きに 対する不透明感から、企業の設備投資意欲の本 格回復とは言えず、様子見の傾向が強い。
テナ ントサイドの動向としては、業績が好調である ネット通販等を中心に新規開設の動きは見られ るものの限定的であり、需要はコスト削減を考 えた統合・集約等を行う企業が中心となってい る。
需給バランスについては、新規供給がなか ったことや、大型の新築物件を中心に空室消化 が順調に進んでいることで空室率は改善方向へ 向かっている。
 年内は新規供給がないため、需給が改善方 向へ向かうことが予想されるが、一方で首都圏 では来年の二月に二棟の竣工が控えているため、 竣工時における稼働率や、供給がない年内まで にどれだけ空室率が改善されるかが注目される。
第30回 首都圏・近畿圏(二〇一〇年九月期) 首都圏の空室率が一・六ポイント低下し十三・七%に 物流施設の新規供給が無く、テナントの動きも限定的 シービー・リチャードエリス総合研究所 鈴木公二 シニアコンサルタント 0306 09 12 03 06 09 12 03 06 09 12 03 06 09 12 03 06 09 12 0306 09 12 0306 09 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 20% 15% 10% 5% 0% 図1 首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率 《空室率算出基準(調査棟数:50 棟)》 既存物件 2009 年9 月以前に竣工した物流施設 地域 千葉県・東京都・埼玉県・神奈川県、 延床面積 10,000 坪以上、 竣工 既竣工物件、 空室確認方法 ヒアリングによる、 建物形態原原則として、開発当時において複数テナント利用を前提として 企画・設計された建物であること 13.7 15.3 15.3 14.2 11.5 12.4 8.3 6.8 ※今期首都圏で調査対象となった50棟については、上記算出基準により抽出 したものであり、必ずしも物流施設ストック全体の需給バランスを示したもの ではありません。
出所:シービー・リチャードエリス総合研究所 平均空室率 既存物件空室率 首都圏   空室率一・六ポイント低下  今期の平均空室率は、一・六ポイント低下し 十三・七%となった(図1)。
前期(一〇年六 月期)は、比較的新しい物件での空室消化と既 存物件からのテナント流出が拮抗した結果、空 室率は横ばいであったが、今期は新規供給物件 が無かったことに加えてテナント流出が少なく、 空室消化が比較的進んだことで空室率は改善す る結果となった。
 今期のテナントの動きとしては、入居テナン トは物流業務を請負う物流会社が中心となって いるが、食品やアパレル、通販会社といった荷 主の拠点開設の動きが目立った。
また、一〇月 の羽田空港国際化を見据えた企業進出の動きに ついては、羽田空港周辺にて大手物流会社が自 社施設を建設する等の動きが明らかになってい るが、現時点では、周辺賃貸施設への波及効果 は限定的と言える。
   85  DECEMBER 2010  物流施設では、竣工後に稼働率が徐々に上が っていくのが一般的で、当社では竣工後一年以 上を経過した既存物件の空室率を一つのベンチ マークとしているが、既存物件の空室率は、〇・ 九ポイント上昇して十二・四%となり三期連続 で上昇を示している。
今期は、既存物件からの 大きなテナント流出は見られなかったが、空室 を抱えた新築物件が今期から既存物件に加わっ たことが影響し、僅かながら上昇する結果とな っている。
 マーケット規模を示す稼働床面積(指数)の 推移については、引き続き増加しており、マル チテナント型物流施設のマーケット全体では順 調な拡大が見られている(図2)。
近畿圏   三期連続で空室率が改善  一〇年九月期の近畿圏の大型マルチテナ ント型物流施設の平均空室率は、対前期比 二・一ポイント改善し、十二・六%となっ ている(図3)。
全般的には企業の動きは 限定的であったが、新規供給が無かったこ とや、まとまった面積帯の成約があったこ とで、今期で三期連続の改善となった。
今 後もマルチテナント型物流施設の新規供給 予定はないため、しばらくは改善方向へ向 かうことが想定される。
 テナントサイドの動向としては、依然各 企業は景気の本格回復まで様子見というス タンスが多く、ネット通販等の一部の業績 好調な企業の動きが見られる程度である。
 既存物件の空室率については、対前期比 二・一ポイント改善し十二・六%となって いる。
この一年以上新規供給が無いことで、平 均空室率と同様の動きとなっている。
 需給動向を判断する材料として、稼働床面積 (指数)の推移を見ると、今期も空室消化が進 んだことで僅かな増加がみられており、一〇年 三月期から三期連続の増加となっており大型物 流施設に対する堅調な需要が窺える。
図4 近畿圏の稼働床面積(指数) 図2 首都圏の大型物流施設の稼働床面積(指数) 図3 近畿圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率 350 300 250 200 150 100 35% 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% (2004/03=100) 350 300 250 200 150 100 03 06 09 12 03 06 09 12 03 06 09 12 03 06 09 12 03 06 09 12 03 06 09 12 03 06 09 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 09 12 03 06 09 12 2006 2007 03 06 09 12 2008 03 06 09 12 2009 03 06 09 2010 09 12 03 06 09 12 2006 2007 03 06 09 12 2008 03 06 09 12 2009 03 06 09 2010 《空室率算出基準(調査棟数:12 棟)》 既存物件 2009 年9 月以前に竣工した物流施設 地域 大阪府・兵庫県、 延床面積 10,000 坪以上、 竣工 既竣工物件、 空室確認方法 ヒアリングによる、  建物形態原則として、開発当時において複数テナント利用を前提として企 画・設計された建物であること 12.6 14.7 18.4 16.3 14.0 ※各期における稼働床面積の合計を2004 年3月期を100とし指数化 ※各期における稼働床面積の合計を2006 年9月期を100とし指数化 ※今期近畿圏で調査対象となった12 棟については、上記算出基準により抽 出したものであり、必ずしも物流施設ストック全体の需給バランスを示したも のではありません。
平均空室率 既存物件空室率 出所:すべてシービー・リチャードエリス総合研究所 ( 2006/09=100)  日本には古い物流施設が多い。
弊社の推 計では、首都圏における賃貸倉庫では棟 数ベースで全体の約九二%が竣工後一〇年 以上経過しており、全体の約二七%が三 〇年以上経過している物流施設と見ている。
 近年、こうした古い物流施設から不動 産投資会社が開発する高スペックの新しい 物流施設へ移転するテナントの動きが増え ている。
消費構造の変化や、それに呼応 する物流業界の変化によるものが大きい。
 最近、休日に横浜の本牧ふ頭等に釣りに 行く機会が多い。
古びた倉庫街を抜けると 海釣り施設があるのだが、その倉庫街には 竣工後三〇年以上を経過したと思われる物 流施設が林立している。
実は、最新鋭の 高スペック物流施設は、全体の倉庫ストッ クの中でも二〜三%に過ぎない。
従って古 い物流施設がすぐに最新鋭の物流施設に変 わっていくとは思えないが、消費構造の変 化に対して、各企業は改めて物流戦略を練 る必要に迫られていることは否めない。
 それにしても、せっかくの休日に本牧ふ 頭でそんなことを考えながら釣りをするの もなんだか悲しい。
本牧ふ頭で 釣りをしながら思うこと

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