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JANUARY 2011 32
日本通運・海運事業
──フォワーダーの殻を打ち破る
高速フェリーによる国際海上輸送を軸として、アジア
域内をトラック・鉄道・水運を組み合わせた独自の輸送
ネットワークで網羅する。 外資系船社を抱き込み、大手
荷主のビッドでは邦船大手とも軒を競う。 海上フォワー
ダーの枠を超えた活動でアジア物流市場の覇権を狙う。
──航空貨物と違って、海上貨物では荷主とキャリ
アが直接やり取りすることが多い。 フォワーダーの役
割や存在感が薄いように思います。
「確かに日本では、我々のようなNVOCC(Non-
Vessel Operating Common Carrier:非船舶運航海
上運送人)は、コンテナ貨物量の全体の三割程度しか
取り扱っていません。 これが欧州だとNVOCCが七
割〜八割を扱っている。 キューネ+ナーゲルやパナル
ピナなどの大手ともなると年間の取扱規模は一社で百
万TEU以上というレベルです。 当社は日本のNVO
CCとしては最大手を自負していますが、それでも
年間三〇万TEU程度。 世界の大手とはヒト桁違う」
──なぜ日本は海上フォワーダーのシェアが低いので
しょうか。
「当社の場合は日本では珍しい独立系なのですが、
他の日本のNVOCCの多くは特定の船会社の販売
代理店的な位置付けからスタートしています。 おそら
く今でも日本のNVOCCの七、八割には、なんら
かの形で船会社の資本が入っているはずです。 それ
に対して欧州のNVOCCは当初から独立した会社
として育ってきました。 また日本でも航空貨物の大
手フォワーダーはエアラインの下請けではなく、電鉄
会社など大企業のグループ会社として出発している。
そうした歴史的背景の違いが、船会社とNVOCC
の関係に表れているのかも知れません」
──基本的には大手荷主は船会社と直接取引するけ
れど、それができない中規模以下の荷主がNVOC
Cを使うという印象です。
「しかし、変わってきています。 日本でもNVOC
Cのシェアは拡大する傾向にあります。 ほんの五年ぐ
らい前までは、大手荷主の入札には船会社しか呼ばれ
なかった。 我々には参加資格さえ与えられていなかっ
たんです。 大手荷主はNVOCCにマージンを払う必
要などないと考えていた。 それが現在は我々も入札に
参加できるようになっている。 日本発着以外のビッド
でも当社が落札するケースが増えてきました。 以前な
ら考えられなかったことです」
「欧米向けの大量輸送からアジア域内の多頻度小口
輸送に物流のニーズがシフトしてきたことが理由の一
つです。 我々はキャリアと違って様々な船会社のスケ
ジュールを組み合わせて多頻度の出荷ニーズにも応え
られる。 ロットの小さな荷物には混載で対応し、なお
かつジャスト・イン・タイムで海外工場の生産ライン
にまで届ける。 そうした手間のかかる物流管理は外
部委託したほうがいいと考える荷主が増えています」
「また外資系の船会社はそれほど多くのスタッフを
日本で抱えているわけではありません。 限られたス
タッフが営業して荷物を集めるよりも、力のあるN
VOCCと組んだほうが、多少安いレートを出した
としても物量は増える。 そのため今後は日本でもN
VOCCの規模が拡大していく。 一方で特定の荷主
に張り付いて少人数で回しているようなNVOCC
もなくなることはない。 結果として二極化が進んで
いくと見ています」
「ただし、特定の船会社の資本が入っている場合に
は他の船社と組むのは難しい。 親会社からの圧力が
かかったり、先方から敬遠されてしまう。 NVOC
Cとしての柔軟性もなくなってしまう。 その点で独
立系の当社には優位性があります」
──日中間の海上輸送は中国・韓国船社が中心です。
邦船社は儲からないので手を出さない。
「当社は唯一のナショナルフラッグでもあります。 最
大速度二五ノットの高速フェリーを用い、博多・上海
間を二八時間・週二便体制で結ぶ上海スーパーエクス
中村次郎 海運事業部担当取締役 常務執行役員
第4部 主要プレーヤーの次の一手
特 集 国際物流企業への通知表「荷主満足度調査」
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プレス(SSE)を運航しています。 従来のコンテナ
船の速度は約一五ノットで、しかも発着の港でガント
リークレーンによる積み降ろし作業も発生する。 その
点、SSEはフェリーなのでトラックドライバーが直
接入り込んで荷物の積み降ろしができる。 リードタイ
ムを大幅に短縮できる。 関東からJR貨物やトラッ
クなどを使って博多まで運び、そこからSSEで上
海まで最速四日で運べる。 そして運賃は下手をすれ
ば航空便の三分の一です。 利用価値は高い」
──いくらリードタイムが短くても週二便では魅力に
欠けます。
「それがSSEの喫緊の課題です。 SSEを毎日運
航できれば航空輸送は要らなくなる。 現状はまだ一
隻ですが、とりあえず半年以内にもう一隻投入し週
四便体制にします。 そのため中古船を探して回って
いるのですが、SSEの強みはなんといってもスピー
ド。 遅い船は使えない。 なかなか適した船が見つか
らないというのが本音で、現在、東京〜九州・瀬戸
内航路に投入している船をSSEに回すことも検討
しています」
──採算は取れますか。
「おかげさまで当初三年程度は赤字でしたが、今
年度で累損を一掃できる見込みです。 今では消席率
(積載率)も八割に達しています。 日本発は六割程度
ですが、中国発はキャパ以上のオーダーがある。 荷主
に増便をせっつかれている状態です」
アジア物流は実運送を避けて通れない
──実運送に拘る理由は? 国内の陸運事業を利用
運送にシフトしているのとは対照的です。
「アジア域内のコンテナ運賃は競争が厳しすぎて、日
本の会社では利益を出せない。 日本から中国まで二
〇フィートのコンテナを一本運んで仮に三〇〇ドルだ
として、NVOCCとして一〇%の手数料を貰うに
しても、コンテナ一本三〇ドル程度にしかならない。
三〇ドルで運送責任を負い、B/L(船荷証券)を
発行してトレース作業までしていたらとても商売にな
りません」
「我々は差別化した輸送サービスを提供することで
利益を確保していきます。 高速フェリーだけではあ
りません。 中国の国内輸送ではトラックと高速鉄道
(行郵)、長江水系のバージ輸送を組み合わせたネッ
トワークを敷いています。 中国からベトナム、バンコ
ク、マレーシア、シンガポールと続く約七〇〇〇キロ
に及ぶトラック輸送網も整備しました」
「そして日本国内では全国に多数の通関営業所や保
税倉庫、インランドデポを張り巡らせています。 東
京、大阪、博多、北海道といった主要地区を結ぶ内
航船も自社配船および他社との共同配船で計六隻を
走らせている。 荷主がアジアのどこにいても、あら
ゆるニーズに応えられる体制を整えている」
──従来の海外フォワーダーの事業領域を大きく踏み
出していますね。
「確かにノン・ベッセル(非船舶)ではなく、海上
輸送でさえない業務まで海運事業部が手がけるよう
になっています。 しかし今や日本の物流は六割以上
がアジアです。 欧米の先進国とは違ってアジア域内の
輸送はまだまだ不安定で、荷主は常に不安を抱えて
いる。 我々自身で実運送までコントロールするしかあ
りません。 それと同時に、もはや日本はアジアの一
部に過ぎません。 日本の周りをアジアの国々が回って
るという“天動説”を改め、アジアに立脚して、そ
こに日本を位置付ける“地動説”に発想を転換しな
いと我々は乗り遅れてしまうと考えています」
※SSEについては本誌41ページを参照
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