ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年12号
管理会計
欠品による損失の計算

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2005 82 在庫が減ると欠品も減る 在庫削減の効果の一つに欠品の削減があ る。
これは在庫管理手法を学んだ方には奇異 に感じられるかもしれない。
しかしながら、 実際には在庫削減を実現した企業の多くが 欠品の削減を同時に実現している。
在庫が多いと欠品率が増加するパターンに はいくつかある。
まず在庫が必要以上にある 場合。
在庫があることに安心してしまうため、 どうしても管理が甘くなる。
その結果、商品 による在庫日数のバラつきが大きくなる。
在 庫量が少なくなっているアイテムがあっても、 それに気づかずに補充を忘れるということが 起こる。
また、たいていの場合、仕入れには総予算 が設けられている。
在庫が多くなると、予算 が不足して必要な在庫を手配できなくなる。
これは卸売業のみならずメーカーの仕入品や メーカーの海外販社などにもよく見られる。
欠品を多発させながら、在庫が増加するとい う事態を招いてしまうのである。
一般に在庫を削減したいときには、売れ筋 のA品目から手が着けられる。
A品目は販売 量が多いため、そこにメスを入れれば比較的 簡単に在庫全体のボリュームを減らすことが できる。
過去の販売動向から発注点を決める などの統計的な在庫管理手法にも乗りやすい。
しかしながら本来は、回転率が低く販売の 変動が大きいB品目やC品目のほうが、欠品 を発生させやすいのである。
また、このBC 品目は不動在庫にもなりやすい。
欠品削減に は、むしろBC品目の在庫適正化に注力すべ きであり、そのためには営業の販売予測の精 度向上が重要になってくる。
在庫削減の施策の一つに挙げられる品目削 減は、特にこの問題の解決に効果を発揮する。
きめ細かい在庫管理を行うには、一人あたり の管理品目数を二〇〇アイテム程度までに抑 えるのが適切であると経験的にはいわれてい る。
二〇〇アイテム程度の管理であれば、営 業の販売予測の妥当性検証が可能になり、少 ない在庫でも欠品を発生させないオペレーシ ョンが可能になる。
欠品発生時の処理 欠品があると、どのようにオペレーション が変わるのであろうか。
欠品発生時のプロセスについて、明示化している企業は多くない。
たいていは過去からの経験に頼って処理して いるため、外部からはその実態が詳しくはわ からない。
ここでは 図1のように処理フロー を整理した。
欠品がなければ、受注処理はスムーズに終 わり、出荷につながっていく。
ところが欠品 がある場合には、数量変更、代替品推奨、納 期変更などの処理が発生する。
納期変更の場 合はさらに、受注確定後に在庫手配、入庫確 認などを必要とする場合がある。
顧客が数量 変更や代替品への変更、納期変更のいずれも 受け入れなかった場合、はじめて販売機会損 失となる。
欠品による損失の計算 在庫を減らせば欠品が増えると考えるのは間違いだ。
多くの企業 が、在庫削減と欠品率の低減を両立させている。
在庫削減の施策の 判断にも、欠品率の低減による効果を加えることで、より改革を推 進させることができる。
第9回 梶田ひかる アビームコンサルティング製造事業部 マネージャー 83 DECEMBER 2005 このフローにより明らかなように、欠品の 発生は、そのまま販売機会損失とはならない としても、欠品のない場合と比較して明らか に手間がかかる、つまりコストがかかるので ある。
たとえばEOS(Electronic Order System:電子受発注システム)で受注した 場合、欠品があれば電話をかけて対応をとる ことになる。
そのコストが余計にかかってい る。
欠品を繰り返せば、顧客そのものを失うこ とさえ起きてくる。
将来的な利益損失を発生 させるわけである。
営業が最も恐れているの はこれであり、そのために営業は往々にして潤沢な在庫を欲しがる。
しかしながら在庫が 増えるとそれに伴い各種コストも増加してし まう。
先に述べたように、在庫管理をきめ細かく 行うことにより、在庫を削減しながら欠品を 削減することは可能である。
在庫拠点の集約 も在庫削減と欠品削減に効果がある。
もちろ ん、欠品をまったく発生させないということ は不可能に近いので、ある程度の発生はやむ をえない。
欠品の実態、在庫にかかるコスト、 欠品による損失を正しく認識することにより、 在庫と欠品というトレードオフを解決できる のである。
実態がわかならい欠品 欠品の実態を明らかにすることは容易では ない。
顧客の買いたいという意思があって、 はじめて欠品は発生する。
在庫がなくても、 それを欲しがる人がいなければ欠品とはなら ない。
したがって、欠品は受注現場でなけれ ばわからない。
しかし、欠品を把握するよう な仕組みを作っている企業はそう多くない。
営業が現場で受注を行っている場合、担 当営業マンに予め欠品や納期情報が伝わって いれば、顧客もそれを前提として発注内容を 決定する。
電話での受注の場合も、受注担 当者に欠品がわかっていれば、その場で答え てしまう。
欧米のB2B(企業間)取引で流 行しているポータルサイトを活用した納期情 報提示もまた、顧客のもともとのニーズをわ からなくする。
顧客はそれを見て発注情報を 決めてくるからである。
当初、顧客が何を望んでいたのかがわかる のは、ファクス受注とEOSのみである。
そ れすらも元のデータを活用している企業はご く一部に限られる。
欠品は想像以上に多い。
たとえばEOSで 受注したものについて、改めて電話で問い合 わせている割合が五%程度にも上っているメ ーカーが、筆者の知る範囲でも数社ある。
問 い合わせの理由は、欠品や品薄などが大半を 占める。
問題なのは、納入側企業の多くがその実態を把握していないということである。
欠品率 についてたずねても答えの返ってくる企業は ほとんどない。
一方、小売業からみた仕入先 別納品率は、九〇%台の後半であれば良いほ うである。
納入する側と仕入れる側で明らか な温度差がある。
欠品の正確な実態を把握す ること、それが改善・改革のためにまず必要 なことなのである。
損失額の計算 在庫削減施策は欠品率低下も狙うことが 多い。
ぜひとも施策実施の金額換算効果にこ DECEMBER 2005 84 の欠品率低下も加えたいものである。
しかし ながら、欠品による損失額の試算は難しい。
欠品がなければ売れたはずだといっても、そ れが本当かどうかはわからない。
したがって、 正道とされるような解法は存在しない。
どの 範囲までを施策の効果に含めるかは、それを 説明するストーリーが関係者に受け入れられ るだけの説得力を持っているかどうかにかか っている。
ここでは代表的な効果試算の方法について 紹介する。
基本的に欠品による損失、あるい は欠品削減による効果試算の中心となるのは、 販売機会損失である。
機会損失によるロスの 試算にはいろいろな考え方がある。
それを理 解するために、製品・商品のコスト構成を単 純化したものが 図2である。
欠品による販売機会の損失は、それが売れなかったことによる売り上げの損失を引き起 こす。
大きくとらえれば、これが機会損失に よるロスとなる。
しかしながら、売上ロスだ けでは、施策にかかるコストとのトレードオ フを計算できない。
利益ロスを試算する必要 がある。
利益にもいろいろなとらえ方がある。
最も 手堅い効果額の計算方法としては、営業利 益を用いるものがある。
そこに商品があれば 売れたはずの金額から、得られたはずの営業 利益を計算するのである。
会社としての営業 利益目標がある場合には、その営業利益率を 用いて試算するのが簡単である。
失くしてしまった売上額にこの営業利益率 を乗じたものが、硬く見積もった場合の販売 機会損失による利益損失額になる。
たとえば 売上高が一〇〇億円、営業利益率が五%、販 売機会損失が二%発生しているのなら、一〇 〇億円の二%に当たる二億円に五%を掛け る。
その結果、少なく見積もっても年間一〇 〇〇万円のロスを生んでいることになる。
損失利益額を、それよりも多くとらえるこ ともできる。
販売管理費や一般管理費の多く は、欠品の有無に関わらず固定的に発生する。
たとえば一回の受注数量が九〇個でも一〇 〇個でも、受注処理コストには大きな違いは ない。
営業訪問にかかるコストもまた売上金 額と比例しない。
欠品を起こそうが費用は変 わらない。
つまりこれらは、販売機会損失が なかったときと同額のコストがかかっている。
すなわち遺失利益なのである。
一方、売り上げが無ければ発生しないコス トとしては、製造原価や仕入原価、ピッキン グや配送にかかるコスト、数量に応じてかか るリベートなどが挙げられる。
こうした原価 やリベートと、それ以外の固定的コストを厳 密に色分けするには、ABC(活動基準原 価計算)が必要になる。
欠品による損失額をさらに広い範囲で出し たければ、欠品発生時の追加処理コストを加 えることもできる。
図1で示したように、欠 品が発生した場合には、数量変更やアイテム 変更などの手間がかかる。
納期変更の場合には、さらに処理は複雑になる。
最終的には販 売機会損失を起こさなかった欠品についても、 それらの追加処理の発生率とコストを出して 損失額の一部に加えることができる。
この場合の追加処理コストの算出方法にも、 やはりABCを用いる。
また発生率と状況ご とのコストは、期待値計算と同じようにやれ ばよい。
この方法は既に一部の欧米企業で採 用されている。
一般に、欠品による損失をアピールしたい 場合には、コスト構成を示し、損失の大きさ を説明すべきだろう。
一方、欠品削減のため の施策への投資判断を仰ぐときは、なるべく 硬く見積もった損失額を用いるのが賢明だ。
85 DECEMBER 2005 いずれにせよ欠品による効果の測定範囲には 幅がある。
把握可能なデータを元に試算でき る範囲で数値を作り、関連部署と相談しなが ら同意の得られるレベルを模索することが肝 要である。
顧客ロスとその損失額 欠品による損失額の試算は、これまで述べ てきたところの範囲で検討するのが一般的で ある。
これに加え将来的な顧客ロスによる損 失額まで計算するのはかなり困難だ。
どれく らいの頻度、たとえば欠品が一年以内に五回 以上あった場合にそのうちの何%の顧客の取 引がなくなるかという統計データは、おそら くほとんどの企業で取っていない。
実際の状況は扱い商品によってだいぶ異な ってくる。
たとえばブランドロイヤリティの 高い商品で、その会社しか扱っていない場合、 顧客は欠品があっても離れない。
逆に、他と 比較して差があまりないのなら、顧客は他社 に流れてしまう。
またたとえヒットしている 商品であっても、ライフサイクルの短くなっ ている昨今、いつ顧客が他の商品に目移りし てしまうかはわからない。
顧客ロスは営業が恐れているほど大きな問 題ではないし、生産や仕入部門が思っている ほど甘い問題でもない。
この問題で最も重要 なのは、その顧客が果たしてどれくらいの利 益をもたらしてくれているのかということで ある。
欠品の発生率は顧客によっても異なる。
他の顧客と比べて欠品の発生しやすい顧客は あまり儲かっていないことがある( 図3)。
た とえばスポット注文である。
通常は他の納入 先に発注しているが、その納入先に在庫がな かった場合にのみ、自社に注文が来るというケースである。
このような注文は量が少なく、 そもそも利益がとれていないことが多い。
また在庫管理の甘い量販店では、ライフサ イクルの終盤になっても、発注数量基準を手 直ししない場合がある。
これに対して納入す る側では終盤に向けて在庫を絞るために欠品 となりやすい。
しかし納品したところで将来 的には売れ残って返品されてくるのがオチで ある。
そういった注文をする顧客は、売り上 げは多くても利益がとれていないことがある。
欠品により顧客を失う場合の損失について は、売り上げではなく顧客別利益、すなわち 営業人件費、リベート、物流費などをその顧 客の取引実態に合わせて配賦した後の利益を ベースに考える必要がある。
その結果、儲か る顧客と判断されたなら、販売計画を詳しく 入手するなど営業強化を行うことで、欠品の 発生を削減できる。
儲かっていないのならむ しろ取引がなくなっても問題はない。
顧客を 失っても損失額は発生しない。
顧客別利益額の実態を把握するための最 も有効な手法もまたABCである。
これを行 うためのABCでは、あまり細かくアクティ ビティを分ける必要はないが、営業活動やリ ベートなども対象とする必要がある。
それを 行ってはじめて利益志向の顧客政策が作れ、 それを受けた在庫政策、つまり在庫アイテムや欠品の許容範囲、それらをベースとした在 庫量目標などが作れる。
顧客ロスによる損失 額を検討するのであれば、その前にABCを 用いて、顧客別利益実態を明らかにすること が必要なのである。

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